homepage
走れ!バカップル列車
第28号 ハイブリッド高原列車



   一

「青春18きっぷ」というJR線の切符がある。
 JRの普通列車・快速列車・宮島航路が一日乗り放題という企画乗車券で、例年、春休み、夏休み、冬休みの期間中に発売される。一人一日分が五回ついていてお値段は一万一五○○円。一人一日あたり二三○○円でJR線の鈍行や快速に乗りたいだけ乗れるのだから、利用期間や乗車できる列車などにいろいろな制限があるとはいえ、かなりお得な切符である。一人で五回(連続していなくてよい)使ってもいいし、五人で一日使ってもいい。「青春」「18」といった名称から、若者しか使えないと勘違いしてしまいそうだが、年齢制限は特にない。
 この切符で一日のうちにどこまで乗れるか時刻表(二○○八年三月号)で調べてみた。
 一日ということは自分が乗りたいと申し出た日の零時から二十四時まで乗れるということである。列車が走っている間に二十四時になったときは、二十四時を過ぎて最初に停車した駅まで有効である。たとえば、東京駅を利用前日の23時10分に出る大垣行き快速「ムーンライトながら」で出発し(午前零時を過ぎる小田原までは別に普通乗車券を買う)、0時31分の小田原から「青春18きっぷ」を使って西へ西へ向かうと、平日ダイヤの場合、大垣、米原、相生、三原、新山口、下関、小倉、荒尾(大牟田の隣の駅)の各駅で乗り継いで熊本県の八代まで行ける。
「18きっぷ」が初登場した一九八三年当時と比べると、長距離の鈍行列車はだいぶ減ってしまったが、いまでも充分に楽しめる切符といえる。最近ではリタイヤ組が使う例も増えているらしい。
 その「青春18きっぷ」を買った。
 鉄仲間のモリタくんが「みつこさんとの旅行にどうぞ」と自分の分のほかにもう一枚買ってきてくれたのである。
 せっかくなので、「18きっぷ」を使ってどこか出かけることにした。
 時刻表の路線図をぼんやり眺めて楽しそうなところを探してみる。
 ひとつ目にとまったのは小海線だった。高原列車として名高い路線で、一般的な鉄道の中では日本一番高いところを走り、途中の野辺山駅は日本一高い駅である。考えてみれば、みつこさんと小海線に乗ったことがない。昨年から環境に良いといわれるハイブリッド車が小海線で走っているので、これに乗るのもいい。
 もうひとつ目に留まったのは吾妻線だ。草津温泉に行くのに便利であるほかはとくにどうという路線ではないが、途中に七・二メートルという日本一短い長さの「樽沢トンネル」がある。しかもこの付近は八ツ場(やんば)ダムができると水没するといわれていて、乗るならいまのうちである。樽沢トンネルに列車が通っている間に一度乗ってみるのもいい。
 この二つの路線に乗れるような旅程を探してみた。おおよそ次のようなルートが組める。

 上野8時42分発(高崎線)→高崎10時31分着
 高崎10時45分発(上越線・吾妻線)→万座・鹿沢口12時26分着
 万座・鹿沢口12時50分発(バス<別料金>)→中軽井沢13時50分着
 中軽井沢14時3分発(しなの鉄道<別料金>)→小諸14時22分着
 小諸15時15分発(小海線)→小淵沢17時27分着
 小淵沢17時34分発(中央線)→甲府18時19分着
 あとは、甲府で晩ごはんをたべて、中央線で適当な時間に帰る。

 我ながら、実によくできたプランだと思う。一日で吾妻線にも小海線にも効率よく乗れる。実際、この計画通りにでかけてもいい。
 ただ、あれもこれもてんこ盛りにしてしまって、四十前後の夫婦が乗るにはちょっぴりハードである。それ以外にもこんなデメリットがある。
・吾妻線は終点の一つ手前の万座・鹿沢口で降りるため、全線に乗れない。
・バスとしなの鉄道は「18きっぷ」が使えず、別料金がかかる。
・ハイブリッド車に乗れない。
・帰りの中央線に乗るのが日没後になってしまう。
 やはりハイブリッド車に乗れないのは痛い。小諸からの小海線を一本遅らせれば、ハイブリッド車に乗ることはできるのだが、途中駅の小海止まりでその先の接続が悪く、小淵沢に出る前に日が暮れてしまう。
 さらにいうなら、二人で丸一日まわっても、「18きっぷ」があと三回分も残ってしまう。乗りたいところに一気に乗ってしまって、あと三回もどこに乗ればいいのか。
 そんなことをいろいろ考えて、吾妻線と小海線を分けて、それぞれ別の日に行くことにした。これなら両方出かけて四回分使うことができる。
 みつこさんに相談してみる。
「みちゃん」
「なに」
「『18きっぷ』の旅なんだけどサ」
「うん」
「吾妻線と小海線を別々の日に行こうと思うんだ」
「えー、一緒に行ってもいいよ」
「あ、そうなの? でも、ハイブリッド車乗れないしなぁ……」
「いや、別々でもいいけど」
「別々に行くなら、どっち先に行きたい?」
「うーん……ほうとう」
「ほうとう?」
 訊いたのは鉄道路線のことだったが、食べものの名前が出てきた。
「山梨行くなら、ほうとうだな」
「あ……ってことは、小海線だね」
「うん。ほうとうが食べられればいいよ」
 あくまでほうとうである。
「あ、そう」
「うん」
 みつこさんに鉄道路線のことを訊くのはやめにして、ハイブリッド車に乗って、ほうとうを食べることを第一の目標に小海線の旅程を考えることにした。
 東京から中央線で出かけて一番乗り安いハイブリッド車の列車は、小淵沢13時11分発の小諸行きである。そして夕方に甲府に戻ってきてほうとうを食べる。この二点を満たすようプランを練ってみた。
 ところが、13時11分発の小諸行きに終点の小諸まで乗ってしまうと甲府に着くのが20時すぎになってしまう。日が暮れてしまうのはもちろん、ほうとうを食べていたら帰宅するのは真夜中になる。
 それでは困るので、ハイブリッド車を途中駅で下車するしかない。バカップル列車の旅は、その列車の全区間に乗ることを目標にしているが、こんどばかりはしかたがない。
 そうして出来上がったプランはこんな感じだ。

 新宿9時6分発(中央線ホリデー快速)→小淵沢11時59分着
 小淵沢13時11分発(小海線ハイブリッド車)→小海14時24分着
 小海14時46分発(小海線)→小淵沢15時54分着
 小淵沢16時23分発(中央線)→甲府17時12分着

 そうして晩ごはんにほうとうを食べて、適当な電車で東京に戻る。



next page 二
homepage