天動説と地動説


竹本信雄

茨城県立小瀬高等学校


1985年8月09日 初 版

1995年7月19日 改訂版

2002年3月31日 三訂版

2004年9月29日 四訂版


第1部 天動説と地動説
1.地動説と宗教裁判

 みなさんは,「地球が太陽の回りを回っている。」という話を聞いたことがありますか。これが,16世紀にコペルニクスが唱えた地動説です。
 当時は「地球の回りを太陽やわく星やそのほかの星々が回っている。」という天動説が信じられていました。空を見れば太陽や星は東から出て西にしずみます。地面が動いていることなどまったく感じません。地球が止まっていて天が動いていると考えるのは当然です。
 そのころの人は「地動説」を唱える人たちを,「人々をまどわすわす大うそつき」だと思いました。実際,宗教改革で有名なルターなども
「地球が動いて,太陽が動かないなどとデタラメなことをいって世の中の人をまどわすのは,まったくけしからん。」
というようなことをいっています。
 そこで,地動説をさらに発展させて,
「私たちが住むような世界(太陽系)は,この宇宙の中に無数にある。」
と唱えたブルーノという人は,「いくら注意をしても人をまどわすデタラメを言い続けた。」として,火あぶりのけいに処せられました。
 また,自分で作った望遠鏡で天体観測をして「地動説」を正しいと確信して広めたガリレオも「宗教裁判」にかけられ「地動説は間ちがいいでした。」と言わされました。そのとき「それでも地球は動いている。」とつぶやいたという話はあまりに有名です。

【質問1】
 このことから板倉聖宣という人は「『表現の自由』というのは『うそをつく自由』まで認められなければ本当に保証されているとは言えない。」といいます。みなさんはどう思いますか。できたらみんなで話し合ってみましょう。

2.アリスタルコスと地動説(1)


 地動説というと最初に唱えたのはコペルニクスであると思われています。しかし,実は今から2300年も前(紀元前301年ごろ)に地動説を唱えた人がいました。古代ギリシアのアリスタルコスという人です。

 こんなことを言うと,

「確かにそうかもしれないが,そんな昔にはくわしい観測などできなかっただろうから,その説は頭で想像しただけで,科学的とはいえないのじゃないのかな。科学的なしょうこをもとにして地動説を唱えたのはやはりコペルニクスが最初じゃないのかな。」

そんなふうに思う人がいるかもしれません。本当はどうなのでしょう。アリスタルコスの考えた過程をいっしょにふり返ってみましょう。


【質問2】

 月は満ちたりかけたり,いろいろ形が変わりますが,日がたつにつれてどのように変わっていくのでしょう。下に書いたのは月の形が変わる順を予想して書いたものです。どの考えが正しいと思いますか。



ア.






イ.







ウ.





エ.その他

3.月の満ち欠け


 月の形を毎日見ているとイのように変わります。どうしてでしょうか。

 月を眺めると,月は天に張り付いたお盆のようにも見えます。しかし本当は丸い球のような形をしています。月は遠くて立体的には見えないので,お盆のように見えるのです。そして月は地球のまわりを約1ヶ月で回っています。

 ではその月を地球から見たらどのように見えるのでしょうか。

 まず月は光を出していないので,太陽の光が当たらないと地球から見ることができません。ですから月の太陽に面している半分だけが見えることになります。月は丸いものなのに,いろいろな形に変わって見えるのは,太陽に照らされている月の部分だけが見えるからです。

【作業】


半分黒く塗ったボールを月に見立てて,どんな形に見えるか試してみましょう。
 アリスタルコスは月を満ち欠けの様子から,空間に浮かぶ球だと見抜いていました。そして地球も太陽も月と同じように球形をしていると考えていました。

 では月や太陽そして地球はどのくらいの大きさなのでしょう。まず,地球から見て太陽と月はどちらが大きくみえるのでしょう。


【問題1】

月と太陽どちらが大きく見えると思いますか。

 予 想

 ア.太陽の方が2倍以上大きく見える。

 イ.太陽と月はほとんど同じ大きさに見える。

 ウ.月の方が2倍以上大きく見える。

 討 論

 どうしてそう思いますか。みんなで話し合った後,観測してみましょう。観測できないときは次の話を読みましょう。


【観測1】太陽と月の観測

@5円玉の穴から太陽と月をのぞいてくらべてみましょう。

 太陽を見るときには,色のこいプラスチックの下じきを通してみるか,太陽がしずむ直前のように光が弱まったときに見るようにしましょう。大切な目を痛めます。

A天体望遠鏡(倍率80倍〜90倍位)で大きさをくらべてみましょう。

  天体望遠鏡で直接太陽を見ると大変です。目が目玉焼きになって失明してしまいます。ですから,口径を小さくしぼり,こい色の付いたガラス(太陽観測用サングラス)を接眼レンズの前に入れるなどのくふうをしなければなりません。

