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走れ!バカップル列車
第5号 快速はなさき



   一

 夏の名残の九月四日、私はモリタくんと一緒に日帰り旅行に出かけた。
 東京から長野新幹線で軽井沢へ、軽井沢からしなの鉄道で長野へ、長野から飯山線で越後川口へ、越後川口から上越線で高崎へ、高崎から八高線で高麗川へ、高麗川から川越線・埼京線で赤羽に戻るというルートであった。
 ちょうどこのころ浅間山が噴火していたので、それが心配だったが、飯山線からの千曲川の流れ、上越国境など、楽しみにしていた風景を存分に楽しんで帰ってきた。
 そのひと月半後、この地域に地震が起きた。新潟県中越地震である。
 あのとき通った飯山線や上越線が不通となった。上越新幹線が脱線した。新幹線が脱線して車両が傾いた映像を見たのは初めてだと思う。時速200キロ以上の高速で走る列車が脱線なんかしたら大惨事になると思っていたが、けが人だけで済んだのは奇跡と言っていいだろう。
 第一報は札幌のタクシーで聞いた。
 東本願寺近くにある「五丈原」というラーメン屋でおいしいラーメンを食べ、札幌駅前に戻るときのことである。運転手が思いだしたように私たちに言う。
「新潟の方で大きな地震があったらしいですよ」
 夕方の六時ちょっと前だと言うから、私たちがラーメンの出てくるのを待っていたころであろう。
 ホテルに戻ってテレビをつけると地震のニュースが繰り返し流されている。震源は新潟県の小千谷付近で震度6弱だと伝えている。道路が割れ、土砂が崩れ、家屋が倒壊している。余震もあり、被害は甚大のようだが、まだ被害の全貌をつかみ切れていないようだ。ニュースの情報もかなり混乱している。
 雨に煙る越後川口駅の情景が思い出される。後に聞いた話では震源は越後川口の駅のすぐ裏手だったという。新幹線も上越線もしばらくは走れないであろう。九月に行っておいて良かったのかどうなのか、答えはすぐに見つかりそうにない。
 大変身勝手な話になるが、私たち夫婦の友達や親戚には幸い新潟県在住の人はいない。だから旅先からあちらこちらに電話をかけて安否の確認をするといったことはしないで済んだ。
 それでも明日から念願の2429Dに乗るというのに大変なことになったなと思う。しかし、いまの旅を楽しむより他ないとも考える。被災地の方々には申し訳ないと思いつつ、東京の自宅に戻るまでは予定の計画をこなすことにした。
 翌十月二十四日、私たちは予定通り、札幌から滝川へ出て、滝川から根室本線2429Dに乗車した。列車はすべてダイヤ通りで、私たちの移動に支障はなかった。

 2429Dで釧路に着いたとき、すでに日は暮れていた。ここで一泊して、明日早朝の列車で根室へ向かう。無理をすれば、その日のうちに根室に行くこともできるが、夜は車窓が楽しめないのでやめにした。
 札幌ではラーメンを食べたので、釧路の夜は海の幸を味わう。中心街に近い和食の店までタクシーに乗る。運転手は二十代半ばぐらい。とても親切で、話好きの青年である。
「さいきんは日曜の夜だというのに人通りがほとんどないんですよ」
 タクシーが走っているのは、釧路のメインストリートのようだが、車道にはたまにしか自動車が走って来ない。歩道を見ても人なんか歩いていない。外は真っ暗だが、まだ夕方の六時である。
「みんな、どこにいるんですか?」
 みつこさんと代わる代わる運転手に質問する。
「わかりません。人口十八万人いるはずなんですがねぇ」
「平日は人がいるんですか?」
「そうですねぇ、平日も……いませんねぇ」
「昼間はどうなんでしょう?」
「昼間も、同じような感じですねぇ」
 札幌と釧路を結ぶ特急「スーパーおおぞら」は一日六往復走っている。いずれも乗車率は良いようで、本来は六両編成なのであるが、六両で走ることはほとんどなく、どの列車も増結して九両、十両編成で走っている。
 それほどの混雑ぶりだから、釧路の街はさぞかし活気があるのかと思ったら、実際来てみるとそうでもないようだ。六往復という本数が少ないから混雑しているだけのことなのか。その辺の事情、どうもよくわからない。
 和食の店は、さんまの刺身や大トロの石焼きなど料理はおいしかったが接客はいまいちであった。
 帰りは道もわかったので駅前のビジネスホテルまで歩くことにした。駅とは反対方向にちょっと歩くと幣舞橋がある。
「幣舞橋ってのがあるけど、行ってみる? 釧路では有名なところなんだけど。すぐそこだよ。一分もかからない」
 念のため、みつこさんに訊くと、
「いいよぉ、寒いから」
という答え。
 北大通というメインストリートは車道が片側三車線の計六車線、歩道は植え込み部分も入れて幅五メートルはあろうかという広い道である。そこにクルマも人も誰もいない。夜の8時だが、両脇の商店もほとんどすべてシャッターを降ろしている。
「寂しい街だね」
 みつこさんが言う。
 電光掲示板には、
「気温8度、路温9度」
とある。
「早く帰ろうよ」
 そうして二人で駅までとぼとぼ歩いて帰った。



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