中 学生のための
相対性理論入門
──ガリレオからアインシュタインへ──

竹  本 信 雄

茨城県立小瀬高等学校

第 1回 2004年 10月9日
第2回 2005年 1月29日
第3回  2005年2月05日


第1回  ガリレオの相対性原理


 地動説と宗教裁判

 みなさんは,「地球が太陽の回りを回っている」という話を聞いたことがありますか。これが,16世紀にコペルニクスが 唱えた地動説です。
 当時は「地球の回りを太陽やわく星やそのほかの星々が回っている」という天動説が信じられていました。空を見れば太陽 や星は東から出て西にしずみま す。地面が動いていることなどまったく感じません。地球が止まっていて天が動いていると考えるのは当然です。
 そのころの人は「地動説」を唱える人たちを,「人々をまどわすわす大うそつき」だと思いました。実際,宗教改革で有名 なルターなども
「地球が動いて,太陽が動かないなどとデタラメなことをいって世の中の人をまどわすのは,まったくけしからん」
というようなことをいっています。
 そこで,地動説をさらに発展させて,
「私たちが住むような世界(太陽系)は,この宇宙の中に無数にある」
と唱えたブルーノという人は,「いくら注意をしても人をまどわすデタラメを言い続けた」として,火あぶりのけいに処せら れました。
 また,自分で作った望遠鏡で天体観測をして「地動説」を正しいと確信して広めたガリレオも「宗教裁判」にかけられ「地 動説は間ちがいでした」と言わ されました。そのとき「それでも地球は動いている」とつぶやいたという話はあまりに有名です。

 アリスタルコスと地動説

 地動説というと最初に唱えたのはコペルニクスであると思われています。しかし,実は今から2300年も前(紀元前 301年ごろ)に地動説を唱えた人がい ました。古代ギリシアのアリスタルコスという人です。
こんなことを言うと,
「確かにそうかもしれないが,そんな昔にはくわしい観測などできなかっただろうから,その説は頭で想像しただけで,科学 的とはいえないのじゃないのかな。 科学的なしょうこをもとにして地動説を唱えたのはやはりコペルニクスが最初じゃないのかな」
そんなふうに思う人がいるかもしれません。本当はどうなのでしょう。アリスタルコスが考えた過程をいっしょにふり返って みましょう。

 地球からみた太陽と月の大きさはほとんど同じです。アリスタルコスは,「太陽と月の本当の大きさはどうなのだろう。何 とか知ることはできないだろう か」と考えました。そして,次のような方法を考えました。
「月が半月の時,太陽は月を真横から照らしている。そのとき太陽と月がつくる角度を測れば,三角測量の方法で地球から 月・太陽までのきょりの比がわかるは ずだ」

アリスタルコスはさっそく月が半月になる時を待って測 定し,87度とい う結果を得ました。(正しい値は89度50分です。)
 そして太陽は月より19倍も遠いところにあることを知りました。月と太陽の見かけの大きさが同じことを考えると太陽は 月より直径で19倍も大きいことに なります。

【問題2】
 昼間月が出ているのを見たら,アリスタルコスのように月や太陽,そして地球が宇宙空間に浮かんでいる様子を想像してみ ましょう。そしてボールを持ってい たら月の見えている方向にかざしてみましょう。ボールが太陽に照らされている部分の形は月の形と同じに見えると思います か。
予 想
  ア.そのとき見える月の形と同じ形に見える。
  イ.そのとき見える月と同じ形に見えるとは限らない。
  ウ.その他

 上の図で月−地球−太陽のなす角の正しい値は89度50分ですから,月と地球に降り注ぐ太陽の光は,ほとんど平行で す。

 アリスタルコスは体積にして,月は地球の1/25,太陽は地球の300倍の大きさと推測しました。もちろん当時は太陽 や月は地球の回りを回っていると考 えられていました。しかし,アリスタルコスはその説に疑問をもちました。
「地球の300個分の大きさをもつ太陽が,ちっぽけな地球のまわりを回るなんてことがあるのだろうか。むしろその逆だと 考える方が自然じゃないのかな」
アリスタルコスはそう考えて,「地動説」を発表したのです。しかし当時のえらい学者たち(ストア学派)からは,「地球が 動いているだなんて,そんなバカげ た説は信じられない。そんな考えは神への冒涜(ぼうとく)だ」と激しく非難されました。
 アリスタルコスの推測は現在わかっている正しい値に比べると非常にひかえめなものでした。太陽は月より400倍も遠く にありますので,太陽は地球の何と 130万個分の大きさだったのです。
しかし値はともかく,アリスタルコスは「そのように大きな太陽が,くらべものにならないくらい小さな地球のまわりを回る ということこそ信じられない」と 考えたのです。
【正しい太陽・地球・月の大きさときょりの比】

【作業】
 太陽や地球・月を10億分の1に縮めた模型を作ってみましょう。
 10億分の1に縮めると,太陽は直径1.4m,地球は1.3cm,月は3.5mmの球になります。
 太陽は風船で,地球と月はねん土で模型を作り,眺めてみましょう。アリスタルコスがなぜ「地動説」を唱えたのか,その 理由が実感できますか。

