「第十三話」

ステンレスあれこれ話(1)

われわれの周りには、目に触れるもの触れないものなどステンレスが沢山使われています。単価の高い材料ではありますが、その特性を活かして用途も拡大の一歩をたどっています。ステンレスのまつわるトピックを2回に分けて書いてみます。

錆ない特性を活かしたステンレス鋼

装飾用として

ステンレスはあのピカピカした華麗さが好まれ装飾用に沢山使われています。一番目に付くのは、パチンコ屋さんでしょうか。装飾用の丸い柱などに鏡面研磨してピッカピカの状態で使われます。

鏡面研磨が最もステンレスの特徴を出していると思うのですが、例えばエレベーターに乗ると、内面に使ってあるステンレスは鏡面仕上げにはなっていません。まさか自分の顔を見て、あまりにも・・・脂汗がタラタラにならぬようにするためでもないのですが、実は光の反射を人間が見る精度は素晴らしく高い精度です。したがって平面で使われるステンレスは、普通は映像が反射しないように使います。

例えば総ガラス張りのビルを見かけますが、1枚1枚のガラスが全体としてぴったりと取り付けてないと、ガラスに映る景色は途切れてしまいます。建築屋でないので、武部さんにフォローしてもらいたいのですが、あのガラスサッシュの個々の角度調整は、普通の測定法に頼ったのでは精度が出ないように思います。恐らく遠くから無線化電話で連絡しながら最後の微調整をしているのでしょう。したがって普通は平面で使う用途には、像が映らないように表面をざらざらにしたり無数の引っかき傷を付けたりあるいは表面に模様をつけたり塗装したりして反射像が出ないように使うのが普通です。

自動車にも装飾にステンレスが使われていますが、昔は殆どがクロムめっきでした。このクロムめっきと同じ色調のステンレスを望まれたものです。なかなかこれが難物でステンレスにはステンレスの色があるということで勘弁願いました。今はドア周りのモールやアクセントにステンレスが使われます。磁石をつけてみるとくっつくものとつかないのもがあるはずです。価格の点からクロム系が、過酷な加工を必要とすればニッケル系が使われます。ある自動車会社が、鹿児島県で販売する車のモールが櫻島の噴煙により簡単に錆びるので、特別に錆びないものを作って欲しいと要望があり成分を変えて作った事もあります。これは高くなるので他県では販売されていません。

自動車と言えば、ある自動車屋さんとの技術連絡会後の懇親会で、ワゴンを買いたいと考えているが、おたくのワゴンのリアドアにはステンレス板が張ってあるが、平坦度が悪いのかベコベコして安っぽく見えますねと言って顰蹙を買ったこともありました。

メンテナンスフリー

最近大型の建造物にステンレスの屋根が使われるようになりました。かの幕張のメッセが大型屋根の始まりだったと思いますが、屋根には熱膨張係数の少ないクロム系が使われます。設置場所が海岸に近いので、塩分による錆が問題になり、クロム系をベースとし、塩分の影響を受けないクロム系ステンレス鋼の開発を要請されました。ステンレスを製造している各社が夫々試作品を作り、海浜地帯での暴露試験のコンテストが行われました。各社思い思いの成分設計でコンクールに参加し、われわれのものが優勝しこれで全部の屋根が独占できると喜んだら、地元に製鉄所のある会社に3分の1を発注するので成分特許を使わせてやれと横槍が入った事もありました。幕張に行くたびにステンレス屋根と言う新規需要の発祥の記念建築物といつも思います。

最近は屋外のちょっとしたものにステンレスを見かけます。街角の手すりとか、国立公園の案内板とか、これらは設置しておけば半永久的に機能を満足します。今後ともこの種の用途はますます増えてくることでしょう。ただステンレスの泣き所は海水です。海水中の塩分の影響を受け、腐食しやすくなるので若干の注意が必要です。火山の硫化水素も問題でしょう。

