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走れ!バカップル列車
第7号 白いかもめと寝台特急さくら



   二

「ひかり331号」は3分遅れて博多に着いた。
 時刻表での乗り換え時間は16分だが、今日は13分しかない。新幹線の改札を出て、3番のりばに来てみると、すでに「白いかもめ」が入線している。
 窓から車内をのぞき込むと座席はほぼ満席である。自由席は座れないかも知れない。5号車に乗り込むと、通路を挟んだ隣同士の席になんとか座ることができた。私の左、窓側の席には受験生と思われる若者が座っていて、一生懸命計算問題を解いている。
「かもめ」は博多〜長崎間153・9キロを走る特急列車であるが、一番最初は東海道本線東京〜神戸間の特別急行列車として登場している。一九三七(昭和十二)年のことで、当時は漢字で「鴎」と書いた。一九四三(昭和十八)年、戦況悪化により廃止されてしまうが、戦後は一九五三(昭和二十八)年に京都〜博多間の特別急行列車として再び登場。平仮名で「かもめ」を名乗ることとなる。その後、関西圏と長崎本線とを結ぶ列車として活躍するが、山陽新幹線の博多開業によって一九七五(昭和五十)年三月に二度目の廃止となる。
 いまの「かもめ」は三代目ということになる。一九七六(昭和五十一)年七月、長崎本線電化に伴い登場した。当初は全列車が佐世保行きの特急「みどり」と併結していたが、現在は一部列車を除いて全区間が分離運転となっている。
 博多発長崎行き特急「かもめ13号」はまもなく発車した。定刻は11時02分だが、やや遅れて11時03分ごろ動き出した。
 私は「かもめ」や「みどり」が博多駅から発車するところが好きである。いずれも鹿児島本線小倉方面行きの上り線(3・4番のりば)で発着するので、下り列車として発車するときは、熊本方面行き下り線の線路にたどり着くまで構内の線路をいくつも跨がなければならない。その度にポイントをガタンゴトンと渡ることになる。これのどこがいいんだと言われても困ってしまうが、渡り線を右に左にゆっくり進む感じがたまらない。同じ博多駅でもこれが「リレーつばめ」や「ソニック」だと、出発時と到着時とでホームが異なるのでこうはいかない。特急列車が発着するときにこんなにたくさん渡り線を渡るのは、日本広しと言えども「かもめ」「みどり」が一番ではないかと思う。
 ポイントを渡り終え、下り本線に入った「白いかもめ」は見る見るうちに加速して、近郊各駅を快速で走り過ぎてゆく。最高速度の時速130キロまで出ているのだろうが、乗り心地が良いのでスピード感はそれほどでもない。まるで静かな水面を滑るかのようだ。太宰府はどこだろうと呑気に構えていたら知らぬ間に通り過ぎてしまった。あっという間に鳥栖に着いた。
 みつこさんが、
「トス!」
と言ってバレーボールのポーズをつくる。みつこさんは私が寒いギャグを飛ばすととても冷たい目で私を見るくせに、自分が寒いギャグを飛ばした時は平気でにこにこ笑っている。
 駅の左側には大きなサッカースタジアムがある。駅の近くによくこんな土地があるなと思ったら、貨物列車の操車場跡地だという。
 鳥栖を発車し、ここから長崎本線に入る。鹿児島本線の上り線を立体交差で跨いで右へ右へとカーブし、筑紫平野を南西に向かって走り始める。空が少し曇ってきた。左側に座っている若者は博多の発車前から一心不乱に勉強していたが、鳥栖を出たら寝てしまった。
 しばらく走ると右側に吉野ヶ里遺跡が見える。広い平野の真ん中に丸太を組んだ櫓が建っている。
 佐賀に着いた。みんなぞろぞろ降りて行く。隣の受験生もここで降りた。乗客は半分くらいになってしまった。私が窓側の席に移り、みつこさんが隣に来た。
 そして突然、
「歌って」
と言う。お笑い芸人はなわの「佐賀県」を歌えと言っているのである。
「だめだよ」
 お笑いのネタになるほど佐賀は印象の薄い土地と言われているが、博多〜佐賀間の交通量はけっこう多い。「かもめ」と「みどり」が分離運転となったのは、この区間の運転本数を増やす目的もあったのだろう。
 11時47分、肥前山口を出た。佐世保線が右に分かれ南へ進む。ここから諫早までは単線である。
 博多で「白いかもめ」に乗ったとき、みつこさんも私も驚いたのが普通車自由席のシートが黒の革張りになっていることである。幅も広くゆったりしていて座り心地は抜群である。テーブルは肘掛けから出てくる形で木製の落ち着いた感じである。普通車がこんなに豪華ではグリーン車はどうなってしまうんだろうと思う。
 車内を探検することにした。床は室内もデッキもフローリングである。出入口ドアの両脇はピンクのイルミネーションに照らされている。
 デッキには誰もが楽しめるコモンスペースがある。小さなカウンターが付いていて、コーヒーなどが飲めるようになっている。佐賀に着く前トイレに立ったが、その時ここは席に座れなかった乗客たちで賑わっていた。壁のあちこちには墨で描かれた書が飾ってある。別の車両のデッキには「長崎」「唐通詞」「南蛮」「凧」など壁一杯の特大の書が電飾看板となって展示されていた。JR九州の車両は、このような遊び心がふんだんに盛り込まれているので、乗っていてとても楽しい。
 ずうっと歩いて1号車まで来たが、前半分はグリーン車で、扉が閉ざされている。座席がどんな風になっているか見てみたかったが、入口のところに、ご利用でない人はご遠慮ください、というようなことが書かれていたので諦めて帰って来た。



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