  しかし最近は,サングラスをつけても有害な赤外線が目にはいることや,太陽の熱でサングラスが割れる危険性があるので,こういう観測法は行われなくなっています。白い紙に投影する方法が安全です。月も満月なら紙に投影して見ることができます。

【太陽(左)と月(右)】



4.日食の話


 地球から見ると月と太陽はほとんど同じくらいの大きさに見えます。

 そこで,月がちょうど太陽の間にはいると,太陽が月の後ろにかくされてしまうことがあります。それが日食です。

 太陽と地球の距離は季節によって少し変わるので,地球から見た太陽の大きさはほんの少し違って見えます。

 また,月と地球の距離も日によって変わるので,地球から見た月の大きさも変わります。

 そこで地球から見ると,時によって月の方が太陽より大きく見えたり,小さく見えたりします。月が大きく見えるとき日食になると,太陽は月に完全にかくされます。こうなったとき皆既日食といいます。

 逆に月の方が太陽に比べて小さく見えるとき日食になると,月は太陽を全部かくすことができず,太陽の周りが月からはみ出して輪のようになります。これを金環食といいます。

 時によって皆既日食になったり金環食になったりするくらいですから,地球から見た太陽の大きさと月の大きさはほとんど同じということができます。

【皆既日食(左)と金環食(右)】



5.アリスタルコスと地動説(2)


 地球からみた太陽と月の大きさはほとんど同じです。アリスタルコスは,「太陽と月の本当の大きさはどうなのだろう。何とか知ることはできないだろうか。」と考えました。そして,次のような方法を考えました。

「月が半月の時,太陽は月を真横から照らしている。そのとき太陽と月がつくる角度を測れば,三角測量の方法で地球から月・太陽までの距離の比がわかるはずだ。」

 アリスタルコスはさっそく月が半月になる時を待って測定し,87度という結果を得ました。(正しい値は89度50分です。)

そして太陽は月より19倍も遠いところにあることを知りました。月と太陽の見かけの大きさが同じことを考えると太陽は月より直径で19倍も大きいことになります。

【問題2】

 もし昼間月が出ているのを見たら,アリスタルコスのように月や太陽,そして地球が宇宙空間に浮かんでいる様子を想像してみましょう。

 そしてもしボールを持っていたら月の見えている方向にかざしてみましょう。ボールが太陽に照らされている部分の形は月の形と同じに見えると思いますか。

 予 想

 ア そのとき見える月の形と同じ形に見える。

 イ そのとき見える月と同じ形に見えるとは限らない。

 ウ その他


 討 論

 みんなの考えを出し合いましょう。


 ヒント

上の図で月−地球−太陽のなす角の正しい値は89度50分ですから,月と地球に降り注ぐ太陽の光は,ほとんど平行です。

6.月食の話


 次にアリスタルコスは月や太陽が地球の何倍大きいか知る方法はないかと考えました。そして,月食を観測すれば月と地球の大きさをくらべることができることを思いつきました。

 満月が下の図のようにかけていくことがたまに起こります。これが月食です。

 これは月が地球のかげに入るためです。ですから月にうつる地球のかげの形から地球の大きさがわかります。

 そうして求めると地球のかげの直径は月の約3倍です。しかしかげは地球をはなれるにつれて小さくなるので地球の直径が月の3倍というわけではありません。実際の地球の直径は月の約4倍です。

 しかし,アリスタルコスは地球の直径は月の約3倍と考えたようです。

【質問3】

 この写真は上の図で言うと何時ごろの状態に相当するでしょう。

 欠け際をぐるっと延長して地球のかげの大きさを調べましょう。地球のかげの直径は月の直径の何倍くらいありますか。

7.アリスタルコスと地動説(3)

 アリスタルコスは体積にして,月は地球の1/25,太陽は地球の300倍の大きさと推測しました。もちろん当時は月と同じように太陽も地球の回りを回っていると考えられていました。しかし,アリスタルコスはその説に疑問をもちました。

「地球の300個分の大きさをもつ太陽が,ちっぽけな地球のまわりを回るなんてことがあるのだろうか。むしろその逆だと考える方が自然じゃないのかな。」

 アリスタルコスはそう考えて,「地動説」を発表したのです。しかし当時のえらい学者たち(ストア学派)からは,「地球が動いているだなんて,そんなバカげた説は信じられない。そんな考えは神への冒涜だ。」と激しく非難されました。

 アリスタルコスの推測は現在わかっている正しい値に比べると非常にひかえめなものでした。太陽は月より400倍も遠くにありますので,太陽は地球の何と130万個分の大きさだったのです(重さでいうと地球の33万個分)。