給排水

確か東京都では水道本管から引っ込む水道管には鉄管は使えないはずです。鉄管を止めたら漏水が大幅に減った事、鉄錆の不満対策から決められたと記憶しています。そのころ給湯器も普及し始め、これにステンレスが使われるようになりました。鉄管は肉厚が厚いのでねじを切ってカプラーによるねじ込み接続ができますが、ステンレスは腐食代がいらないので、厚みが薄く特殊な接続法が必要です。この接続法を含めたトータルシステムをいち早く開発確立したN社が先行しました。新しい需要に先行着手しないと指をくわえて見ていることになる好例でした。

マンションの寿命は水回りで決まると言われています。10数年前に50年保証のマンションが建てられ、給排水、給湯器の煙道などにステンレスが使われました。所が使用してしばらくして煙道に漏れが出ました。応力腐食割れという特殊な環境下での割れで、煙道の材質は完全さを求めてチタンに変わりました。

20年ほど前に東京でアパートに住んでいた時、台所の排水の引きが悪いと棒でつついたら水はけが良くなりました。ところが塩ビのパイプを突き破り地下室に流していた事がわかり慌てた事や、神戸のマンションで水道が漏れて階下に滴り落ちた事もありました。水回りは素人ではお手上げで、材料を吟味する事が大切なのでしょう。

台所用品、食器用ステンレス

日用品で身の回りに多いのは食器用です。東南アジアの需要も非常に大きいものがあります。これにはニッケル系が使われます。ステンレス食器の弱点は磨いた時の色合いがなんとなく安っぽく見える事です。なんとか銀の色合いを出したいと、種々の合金を入れて銀に近い色合いのものが出来るようになりました。どうしてステンレスの食器にこんなに値段が違うのと思った時には、色合いを見てください。機能的には変わらないのですが、日本人の繊細な感覚の問題です。需要家からうへ〜っと思うような要求があっても、なんとか応えることが出来る研究者が居て、新しい鋼のステンレスの可能性を広げています。

台所では流しに使われているのがニッケル系ステンレスです。1枚の板からプレスで絞って作り出しています。昔はなかなか絞れず溶接も併用されていましたが、最近はすべて1枚の板から作られています。

包丁もステンレスが多くなりました。鋼で作られたものは焼入れにより非常に高い硬度になるので切れ味は抜群ですが、すぐに刃先が腐食するので常に磨いておかねばなりません。板前修業の第一歩は包丁の砥ぎとか。ステンレスは鋼ほど硬度を上げられないので、切れ味は今一つですが、刃先の腐食を考慮に入れると一般家庭ではこの方が喜ばれるのでしょう。

980904掲載

「第十四話」

ステンレスあれこれ話(2)

ステンレス鋼の用途開発にまつわるトピックの続きです

耐熱性(耐酸化性)を活かした用途

家庭用のゴミ焼却炉もステンレスで作れば半永久的に使えます。20年ほど前に持ち家制度を利用して2x4工法で自宅を作りますたが、その時知り合いの鐵工屋に頼んで10mmの厚板で家庭用としてはびっくりするような大きなゴミ焼却炉を作ってもらいました。庭の片隅の置いて重宝しましたが、良く燃えるだけに温度が上がったのでしょう、一年の使用で酸化腐食でごみを入れる蓋が止まらなくなりました。 ぺらぺらの鉄板で作ったごみを焼くドラム缶に毛の生えたようなものが一万円くらいで売られていますが、恐らく一年も持たないでしょう。

10数年前に、新規事業としてあれこれ考えた時に、ステンレスで家庭用ゴミ焼炉を作り市販する事を考え、試供品の試用を始めた所、表面に色は付くものの、減肉までには至らず恐らく半永久的に使える事が確認できました。 ところがこれを市中の金物屋に持ち込むと4割から5割のマージンを要求され、原価二万円ほどのものが販売価格四万くらいになり、これを買う人はいませんでした。仕方なく余剰要員を活用して訪問販売をした事がありますが、25千円で買った人は今でも使えているはずです。