 ガリレオと地動説

 ガリレオはコペルニクスの地動説を支持したために宗教裁判にかけられ,「それでも,地球は動いている」と言ったという 話は有名です。
 当時は,地球が宇宙の中心で,そのまわりを,太陽・月・惑星・恒星などが回ってているという天動説が信じられていまし た。そして,地動説を唱える人に対 して,次のように反論しました。
「もし地球が動いてているなら,手を離れた石がまっすぐ下に落ちるはずはない。まっすぐ下に落ちるのは地球が止まってい る証拠である」
 確かにこれは難問です。多くの人々が地動説に反対したのは,単に宗教的な迷信にとらわれていたからではなく,こうした 疑問に地動説を唱える人たちが答え ていなかったからです。
 でも,ガリレオは違いました。ガリレオはこの問題をどう解決したのでしょう。

【問題1】
 電車の中でビー玉を落とす実験をすることにします。
 まず,電車が止まっているとき,ある高さ(約125cm)からビー玉を落としたところ,ビー玉は真下の床に,0.5s でぶつかりました。
 そこで今度は電車が36km/hの速さでまっすぐに走っているときに,同じ高さからビー玉を落としてみることにしまし た。このときビー玉は電車の床のど の辺に落ちると思いますか。電車の壁のない台車で考えてみましょう。

 予 想
    ア.真下よりも台車の後ろの方にずれて落ちる。
    イ.真下よりも台車の前の方にずれて落ちる。 
    ウ.真下に落ちる。


 討 論
  どうしてそう思いますか。みんなの考えを出し合いましょう。
(ヒント)
 36km/hといえば,電車としては遅い速さですが,秒速に直すと10m/sです。
ビー玉が真下よりも電車の後ろ,または前に落ちるとしたら,どのくらいずれて落ちると思いますか。
 台車が36km/hで走ると台車の上では10m/sの風が吹くことになりますが,ビー玉はその程度の風で吹き飛ばされ ることはありません。ですからこの 実験は壁のある普通の電車で行っても同じことです。

実験の結果
 この実験は自分でも簡単にできますから,電車に乗ったとき是非やってみてください。

 慣性の法則
 「動いている乗り物の中でものを落とすと,手からは なれたものがまっ すぐ下に落ちている間に乗り物が前に進むので,真下よりも後ろの方にずれて落ちるだろう」
 ───ちょっと考えるとこうも思えます。実際昔の人たちは,もっとも優れた学者でもそう考えていました。
 ところが実際にはそんなことはありません。同じ速度で動いている乗り物の中でものを落とすと,その乗り物の速度がどん なに大きくても,乗り物が止まって いるときと全く同じように,ものは真下に落ちるのです。
 なぜそうなるかというと,物体は一度動き出したらいつまでもその速度で動き続けるからです。たとえば,速度10m/s で走っている乗り物に乗っているも のは,いすも人もビー玉も空気も,すべて10m/sで走っています。そこでビー玉を手からはなすと,ビー玉は水平に 10m/sの速度で走りながら落ちてい くのです。
 このように物体には,一度動いたらいつまでもその速度を保って動き続ける性質があるのです。物体の持つこのような性質 を「慣性」といいます。そして「運 動している物体は,外から力を加えられない限り,いつまでもその速度で動き続ける」という法則を「慣性の法則」といいま す。この法則は,力と運動の問題 を考えるとき,もっとも根本的な前提となる法則です。
 物体が静止しているときは,速度が0ということです。そこで,静止している場合にも「慣性の法則」を当てはめると, 「静止している物体は,外から力を加 えられない限り,静止し続ける」ということになります。「慣性の法則」には,物体が静止している場合も含まれているので す。

慣性の法則
  外から力が加わらない場合,静止している物体はいつまでも静止し続け,運動している物体はその速度を変え ることなくいつまでも等速直線運動 を続ける。

【問題2】
 宇宙空間を1台の宇宙船が飛んでいます。この宇宙船がロケットの噴射をやめたら,宇宙船の速さはどうなるでしょう。

 予 想
    ア.すぐに止まってしまう。
    イ.だんだん遅くなってやがて止まってしまう。
    ウ.そのまま同じ速さで,いつまでも進み続ける。

 討 論
  どうしてそう思いますか。考えを出し合ってみましょう。





 月へ向かう宇宙船

 1969年7月。月へ向かう宇宙船,アポロ11号が飛び立っていきます。大量のガスがものすごい勢いで噴射され,次第 に速さを増しながらあがっていきま す。宇宙船の重さは43.7トンです。ですから,これを支えるだけでも43.7トン重の力が必要ですし,さらに速度を増 していかなければならないのですか ら,もっとずっと大きな力が必要です。この力を,大量のガスを噴射することによって得ています。アポロ宇宙船のロケット は3段式になっていて途中でいらな くなった燃料タンクは切り離して捨ててしまいます。ですから最初の重さはもっとずっと重いのです。
 アポロ11号は,地球の引力に逆らって次第に速さを増しながら地球を離れていきます。離れるにつれて地球の引力の影響 は次第に少なくなります。そこで, 「地球の引力圏を脱出した」などといいますが,地球の引力は遠く月までもおよんでいますから,どこかを境にして全くなく なるわけではありません。
 さて,アポロ11号はまず2時間あまりの間に地球を2周ほどしてから月への進路を取りました。そのため再びガスを噴射 しました。その時間はわずか6分足 らずです。宇宙船はまだ月までの距離の1/100も飛んでいません。まだこの後38万kmも跳び続けなければなりませ ん。
 さて,この長い距離をどうやって飛んでいくのでしょう。