 しかし値はともかく,アリスタルコスは「そのように大きな太陽が,くらべものにならないくらい小さな地球のまわりを回るということこそ信じられない。」と考えたのです。

【正しい太陽・地球・月の大きさと距離の比】

【作業】

 太陽や地球・月を10億分の1に縮めた模型を作ってみましょう。

 10億分の1に縮めると,太陽は直径1.4m,地球は1.3cm,月は3.5mmの球になります。

 太陽は風船で,地球と月はねん土で模型を作り,眺めてみましょう。アリスタルコスがなぜ「地動説」を唱えたのか,その理由が実感できますか。

8.天動説─プトレマイオス─

 古代ギリシア人は,一部の学者をのぞくと,すべての星は地球を中心にして円運動をしていると考えていました。

           古代ギリシア人の考えた宇宙像


 しかしそれでは,わく星の複雑な動きは説明できません。そこでプトレマイオスという人は,それまでの学者の考えを集大成して,わく星の動きをきわめて正確に説明できる天動説を唱えました。わく星は単に決まった軌道上を回るのではなく,軌道上に中心がある小さな円軌道(周転円)の上を,1年の周期で回ると考えたのです。そして,それでもうまく観測に合わないときにはさらに周転円を重ねたり,中心をずらすなどの修正をほどこしました。こうして大変良い精度でわく星の動きを説明することに成功しました。

プトレマイオスの天動説

【質問4】

 当時すでに日食が起こる日を予言できるほど精密な観測が行われていました(紀元前585年タレス)。しかし,地動説を唱える人はありませんでした。

 一方アリスタルコスの観測は誤差だらけで,お世辞にも精密とはいえません。しかし,正しい地動説を発見しました。

 この事実からすると,精密な観測さえすれば正しい答が見つかるとは言えないようですが,みなさんはどう思いますか。できたらみんなで話し合ってみましょう。

9.地動説ふたたび─コペルニクス─


 こうして十分な精度でわく星の動きを説明できることになると,天動説に疑問をもつ人はほとんどいなくなりました。

 しかし,問題が解決された訳ではありません。たとえば水星と金星は太陽からある決まった角度以上はなれることはありませんが,その理由は説明できません。また,わく星が太陽のまわりを回る周期はまちまちですが,周転円の上を回る周期はなぜかどのわく星も1年です。その理由も説明できません。

 「わく星の動きが正確に予測できるのだから,そんな細かなことはどうでもいいではないか。」
 多くの学者はそう考えていました。しかし,そうした天動説に疑問を持ち,満足できない人もいました。ポーランド人のコペルニクスです。
 「確かにわく星の位置を正確に知ることはできる。しかし,理論的には矛盾だらけだ。しかもわく星が実際どこにあってどのように運動しているのか,全く答えてくれない。宇宙の本当の姿が知りたい。」
 コペルニクスは当時起こった古代の学問を見直す世の中の流れ(ルネッサンス)の中で,古代の学者の本を読みました。自分の疑問を解決するヒントが得られないかと考えたからです。そして,古代にも地動説を唱えていた人のいることを知りました。
「これだ!これが本当の宇宙の姿だ!!」
 コペルニクスはそれまで疑問に思っていたことすべてが「地動説」ならば解決することがわかり,たいへん喜びました。

コペルニクスの地動説

 わく星の複雑な動きは,動く地球の上から見ていたためだったのです。周転円を動く周期が1年なのは地球が太陽のまわりを回る周期が1年だったからです。水星と金星が太陽からある角度以上はなれない理由もわかります。この二つのわく星は地球の内側を回っていたのです。惑星の配置(距離)を知ることもできます。
 コペルニクスは「天球の回転について」という本で,当時忘れ去られていた地動説を発表しました。しかし,地動説はなかなか受け入れられませんでした。

【質問5】 今なら望遠鏡というすばらしい観測機械があります。望遠鏡を使えば,天動説と地動説のどちらが正しいかはっきりわかるしょうこが見つかるかも知れません。その方法があるかみんなで考えてみましょう。

10.地動説の証拠

 「プトレマイオスの天動説」と「コペルニクスの地動説」の図を見比べながら,陽一郎君と花子さんが話し合っています。

陽一郎「水星や金星を望遠鏡で見れば,天動説が正しいか地動説が正しいか,わかるのではないかな。」

花 子「え。どうして。」

陽一郎「天動説では,地球から見た場合,水星や金星はいつも太陽を背にしているから,三日月のように欠けて見えるはずでしょ。絶対半月型や丸い形に見えることはない。でも地動説が正しいなら三日月型の時もあるが,半月型や満月型に近い形の時もあるはずだ。」

