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竹 本 信 雄
takemoto@js6.so-net.ne.jp
2003年8月6日
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1. はじめに−最初の疑問− |
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下のグラフと解説は「国立がんセンター」のホームページからの引用である(太字強調は竹本)。
http://www.ncc.go.jp/jp/statistics/2001/figures/f14_j.htmlより引用 ※ 上に示したページのURLは現在次のように変更されています。
図はhttp://ganjoho.ncc.go.jp/public/statistics/backnumber/odjrh3000000h32y-att/fig14.pdf データはhttp://ganjoho.ncc.go.jp/public/statistics/backnumber/2003_jp.html。 この図を眺め解説を読んで,疑問を感じないだろうか。
夫の喫煙によってその妻の肺ガンで死ぬ危険度が増すことはあり得るかもしれない。しかし,「夫の喫煙によって妻の脳腫瘍の7割が生じている」などという話は,とうてい信じることはできない。死亡者数がわずか34人であることからすると,これは偶然の偏りであり,統計的には意味のない数字であろう。 このようなデータを見せられると,他のデータは信用できるのか疑問に思ってしまう。よく,「夫の喫煙によって妻の肺ガンになる危険度が2倍になる」などと言われるが,それは本当なのだろうか。
この図は,平山雄氏(当時国立がんセンター疫学部長)による大規模コホート研究(1965年調査・登録,1966から最終1982年まで観察)に基づくも
のである。平山氏はこの研究により,世界で初めて「受動喫煙の害」(=夫の喫煙により妻の肺癌になるリスクが2倍に高まること)を明らかにしたとされ,世
界的に高く評価されている。
一方,喫煙習慣の調査は1965年秋にたった1度行われただけであることや,データの分類・分析方法などに科学的・統計学的な問題があるという批判もある。 どちらの評価が正しいのか,私なりに確かめたくて1981年の平山雄氏の論文『Non-smoking wives of heavy smokers have a higher risk of lung cancer:a study from Japan』 http://www.scielosp.org/scielo.php?pid=S0042-96862000000700013&script=sci_arttext&tlng= (以後『平山論文』と表記する)を検討してみた。 2. 疫学的研究の手法について
具体的な検討の前に,疫学的研究の手法について,基礎的な部分をまとめておきたい。
疫学的研究の代表的な手法にコホート研究とケースコントロール研究がある。そしてある危険因子による危険度については,Relative RiskとOdds Ratioがある。 ◇ コホート研究の場合はRelative Risk
コホート研究では危険因子を有する者と,有しない者の2群に分けてある結果Outcomeが起きるかどうかを前向きにProspectiveにフォローして調べる。そして危険度にはRelative
Riskを用いる。この場合下の表で横に,つまり行が群を形成する。
Relative Risk = [a/(a + b)]/[c/(c + d)] つまり,Relative Riskは危険因子を持っている人の中である結果が起きた人の割合つまりリスクを,危険因子を持っていない人の中でその結果が起きた人の割合つまりリスクで割った値である。
従って,Relative Riskが1以上になるとその危険因子によりその結果が起きやすいことを意味し,1未満であれば逆にその危険因子があるとその結果が起きにくい事になる。
◇ ケースコントロール研究の場合はOdds Ratio
さて,ケースコントロール研究の場合も同じように2分割表2by2
tableを作成してオッズ比を計算する。ここでは,ケースコントロール研究では結果がすでに起きてしまった群とそうでない群の過去における危険因子の有
無を調べるという,後ろ向きRetrospectiveに研究が行われる。下の表で縦に,つまり列が群を形成する。上記のコホート研究とは逆になる。
Odds Ratio = { [a/(a + c)]/[c/(a + c)] }/{ [b/(b + d)]/[d/(b + d)] } = (a/c)/(b/d) =ad/bc Relative
RiskとOdds Ratioは似たもののように感じられるかもしれないが,コホート研究にOdds
Ratioを用いたり,ケースコントロール研究にRelative
Riskを用いることはできない。コホート研究では先に危険因子を持った群と持たない群を選び出すので,a+bには意味があるが,a+cには意味がない。
ケースコントロール研究では結果の出た群と,出ない群を選び出すのでa+cには意味があるが,a+bには意味がない。
こうして計算されるRelative RiskやOdds Ratioが統計的に意味のあるものかどうかを示すものに,P値や95%信頼区間(95% confidence interval)がある。