  予 想
       ア.今までと同じようにガスを噴射し続ける。
       イ.今までに比べるとずっと少ないが,やはりガスを噴射し続ける。
       ウ.ガスの噴射をやめる。

 あなたは,どれだと思いますか。

 「地球の引力が小さくなっているので,ガスの噴射はかなり少なくなるだろう」
 そう思いますか。いいえ,ガスの噴射はもう全く必要ないのです。
 摩擦も空気の抵抗も全くない宇宙空間では,ガスなど噴射しなくても,そのままの速さでまっすぐどこまでも飛び続けるの です。こうしてアポロ11号は約4 日間,静かに,しかしものすごいスピードで飛び続けました。もし,このままだと,宇宙船は月を通り過ぎて,どこまでも飛 んでいってしまいます。そこで月の 近くに来たとき,宇宙船は向きを変えたり,速度を落とすために再びガスを噴射しました。
                  ★           ★          ★
 私たちは,物体には「慣性」があることを学びました。でもみなさんの中にはこんなことを考えた人もいるでしょう。
「物体には慣性があることはわかったけれど,やっぱり速さはひとりでにだんだん失われていくのではなだろうか。電車の実 験でも,確かに手を離れたばかりの ビー玉な電車と同じ速さで走っていくけれど,時間がたつにつれてやはり少しずつは遅くなっていくのではないか。速さは独 りでに失われるものではないの か」
 確かに,そんなふうにも考えられます。
 しかしそうだとしたら,地球の周りを回っている月や,太陽の周りを回っている地球が何万年も何億年も少しも遅くならず に回り続けているのはどうしてで しょうか。神様が絶えず力を与え続けているからなのでしょうか。
 月へ向かう宇宙船の事実は,「一度物体に与えられた速度は,妨げるものがなにもなければ,少しも失われるものではない のだ」ということを見事に示して います。
 私たちの経験によると,すべすべにした水平な板の上でものを滑らしたり,球を転がしても,その速度はだんだん失われ て,やがて止まってしまいます。こう いう経験からすると,速度はひとりでに失われていくようにも思えます。しかし,いくらすべすべにしても摩擦力を全くなく してしまうことはできないので,次 第に遅くなっていくのです。宇宙船のように摩擦や空気の抵抗をなくすことができれば,少しも遅くならずに,いつまでも同 じ速さで動き続けるのです。
【問題3】
 今度は,同じ速さでまっすぐに走っている乗り物の中で,バネ仕掛けのおもちゃの大砲をうつことにします。

 図のように,乗り物の走っている向きにうったとき と,反対向きにうっ たときとでは,電車の中で,どちらの方が遠くまで飛ぶと思いますか。
    ア.前の方へうったときの方が遠くまで飛ぶ。
    イ.後ろの方へうったときの方が遠くまで飛ぶ。
    ウ.どちらも全く変わらない。
 討 論
 どうしてそう思いますか。

実験の結果
 この実験をするのは簡単ではありませんが,機会があればやってみてください。
 もし電車が空いていて周りの人の迷惑にならなければ,走る電車の中で友達とテニスボールをキャッチボールしてみるのも 良いでしょう。前に投げるときと後 ろに投げるときで投げる力を変える必要があるでしょうか。
【質問1】
 地球は毎日1回東へ回っているといいます。もしそれが本当だとしたら,日本は1300〜1400kmの速さで東へ東へ と回っていることになります。つま り,電車や飛行機よりもずっと速く動いていることになります。
 それなのに私たちはどうして地球がそんなに速く動いていることを感じないのでしょうか。本当はやっぱり地球は動いてい ないのでしょうか。それとも動いて いるのですが,それを感じない理由があるのでしょうか。みんなの考えを出し合って,話し合いましょう。

 ガリレオの相対性原理

 いつも同じ速度で運動している乗り物の中で物体を落とすと,まっすぐ真下に落ちます。また,ボールを前へ投げても後ろ へ投げても,同じように飛びます。 乗り物の速度がどんなに大きくても,いつも同じ速度で走っている限り,静止しているときと全く同じ現象が起こります。そ こで,どんなに速い乗り物に乗って も,揺れたりすることがなければ,外を見ない限り私たちは動いていないのと同じように思えます。飛行機が高い空を飛んで いるときなど,近くに比べるものが 何もないので,いくら速く飛んでいてもまるで動いている気がしないものです。
 地上にいる私達は,地球という乗り物に乗っていつも凄いスピードで走っています。私たちの住む日本は,地球の自転軸の まわりを数100m/sの速さで回 り,地球は太陽のまわりを30km/sで回り,太陽は地球をひきつれて銀河系の中心のまわりを250km/sの速さで 回っています。それなのに私たちがそ のことにまるで気がつかないのも同じことです。地球はいつもなめらかに動き,揺れたりすることがないので,動いているこ とに気がつかないのです。
 こんなことが起こるのは,いつも同じ速度で運動しているものの中(あるいは上)では,静止している時と全く同じ運動の 法則が成り立つからです。つまり, 相対的に同じ速度で運動しているものの中(あるいは上)では,全く同じ力学法則が成り立つのです。
 これは自然界の中でもっとも根本的な法則(原理)ということができます。そこで,この法則のことを「ガリレオの相対性 原理」といいます。ガリレオという のは,このことに最初に気づいた科学者の名前をとったものです。
 相対性原理といえば,このほかに「アインシュタインの相対性原理」というものもあります。この原理はガリレオの相対性 原理をもっと一般化したものです。 すなわち,「相対的に一様な速度で運動しているものの中(あるいは上)では,力学法則だけでなく,光や電気・磁気など, あらゆる物理法則が全く同じにな る」というものです。
ガリレオ・ガリレイ(1564−1642)
アルバート・アインシュタイン(1879−1955)

