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走れ!バカップル列車
第26号 寝台急行銀河



   一

 鉄仲間のモリタくんから携帯電話にメールがきた。
「銀河が廃止されるらしいですよ」
 東京〜大阪間を走る寝台急行「銀河」が、来年三月のダイヤ改正で廃止になるという。朝日新聞の朝刊に、どうやらそんな記事がでたらしい。コンビニに行って二○○七年十一月十八日付のその新聞を買ってみる。紙面を埋めるネタがよほどないのか、ブルートレイン削減の記事が一面に写真入りで出ていた。
 記事によれば、およそ次の列車が廃止、もしくは減便になる。

 寝台急行「銀河」(東京〜大阪)    現在一往復→廃止
 寝台特急「なは」(新大阪〜熊本)   現在一往復→廃止
 寝台特急「あかつき」(新大阪〜長崎) 現在一往復→廃止
 寝台特急「北斗星」(上野〜札幌)   現在二往復→一往復に減便
 寝台特急「日本海」(大阪〜青森)   現在二往復→一往復に減便

 さらに記事には、再来年(二○○九年)の春のダイヤ改正で、寝台特急「はやぶさ」(東京〜熊本)、「富士」(東京〜大分)が廃止されることも書かれていた。
 急行「銀河」は便利な列車である。東京からだと夜の23時に東京駅を出発して、大阪駅の到着は翌朝7時18分。夜は新大阪行きの新幹線最終列車より遅くに発車して、翌朝は同じく新幹線の一番列車より早く大阪に着く。新幹線の隙間の時間帯を走るので、実際に走っている時間は八時間以上だが、昼間の時間を無駄なく過ごせる。
 私は大阪方面へ行くときによく「銀河」を利用していた。大阪へ行くためにふつうに乗っていた。何度乗ったのか、数えていないくらいである。
 その「銀河」が廃止される。なくなる前に乗っておきたい。たくさん乗ったからいいだろうと思われるかもしれないが、最後にもう一度乗っておこうと思う。あとから考えて、あれが最後だったんだなと思うのではなく、げんに「これが最後だぞ」とわかって乗りたい。
 十二月になって、JRからダイヤ改正の正式発表があり、本当に「銀河」が廃止されることがわかった。十一月のスクープ記事はガセネタかもしれない、JRが考え直すかもしれないという可能性もあったが、ほんとうに廃止されることになってしまった。ついにこの日が来たかとおもう。
「銀河」には、年が明けたら乗ろうと思う。廃止の最初の知らせはモリタくんからきいたが、いつもモリタくんと予定が合うわけでもないので、やっぱりみつこさんと行くことになる。いつ行くか。一月いっぱいはなかなか時間がとれない。二月の連休以降は廃止直前に乗ろうとする鉄道おたくで混雑するので、できれば避けたい。それで消去法で二○○八年二月一日の金曜日に乗車することにした。
 JRの指定券(特急券・寝台券)の発売は乗車日の一か月前の朝一○時からはじまる。二月一日の寝台券を取るなら、一月一日の一○時から発売になるが、一月一日というのはお正月で元旦で、いろいろあって慌ただしくて、だらしがなくて忘れてしまった。しかたがないので、次の日の午前中、王子から二駅乗った田端駅のみどりの窓口で寝台券を買うことにした。
 寝台券にはA寝台とB寝台の二種類がある。BよりもAのほうがグレードが高いことになっていて、寝台券も高い。いつもはぜいたくせずにB寝台に乗っているので、A寝台には乗ったことがない。廃止されてしまうともう二度と乗れないので、最後の記念にA寝台に乗ることにした。
「二月一日の『銀河』のA寝台、二枚、ありますか」
 窓口でそう言った。発売初日ではないので、売り切れも覚悟している。駅員がコンピューターを操作した。
「席、はなれちゃってもよければ、ありますよ」
 あるだけでもラッキーである。しかし、実際二人で乗るなら、どの程度はなれているかは気になる。
「はなれてるって、どんな感じですか」
「七番と八番ですね。どちらも上段なんですが」
 それなら一番違いだから、大丈夫である。
「じゃあ、それでお願いします」
 代金を払って、切符を受けとる。たしかに「急行銀河号」と書いてある。最初で最後の「銀河」A寝台の寝台券である。うれしいような寂しいような複雑な気分で家に帰った。
「みちゃん」
「なに」
「こんどの旅行なんだけどサ」
「なんだい」
「『銀河』に乗ったあとは、0系新幹線の『こだま』で広島まで行こうと思うんだ」
「ひろしま?」
「うん、広島なんだ」
「カキとお好み焼きだな」
 みつこさんは、旅先でおいしいものをたべることにとても熱心である。命をかけてると言っても過言ではない。
「ホントは0系で博多まで乗りたかったんだけどね」
「カキとお好み焼きなら、どっちがいいかな?」
 みつこさんは完全にたべるモードである。
「博多まで行く0系『こだま』は、時間帯が悪いんだよ」
「カキっていっても、カキフライ、酢ガキ、生ガキにポン酢つけてもおいしいよね」
「朝の下りの0系『こだま』博多行きは、さすがの『銀河』でも間に合わないんだ」
「お好み焼きって、どこ行けば食べられるの? 駅前になんかあるよね?」
「どうしても博多行きに乗るなら、大阪で一泊しなきゃいけなくて……」
「カキは? カキはどこで食べるの?」
「でも、一泊するとちょっと大阪で時間が余るんだよね」
「カキとお好み焼き、どっちにするぅ?」
「……って、さっきから話してるんだけど、聞いてんの!?」
「うん、聞いてるよ。博多ラーメンはたべたし、広島ははじめてだから広島がいいよ」
「広島?」
「うん、広島」
 その一言で、0系に乗るのは「こだま639号」広島行きに決まった。この「こだま」は、「銀河」で大阪に着いたあと、新大阪に戻って乗りかえるとちょうど時間の良い8時9分の発車である。



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