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走れ!バカップル列車
第4号 根室本線2429D



   二

 根室本線の2429Dは、JRの普通列車(特急券・急行券がいらない列車)の中で最も長い時間を走る列車である。函館本線の滝川から道東の釧路まで304・8キロを7時間45分かけて走る。
 ほかに長い普通列車がない訳ではない。東京から東海道本線の大垣まで走る夜行列車の「ムーンライトながら」は、410・0キロを7時間10分で走る。一般的にはこの「ながら」が普通列車の最長距離列車と言われている。
 また、山陽本線の下関を12時01分に発車する上り列車の三石行きは、425・7キロを7時間10分かけて走る。途中で列車番号が二度変わるので、正確には一本の列車とは言えないのかもしれないが、時刻表で一本の列車として掲載されている普通列車の中では最も距離が長い。
 ただ残念なことに、この列車はつい先日十月十六日のダイヤ改正で岡山止まりに短縮されてしまった。なので現在では、その一時間後に発車する下関13時02分発上り瀬戸行き(400・1キロを6時間42分で走る)が昼間に最も長い距離を走る列車となる。
 いずれにしても、2429Dは現在でも最も長い時間を走る鈍行列車である。滝川発9時38分、釧路着17時23分。途中、富良野で21分、帯広で44分停車。表定速度は時速39・3キロである。
 この列車に一度乗りたい。みつこさんをつきあわせるのに多少の不安は残るが、トイレもあることだし、おかしやビデオカメラなどを持ち込んで楽しくやれば、なんとか乗り切れそうに思う。

 十月に入って各地から紅葉の便りが寄せられるようになって来た。
 北海道大雪山麓の層雲峡などは、体育の日の連休あたりが見頃だとも言っていた。私たちが出かける下旬になれば、山の上のほうは雪をかぶっているだろう。紅葉の盛りは過ぎているかもしれないが、それもまた良い。
 二〇〇四年十月二十三日土曜日、私たちは羽田を14時00分に出る全日空67便で札幌に着いた。東京の冬の格好をしていてちょうど良いくらいである。東本願寺の近くでラーメンを食べ、札幌駅前のビジネスホテルに泊まった。テレビでは新潟の大地震のニュースが繰り返し流されていた。

 翌二十四日、札幌から滝川に向かい、いよいよ2429Dに乗る。
 外は寒い。薄曇りである。雨が降っていたようで、路面が濡れている。
 札幌駅の窓口で切符を買う。今日は釧路で一泊するが、明日は根室まで行くので乗車券は根室まで買っておく。この方が釧路まで買って、また釧路から根室まで買うのより値段が安くなる。釧路は途中下車扱いにすればよい。
「根室まで滝川経由で二枚」
 窓口氏が変な顔をする。
「ねむろ? 根室って、釧路の先の? 終点の?」
「そう、根室本線の根室」
 北海道内とはいえ、札幌から見れば根室は東の果てなのだ。
 札幌からは8時00分発の特急「スーパーホワイトアロー3号」で滝川に向かう。「スーパーホワイトアロー」は石狩平野を時速130キロで飛ばし、滝川まで83・5キロをわずか49分で走った。
 滝川駅は函館本線の特急列車がすべて停まり、根室本線の始発駅でもある交通の要衝だが、構内ばかりがだだっ広くてなんとなく間延びした感じである。ホームや跨線橋は古く、国鉄時代の雰囲気を今なお留めている。
 改札口の正面にある1番のりばには根室本線のキハ40形ディーゼルカーが一両停まっている。ドアが閉まっていて車内には入れない。2429Dの発車までまだ時間があるのでいったん改札を出て、待合室で待つことにした。
 2429Dには何時から乗車できるのか、駅員に訊いてみた。
「いま停まってるのは、違うんですよ。9時16分着の上りが38分発になりますので、16分過ぎなら乗車できます」
 滝川の駅員さんは、先に電話で問い合わせたときもそうだったが、みんな親切である。
 しばらくすると最初停まっていたディーゼルカーは車庫かどこかに行ってしまった。その後に9時16分着の列車が同じ1番のりばに入って来た。
 改札が開いた。キハ40が一両でぽつんと停まっている。おじさんがサボを「釧路」行きに替えているところだったが、列車に乗り込む。二人がけの座席が向かい合わせになっているボックス席を確保。四人座れるがまだ空いているので二人で独占する。進行方向右側の、ホームに面した席である。
 ホームに降りてビデオを撮影する。車内にはみつこさんがいる。私に気づいて窓を開けようとするが、みつこさんは開け方がわからない。北海道の車両は耐寒構造になっていて二重窓なのである。窓ガラスをとんとん叩いて「助けてえ」と叫んでいる。
 車内に戻って私が窓を開ける。まず内側の窓を開ける。ただ持ち上げるだけで、上げたところに引っかける金具がある。次に外側の窓を開ける。こちらは本州以南の窓と同じで、左右に洗濯ばさみのような留め金がついていて、それを押さえながら持ち上げる。
 またホームに降りて車内のみつこさんを撮影する。撮影が済んで車内に戻ろうとしたら、なにやら白髪の薄汚い格好をしたおっさんがみつこさんに何か言っている。
「寒いぞ!」
 窓を開けているので、怒っているらしい。
「すみません、いま閉めますから」
 みつこさんがおじさんに答えている。
「寒いんだぞ!」
「いま閉めますから!」
 みつこさんの声が大きくなる。私は急いで席のところに戻って窓を閉めた。
「寒いぞ!」
 窓を閉めたのに、おじさんはまだ寒いと言っている。何のことだろうか。
「帯広はぬくいけど、釧路は寒いんだぞ!」
 少しおかしいおっさんらしい。ひとしきり釧路の寒さを訴えて、どこかへ行ってしまった。
 9時22分に稚内行き「スーパー宗谷1号」が停車し、発車時刻が近くなると乗客も増えてきて、すべてのボックス席が埋まった。地元の乗客、富良野観光に行くと思われる家族連れなど様々である。



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