 ガリレオと地動説─慣性の法則と相対性原理の関係─

 ガリレオはコペルニクスの地動説を支持したために宗教裁判にかけられ,「それでも,地球は動いている」と言ったという 話は有名です。
 当時は,地球が宇宙の中心で,そのまわりを,太陽・月・惑星・恒星などが回ってているという天動説が信じられていまし た。そして,地動説を唱える人に対 して,次のような意見を言いました。
「もし地球が動いてているなら,手を離れた石がまっすぐ下に落ちるはずはない。まっすぐ下に落ちるのは地球が止まってい る証拠である」それに対してガリ レオは,
「そのようなことは,地球が止まっている証拠にはならない。一定の速さで動いているならば,石は真下に落ちる」と主張し ました。
 つまり,ガリレオが地動説を主張する背景には,「静止していても,等速直線運動していても,同じ力学法則が成り立つ」 という相対性原理があり,それが 成り立つためには,「外から力が加わらない限り,動いている物体は等速直線運動を続ける」という慣性の法則が成り立つは ずだという確信があったと思われ ます。

【質問2】
 あなたがタイムマシンに乗って400年前の世界に行き,当時の人々に「地動説」を説いたとします。その時,「地球が自 転しているなら,巣を飛び立った鳥 は,地球の自転に追いつけずに,巣に戻れなくなってしまうはずだ。それなのに,そうならないのは,地球が止まっているか らだ」と反論されたら,あなたは 何と答えますか。
 討 論


【第1回 終わり】
【引 用文献】

板倉聖宣著 『科学と方法』季節社(1969.3.25)
武谷三男著 『物理学入門』季節社(1977.4.15)
仮説実験授業研究会 『月と太陽と地球』(1972.6版)
仮説実験授業研究会 『力と運動』(1971.10版)



第2回  アインシュタインと特殊相対性原理

 世紀の天才・アインシュタイン

  アルバート・アインシュタインは1879年,ドイツのウルムに生まれました。彼は何事ものろまで言葉を覚えたの も普通よりずっと遅れていました。両親は彼 が「少し知能が劣るのではないか」と心配したほどでした。彼が物理学へと向かう動機は学校から得られたものでは ありませんでした。彼が5歳の時与えられた 方位磁石と,12歳の時買ってもらった幾何学の本でした。彼は学校での訓練や機械的な暗記を強いられる教育は, 自分の知的成長にとって有害だと思っていま した。学校というものに嫌気がさしていたため高校の卒業試験に失敗し,15歳という年齢で「落ちこぼれの見本」 のようにぶらぶらしていました。後に彼は チューリッヒのスイス連邦工科大学を受験しますが失敗し,物理と数学以外の全教科を高校で学び直して翌年ようや く合格します。入学後は講義にほとんど出席 せず,試験は友人から借りたノートの助けをかりて何とか合格しました。しかし彼は単なる怠け者ではありませんで した。講義には出席しませんでしたが「オリ ンピア・アカデミー(学会)」というサークルをつくり,最先端の物理学や哲学について友人たちと議論しました。

 卒業後2年たってようやく定職に就きまし た。特許審査 官としてベルンにある特許局で働くようになりました。ここで7年間働きます。彼にはこの 仕事が興味あるものに感じられ,自分の科学的な創造力をかき立てられるものとさえ思うことがありました。自分を経済 上の心配から解放してくれるとともに, 物理学上の問題を考えるための自由な時間を与えてくれるありがたい仕事でした。

 アインシュタインは大学や研究所にいるわ けではなく, また他の物理学者との接触も全くない中で,現代物理学の基礎となる理論を作り上げていき ました。1905年,26歳の彼は博士号を取得し3つの論文を発表しました。最初のものは「光の量子論」に関する論 文でそれまで波と考えられてきた光が 「光子」という粒子として振る舞うことを示し,「量子力学の基礎」を築きました。この論文の功績によって1921年 度のノーベル賞を受賞することになりま す。第2の論文は「分子論」およびブラウン運動の「統計」について述べ,「原子の存在」を証明したものです。そし て,第3の論文が「特殊相対性理論」で す。さらに1915年,アインシュタインは「一般相対性理論」を発表し,重力の新しい理論を打ち出しました。

