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走れ!バカップル列車
第5号 快速はなさき



   二

 東の空が赤く輝いている。
 午前5時、釧路の夜が明けようとしている。
 早朝だというのに、駅のホームには列車がいくつも停車している。
 四番乗り場には5時59分発釧網本線上り普通列車網走行きが、三番乗り場には6時00分発根室本線上り普通列車帯広行き(帯広で滝川行き快速「狩勝」となる)が、そして二番乗り場には5時55分発根室本線下り快速列車「はなさき」根室行きが停車している。それぞれがディーゼルエンジンをガラガラと震わせていて、にわかに活気を呈している。
 二○○四年十月二十五日。道東の新しい一日がここから始まる。
 私たちは、これから快速「はなさき」に乗って根室へ向かう。根室からはバスで納沙布岬に行き、根室中標津空港から羽田へ帰る予定である。
 朝5時55分の列車にみつこさんをつき合わせるのに、最初は少々ためらいを感じていた。ところが根室からまた釧路に戻って羽田に帰る案など他の日程も作成して二人で比べたところ、これが最も良いという結論に達した。だから最後はみつこさんも納得の上でこの「はなさき」に乗ることになった。
 5時50分、札幌からの夜行特急「まりも」が座席車三両に寝台車二両を連結した五両編成で到着する。この「まりも」からの乗換客を待って、根室へ、網走へと列車が次々発車してゆく。
「はなさき」の車両は、ステンレス車体のキハ54形ディーゼルカー一両のみである。車内はセミクロスシートと呼ばれる座席配置になっている。車両中央付近にテーブルの付いた四人掛けのボックス席があって、前後の席はすべて中央のボックス席を向いた格好で座るように固定されている。車両の後ろ半分は進行方向を向いて座るが、前半分は進行方向に背を向けて座る。このような座席配置を「集団見合い型」と呼ぶこともある。
 外の気温は低く、ホームに立ち続けているのはつらい。みつこさんは、一足先に列車に乗り込んで、ボックス席の後ろ側の二人席にぽつんと座っている。私も隣に座ることにする。

 まもなく定刻5時55分になり、快速「はなさき」が釧路駅を発車した。
 しばらく釧路の市街地を走り、屈斜路湖から流れてくる釧路川を渡って次の駅東釧路に着く。ここで網走に向かう釧網本線と別れ、根室を目指して東へ進む。
 根室本線の釧路〜根室間は「花咲線」という愛称がつけられている。一九九一年(平成三年)七月にこの区間を管轄する花咲線運輸営業所が設置されたことに伴ってつけられたという。
 しかし、そもそもの話をすれば、滝川から釧路まで線路が延びたとき、その路線名は「釧路本線」で、後に根室まで延長されたから「根室本線」と改称されたのだ。それなのに、いまは釧路以西(滝川〜釧路間)を「釧路本線」と呼ばずに「根室本線」と呼んで、釧路以東(釧路〜根室間)を「根室本線」と呼ばずに「花咲線」と呼んでいる。これはちょっと、話が逆なんじゃないかと思う。
 別保(べっぽ)を通過すると列車は丘陵地帯に差し掛かり、小さな峠を越える。私は席を立ち、運転席の後ろで前方の景色を眺める。
 両脇の木々は橙や黄色に紅葉している。右に左にカーブしながら、ディーゼルカーはエンジンを一段と大きく震わせて、坂をグイグイ登り続ける。
「ピイイイィー」と汽笛を鳴らしてトンネルを一つ、二つ抜けてゆく。二つめのトンネルを抜けたあたりだったろうか、列車の音に驚いてエゾシカが二頭、飛び跳ねながら山に分け入って行くのが見えた。
 三つめのトンネルがサミットで、出ると今度は下り坂になる。エンジンの音が消えて、惰性で軽快に走ってゆく。
 上尾幌(かみおぼろ)を通過したあたりで席に戻り、朝ごはんのおにぎりを食べる。みつこさんがすやすや眠っているところへ、私が何度も席を立ったり座ったりするので邪魔になる。座席は空いているので、私はみつこさんの一つ後ろの席に座ることにした。
 門静(もんしず)を通過すると次の厚岸まで海沿いを走る。太平洋からやや入ったところにある厚岸湾である。朝早く起きたので、まだ眠い。とろんとしながら車窓を眺める。
 東釧路から40分近くひたすら走り続けて、厚岸に着いた。厚岸町の中心街であり、沿線では比較的大きな駅である。時刻表には「厚岸6時47分発」としか書かれていないが、実際には6時38分30秒に着いて、8分半停車する。この間に反対側のホームから厚岸発上り釧路行き普通列車5622Dが発車する。あちらは二両連結で高校生が乗っている。こちらにも高校生がぽつぽつと乗って来る。
 厚岸を出ると、こんどは厚岸湖沿いを走る。羽根を休めていた水鳥が列車の音に驚いて次々と羽ばたいて飛んでゆく。雲も多いが空は晴れている。太陽が高く昇って、白く眩しく輝いている。
 厚岸湖が尽きると、厚岸湖に注ぐ川に沿って走る。両側は湿原で、茫々と茂る草むらの中をひたすら走る。糸魚沢を通過して、再び小さな丘を越えると茶内に着く。ここで6分停車。上り5624Dと交換する。
 上り列車に乗る客たちが場内踏切を渡っている。しばらくするとまっすぐ延びた線路の向こうから5624Dがやって来た。私はホームに降りて、そうした様子をビデオに撮影していた。
 するとこちらの運転手が私に向かって、
「行くよ」
と言う。慌てて列車に飛び乗ると、すぐにドアは閉まって快速「はなさき」は発車した。茶内発7時10分。



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