P
値は,差がないという仮説,つまり帰無仮説Null
hypothesisを偶然起きたこととして受け入れる確率を表している。別の言い方をすると,実際に差がないのにサンプル抽出の際に偶然偏りが起きてし
まって,差があるという結果が得られる確率を示している。そういう確率が低ければ低いほど,すなわちP値が小さければ小さい程,二つの群が同じ母集団に属
する可能性は低くなり,二つの群は異なる母集団に属している可能性が高くなる。
一方95%信頼区間は他のサンプ
ルに対して同じ事を調べた場合にまったく同じ値のオッズ比や相対危険度が得られることはなく,ある範囲に収まってくるのであるが,95%の場合はその範囲
に入ることを示している。つまり,オッズ比や相対危険度として算出された値は平均値であって(Point
Estimateと呼ばれる),ある誤差を伴っていると考えれば良い。実際に計算されるのは標準誤差である。ここで重要なことは95%信頼区間が1をはさんだ範囲にある場合にはその因子は結果に対して有意な影響を与えていないと判断されるということである。1の場合にはまったく影響がないということになり,1が95%信頼区間に入っているということは,その因子はP値も0.05超えてしまい有意にならないはずである。
95% confidence intervalは次式で計算される。
◇ 95% confidence interval for relative risk(RR)
![]() ◇ 95% confidence interval for odds retio(OR)
![]() 3. 平山論文の検討 平山雄氏の大規模コホート研究とは24万人を対象に1966年(昭和41年)から1979年(昭和54年)まで行われた厚生省(当時)の委託研究であった。この研究によって「受動喫煙」の害が証明されたとされる。私は平山論文の生のデータを用いて検証してみた。
24万人を対象にしたといっても,「喫煙習慣のない妻」91541人のうち,「肺癌でなくなった方」はわずか174人(リスク0.0016)しかいない。(別なデータでは200人となっている。)
Relative Riskを平山論文にならい,夫が「非喫煙」「1日20本未満の喫煙者」「1日20本以上の喫煙者」の3グループに分けて単純に計算すると次のようになる。(計算は竹本)
私の行った単純値計算ではRelative Riskは,非喫煙者の夫を1としたとき,1〜19本/日の夫では1.3,20本/日以上では1.5となる。ただし,わずか174人のデータなので,信頼区間はそれぞれ(0.9〜2.0),(0.9〜2.3)となり統計的に有意とは言えない。
しかも喫煙習慣については昭和40年(男性喫煙率が82%でほぼピークの年)当時のものであり,それ以前も以後も喫煙率が低いことを考えると相対リスクは
もっと小さいものになる可能性がある。本来「非喫煙」に数えられるべき人数が「20本未満」あるいは「20本以上」に加えられている可能性が高い。実際そ
の後世界各国で行われている追試によればRelative Riskはせいぜい1.2〜1.3程度であり,統計的にも有意でないものが多い(後述)。
ところが平山氏は,このデータから非喫煙者1.00に対して,1〜19本は1.61,20本以上は2.08とし,しかも統計的に有意という結論を導き出した。どうしてそのような結論が得られたのだろう。
それは夫の年齢を40〜59歳と60歳以上に分け,それを「標準化する」という方法で計算したためである。ただでさえ少ないサンプルを2つに分けると統計
的誤差が拡大する。つまり,分母となる「非喫煙者の妻の肺ガン死亡者数32人」を11人と21人に分けたため,1人違っただけで結果は大きく違ってしま
う。しかも信頼区間を90%(P値0.1以下)として「統計的に有意」とした。(ふつう信頼区間は95%または99%で計算する。そしてP値が0.05以
下または0.01以下のとき統計的に有意と判断される。)
彼は,「受
動喫煙の害」を証明しようとしたが統計的に有意なデータを得られなかったので,年齢で分けたり,職業を「農業」と「その他」に分けたり,信頼区間を90%
にして「証明」したのではないかという疑問が生じる。また,時々喫煙する人を非喫煙に,以前喫煙していたがやめた人を1〜19本吸う人のグループに分類し
ていることにも不自然さを感じる。
平山論文からの引用。ただし,Relative Riskおよび95% confidence intervalの計算は竹本。
何かを基準にグループ分けすると,データが少ないときは統計的ばらつきにより,あるグループだけ異常に高いRelative Riskが出ることはよくある。そしてRelative Riskが1を大きく上回れば95%信頼区域は1を越える。その上で標準化すれば大きなRelative Riskや見かけ上統計的に有意なデータを得ることはできる。上記の場合がそれである。 この論文が世界的に高く評価されたのは,背景に嫌煙権運動の高まりがあり,「嫌煙権運動」にとって都合のよいデータであるというためだと思う。
その後,世界中で33の追試結果が発表されているが,平山氏にならって信頼区間90%としても,統計的に有意と出たのは7件しかない。残り26件は統計的には無意味という結論になっている。
次にいくつか例をあげる。
(Elisa Ong & Stanton A. Glantz : Hirayama’s work has stood the test