花 子「なるほど。それじゃ,水星や金星を観察して半月型や満月型になるときがあるかどうかを調べればいいのね。」


 みなさんも,「プトレマイオスの天動説」と「コペルニクスの地動説」の図を見比べながら考えてみてください。

 望遠鏡で見ると,水星や金星は本当に月のように欠けたりして見えるのでしょうか。


【問題3】水星や金星は望遠鏡で見ると,

 予 想

 ア.いつも三日月型に欠けて見える。

 イ.三日月型の時もあるが半月型や丸く見えることもある。

 ウ.その他。


 討 論

 どうしてそう思いますか。できたら望遠鏡を使って確かめましょう。


【観測2】水星・金星の観測

 水星はいつも太陽の近くにあるのでちょっと見つけづらいわく星です。コペルニクスは水星を1度も見たことがなかったという話もあります。でも金星は,その名の通りたいへん明るく輝く星で,太陽からかなりはなれるのでずっと見やすいわく星です。望遠鏡を使えば昼間でも見ることができます。最も明るいときには,肉眼で見ることもできるくらいです。

 そして望遠鏡で観察すると,三日月型に見えるときもありますが,地球からみて太陽から最も離れたときには半月型に,地球から最も遠くはなれたときには満月に近い形に見えます。これは地動説が正しいことのしょうこです。できたら先生に見せてもらいましょう。

金星の満ち欠け

 【水星(左)と金星(右)】

     水星(マリナー10号)       金星(ハッブル望遠鏡)

注:金星の写真はハッブル望遠鏡から撮影されたものです。ハッブル望遠鏡は地上600km上空を回る人工衛星に積まれた望遠鏡ですから,地上から見た形と同じです。水星の写真はマリナー10号という惑星探査機が水星に接近して撮影したものです。地球から見た姿ではありませんが,地球から見ても同じような形に見えるときがあります。

11.どちらが正しいかは精密な観測で─ティコ・ブラーエ─

 コペルニクスが「天球の回転について」という本で地動説を発表して以来約1世紀にわたって,天動説を信じる学者との間で論争が続きました。

 ティコ・ブラーエという人は「どちらが正しいかは精密な観測で証明される」と考え,星の位置観測を続けました。

「もし地球が太陽の周りを回っているなら1年の周期で星の見える方向がずれるはずだ」と考えたのです。その結果,ティコは「わく星は太陽の周りを回り,太陽は地球の周りを回る」という独自の天動説を唱えました。いくら精密に観測しても,星の見える方向に変化はなかったからです。

その後ティコは自分の説を確かめるため,16年間にわたって火星の位置変化を,肉眼としてはおどろくべき精度で観測しました。そのたくさんの観測結果を,数学にくわしい弟子のケプラーにあずけて,なくなりました。

【質問6】

 正確な観測をもとにしたティコ・ブラーエの考え方は,たいへん科学的であるように思えます。しかしその結果,かえって間ちがった天動説を信じることになってしまいました。どうしてでしょう。科学的に考えるというのはどういうことなのでしょう。できたらみんなで話し合ってみましょう

12.惑星の軌道は楕円─ケプラー─


 ティコの弟子で,火星のたくさんの観測資料を使うことを許されたケプラーは,わく星の運動の法則を発見する努力をしました。ティコは独自の天動説を考えていたのですが,弟子のケプラーは,実は地動説を正しいと思っていました。

 ケプラーは火星の観測結果を用いて,地球の軌道を決定しようと考えました。火星が太陽の周りを回る周期(公転周期)は687日です。687日ごとに火星は元の位置に戻ってきます。その時の火星の位置(方向)から地球の軌道を求めたわけです。ケプラーは地球の軌道は中心のずれた円(離心円)であると考えていました。そこでその中心のずれ(離心率)と円の大きさをを求めたのです。

 次に,そうして求めた軌道上を地球がどのように動くかという法則を見つけようとしました。そして,地球が太陽から遠いときはおそく,近いときは速いことを知りました。ケプラーは

「わく星の速さは太陽からの距離に反比例する。」

という仮説をもとに検証しました。そしてついに

「わく星と太陽を結ぶ線分が単位時間にえがく面積は一定である。」

という正しい法則を発見しました。これを「ケプラーの第2法則」または「面積速度一定の法則」といいます。

 次にケプラーは,求められた地球の軌道をもとに火星の軌道を決めようとしました。火星の軌道も当然中心のずれた円軌道だと思っていたのですがどうもうまくいきません。また,先に発見した面積速度一定の法則も正確にはあてはまりません。ケプラーは頭をかかえました。

「どこが間ちがいなのだろう。角度にして8分ほどのずれがある。ティコ先生の観測は正確で誤差はせいぜい1〜2分のはずなのに。」
(角度の1分は1度の1/60です。)

