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走れ!バカップル列車
第19号 常磐線の白い鈍行電車



   一

 常磐線には、いろんな電車が走っている。
 特急は上野から「スーパーひたち」と「フレッシュひたち」が出ている。急行はなく、停車駅の多い「フレッシュひたち」がかつての急行のような役割を果たしている。
 特急料金のいらない列車、普通列車はいろんな種類があって、とても複雑である。
 まず上野から土浦・勝田・いわき方面まで走る中距離電車(取手まで快速運転・取手以遠各駅停車)がある。鉄道おたくたちは、これを略して「中電」と呼んでいる。
 そして同じ線路の上を短距離通勤電車である「快速」が走っている。これは旧国電区間である上野〜取手間だけの電車である。
 また上野〜土浦間にはわずか六往復であるが新しく「特別快速」という電車も設定された。これも取手以遠を走るという意味では「中電」の部類に入るだろう。
 特急、「中電」、「特別快速」、「快速」が走るこれらの線路は常磐快速線と呼ばれている。
 そして綾瀬〜取手間には常磐緩行線が並行していて、東京メトロ千代田線と直通する「各駅停車」が走っている。快速線と緩行線とで、一応、複々線ということになるが、快速線ホームと緩行線ホームとの乗り換えは階段を上り下りしなければならず、ダイヤ上接続もとられていないので、ほとんど別系統の路線と考えていい。
 国鉄時代は沿線のベッドタウン化の進展に輸送力の増強が追いつかず、複々線化をしても「各駅停車」は綾瀬から北千住を経て千代田線に乗り入れてしまい上野駅には行かない。しかも「各駅停車」と「快速」との乗り換えは不便で、対策としては不十分であった。国鉄と営団の接続駅である綾瀬に「快速」は停車せず、しかも当初は国鉄より営団の方が運賃が高かったこともあって、「迷惑乗り入れ」などとも呼ばれた。
 そうした混乱を経てようやく生まれた構想が「常磐新線」であった。
 一九八五(昭和六○)年七月に公表された運輸政策審議会の答申から二十年。もはや当時のニーズとはやや乖離した形で昨年二○○五年八月に開業したのが「つくばエクスプレス」である。
 私は待ちきれず、八月二四日の開業当日にみつこさんとつくばエクスプレスに乗った。
 新しい路線だけに線路のほとんどはトンネルか高架で踏切はない。運賃だけで乗れる列車が最高速度時速一三○キロまで出すというのも、サービス面で遅れを取っている関東の鉄道にしては珍しい。
 その帰り、私たちは土浦に出て、つくばエクスプレス対抗策として、新型電車E531系の投入とともに登場した「特別快速」電車に上野まで乗ることにした。こちらも最高速度時速一三○キロがセールスポイントらしい。
 土浦駅で「特別快速」を待っていると、隣のホームに白い鈍行の「中電」がやって来た。
「この電車はなに」
 みつこさんが言う。
「これ? これは鈍行電車だよ。水戸とか遠くの方から走ってくるんだよ」
「面白そうな電車だね」
「でもこれ、古いなあ。窓が古いかたちのものがある」
「窓?」
「うん、電車の窓は二通りあってね。壁をくり抜いたところにレールをつけてガラス窓をはめ込んだ古いかたちのものと、壁はくり抜いたまんまで、レールとガラス窓がセットになったものをパカッとはめ込んだユニット窓ってのがあるんだ」
 みつこさんは、余計なことを聞いてしまったという様子で無気力に「ふうん」とだけ答えた。
 この窓の違いは、例えてみればタイル貼りの風呂とユニットバスとの違いと同じようなものである。ふつうの乗客は気がつかない程度の違いだが、鉄道おたくにしてみれば、ユニット窓より作り込み窓の方が歳月を重ねているし、車両としても希少性が高いので、うれしいのである。
 みつこさんは、
「こんどは、これに乗りたいね」
と言った。
 このときは「特別快速」に乗ったので、白い鈍行電車には乗れずじまいだったが、常磐線の白い鈍行に乗ってみたいという話は、折に触れみつこさんと私とで話に出ていた。
 そうして季節も良くなった今年二○○六年五月の下旬に出かけようという話になり、常磐線に乗る計画を立てることにした。
 最初は常磐線と喜多方ラーメンを組み合わせようとも考えていたが、ラーメンは特急日光号の後に出かけてしまったので、この計画はなしになった。
 常磐線を全線完乗して仙台まで行き、新幹線で帰って来るプランなども考えたが、どれもいまひとつで、結局、常磐線で途中まで行き、日帰りで帰ってくることにする。
 ただ、それだけではやはり面白味に欠けるので、いわきから少しだけ足を延ばして富岡まで行き、引き返して来ることにした。

 まず、上野発いわき行きの「中電」鈍行電車に乗ろうと思う。
 考えてみれば、いわき行き常磐線は都内から発車する鈍行電車の中では一番長距離なのではないだろうか。
 東海道本線の長距離鈍行電車は東京〜静岡間に一往復があるだけ(一八○・二キロ、所要約三時間)、東北本線は上野〜黒磯間が数本ある(一五九・七キロ、所要三時間弱)程度である。千葉方面は房総と横須賀線直通の快速電車が所要三時間程度で東京湾を半周しているが、高崎線は上野〜前橋間(所要二時間程度)があるに過ぎない(一一一・二キロ)。
 これに対して常磐線の鈍行は上野〜いわき間(二一一・六キロ、所要三時間半〜四時間弱)でかなり多くの本数が走っている。これに匹敵するのは、中央本線の立川〜松本間の鈍行一往復(一九七・九キロ、所要三時間五三分(下り))だけと言っていい。
 時刻表を見ると上野からいわきまで走る「中電」のうち、午前中に、10時16分、10時52分、11時12分と一時間のうちに三本続けて設定されている時間帯がある。
 このあたりの時間なら、帰りは特急列車に乗れば、富岡まで行って帰ってくるのに好都合である。新型の電車、古い電車、いろいろな電車が来るだろうが、三本のうちには作り込みの窓がある古い電車もやってくるであろう。
 そう見当をつけて、みつこさんと二人で上野駅に出向くことにした。



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