homepage
走れ!バカップル列車
第13号 超電導リニア試乗列車



   三

 リニアモーターカーとは、磁気浮上式鉄道のことである。その研究の歴史は意外に古く、東海道新幹線開業の二年ほど前、一九六二年度から始まっている。七○年代から宮崎実験線で実験が行われていたが、勾配やカーブ、トンネル区間の実験、複線でのすれ違い実験などを行う目的で山梨実験線が建設された。実際、カーブは半径8000メートルとゆるやかであるが、勾配は40パーミル(‰)もあり、碓氷峠を越える長野新幹線よりも急勾配である。
 ところでリニアモーターというのは、平らなモーターという意味である。普通のモーターは丸く筒状になっているが、それを巻物を広げるように平らにしてしまったのがリニアモーターである。リニアは英語でlinearであり、ライン(line)の派生語。「(直)線の(ような)、線を用いた・線から成る」といった意味がある(『ジーニアス英和辞典』大修館書店)。
 平らなモーターがなぜ動くのか不思議であるが、磁石のN極とS極が引っ張り合い、N極同士、S極同士が反発し合う原理を上手に使っているらしい。車両が10センチほど宙に浮くのも、カーブをスムーズに通過できるのも、磁石の力である。そうした磁石の力を効率的に使うために、電気抵抗がゼロになる超伝導現象を利用している。
 超電導リニアの山梨実験線は、中央本線の南側に42・8キロが東西に伸びている。東京側東端は上野原市秋山(旧秋山村・中央本線上野原駅南方)、大阪側西端は笛吹市境川(旧境川村・中央本線石和温泉駅南方)にあり、最終的に中央新幹線の一部となるよう設計されている。このうち中央部分の18・4キロが一九九七年三月に先行して完成した。今日の試乗会もこの先行区間で行われる。

 試乗会は、午前と午後合わせて計六回である。
 私たちが乗る受付時間10時15分の試乗列車は朝の第一便で、ようやくその時刻が来た。すでに受付前には行列ができている。
 受付のある建物はガイダンスルームと呼ばれている。入ると右側にカウンターがあって、クリーム色にブルーのラインが入ったユニフォームをまとったイベントコンパニオンみたいなおねえさんが二人、受付をしている。
 鄙にも稀なという表現が正しいのかどうかわからないが、こんな山奥にきれいなおねえさんがいるので行列のおっさんたちは大喜びである。前のジッパーを下げ気味にしながら前屈みに事務をこなすおねえさんの胸元をのぞき込んで、
「よく見えるなァ」
と歓声をあげている。
 乗車券を二枚渡すと名簿の名前を確認して、乗車券に「PASSED」というスタンプを押してくれた。
 私もおねえさんの胸元をのぞきたかったが、みつこさんが「早く早く」と言うので、見損ねてしまった。
 受付の左側はガイダンスルームの名の通り、座席がずらり並べられていて、さながらミニシアターのようだ。正面に大きなスクリーンと小さな演台がある。中央の通路を境に座席は左右に分かれている。私たちは2号車に乗るので、係員に「左側の席にお座りください」と言われる。3号車の人たちは右側に座るようである。
 受付を済ませた試乗会参加者が揃ったところで、別のコンパニオンのおねえさんが出てきて解説が始まった。クリームとブルーのユニフォームは、リニア試験車両のカラーリングに似ている。
 大型スクリーンを駆使したガイダンスは、リニアモーターカー実験の歴史、山梨実験線の説明、走行試験の概況など、一五分間ほどであった。これが終わるといよいよ試乗である。通路の右側に座った3号車の参加者から乗降場へと案内される。
 3号車の人たちがだいたい乗車したころに左側の2号車の参加者が呼ばれて案内される。周りの子供たちは大はしゃぎだ。係員のお兄さんに「速いよ!」と言われて喜んでいる。
 ガイダンスルームを出ると右に向かう階段があって、登るともうそこが乗降場である。窓の外に白と青に塗り分けられたリニア試験車両の屋根が見える。
「停まってる、停まってる」
 子供もはしゃいでいるが、大人も興奮している。家族連れのパパが一生懸命ビデオを撮っている。
 私の心臓もバクバクである。

 乗降場といっても鉄道のプラットホームのような雰囲気ではなく、建物の脇の廊下のようなところである。外に通じるドアが一箇所だけあって、それが試験車両への乗り口になっている。どちらかというと飛行機の搭乗口のような感じである。
 列が進んでリニアに乗り込む。ドアの右側が3号車、左側が2号車である。
 列車は四両連結であるが、試乗参加者が乗るのは真ん中の二両、2号車と3号車だけとなっている。それぞれの車両に五○人ずつ、一回の試乗列車に計百人が乗るようだ。
 車内の構造はJRの特急車両と同じようになっている。デッキから室内に入る。座席は通路を挟んで二列ずつ、合わせて四列である。新幹線の五列に比べるとだいぶ狭く、在来線の特急とだいたい同じだが若干狭いという印象である。
 私たちの座席は14Cと14Dである。手前から1・2……と続いているので、14列は後ろの方だ。通路を進んで指定された座席のところまで向かう。
 私が窓側に、みつこさんが通路側に座る。窓と言っても飛行機の窓のような小さな窓だ。シートは水色で、やや硬い座り心地である。
「なんだか素っ気ないつくりだな」
 車内を見渡して、みつこさんが言う。
 車両の一番前の壁に一箇所、通路天井に二箇所、テレビのモニターがあって、ビデオ映像や試験車両前方のカメラ映像が流れるようになっている。



next page 四
homepage