 そして,ケプラーはティコの観測結果と合わない原因をひとつひとつ検討していきましたがわかりません。そして最後に,

「そもそも,火星の軌道を円と考えていることが間ちがいではないだろうか。」

と考えました。これは,それまでだれも疑ったことのないことでした。

「天の世界は完全だから軌道は円以外考えられない。」

だれもがそう考えていたのです。

「円でないとしたらわく星はいったいどんな軌道をえがいているのだろう。」

 円でない軌道は無数に考えられます。それからのケプラーは,いろいろな軌道を仮定しては計算して確かめるという研究を続けました。そしてついに火星の軌道はだ円軌道であることをつきとめたのです。

 こうしてケプラーは

「わく星は太陽の周りを,太陽を一つのしょう点としただ円軌道をえがく。」

という法則(ケプラーの第1法則)を発見しました。

【観測3】火星の観測

 ケプラーの法則発見のもとになった火星を見てみましょう。火星は2年2ヶ月ごとに地球に接近します。ですからほかのわく星とちがって,毎年見やすい位置に来るわけではありません。もし,今年が火星が見やすい年でしたら先生に見せてもらいましょう。

火星(ハッブル望遠鏡)
13.世界の調和─ケプラーの調和の法則─

 ケプラーは若いころから「宇宙の調和」という考え方に強い関心を持っていました。「宇宙には精密な調和があるにちがいない。」と強く信じていました。第1・第2法則を発見した後,ケプラーはわく星たちの運動をたがいに関係づける規則性を追い求めました。そして10年後,ついに第3の法則を発見しました。それは,

「わく星の公転周期の2乗は,太陽からの平均距離の3乗に比例する。」

というものです。ケプラーは

「これこそ長い間,追い求めてきた宇宙の調和だ。」

ということで,「調和の法則」と名付けました。
こうしてケプラーは,わく星の運動に関する3つの法則を発見しました。



ケプラーの法則

 【第1法則】

 わく星は太陽の周りを,太陽を一つの焦点としただ円軌道をえがく。

 【第2法則】

 わく星と太陽を結ぶ線分が単位時間に描く面積は一定である。

 【第3法則】

 わく星の公転周期の2乗は,太陽からの平均距離の3乗に比例する。





 この時代まで,コペルニクスの地動説では,プトレマイオスの天動説のようにわく星の動きを正確に表すことができませんでした。長い年月をかけていくつもの周転円を使い,改良に改良を重ねた天動説の方が正確なのは,いわば当たり前なのです。しかし,ケプラーの3法則によって,地動説でもわく星の動きを天動説と同じように正確に予測することができるようになりました。
【第1部 終わり】

第2部 運動の法則と万有引力の法則
14.そのころガリレオは─慣性の法則─


 そのころ,ふり子の等時性や落下の法則などで有名なガリレオは,自作の望遠鏡を使って宇宙の神秘をさぐっていました。そして,月のクレータや太陽の黒点,土星の輪などを発見しました。

 また,木星の周りを回る4つの衛星を発見しました。それらの衛星は今でも「ガリレオ衛星」と呼ばれています。その様子はコペルニクスが主張する「地動説の宇宙」の模型のようでした。ガリレオも地動説を支持していました。そして,これらの発見をもとにして「星界の報告」や「天文対話」という本を書きました。

【観測4】木星・土星の観測

 できたら,ガリレオが発見したという土星の輪や,木星の4つの衛星の公転を観察してみましょう。


木星(ハッブル望遠鏡)         土星(ハッブル望遠鏡)

 ケプラーがわく星のしたがう法則を研究して,地動説の正しいことを証明したころ,ガリレオは地動説にまつわる大きな問題を解決しました。

 それは物体の運動に関する非常に基本的な問題です。

「地球が動いているなら手をはなれた石が落ちている間に地面が動くので真下に落ちるはずはない。石が真下に落ちるのは地球が止まっているしょうこである。」

天動説を支持する人はそう言って地動説を信じる人に反論しました。

 ガリレオは,動く船のマストから石を落としても石は真下に落ちることから,

「一定の速さで動く物体の上では,止まっているときと同じ力学法則がなりたつ。」

という「ガリレオの相対性原理」を発見しました。そして,「相対性原理」が成り立つためには,それまで信じられていた「力と運動の関係」を根本から見直さなければならないことに気づきました。


 それまでは,

「物体に力を加えなければ,動いている物体は必ず止まる。物体が動き続けるためには常に力が働いていなければならない。」

と考えられていました。しかしガリレオは

「動く船の上で手をはなれた石が真下に落ちるためには,石は船と同じ速さで動き続けながら落ちなければならない。したがって,『物体に力が働かないとき,動いている物体はその速さを保って動き続ける』はずだ。」

と結論したのです。これは「地動説」と同じように,それまでの常識をくつがえす大発見でした。これを「慣性の法則」と言います。(後にニュートンが「運動の第1法則」として次のようにまとめました。)


