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走れ!バカップル列車
第12号 つくばエクスプレス



   二

 二○○五年八月二四日が来た。
 はやる心を抑えながら京浜東北線に乗る。毎日乗っている秋葉原までの時間がやけに長い。ようやく御徒町を出る。車掌がアナウンスをはじめた。
「次は……秋葉原、秋葉原。中央・総武各駅停車、地下鉄日比谷線、つくばエクスプレスはお乗り換えです」
 みつこさんと思わず顔を見合わせる。
「ひろさん」
「つくばエクスプレスって言ってる」
 新線の開通を実感した瞬間であった。
 10時過ぎに秋葉原に着いた。ホームからエスカレーターを降りて一階のコンコースに出る。西側に出れば電気街口であるが、つい先日の八月一七日に東側の中央改札口がオープンした。一七日時点では南東(ワシントンホテル)側だけだったが、二○日には北東(ヨドバシカメラ)側も使用を開始している。
 昨日まではだだっ広い改札口に人なんてまばらだったが、きょうの中央改札口は多くの鉄道おたくや家族連れ、ビジネスマンなどで混雑している。みんなつくばエクスプレスに乗るのだろう。
 中央改札口を出た先には総武線の下を南北に走る道路ができた。九月一六日オープン予定のヨドバシカメラ正面から、ワシントンホテル前まで延びるおよそ200メートルの短い道路だが、つくばエクスプレスの秋葉原駅はまさにこの道路の下にある。
 地下駅への入口は三か所あり、JR中央改札口南東側にA1出口が、北東側にA2出口とエレベーターが、ちょっと離れたヨドバシカメラのビル内にA3出口がある。
 いちばん賑わっているA1出口から入ることにした。
 下りのエスカレーターや階段からもう混んでいる。駅構内で記念切符を発売しているのだろう、階段の上の方まで行列が続いている。
 降りて行くと地下宮殿のような広くて天井の高いコンコースがある。高層ビルの建設過程はよく見えるけれど、地下鉄の建設はまったく見えないから、いつのまにこんな大規模な工事をしていたんだろうと不思議に思う。
 コンコースは大変な混雑で、切符を買うだけなのにものすごい行列になっている。
 近くに並んでいる若者が「10時半の快速乗れねえなぁ」とつぶやいている。ある程度は予想して早めに出てきたつもりだが、その予想をはるかに超える混雑である。
 しかたなく列に並んでいると、近くの駅員が問い合わせてきた主婦に「パスネットも使えますよ」と案内しているのが聞こえた。パスネットは関東の私鉄や地下鉄で共通して使えるプリペイドカードである。それが使えるなら切符を買う行列に並ぶことはない。幸い改札口はそれほど混んでいない。
「みちゃん、パスネット持ってる?」
「残があんまりないけど」
「いいよ。行こう」
「えー、どこ行くの」
「改札」
「パスネット使えるの?」
「たぶん」
「駅員さんにきいてみようよ」
「大丈夫だよ」
「えー」
 そうこうしているうちに自動改札に来た。おそるおそるパスネットを入れてみる。
 ガチャンと音がして、パスネットが出てきた。「TX秋葉」と印字されている。
「大丈夫だったでしょ」
「うん」
 エスカレーターを二つ乗り継いでホームに降りてきたが、こちらも混雑していた。つくば側先頭に来てみたが、カメラを構えた鉄道おたくのみなさんでたいへんなことになっている。
 つくばエクスプレスでは全駅にホームドアが設置されているので、混雑していても安心である。新しい路線らしく自動列車運転装置(ATO)という運転保安設備を導入していて、全線で自動運転・ワンマン運転を行っている。
 全線電化の複線。レールの間隔(軌間)はJR在来線と同じ1067ミリであるが、ロングレールを採用していて踏切が一つもなく、最高速度は関東の私鉄では最速の時速130キロである。
 概して関東の鉄道はスピードアップにあまり熱心ではない。関西はJRと私鉄が公正な競争をしていて、JRでは特急料金のいらない「新快速」でも時速130キロ運転をしているが、関東の時速130キロは一部の特急列車だけで、それ以外では京浜急行の時速120キロが最速であった。
 JRと私鉄がぴったり平行しているような路線が東海道線と京浜急行以外にあまり見られないという理由もあるだろうが、お役所的というか談合というか、どうも東京周辺は公正に競争しようという意識が希薄である。もちろん安全を確保するのは大前提であるが、つくばエクスプレスのようなスピードを売りにした新線が誕生したことは、ぬるま湯体質に一石を投じるという点で大変意義深い。
 つくばエクスプレスがJR東日本の経営であったら、時速130キロ、最速45分は実現しなかったはずである。沿線の乗客にとっては、この新線がJR線にならなかったことは大きな幸福だと言えるだろう。

 10時30分発のつくば行き快速が入線して来た。
 車両はTX-2000系と呼ばれる4扉・6両編成の電車である。車体はアルミ合金で銀色に光っている。運転台のある先頭車両前面は、中央に鼻筋が通っていて鎧をかぶった西洋の騎士のような顔つきである。
 1号車の真ん中あたりに乗る。混雑していたがほとんどの鉄道おたくたちは運転席後ろ側の窓に密集してかぶりついているので、それ以外のところはそれほどでもない。進行方向左側の座席になんとか二人並んで座ることができた。
「ひろさん、行かなくていいの?」
 みつこさんが運転席の後ろに行かなくていいのかと訊く。しかし人垣が幾重にもなって、前方の景色など見れたものではない。
「こっちの窓から外を見ることにするよ」
「そうかい」
 鉄道おたくも多いが、夏休みだからか子供を連れたお母さんも多く、車内はたいへん賑やかである。



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