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走れ!バカップル列車
第32号 ゆいレール



   一

 マイルがたまったので沖縄にいくことにした。
 私たち夫婦は日本航空のマイレージバンクに入会していて、飛行機だけでなくJALカードを使って買い物をするとマイルがたまるようになっている。飛行機はそれほど頻繁には乗らないから、いわゆる「陸マイラー」である。
 いつ入会したかは忘れてしまったが、こつこつクレジットカードで買い物をして、ようやく二人が飛行機に乗れるだけたまってきた。
 ところがマイルを使って飛行機に乗るのも、そう簡単ではない。一回マイルを使うとすると飛行機一往復分(もしくは二路線)がもれなくついてくる。もし片道だけ乗るなら残りは放棄しなければならない。それはもったいない。
 困ったことに、私は鉄道おたくである。
 鉄道おたくは鉄道に乗りたい。北海道や九州に行くとしても片道は列車に乗りたいのである。北海道や九州へでかける計画を組み立てても、飛行機に乗るのは片道で、残りの片道は寝台列車に乗るという旅程ができあがってしまう。そうするとこんどはマイルがもったいない。
 鉄道おたくの私でも、往復飛行機を使わざるを得ないところはどこか。
 そう考えて出てきた結論が、沖縄であった。
 沖縄は数年前なら、私の旅行の選択肢になかなか入らなかった場所である。それはごく当然のことで、沖縄には鉄道がなかったのだ。
 いまは「ゆいレール」がある。那覇空港から首里まで走る「沖縄都市モノレール」のことで、二○○三年八月に開業している。しかしそれでも沖縄には行かなかった。
 私だってゆいレールのことを無視していた訳ではない。当然乗りたい。しかし、やっぱり沖縄は遠い。北海道や九州に行けても、沖縄にはなかなかたどり着かなかった。
 いまならマイルがある。マイルをつかって沖縄に行こう。ゆいレールに乗ろう。
 みつこさんに意見を聞くことにした。
「みちゃん」
「なに」
「マイルつかうの、沖縄にしようかと思うんだけど」
「あ〜、いいんじゃないか」
 とりあえず、OKのようである。問題はまだある。
「ゆいレールに乗るよ」
「なにそれ」
「モノレールだよ」
「あ〜」
 こちらも大丈夫なようだ。こんどはみつこさんが質問してくる。
「ほかにどこ行くの?」
「とくになにも……」
 ゆいレール以外のことは考えていなかった。
「モノレールだけ乗って帰ってくるの?」
「それでもいいけど。あ、美ら海水族館とか」
「あ〜、行きたい行きたい。わかた。行こう」
 やはり最大の問題は日程の余裕である。
「あの、一泊二日とかでもいい?」
「いいよ。モノレールと水族館だけでしょ」
 即答である。なかなかの覚悟だ。
 そうはいっても沖縄まで行って、一泊で帰ってくるのももったいない。日常のあれこれを前後になんとか片づけることにして、二泊三日で行くことにした。

 日本航空のホームページを見ると、四月から六月までマイルのキャンペーンをやっていて、沖縄に行くのがお得になる。通常なら一万五千マイル必要なのが、一万一千マイルで沖縄に往復できる。きっと観光客の少ないシーズンなのだろう。それで沖縄なら梅雨も明けているはずの六月の下旬に、そのキャンペーンを利用して航空券をとろうと考えた。
 予定していた出発日は、六月二十七日金曜日だった。金・土・日の二泊三日なら、ふだんの仕事にもそれほど影響はない。
 航空券の予約は二か月前だから、四月二十七日の朝、日本航空のホームページを開いてみた。搭乗日を指定すると、羽田から那覇へ向かう飛行機はすでにほぼ満席になっていた。時間が有効に使える午前出発の便は壊滅的である。もちろん、ふつうに航空券を買うならまだ空席はたくさんあるのだが、マイルのキャンペーンで乗れる枠はほとんど埋まっていた。
 なんだか意味のないキャンペーンに思えた。日本航空の問い合わせ窓口に電話して、特に不満を訴えるでもなく、たんたんと事実を伝えると、窓口のおねえさんはしれっとした口調でこう言った。
「夕方の便なら、まだ二席あいてますが」
 苦笑するしかなかった。たしかにそうだ。二席あいてるからキャンペーンは利用できるのである。しかし、私の好みでいえば、夕方の便で沖縄に行って、二泊して、午前の便で東京に戻るくらいなら、午前出発の一泊二日のほうがいい。
 仕切りなおしである。やや強引だが日程を二日ずらして、日・月・火の二泊三日にした。出発日は六月二十九日になる。
 みつこさんがいう。
「マイルはツアーとかには使えないの?」
 たしかに航空券に換えられるだけなら、マイルの魅力は少ない。なにか別のものに換えられるならそれでもいいのではないか。
 再び電話して問い合わせたら、マイルをパックツアーの代金に充当することもできるという。
 いろいろ調べ直していたら、マイルを航空券に換えて宿は別に自分で予約するより、パックツアーで航空券も宿も予約して、代金の一部をマイルで充当するほうが、全体の費用は少なくすむことがわかった。しかもパックツアーならレンタカーをつけてもお得になる。
 あれこれ比べて考えて、航空券と宿とレンタカーがついたパックツアーを申し込むことにした。パックツアーの枠なら、往きは朝の便、帰り夕方の便という組み合わせで予約ができた。航空券に換えようと思ってためておいた三万マイルは、四万五千円に換算されてツアー代金から差し引かれることになった。
 ゴールデンウィークが終わって、梅雨が来て、二○○八年も半年が過ぎようとしていた。沖縄に出かける日は少しずつ近づいてきた。



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