 アインシュタインは科学者としてでなく, 市民として, しかも世界の市民としてもとても有名です。ベルリン大学の教授となっていたアインシュタ インは,ドイツの軍国主義を公然と非難し「戦争は廃棄されるべきで国家間の紛争解決のため国際機関が設置されるべき である」という所信を発表しました。ア インシュタインが合衆国を訪れていた1933年,ヒトラーが政権につくと,ヒトラーの人種差別や政治方針に対して反 対の立場を表明し,ベルリン大学の職を 辞しました。ヒトラーはアインシュタインの首に賞金を賭けました。そのためドイツに帰れなくなったアインシュタイン はプリンストン高等研究所に地位を得 て,1940年にアメリカの市民権を得ました。

 アインシュタインは人類の幸福に深い関心 を寄せた気取 らない気質の人でした。彼をよく知るC.P.スノー卿は次のように述べています。

 ア インシュタイ ンは20世紀における最も強力な精神の持ち主であ り,おそらくは歴史上最も偉大な人物の一人といえるでしょう。しかし彼にはそれ以上のものがある。私は偉大な人物と称せ られている多くの人々に出会った が,アインシュタインはそれらの中でも遙かに飛び抜けた,というより,桁が一桁違う人物であるというという強い印象を 持った。

 アルバート・アインシュタインは偉大な る科学者で あった。しかし彼は,遙か にそれを超えたところにあった。すなわち,彼は偉大なる人間であった。

 相対性理論はふしぎではない

 私たちは「時間は小瀬でもアメリカのプリ ンストンで も,そこへ向かう飛行機の中でも同じように流れている」と思っています。1秒という時間は どこにいてもどんな運動をしていても変わらないというわけです。
 長さも同じです。「小瀬にいてもプリンストンでも,そこへ向かう飛行機の中でも1mという長 さに変わりはない」と思っています。

 ところがアインシュタインは,「動いてい ると時間の進 みが遅くなる」そして「動いていると物体の長さは速さに応じて短くなる」といいます。それは「時間と空間が相互に関 連しあって変化するため」で,その結 果,「質量とエネルギーは同じものである」という結論E=mcが導かれます。

 私たちの常識に反することなので,不思議に思うかもしれません。しかし,これらの結論は「相対性原 理」というだれもがあたりまえと認める原理から自然に導かれることのなので,何の不思議もあ りません。では,さっそくアインシュタインの世 界へ旅立ちましょう。

 どれが本当の速度?

 私たちが運動をするときは,いつもどこか ら運動を観察 しているかを指定しなければなりません。たとえば,走っている列車の中を1km/hで歩 いている人の速さは,ホームにいる人から見れば81km/hかもしれません。列車の速さが80km/hでこの人が列 車の進行方向に歩いていればそうなりま す。

 私たちは今地面に対しては止 まっています が,地球の外にいる人は時速1200km/hで動いているというでしょう。地球は自転しているからで す。太陽系の外にいる人は110,000km/hという猛スピードで運動しているというでしょう。地球は太陽の 周りを公転しているからです。実は太陽だっ て止まってはいません。太陽は銀河中心の周りを540,000km/hで回っていますし,その銀河系だって他の 銀河と一緒に運動しています。では,どれが 本当の速さなのでしょう。

 マイケルソン−モーレイの実験

 地球の本当の速さを確かめようとした人た ちがいます。 マイケルソンやモーレイといった人々です。光の速さは300,000km/sであること がわかっていました。そして光は,光を発した物体の速さには関係なしに空間を伝わることもわかっていました。そうで なければ二重星は,時に三重星に見えた りすることになります。
もし光の速さが伴星の速さによって変わると後か ら出た光2が先に出た光1に追いついたり してしまう

 光の速さが光源の速さによらないことは,波であれば当 然です。波は,音波でも海の波でも,波源の速度に関係なく同じ速さで伝わります。波の速さは媒質の性質だけで決まる のです。

 マイケルソンとモーレイは,光の伝わる速 さを利用して 地球の空間に対する「本当の速さ」を測定しようとしました。地球は30km/sで太陽の 周りを回っています(地動説=太陽中心説〈heriocentric theory〉)。ですから公転方向とそれに垂直な方向とでは光の速さに30km/sだけの差が出るはずです。光の 速さ300,000km/sに比べれば 地球の公転速度30km/sは1万分の1の速さにすぎません。しかし,そんな小さな速度の違いも十分測定できるよう な実験装置を工夫したのです。

 実験結果は意外なものでした。装置をどの 方向に向けて も光の速さに違いがなかったのです。これでは「地球は宇宙の中心にあって動いていない」 ということになってしまいます。天動説=地球中心説〈giocentric  theory〉に逆戻りです。地動説が正しいことはすでに実証済みです。物理学者は頭を抱えてしまいました。

 アイルランドの物理学者フィッツジェラル ドは「実験装 置の運動方向に沿った長さが,光の速度変化をちょうど打ち消すように縮む」という説をとなえました。これを「ローレンツ−フィッツジェラルド短縮」と いいま す。

      ……(1)

  L:止まってい るときの物体 長さ L:運 動しているときの物体長さ v:物体の速度 c:光の速度

 確かにそう考えれば辻褄は合います。しかしなぜ縮むのかその理由を合理的に説明できる人は誰もいませんでした。
 
【問題1】 光の速さの3/5(180, 000km/s)で進む長さ1mの物差しは何cmの長さになるでしょう。



 アインシュタイン登場!