【運動の第1法則】慣性の法則

 物体に力が働かない場合,静止している物体は静止し続け,運動している物体は,その速度を保って等速直線運動を続ける。

 ところで相対性原理といえば,「ガリレオの相対性原理」のほかに「アインシュタインの(特殊)相対性原理」というものもあります。この原理は「ガリレオの相対性原理」をもっと一般化したものです。すなわち,「相対的に一様な速度で運動しているものの中(あるいは上)では,力学法則だけでなく,光や電気・磁気など,あらゆる物理法則が全く同じになる。」というものです。
15.ニュートンの発想

 次にくるのがニュートンです。ニュートンはガリレオの後を継いで,物体に力が働いた場合の法則を発見しました。

「物体はまっすぐに走らない場合もある。これはどうしたわけだろう。」

ニュートンの結論はこうでした。

「たとえば動いている物体を後ろからおせば物体は加速する。反対向きなら減速する。横から力を加えれば,速さは変わらないが運動の向きが変わる。どんな場合にせよ,物体の速さと向き,つまり速度を変えるには,とにかく力が必要なのだ。」

こうしてニュートンは「運動の法則」を発見しました。


【運動の第2法則】運動の法則

 物体に力を加えると,力の向きに加速度を生じる。その加速度は加えた力に比例し,物体の質量に反比例する。

 
 こうしてニュートンは,わく星が太陽の周りを運動するとき,その接線方向には何の力もいらないことを見抜きました。しかし,わく星に力が全然働かなかったら,わく星はまっすぐ進ばかりです。実際にはわく星は直線運動を続けるわけではありません。力が働かないとしたら直進していったはずの所(P’)よりも,ずっと太陽によったところ(P”)まで軌道がねじ曲げられます。その結果として,ケプラーの言うように楕円軌道を描くのです。

 わく星が太陽の周りを回るためには,常に太陽に向かう力が働いていれば良いことを知ったニュートンは,

「この力はおそらく太陽がわく星を引っ張るためだろう。」

と考え,そのわく星を引っ張る力の法則を発見しようとしました。

 ニュートンは数学の天才でもありました。自分で微分・積分という新しい数学を発見してしまうほどでした。

 わく星の運動はケプラーの3つの法則で完ぺきに説明できます。ニュートンはケプラーの3法則が成り立つためにはどんな力が働けばよいのかを,得意な数学を使って考えました。そして,面積速度が一定というケプラーの第2法則は,「わく星に働く力が常に太陽の方向を向いてさえいればよい」ことを証明しました。

 また,「わく星の公転周期の2乗は,太陽からの平均距離の3乗に比例する。」という第3法則が成り立つためには,「その力が太陽からの距離の2乗に反比例して弱まっていく。」とすれば良いことを発見し,同時に,そのような力が働けば「わく星の軌道はだ円になる。」という第1法則も証明できました。

 これまでのところ,実はニュートンは何もしなかったのと同じです。なぜなら,ニュートンはケプラーが発見したことを別なことば(数式)で表現しただけにすぎないからです。実際ニュートンはこの世紀の大発見をたいしたこととは考えず,すぐに発表しようとはしませんでした。何十年かして,ハレー彗星で有名なハレーがそれを知って,急いで発表するように促しました。それでようやく発表したのです。そのためニュートンと独立に同じ法則を発見したフックとの間で先取権争いの論争を巻き起こすことになりました。同じようなことは微分・積分の発見についても,ライプニッツという人との間で起きました。

 ニュートンは力というものの根本的な性質に関する法則も発見しました。作用反作用の法則といいます。これについては別な機会に詳しく勉強しましょう。


【運動の第3法則】作用反作用の法則

 物体Aが物体Bに力をおよぼすとき,物体Bは物体Aに力を加え返す。それらの力は同一作用線上にあり,大きさは等しく向きは反対である。


16.ニュートンはリンゴが木から落ちるのを見て「万有」引力の法則を発見した

 よく「ニュートンはリンゴが木から落ちるのを見て,万有引力の法則を発見した。」と言われます。これは本当でしょうか。今までのお話を聞いてきたみなさんは,「そんなのうそだ。」と思うでしょう。「太陽がわく星を引っ張る力は,距離の2乗に反比例する。」という法則はケプラーの3法則から数学的に導かれたものです。リンゴが木から落ちるのを見て発見されたわけではありませんし,また発見されるはずもありません。

 本当はどうなのでしょう。しかし,「全くの嘘とはいえないのではないか」という人もいます。その人はこう想像します。

 当時すでにガリレオによって,木星の周りを4つの衛星が回っていることが知られていました。それは小さな太陽系みたいなもので,衛星は木星に引っ張られているようでした。月も地球に引っ張られてその周りを回っています。そして月というのはガリレオによって,地球と同じく山や谷があり,大きな岩石の固まりであることがわかっていました。

