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走れ!バカップル列車
第12号 つくばエクスプレス



   四

 茨城に入ると森林と原っぱがますます多くなる。常磐道守谷サービスエリアの脇を通り、林を抜け、国道294号線と交差すると守谷に着く。国道脇には赤土の更地が広がっている。
 守谷は関東鉄道常総線との接続駅であるほか、つくばエクスプレス運行上の拠点で、日中の普通列車はすべて守谷止まりとなっている(守谷〜つくば間の各駅には区間快速が停車する)。駅北側には電車の寝床である車両基地もある。
 守谷を出るとしばらくは家並みが続くが、すぐに林と田んぼばかりになる。
 そうした守谷の町並みを抜けたあたりにデッドセクションがある。
 デッドセクションとは、死電区間とも言い電源の切り替えを行うところである。二種類の電源の境界部分は短いながらも電気が通じていない。
 日本の電化区間はいろんな事情で三種類の電化方式が採用されていて、おおまかにいうと、関東・中部・近畿・山陽・四国は「直流電化」、東北と北海道は「50ヘルツの交流電化」、北陸と九州は「60ヘルツの交流電化」である。交通量の多い区間は直流電化の方が効率的で、関東の鉄道はほとんど直流を採用している。つくばエクスプレスも全線直流でいいようなものだが、筑波山から5キロほど東のところに気象庁の地磁気観測所があり、その観測に影響が出てしまう関係で直流電化ができない。
 そこでつくばエクスプレスでは秋葉原〜守谷間を直流電化、みらい平〜つくば間を交流電化として、車両も秋葉原〜つくば間の全線を走る列車には直流と交流の切り替えができるTX-2000系、秋葉原〜守谷間だけを走る列車には直流のみのTX-1000系という二種類を用意して使い分けている。
 かつてデッドセクションと言えば、電源を切り替えている間、車内の電灯が消えていたからすぐわかったが、最近の車両では電灯は消えないらしい。つくばエクスプレスの快速も何食わぬ顔で走っているのでどこだかよくわからない。小貝川を渡る手前、車両基地に続く線路が分岐するあたり、高架橋防音壁に黄色いラインが断続的に塗ってあったから、おそらくそのあたりがデッドセクションだったのだろう。
 そうして交流区間に入り、再びスピードを上げてゆく。周囲は一面の田んぼで、はるか向こうに家並みや林が見える程度である。左前方に筑波山の山裾がわずかに見えるが、雲が低く山頂付近は姿が見えない。
 地下駅のみらい平を通過すると両側をコンクリートに覆われた切り通し区間となる。トンネルで常磐自動車道の下をくぐり、再び高架線となってみどりのを通過。駅前は赤い土がむき出しになっていて区画整理中である。駅を過ぎたあたりには黒い瓦屋根の民家なども並んでいる。
 常磐新線は、当初の目的は輸送力が限界にある常磐線の混雑緩和であったが、バブル後には沿線開発という目的も追加され、そちらに重点が置かれるようになる。みらい平、みどりのといったなんとも抽象的で漠然とした駅名は沿線開発とも関わりがあるようだが、計画時の駅名はそれぞれ伊奈谷和原(いなやわら)と萱丸(かやまる)であった。
 高架線と切り通しを繰り返しながら電車は走る。次第に景色は森林や原っぱ、広大な造成地ばかりとなって単調になる。原っぱの中の万博記念公園、日本自動車研究所の敷地内にある研究学園などを通過してトンネルに入るともう終点つくば駅である。11時15分着。あっけないくらいに速かった。
 電車を降りていく人たちが口々に「もう着いたの?」「あっという間だった」と言っている。たしかにそうだろう、バスと常磐線を乗り継いで行くのに比べて所要時間は半分だ。
 つくば駅の地上に出ると大きなバスターミナルである。周囲にはショッピングセンターなどもあって、筑波研究学園都市の中心地となっている。
 ここからバスに乗って土浦に出て、土浦から常磐線で上野に戻ることにする。
 広い研究学園都市の中をバスでぐるぐる走っているうちに空が晴れてくる。筑波山がようやくその全容を見せはじめた。

 土浦には午後1時前に着いた。駅ビルでれんこんが乗った土浦カリーなるものを食べた。
 次に乗るのは常磐線の特別快速である。一か月半ほど前の七月九日から上野〜土浦間に走り始めた新しい列車で、JR東日本では特急以外の列車が時速130キロを出すのは初めてである。要するにこの特別快速は、時速130キロのつくばエクスプレスに一石を投じられた方の対抗策といえる。車両もE531系という新型車両を導入している。
 特別快速は日中一時間に一本運転されており、普通列車だと上野まで1時間11分かかるところを特別快速は55分で結んでいる。
 次の列車は13時57分。上野寄り先頭車の位置で待っていると、水戸方向から列車が入ってきた。
「ドア開かないの?」
「半自動扉だよ。そこのボタン押してみ」
 みつこさんがボタンを押すとピンポンピンポンピンポンとドアが開く。
「あいた」
 乗ると車内にもボタンがある。
「閉まった」
 私たちのほかに何人か乗ってきたが、なぜか全員運転席の後ろに立っている。座席はすべて空席だ。
「すごいよ。おたくばかりだよ」
 みつこさんが妙に感動している。
「ひろさん、負けちゃったじゃん、どこに立つの?」
 みつこさんの背中をかいてあげてる間に場所を取られてしまったのである。しかたないので四人掛けのボックス席に座って車内をぼんやり眺める。シートは暖色系。黒いつり革がなかなかおしゃれだ。
 特別快速は定刻に発車し、徐々にスピードを上げてゆく。つくばエクスプレスの速さに慣れてしまったのか、あんまり速いという感じがしない。
 牛久で運転席後ろを陣取っていた学生が降りたので、空いた場所に立ってみる。時速130キロという表示を見てみようと運転席のスピードメーターを見ていたら、123キロになったところで運転士はモーターのスイッチを切ってしまった。次の佐貫まで線路はまっすぐで、ここで出さなかったらどこで出すというようなところである。
 藤代を過ぎたところでデッドセクションを通過する。常磐線も地磁気観測所の関係で藤代以北は交流電化、取手以南は直流電化となっている。
 電気が通じないので電車は惰性で走っている。電灯は消えないが空調は一瞬停まり、静かになった。
 そういえばつくばエクスプレスの空調はデッドセクションで停まっただろうか。
「みちゃんさあ」
「なあに」
「つくばエクスプレスは、デッドセクションでエアコン停まったっけ?」
「ええっ!? そんなのわかんないよォ」
「そうだよなぁ」
 一生懸命記憶をたぐり寄せてみたが、どうにも思い出せない。



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