of timeより)
これらのデータを見ると「Relative riskは1.2〜1.3で高い傾向にあるが統計的に有意とは言えない」というのが真実であると思う。20年を経た今でも「平山論文」が引用されるのは,Relative Riskが突出して大きく「嫌煙権運動に有利」という理由でのことと思われる。(90%信頼区域を見てもわかるとおり,データの信頼度は最も低い。) 4. 最初の疑問について 下表は平山論文からの引用であるが,彼自身の計算および彼の決めた基準でも肺癌以外は統計的に有意ではない。(肺癌もふつうに計算すれば有意とは言えない。)平山氏はこの結果から「肺癌以外は受動喫煙の影響を見いだせなかった。肺気腫およびぜんそくとの関連はあるように見えるが,統計的に有意ではない。」と結論している。ましてや「受動喫煙で脳腫瘍になる」などということは,一言も言っていない。(P値が0.05以下なら統計的に有意。平山氏の基準では0.1以下なら有意)
それなのに国立がんセンターでは公式のホームページにこれら統計的に有意でないデータをまことしやかに載せている。どうしたわけだろう。
「煙草は健康に悪い。国民の健康増進のためなら,誇張したデータや,統計的に無意味なデータでも使うことは許される。」
そう考えてのことではないかと私は推測する。 こ
れらの善意によって喫煙者は,「殺人者」呼ばわりされたり,「白い目」で見られたり,「馬鹿呼ばわり」されたりと,いわれのない「差別」や「いじめ」を受
けている。「差別」や「いじめ」がなくならない理由がよくわかる。「差別」や「いじめ」はこうして「正義」や「善意」に基づいて行われる。
1980年代以降,平山氏は「みそ汁を飲む人と飲まない人を比べると,とくに男性では,全く飲まない人の死亡率は,毎日飲む人に比べて約50%も高い。心
筋梗塞,肝硬変などの場合にも同じような傾向がみられる。」とか「ベータ・カロチンはすべてのがん,心臓病,老化を防ぐ!!骨粗しょう症,ストレス,疲労
にも有効」などとして,多くの著作を著した。
みそ汁について言えば,「みそ汁を全く飲まないような食生活」が健康に影響しているのであって,みそ汁そのものの効果とは言えないのではないかと私は思う。
煙草についても同様ではないかと考える。昭和40年,8割を超える男性が喫煙をしている時代に煙草を吸わなかった方というのは,大変真面目で,健康にも人
一倍気を遣っていた方ではないだろうか。そのような奇特な方々を分母にリスクを計算すれば,他の方々(喫煙者)のリスクが高く出るのは当然だと思う。
煙草には害がある。酒やコーヒーに害があるように。しかし,そのリスクがどの程度であるかは,男性の喫煙率が5割になった今こそはっきりすると思う。
5. おわりに![]() 平山氏は結論部分で右図を示して次のように言う。
「肺癌の年齢調整死亡率は,日本で男性も女性もともに急激に増加してきた。肺癌になった日本女性で煙草を吸うのはごく少数なのに,なぜ彼女らの肺癌死亡率が,男性と平行しているのかその理由がわからなかった。現在の研究は,この長年の謎の少なくとも一部について説明するように見える。」(訳:竹本)
つまり,「肺癌の主たる原因は喫煙のはずだが,喫煙率の低い女性の肺癌死亡率は男性と平行して上昇し続けている。これはおかしい。しかし夫の喫煙による受動喫煙の影響と考えれば説明がつくのではないか。」というのである。 欧米において「肺癌死亡率」が癌死亡率のトップになったとき,その原因として真っ先に喫煙が疑われた。欧米においては男女の喫煙率及びその変動にほとんど差がないので,そう推測しても矛盾は生じない。
しかし日本では社会的特殊性から男性の喫煙率は女性よりもずっと高い。その値も80%代から現在の50%へと大きく変動した。一方その間,女性の喫煙率 は15%程度でずっと一定であった。それなのに肺癌死亡率のグラフは,男女で驚くほど相似している。その事実を素直に受け止めれば,「肺癌には,喫煙以外に男女共通の何かもっと根本的な原因がある」と考えるのが自然だと私は思う。(肺癌死亡率が男性より女性が低いのは全世界的傾向。)
現在男性の喫煙率が減少しているにもかかわらず肺癌罹患率は増加し続けている。それは喫煙との相関がほとんどないといわれる肺野部(肺の周辺部)に生じる
腺癌が男女とも増加しているためである。肺癌患者のうち男性の4割,女性の7割が肺野部の腺癌である。したがってたとえ喫煙率が0になったとしても,肺癌
は今後も増え続けていくことになるだろう。
引用文献
T.Hirayama:Non-smoking wives of heavy smokers have a higher risk of lung
cancer:a study from Japan
http://www.scielosp.org/scielo.php?pid=S0042-96862000000700013&script=sci_arttext&tlng= Elisa Ong & Stanton A. Glantz : Hirayama’s work has stood the test
of time
森實敏夫:相対危険度Relative Riskとオッズ比Odds Ratio
国立がんセンターのホームページ: http://www.ncc.go.jp/jp/
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