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走れ!バカップル列車
第31号 東京地下鉄副都心線



   四

 新宿三丁目では、副都心線の線路は丸ノ内線と都営新宿線の間のわずかな隙間を抜けている。新宿線のトンネルとの間隔はわずか十数センチしかないという。高さとしては比較的浅いところにあって、一つ手前の東新宿駅は大江戸線よりも深いところにあるから、この区間は東京地下鉄で最急勾配の四○パーミル(‰)になっている。
 そうして新宿三丁目の駅に着いた。さすがにホームに人が多い。座っていた乗客の半分以上が降りて、またそこからたくさん乗ってきた。
 駅は伊勢丹のすぐ下にある。周辺の地下通路は高島屋までつながっているから、新宿は東口と南口とでまた新たな人の流れが生まれる。
 それにしても伊勢丹というデパートはものすごい吸引力らしい。池袋のデパートは、それまで西武と東武で互いに競っていたが、副都心線の開通をきっかけに両者が手を組んだ。副都心線で池袋を素通りして伊勢丹に向かってしまう客をなんとか食い止めようという作戦で、両方の売り場を案内できる「総合案内所」をそれぞれの店舗前に設置したという。
 新宿三丁目〜渋谷間は渋谷方面・和光市方面が大きな一つのトンネルを通る複線シールドになる。単線シールドが直径約七メートルなのに対し、複線シールドは直径約一○メートルである。
 新宿三丁目を発車した電車は、明治通りが高島屋の前に差しかかって四十五度ほどくるりと左に曲がるカーブを通る。ここが副都心線で一番の急カーブといわれている。ちょうど池袋方面の電車とすれ違ったが、互いの電車が接触しないよう線路の間隔も広くとってある。
 北参道に停まった。ホームの幅は狭い。西早稲田と北参道の二つだけは他のどの路線とも接続しない単独の駅である。
 その次は千代田線との接続駅、明治神宮前。駅はちょうどラフォーレ原宿の下あたりに位置する。山手線の原宿駅とは約三○○メートルほど離れている。
 明治神宮前〜渋谷間のトンネルは、断面が楕円形の特殊なシールドで掘られたトンネルらしい。横幅は約一○メートルだが、高さは約八メートル。トンネルしか見るものがないから、じっと目を凝らして見てみたが、あまりよくわからなかった。

 渋谷に着いた。いったん停車したが、ホームドアと位置が三十センチほど合わないので、もぞもぞと停車位置を調節してからようやくドアが開いた。時計を見ていなかったからよくわからないが、着いたのは14時45分ごろだったとおもう。
 渋谷の駅は東横線との接続を見越して、ホーム二面、線路四線の構造で設計されている。ただし、東横線と直通するのは二○一二年の予定なので、いまは中央の二線は使用されず、二面のホームをつなげて、両端の線路だけを使うようにしている。
 ホームに降りて、頭上を見るとホームのある地下五階から、改札口のある地下三階までが楕円形の吹き抜けになっている。これが「地宙船」と呼ばれる安藤忠雄のデザインによる地下の巨大な卵なのだろう。ただ、卵全体は地下に埋もれてしまって、見ることのできるのはほんの断片だから、いまひとつ「地宙船」という実感がわかない。
 乗ってきた10000系の電車はすぐに折り返して池袋方面へ発車してしまった。次に来た電車も着いたと思ったらすぐにまた逆方向に出発している。ずいぶんと回転が速い。
 行き先も、飯能行きだったり、和光市だったり、川越市というのもあって、しばらくの間は乗り間違えも多くなりそうだ。それよりなにより、複数の路線と直通運転するということは、いったん遅延が発生したら収拾がつかなくなる可能性もあるということである。
 話は前後するが、副都心線は開業日以来四日連続で遅れが発生したという。列車がダイヤ通り動かないのは、乗客の誤乗以上に困ったことである。副都心線は安心して乗れる通勤・通学の足になりえるだろうか。
 いったん改札口を出て、半蔵門線への連絡通路あたりをうろうろしたり、地下三階から卵中央部の吹き抜けを見おろしたりしたが、ついに地上に出ないまま、また副都心線のホームに戻った。王子から地下鉄だけに乗って副都心線に乗り、また地下鉄だけに乗って王子に戻ってくるというのがきょうのルールだからである。
 池袋方面の電車を待つ。ホームで待っていても次の電車がなかなか来ない。来たと思ったら二本立て続けにやってきてホームの両側に電車が並ぶ。
 急行電車に乗った。明治神宮前、北参道とあっという間に通過して新宿三丁目に着いた。よくわからないままに階段を昇っていたら、丸ノ内線のホームに出てしまった。来てみると副都心線のホームとの高低差はあまりなく乗り換えはスムーズだ。
 伊勢丹に行ってみた。やはり、みつこさんは地下鉄よりも伊勢丹のほうが好きみたいである。電車の中より元気がいい。
 伊勢丹も見たのはデパ地下だけだ。地上への階段があったので、つい見上げたら、うすぐもりの四角い空が見えた。天井の低い地下だけ通ってきた目には、外の世界がやけに大きく広くみえる。



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