 そこでニュートンは次のように考えました。

「ケプラーの3法則を成り立たせる力は,別に太陽特有のものではないようだ。木星と衛星,地球と月との間に働く力も同じものだろう。ということは,どんな天体も他の天体を引っ張るとは言えないだろうか。いや,まてよ。ガリレオが明らかにしたように,月は大きな岩石のようなものだ。地球だって岩の固まり。岩が岩を引っ張っている。…・。」

 ニュートンがそんなことを考えているとき,リンゴが木から…。

「そうだ!きっとそうだ!天体ばかりでなくすべての物体に他の物体を引っ張る力があるのだ!!月が地球の周りを回っているのは,地球が月を引っ張るから。リンゴが落ちるのも地球がリンゴを引っ張るから。地球というのは岩の固まり。岩の固まりがリンゴを引っ張る。月という岩を引っ張る。そうだとしたらそこに転がっている岩だってリンゴを引っ張っているはずだ。」

 こうして,ニュートンはリンゴが木から落ちるのを見て,「すべての物体が他の物体を引く。」という「万有」引力の法則を発見しました。

 ニュートンは,さらに自ら発見した作用反作用の法則と,物体に働く重力がその物体の質量に比例することを使って次のように結論しました。


万有引力の法則

 すべての2つの物体間に引力が働き,その引力の大きさはそれらの質量の積に比例し,距離の2乗に反比例する。

  



 ニュートンの「万有引力の法則」は,ケプラーの3法則を説明するために生みだされたのですが,ニュートンのすばらしさは,単にそれにとどまらず,月を軌道に引き止めている力が落下する物体(リンゴや石)に働く力と同じものであり,またすべての物体間に働くものであることを見ぬいたことにあると思います。

 こうしてニュートンは「力の法則」の一つである「万有引力の法則」と「運動の法則」を発見しました。「力の法則」は「万有引力の法則」以外にもいくつもありますが,「運動の法則」は一つしかありません。「運動の法則」がいくつもあって,みんな違う答えを出されたら困ってしまいます。

 たった一つしかない「運動の法則」を発見したのですから,ニュートンがいかにすばらしかったかわかるでしょう。

17.月は落ちている


 月が地球のまわりを回るということは,月が地球に「落ち続けている」ことを意味します。

 地上の物体は1秒間に5m位落ちます。では地球の半径の60倍離れた月は1秒間にどのくらい落ちているのでしょうか。

陽一郎 60倍離れていると地球の引力は弱まるので落ちる距離は小さくなるのかな。

花 子 そうね。5mの1/60で10cm位かしら?

陽一郎 いや,違うよ。万有引力は距離の2乗に反比例するというのだから,1/60の2乗で1/3600に力は弱まるんじゃない?

花 子 あっ,そうか。計算すると,えーと,1〜2mm位かしら。

陽一郎 確かに計算ではそうなるけれど,そう単純に考えていいのかな。

【問題4】

月は1秒間にどのくらい落ちているのでしょう。みなさんはどう思いますか。

 予 想

 ア.1mm位

 イ.10cm位

 ウ.1m位

 エ.5m位(地上と同じ位)

 オ.その他

 討 論

 どうしてそう思いますか。意見を出し合ってから次の話を読みましょう。


18.月が落ちる距離


 地球表面で物体は1秒間に正確には4.9m落ちます。そして月は地球の半径の約60倍離れたところを回っています。万有引力の法則によると,引力は距離の2乗に反比例します。ですから月の軌道あたりで地球の引力は,1/60=1/3600に弱まっているはずです。

万有引力の法則をもとにすると,

  4.9m/3600=0.0014m=1.4mm

月は約1.4mm落ちることになります。

 しかし,本当に月は1.4mm落ちているのでしょうか。万有引力の法則は本当に正しいのでしょうか。次にそれを確かめてみましょう。

 月は地球の半径の約60倍のところ,つまり384,000kmはなれたところを回っています。そこを約1カ月,正確には27.3日で地球のまわりを1周します。このことから月の動く速さを計算すると,

    

となります。                                                  

 では,実際に1秒間に月が落ちる距離を計算してみましょう。図で△MM''Oと△M"M'Mは相似です。ところでMM”≒vですから,

  2R:v=v:h           

  2×384000:1.02=1.02:h       

  

万有引力の法則から求めた月の落下距離と,月の公転周期が27.3日という事実から求めた落下距離はぴったり一致します。これは万有引力の法則が確かに正しいことの証明といえます。ニュートンも同じ計算をして「万有引力の法則」の正しさを確信したということです。