 アインシュタインが16歳の頃「もし光が 進んでいくそ ばを,光と一緒に飛んでいったら光はどんな風に見えるのだろう?」と疑問に思いました。 当時の物理学からすると光は止まって見えることになります。ところがアインシュタインは考えれば考えるほど「そんな はずはない」と確信を持つようになって いきました。
 アインシュタインはベルンの特許 局で,こ の問題につい て一人思索を巡らしていました。折に触れ10年間も考え続けていたわけです。アインシュ タインは物理学者のと交流がなかったので,マイケルソン−モーレイの実験結果もローレンツ−フィッツジェラルド短縮 の公式も知りませんでした。

 光が電磁波の一種であること は電磁気学の 基本法則マクスウェル方程式から出てきます。マクスウェルはファラデーが電場・磁場と言う概念を用い て発見した法則を数学を用いて最終的に4つの方程式にまとめました。その方程式にはある定数cが出てきます。ま た,その方程式から電場と磁場が空間を伝 わっていく波=電磁波が存在することが導かれます。そして,そういう波が実際に存在することがヘルツによって実 験で確かめられました。そしてその定数c は,電磁波の伝わる速さであり,光の速さと同じ値であることがわかりました。こうして光は電磁波の一種であるこ とが確かめられました。ですから光の問題は 電磁気学の法則抜きには考えられません。

 アインシュタインの相対性原理

 一定の速度で運動する乗り物の中ではどん な力学的な実 験をしても,止まっているときと同じ力学法則が成り立ちます。これは「ガリレオの相対性原理」です。ガリレオは「相 対性原理」から力学の最も基本となる 「慣性の法則」を導きました。

 アインシュタインは「ガリレオの相対性原 理」を拡張し て,「一定の速度で運動する乗り物の中(あるいは上)では,力学法則ばかりではなく すべての物理法則は 同じになる」と考えました。これを「特殊相対性 原理」 といいます。つまりどんな速度で運動していても,静止しているときと同じ物理法則になるはずだという のです。これは考えてみればあたりまえのことです。なぜなら物理学者はこの地球の上で,地球は止まっているものとし てさまざまな実験をし,物理法則を発見 してきたのです。でも本当は地球は動いていたのです。たとえば銀河 中心の周りを540,000km/hの速さで。ですから物理法則は動いていても止まっていて も,全く同じ形になるはずです。アインシュタインにすれば「特殊相対性原理」はこれ以上当たり前のことはないと思え るほど当たり前の原理でした。ガリレオ だって「相対性原理」が,力学法則に限って成り立つと思っていたわけではないのです。すべての法則が同じになると考 えていました。当時は力学法則しか発見 されていなかっただけのことです。

 ですからどんな速さで運動する人から見て も光は30万 km/sの速さで見えるはずです。電磁気学の法則・マクスウェル方程式に登場する光の速さcは定数だからです。これ を特に「光速度一定の原理」といいます が,「特殊相対性原理」から導かれることです。
 こうして16歳の頃の疑問は解決 しまし た。
「光が進んでいくそばを光と一緒に 飛んで いったとして も,やはり光は30万km/sの速さで進むように見えるはずだ」
 これがアインシュタインの結論でした。

 「特殊相対性原理」から導かれること

 そんな当たり前の「特殊相対 性原理」です が,この原理からは驚くべきことが結論されます。ローレンツ−フィッツジェラルド短縮の式も,相対性原理から導かれ ます。それを説明するために,次回は, 「時間の遅れ」についてのお話しから始めましょう。
【第2回 終わり】

【引用文献】
Paul G.Hewitt著 小出昭一郎ほか訳 『物理のコンセプト1 力と運動』 共立出版(1984年12月10日)
ソロコフスキー著  宮本徹ほか訳     『相対性理論の初等講』  東京図書(1966年12月30日)


第3回 特殊相対性理論

 動いている乗り物の中では時間がゆっくり進む

 私たちは普通,時の流れはどこでも一様に 流れていると 思っています。しかし,「相対性原理」を基にするとそうではないことになります。動く乗 り物,たとえば飛行機の中では地上に比べ,時はゆっくり進むことになるのです。もっとも飛行機の場合は光の速さに比 べてずっとゆっくりなのでその差に気づ くことはありません。しかし科学者はふつうの飛行機でも10億分の1秒だけ時がゆっくり刻むのを測定しています。

 それではなぜ,速く動く乗り物では時が ゆっくり進むの でしょう。
 私たちがある場所に静止してい て,宇宙船 が,光の半分 くらいの速さで私たちの近くを飛び去っているのを観測したとします。時間を計るには時計 が必要です。どんな時計でもいいのですがここでは「光時計」を考えます。上下に鏡がついていて光がそこを往復するこ とを観測することで時間をはかる時計で す。

 下から出た光が上の鏡に達するまでの時間 がt秒 だったとします。これと同じ「光時計」がロケットに積んであるとします。これを私たちが観測すると,上の鏡に到達す る時間tはtよ り長くなることがわか ります。なぜならロケットの中で上下に往復する光は,外にいる私たちから見ると図のように斜めに進むように見えるか らです。

