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走れ!バカップル列車
第18号 特急日光号



   二

 みつこさんのお父さん、私の義父の七回忌が五月六日に行われることになった。
 お墓は栃木県の高徳寺というお寺にある。東武鬼怒川線の新高徳から近い。
 旅の目的はあくまで法事であるが、せっかくだからJR・東武の直通特急に乗るバカップル列車を走らせたい。
「みちゃん」
「なに」
「パピーの法事なんだけどサ」
「うん」
「前の日に栃木に向かって、直通特急に乗りたいんだ」
「いいよ」
 旅の計画を練ることにした。
 果たしてどこに泊まるのが良いのか。新高徳の近くに泊まるとするなら、鬼怒川温泉がいいのだが、団体客相手中心の大旅館が多いので、いまひとつ気が進まない。しかも五月五日と言えば世の中はゴールデンウィークの最中である。そんな中に大温泉街に泊まって、いい気分が味わえるとはなかなか思えない。日光も然りである。
 鬼怒川から足を延ばして会津若松まで行こうと考えてみる。野岩鉄道、会津鉄道にはまだ全線に乗ったことがないし、若松からさらに行けば喜多方ラーメンが食べられる。
 東北新幹線で郡山まで行って、会津若松と喜多方を回り、帰りに直通特急「スペーシアきぬがわ6号」に新宿まで乗るプランを考えてみた。
「みちゃん」
「なに」
「会津に行こうかと思うんだ」
「ええ!? なんで法事に行くのに、会津まで行くの」
 やはり無理か、と内心思ったが、とっておきの一言も用意してある。
「喜多方ラーメン食べられると思って」
「わかた。行こう」
 すんなり、みつこさんのOKも出た。
「じゃあ、切符買っておくね」
 駅の窓口で希望の列車の指定券を買おうと思ったが、往きの新幹線も帰りの「スペーシアきぬがわ」も満席で切符は買えなかった。
 ゴールデンウィークをなめていた、と言われればそれまでである。しかし、かつて五月の法事でスペーシアの切符が取れなかったなんてことは一度もなかった。
 直通特急恐るべしである。残念ではあったが、うれしくもなった。
 どうせならスペーシアで新宿、池袋を走ってみたかったが、それが無理なら、JR車両の直通特急に乗るしかない。もう一度、プランを練り直してみた。
 まず新宿07時12分発の特急「日光号」で東武日光まで行く。日光には特に用がないのでそのまま下今市まで折り返して、そこから東武鬼怒川線、野岩鉄道、会津鉄道を通って会津若松へ。さらに喜多方へ向かいラーメンを食べ、その夜は若松泊。翌朝は来た道をまた戻って新高徳にて法事。周辺を観光して適当な時間の浅草行きスペーシアで帰る。
 それで、必要な指定券を買おうとしたら、すべて希望通り取れたので、この計画で出かけることにした。

 五月五日がやって来た。
 朝、五時に起きて新宿駅に向かった。王子に住んでいるなら、池袋か大宮から乗るのが合理的であるが、バカップル列車はその列車の全区間を乗ることになっているので、新宿まで行かないといけない。
 朝の弁当を買う時間を確保しようと早めに家を出たのだが、六時半に新宿に着いてしまった。ちょっと早すぎた。
「日光号」が発車する三番ホームに来てみたけれど、列車がやってくる気配はない。それよりも07時12分の前に07時07分発の「成田エクスプレス7号」が三番ホームから発車するので、「日光号」が新宿駅に停車する時間はごくわずかとなりそうだ。
 みつこさんと私はしばらくホームでぼんやりしていたが、「日光号」に乗ると思しき観光客たちが少しずつ増えてきて、「成田エクスプレス」の前に行列を作り始めた。
「成田エクスプレス」が発車しても、すぐに「日光号」がやってくるわけでもなかった。二、三分待って、ようやくアナウンスがあり、代々木方向から485系「日光号」が六両編成で入線して来た。白とオレンジ色を基調としたカラーリングは、東武スペーシアのカラーに統一させたものだろう。
 ドアが開き行列の先頭から次々と乗車して行く。荷物の多い乗客もいて、なかなか進まない。私たちがようやく二号車に乗り込んだら、すぐにドアが閉まった。
 自分たちの座席の場所を見つける前に、特急「日光号」は動き出していた。なんとも慌ただしい出発であった。
 荷物を棚に載せたり、弁当をテーブルに置いたりして、ようやく落ち着いたころには特急列車は山手貨物線の高田馬場付近を快調に走っていた。車内はほぼ満席である。私たちの座席は「二号車十一番A・B席」。前の座席との間隔(シートピッチ)は、スペーシアに合わせてあるので、普通のJR車両よりも広くてゆったりしている。座り心地も悪くない。ただし、シートピッチを広げても、外壁を改造して窓の間隔までは動かしていないので、座席の位置と窓の位置が必ずしも一致していない。トイレ・洗面所なども改善はされているが、もともとは国鉄時代に製造された古い車両なので、やはり東武スペーシアと比べると設備としては若干見劣りがする。
 特急「日光号」は池袋を発車した。埼京線と分かれて、湘南新宿ラインの電車が往き来する山手貨物線を東へ向かう。
 この線路は大崎付近から駒込付近までを山手線に沿って走る貨物線で、もともとは貨物列車の線路であったが、貨物需要の減少で貨物列車が減ってからは、埼京線、「成田エクスプレス」、湘南新宿ラインなど、旅客列車もたくさん走るようになった。
 特急列車は山手線電車を追い越し、あるいはすれ違いながら、大塚、巣鴨、駒込と走り抜けてゆく。駒込を過ぎると山手線の線路より低い位置を走るようになり、左に急カーブし始めて、山手線の下をくぐる。くぐったところで入るトンネルが中里トンネルである。左にカーブしながら、東京西部から連綿と続く武蔵野台地の東端をこのトンネルで抜け、出たところが一面の平野になって田端操車場が広がる。線路はつながっているが、ここからは東北貨物線ということになる。
 左側に京浜東北線の電車が走っている。
 弁当を食べているみつこさんに話しかける。
「上中里だよ」
「ほんとだ」
「ほら、京浜東北線」
「なんだか不思議な感じだね。いつもと同じ所を通っているのに、景色が全然違って見える」
「見えてくる景色の角度とかが微妙に違うからね」
 上中里を過ぎると東北本線の線路と合流しながら、京浜東北線の線路をくぐる。東北貨物線の線路は一番西寄り、山側を走る。
「みちゃん、王子だよ」
「ホントだ、ホントだ。飛鳥山がこんなに近くにあるね」



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