【問題5】

 月には地球の引力ばかりでなく太陽の引力も働いています。地球が月を引く力と,太陽が月を引く引力ではどちらが大きいでしょう。計算する前に予想してみましょう。

 予 想

 ア.地球が引く力の方が2倍以上大きい。

 イ.太陽が引く力の方が2倍以上大きい。

 ウ.どちらもほとんど同じ。

 討 論

 どうしてそう思いますか。意見を出し合ってから,次のお話を読みましょう。
19.月を引く力は太陽の方が大きい

 月に働く地球の引力と太陽の引力ではどちらが大きいのだろう。「月が地球のまわりを回っていることを考えると,地球の引力の方が大きいのではないか。」そう思った人もいるでしょう。万有引力の法則を使って計算してみましょう。

 太陽−月間の平均距離は地球−太陽間の約400倍,太陽の質量は地球の約33万倍です。万有引力の大きさは,質量に比例し距離の2乗に反比例するので,地球が月におよぼす引力の大きさを1とすれば太陽の引力は

  

つまり,月に働く太陽の引力は地球の引力より,2倍以上大きいのです。

【質問6】

 月に働く太陽の引力は地球の引力より2倍以上大きいということですが,それならなぜ,月は太陽に取られてしまわないのでしょうか。もし,地球の引力がなかったら月は太陽にしょうとつするのでしょうか。考えてみてください。
20.月も太陽の周りを回っている


 太陽を中心にしてみると,月はどんな軌道を描いているのでしょう。大体の様子を描くと下の図のようになっています。実は月も太陽の周りを回っているのです。そして月に働く太陽の引力が向心力となっています。地球の引力は月の軌道を左右に揺らしているにすぎないともいえます。

 「月が太陽の周りを回るのは地球に連れられているからで,もし地球の引力がなくなれば月は太陽の周りを回らなくなるんじゃないかな。」

 そう思う人もいるかも知れません。いいえそんなことはありません。もし地球に引力がなかったとしたら,月は地球と同じ軌道をえがいて太陽の周りをなめらかに回ることになります。

21.宇宙遊泳の話

 スペースシャトルに乗った宇宙飛行士が船外に出て,宇宙遊泳をしている様子をテレビなどで見たことがあるでしょう。そのとき,宇宙飛行士に働く力は地球の引力だけです。スペースシャトルが人を引く引力は非常に小さくほとんど働いていないといって良いからです。しかしそのために宇宙飛行士が地球に落ちていったり,スペースシャトルから取り残されたりはしません。スペースシャトルと同じ軌道を同じ速さで回ります。宇宙飛行士はいわば一つの人工衛星(人間衛星)となって地球を回りつづけます。

 ところでそのとき,スペースシャトルの中や宇宙飛行士は無重力状態となっています。しかし,無重力状態といっても「重力(万有引力)が働いていない。」というわけではありません。「重力だけを受けた物体は,物体の質量に関係なくすべて同じ運動をする」ので無重力になるのです。このことは「等価原理」と呼ばれ,基本的にはガリレオが発見したことです。





 アインシュタインはこの「等価原理」と「一般相対性原理」をもとに「万有引力の法則」に代わる「一般相対性理論」を打ち立て,重力のなぞにいどみました。「一般相対性原理」というのは「特殊相対性原理」をさらに一般化したものです。「相対的に一様な速度で運動している場合ばかりでなく,どんな運動をしている乗り物の上や中でも,物理法則は同じになる。」という原理です。

 太陽の引力を受ける月や地球は,地球の引力を受けるスペースシャトルや宇宙飛行士と同じことです。月と地球は太陽の引力を受けていますが,いわば無重力空間に浮かんでいるといって良いのです。ただ地球の引力が働くために,月は地球の周りを回ります。ですから月を地球に引き留めておくための力は,太陽の引力より大きい必要はまったくありません。

【第2部 終わり】


【引用文献】

板倉聖宣著「科学と方法」季節社(1969.3.25)

武谷三男著「物理学入門」季節社(1977.4.15)

R.P.ファインマン著・江沢洋訳「物理法則はいかにして発見されたか」ダイヤモンド社(1968.9.19)

板倉聖宣氏代表「たのしい授業」仮説社(1983.3.3〜)

仮説実験授業研究会「月と太陽と地球」(1972.6版)

仮説実験授業研究会「力と運動」(1971.10版)

J.ウォーカー著・戸田盛和・田中裕共訳「ハテ・なぜだろうの物理学T」培風館(1979.12.15)

The Nine Planets A Multimedia Tour of the Solar System by Bill Arnett
 (
http://www.fukuoka-edu.ac.jp/~kanamitu/study/tnp/tnp/nineplanets/


【参考文献】

宇宙情報センターのホームページ(http://spaceinfo.jaxa.jp/index_j.html

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