 光速度一定の原理からどんな場合でも光の 速さは変わり ませんから,ロケットの中では地上より往復するのに長い時間がかかるのです。たとえば図 の場合,2倍くらい長くかかります。ロケットで「光時計」の光が1往復する間に地上では2往復くらいすることになりま す。つまりロケットで1秒たつ間に地 上では2秒経過するのです。
 これは「光時計」ではかった結果ですが,どんな時計でも同じことが起こります。時計ばかりではなく乗っている人でも起 こりま す。ロケットの乗組員の動きはスローモーション映画のようにゆっくりになります。 乗組員の心臓の拍動数も半分になります。
 しかし,宇宙船に乗っている人はそのことを意識することはありません。宇宙船に乗っている人から見ると「光時計」は上 下に正常に動いてい るからです。拍動も正常です。
  では,どのくらいゆっくり時が流れるのか を表す式を導 いてみましょう。
 図を見てわかるように,地上の時 間を
t, ロケット内の時間を t,ロケットの速さをvとすると次のような関係が成り立ちます。
   (ct)= (vt)+ (ct 
    ……(2)
 
具体的な数値を当てはめてみましょ う。まず vが光速度の 50%つまり0.5cの速さだったとするとt=1.15t位になります。つまり光速度の 50%で動くロケットの時計の秒針は1周 するのに1.15分位かかることになります。ロケットの速さが光の87%だとt=2tとな り,船内で起こる出来事が通常の2倍の 時間がかかることになります。ロケットの速さが光速度の99.5%だとt=10tとなり, 通常の10倍長い時間がかかるように見 えます。つまり私たちの時計で60秒たってもロケット内では6秒しかたっていないことになります。
 
【問題2】 (2)式が成り立つのを確かめ てみましょ う。また,ロケットの速さが光速度の80%のとき,地上に比べて何倍ゆっくり時が流れるか,計算してみましょう。



 浦島効果とタイムマシン

 双子の兄弟がいてそのうちの一人(兄)が 高速度の宇宙 船で宇宙1周旅行に出かけ,もう一人(弟)が地球上で待っていたとします。宇宙船の速さ が光速度の99.5%だったとするとどのようなことが起こるでしょう。宇宙船の時の刻みは地球上の10倍ゆっくりに なりますから,宇宙船で1年たつ間に地 球上では10年すぎます。もし5年間旅行してきたとすると地球では50年たっていることになります。出発するとき二 人が30歳だったとすると,兄は35歳 なのに弟は80歳の老人になっていることになります。

 このことを「双子のパラドックス(逆 説)」という人が いますが,これはパラドックスではありません。ただ私たちの常識と違っているだけのことです。素粒子の実験で実際そ うなることが確かめられています。日本 の科学者は「浦島太郎」の物語から「浦島効果」と呼んでいます。
 兄にしてみれば5年旅行してきただけなのに地球上では50年も経っているわ けですから,まさに「浦島太郎」の世界です。またこの宇宙船は5年で50年後の世界へ行くタイムマシンと言うこ とも出来ます。つまり「未来へ行くタイムマ シン」 は作ることができるのです。



 長さ(空 間)の

 次に,高速で運動している物体は長さが短 縮するという お話をします。
 長さL駅のホームを,速度v で列車が通過する場合を考えます。列車の長さもLとします。ホームにいる人から見て列車の 先頭がホームの端から端まで移動する時 間を測定したらTだったとします。ホームの長さL

 L=vT

ということになります。
 では列車に乗っている人から見ると,ホー ムはどのくらいの長さに見えるでしょう。
 列車に乗っている人の時間tで示されるようにゆっくり進むの で,列車が ホー ムの通過する のにかかる時間Tとなります。
したがって,列車から見たホームの 長さLは
     
∴  ……(3)
となり,縮んで見えます。アイ ンシュタイン はこう して相対性原理から,前に出てきた(1)式と同じ「ローレンツ−フィッツジェラルド 短縮」を導きました。
 列車に乗っている人から見れば自分は止 まってい てホー ムが速さvで運動しているわけですから,「動 いているものの長さは縮む」 というわけです。
 もちろん逆も言えます。ホームにいる人にとっては当然のことな がら列車が動いているので,列車のほうが縮んで見えます。

 文字式ではわかりにくいので,具体的な数 値で,もう一度 考えてみましょう。
 列車とホームの 長さを=240 万km,列車 の速さをv=24万km/sと し ます。列車の先頭がホームを通過するのにかかる時間 はT=10 秒です。ところが車に 乗っている人から見ると,ホームを通 過するのに=6秒しかか からないホー ムの長さはL44万 kmに縮んで見 えます。一方,ホー ムにいる人から見ると列車の方 が 144万kmに縮んで見えることになります。

 私たちの持っている常識から すると信じられない話ですが,誰もが正しいと納得している「相対性原理」(すなわち「光速度不変の原理」)から自 然に導かれることです。アインシュタインのすばらしさ は,誰もが納得する疑いようのない原理をもとに,常
識 にと らわれることなく論理的に真理を追究していったところにあると思います。

