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走れ!バカップル列車
第7号 白いかもめと寝台特急さくら



   一

 寝台特急「あさかぜ」と「さくら」に乗ることにしたら、「白いかもめ」にも乗れることになった。まるで夢のような話である。
「白いかもめ」とはJR九州の長崎本線を走るエル特急「かもめ」に使用される車両のことで、正式な型番は885系という。時刻表には「白いかもめで運転」などと書かれているので、一般的には「白いかもめ」という愛称の方が通りがいいと思う。
 特急「かもめ」はそれまで「ハイパーサルーン」と呼ばれる783系で走っていたが、オランダ交流四百年に当たる二○○○年の三月に、乗り心地の向上とスピードアップを図って「白いかもめ」が投入された。JR化後初めて開発された「ハイパーサルーン」もすべての車両を半室ずつ分けた構造にするなど、かなり画期的な車両であったが、「白いかもめ」はそれにも増して強烈な印象である。丸っこい先頭形状はなんとなく芋虫に見えなくもないが、真っ白な車体に流線型の洗練されたデザインはきわめて衝撃的と言っていい。
 私も「白いかもめ」のデビュー当初から乗りたいなとは思っていたが、なかなか乗る機会がなかった。そして今回、寝台特急「さくら」に乗るため長崎に行くので、その際に乗ってみようと考えた。こんどの旅のそもそものきっかけは「あさかぜ」「さくら」に乗ることであるが、「白いかもめ」だって、ただそれだけを旅の目的としていいほどにとっても魅力的な列車である。
 そこで、いかにして「白いかもめ」に乗るかが問題となる。しかも長崎ではちゃんぽんと皿うどんも食べておきたい。時間もお金もないくせに、とにかく欲張りなのである。
 ところが、東京からの寝台特急で下関もしくは長崎に着いて、その日のうちに東京行きの上り寝台特急に乗るとなると、必然的に到着地での滞在時間はわずかなものとなってしまう。特に下りが「さくら」で上りが「あさかぜ」となると、「白いかもめ」には乗れても、長崎にいられるのはわずか25分。これでは話にならない。駅周辺をうろうろするのがせいぜいである。
 逆に下りが「あさかぜ」で上りが「さくら」だとどうなるか。
 この場合、下関から10時09分発の小倉行き普通列車、小倉から10時34分発の特急「ソニック14号」、博多から11時22分発の「かもめ15号(肥前山口までみどり9号と併結)」と乗り継いで行くと長崎には13時31分に到着する。
 その日の上り「さくら」は16時50分発だから、長崎には3時間19分いられることになる。25分より格段にいいが、「かもめ15号」は残念ながら「白いかもめ」ではない。一つ前の「かもめ13号」と一つ後の「かもめ17号」ならば「白いかもめ」だが、「13号」には博多で12分先に発車されてしまうし、「17号」だと長崎滞在が2時間57分と若干短くなってしまう。
 そこでちょっと贅沢になるが、飛び道具を使うことにした。小倉から博多まで新幹線に乗るのである。下関発10時09分発の普通列車は10時22分に小倉に着く。乗換を急いで10時28分の「ひかり331号」に乗れば、博多には10時46分に着き、11時02分発の「かもめ13号」に間に合う。「白いかもめ」にも乗れるし、長崎滞在は3時間57分になり、一石二鳥である。
 私たちは結局、下り「あさかぜ」と上り「さくら」の組み合わせで行くことにしたのだが、「ひかり」と「かもめ」の自由席特急券を買ったら、新幹線と在来線との乗り継ぎ割引が適用されて合計の料金が一人当たり1780円で済んだ。在来線同士の「ソニック」と「かもめ」を乗り継いだときの料金(特急料金の合計は一人当たり2180円)と比べて安くなってしまったのである。最後は一石三鳥となって、これはうれしい誤算であった。

 私たちバカップルは、二○○五年一月二十二日、ブルートレイン「あさかぜ」で下関に着いた。東京からはるばる15時間の汽車旅であった。
 ホーム先頭の方に行くと電気機関車EF66やヘッドマークを撮ろうとカメラの列ができている。子供に運転士の帽子をかぶせて記念写真を撮っている家族連れまでいる。黄色いウィンドブレーカーを着たフルムーンの旦那さんが、その家族の写真を撮ってあげていた。私も負けじとコンパクトカメラでパチパチ写真を撮る。
 しかし、そんなことばかりもしていられない。09時55分に「あさかぜ」で到着した後は10時09分発の普通電車に乗らなければならない。適当なところで切り上げて乗り換えを急ぐことにする。
 階段を降りた通路ではオレンジのウィンドブレーカーを着たフルムーンの奥さんが荷物を二つも三つも抱えて立っている。上のホームでまだ「あさかぜ」を撮っている旦那さんを待っているらしい。
「私はいつも荷物持ちなの」
 そう言いながらもコロコロと笑っている。
「あさかぜ」の車内放送では、小倉行きは7番のりばと案内していたので来てみたが、まだ電車が来ていない。「おかしいな」とは思いつつ、向こうの4番のりばで「あさかぜ」が車庫へと回送されて行くのが見えたので、ついそちらに気を取られる。
 フルムーンのご夫婦も揃ってこちらにやって来た。
「あれ、小倉行きは8番のりばじゃないか?」
 旦那さんが言う。隣のホームでは「小倉」という行き先標示を掲げた電車が停車している。
「ええ? 7番のりばって車掌が言っていたのに!」
 私が言うと、旦那さんも
「そう言ってたよねぇ」
と応えてくれる。四人で慌てて階段を降り、隣のホームへ移動する。旦那さんが言ってくれなかったら間違いなく乗り遅れていた。危ないところだった。
 小倉行き電車は四両編成で、すでに乗客がたくさん乗り込んでいる。下関駅の階段は一番後ろ(東京寄り)にあるので、後ろの車両が一番混んでいる。フルムーンのご夫婦は三両目に乗り込んでしまった。私たちはどうしようか迷ったが、二両目の方が空席がありそうなのでそちらに行くことにする。
「じゃあ、また」
と、しばしの別れ。ここら辺は一瞬の判断である。
 なんとか二人並んで座れて、九州へ渡る。
 小瀬戸を渡り、彦島という島を走る。関門トンネルの入口はこの彦島にある。
「みちゃん、海底トンネルだから、おさかなが見えるよ」
「見えるわけないでしょ。水が入って来ちゃうでしょ」
 トンネルを出た。
「出たね」
「九州だよ」
 門司に停まり、小倉に着いた。ここでは6分乗り換えである。新幹線ホームはやや離れているだろうから急がないといけない。
 フルムーンの夫婦はいるかなと探したが、乗り換え客でホームも階段もごった返していて見当たらなかった。
 新幹線ホームに来てみると「ひかり331号」の到着が遅れている。関ヶ原の雪の影響らしい。
 ホームを見渡して、みつこさんが言う。
「フルムーンのご夫婦、来ないね」
 せっかくフルムーンで九州まで来たのだから、きっとゆっくり見て回るのだろう。今日の上り「さくら」に乗る可能性は限りなくゼロに近い。ここで新幹線に乗らないのなら、もうお会いする機会はないかもしれない。
 一瞬の迷いが人生の分かれめになることもある。一期一会とは言うけれど、せめてお名前と住所ぐらい聞いておけば良かったと思う。



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