 恒星やアンドロメダ銀河への宇宙旅行

 七夕の主役,こと座のベガ(織り姫星)は 25.3光年 離れたところにあります。仮に光の速さで往復したとしても50年以上かかります。実際に は宇宙船を光の速さまで加速することはできないので,一生の間にベガまで往復するのはかなり厳しいと思えます。お隣 の銀河であるアンドロメダ銀河までは 230万光 年もあります。これでは光の速さで行っても,人類誕生から今まで位の時間がかかってしまいます。全く不可能です。

 ところが,特殊相対性理論による と,そうではないのです。ベガへの旅行やアンドロメダ銀河を訪ねる旅行は可能なのです。それは光速に近い速さで飛べ ば時間が,ゆっくり流れるからです。

 具体的に考えてみましょう。
 宇宙船を一気に光速近くの速度まで加速 することはできません。そんなことをしたら乗組員は加速によって生じる力に耐えきれず,死んでしまいます。長期間の旅行 を考えると,重力の加速度程 度(約10m/s)で旅行するしかありません。

 重力加速度と同じ加速度で旅行した場合,宇宙船時間で 1年間飛んだ程度では,地球時間とほとんど差がありません。しかし,10年飛ぶと地球では20 年経ちます。宇宙船時間で20年飛ぶと地球では300年の歳月が流れることになります。どんどん加速し光の速さに近づく と,宇宙船時間もどんどんゆっくり 流れることになるからです。

 計算するとベガまでは18年で行けます。かに星雲まで約37年,そしてアンドロメダ銀河までは53年ほどで行くことが できる のです。20歳で出発すれば73歳です。決して不可能ではありません。しかしそのとき地球では230万年が経過していま す。

 ここまでは,宇宙船を地球から見ていた場 合の話です。 宇宙船に乗っている人の立場からするとどのようなことが起こっているのでしょう。

 宇宙船乗員からすれば時間がゆっくり過ぎ るなどという ことはありません。地上にいるときと同じように時間が過ぎます。しかしやがて不思議なこ とに気づきます。まだ18年しか経過していないのに25.3光年も離れたベガに着いてしまうからです。そし て,地球を出発して53年ほどすると,230万光年も離れていたアンドロメダ銀河に到着してしまいます。

 なぜこのようなことが起こるかというと, ローレンツ− フィッツジェラルド短縮のためにベガやアンドロメダ大星雲までの距離が縮むからです。宇宙 船から見ると時間の経過は変わりませんが,空間の方が縮むのです。ですから宇宙船乗員は230万光年も旅行したとは感じ ません。せいぜい50光年ほど旅行 したらそこにアンドロメダ銀河あったということになるのです。さらに宇宙船乗員は予想外の光景を目にします。アンドロメ ダ大星雲は真上から見ると円盤形を して いますが,宇宙船乗員はローレンツ−フィッツジェラルド短縮のために棒のように細長くなったアンドロメダ大星雲の姿を目 に することになります。



 アインシュタインが特殊相対 性理論を発表 したときローレンツはその意義を評価しなかったといいます。自分が発見したローレンツ−フィッツジェ ラルド短縮を解釈し直しただけだと思ったためでしょう。しかし,そうではありません。ローレンツやフィッツジェラル ドは(たとえばエーテルの圧力によっ て)「物体」が縮む考えたのに対して,アインシュタインは「空間」という枠組みそのものが縮むと言っているのです。 それまでの物理学を根底から大きく変革したの です。

 その後のアインシュタイン

 アインシュタインは「特殊相対性理論」を 発表した10 年後の1915年,「一般相対性理論」を発表します。こちらも「物理法則は,加速度運動 をする乗り物の中でも物理法則は同じになるべきだ」という「一般相対性原理」と, ガリレオがピサの斜塔で実験したとされる「等 価原理」(「重いものも 軽い ものも同じに落ちる」という事実)という2つの基本的な原理から出発し,ニュートンの万有引力の法則に代わる「重力 理論」を導きました。そしてゆがんだ時 空によって光が曲がって進むことや,光さえ出てこれないブラックホールの存在など常識では考えられないような現象を 予言し,観測で正しいことが証明されま した。

 その後アインシュタインは 「統一場理論」 に取り組みますが,完成を見ることなくその生涯を閉じました。「統一場理論」とは,「一般相対性理 論」を拡張し,重力と電磁気力を統一しようとした理論です。アインシュタインは「一般相対性理論」以降目立った 業績を残さなかったので,「アインシュタイ ンは36歳以降,ひらめきを失ってしまった」という人もいますがそうではありません。アインシュタインは,21 世紀を迎えても未だ解決できないもっとも困 難な 問題に取り組んでいたのです。
 アインシュタインの研究は,当時の本流からはずれたものでした。しかし現在
の物理学はアインシュタインの研究の延長上に あると言ってよいと思います。アインシュ タインはあまりにも先へ進みすぎていたともいえるでしょう。
【第 3回 終 わり】
【引 用 文献】
Paul G.Hewitt著 小出昭一郎ほか訳 『物理のコンセプト1 力と運動』 共立出版(1984年12月10日)
エリ・デ・ランダウ著 鳥居一雄ほか訳  『相対性理論入門』       東京図書(1963年11月 30日)