このように800〜900℃間での温度で使う材料としてはステンレスが最適です。自動車の排気ガス系にもステンレスが使われています。 それは良いのですが、私がクラウンを買って、冬にスキーに良く行きましたが、2冬目にマフラーを取り付けているサポートが腐食してマフラーが片持ちになり、バンパーの下に当たり、樹脂だったもので排気管で大きなえぐりを作りました。良く見るとサポートは普通鋼薄板の亜鉛メッキ材をプレスしたもので、どう見てもすぐ腐食しそうなものでした。道路の塩により腐食が進んだ事とは思いますが、えらい手抜きだなーと憤慨したものです。自動車屋にはステンレスの切れ端を持って行き、これを使ってもらいました。

自動車の排気ガス系の話のついでに、排気ガスの浄化が10数年前から話題になるようになり、各自動車メーカーが触媒装置を排気系につけることが始まりました。 最初はセラミックが使われていたのですが、強度的に弱くまた軽量化のニーズもあってステンレスを使うための研究が行われました。強度的にも耐熱性も問題が無いのですが、表面に触媒をつけるには、ステンレス鋼にアルミニュウムを合金させておく事が必要で、アルミを入れると脆くなり加工性が低下します。この問題も解決し現在ではほとんどの車の排気ガス触媒コンバータにはステンレスが使われています。もちろん排気ガス管はステンレスです。最近新車を買っていないので、排気系のサポートがステンレスかどうかは知りませんが。

熱伝導度を活かした用途

ステンレス鋼は熱伝導度が普通の鋼に比べ低い特徴があります。即ち熱を伝えにくいのです。 この特性を生かして新しい用途が開発されました。

風呂

風呂桶(バスタブと言いますが)には木製、ホーロー製、プラスチック樹脂製、ステンレスなどがありますが、その中でステンレスはなんとなく冷たい感じで、高級感がありません。 が、実用的にはステンレスが一番だと思います。お湯は冷え難いし、掃除も簡単だし、寿命も長く家の寿命より長く使えるでしょう。 と言いながら、持ち家を作った時には2階に風呂を置いたので水漏れ防止の点から樹脂製の一体成形品を使い、今回の転居で家の改装には、家族の要求を入れてホーロー製になりました。 そんな事で社宅の風呂の改装時にステンレスバスタブを使っただけですが、確かに風呂にはステンレスが適していると実感しました。問題はどうやって普及させるかでしょう。 地球環境問題から省エネを前面に押し出し、高級感を出す事が必要なのでしょうか。 ステンレスバスタブは1枚の板をプレスで深絞りして作るので、最初のころは十分な広さの板が出来ず、従ってひざを曲げてチジ込まないとは入れないような小さなバスタブしか作れませんでした。 また工事が簡単なので、公団住宅で普及した事が高級感を阻害したのでしょう。

マホービン

マホー壜はガラスが2重になっていて、その内側は真空にし更に熱を反射する為に銀とかアルミをメッキしていました。これに対しステンレスを2重にして、その中を真空にしたマホー壜が開発されました。ガラスに比べて強度があるので薄い板が使え軽量化が図れ、外側をそのまま露出しても壊れる事はありません。バスタブと違ってマホー壜は携帯用としての機能性がファッション感覚にマッチし瞬く間に普及しました。

マグカップ

マホービンにあやかろうとコップを同じような仕組みで作りマグカップと命名しました。ビールを入れるといつまでも冷えているし、コーヒーを入れるといつまでも暖かいということで実用的には結構なのですが、価格が高い事とファッション性が無い事で失敗作でした。我が家には大小いくつかのマグカップがありますが、洗面用のコップに成り下がっています。

ビール醸造用のタンク(味覚と言う摩訶不思議)

ステンレスが普及し始めた時、ビールの醸造用のタンクにステンレスが使われるようになりました。これには溶接性のよいニッケル系が使われるのですが、普通の18-8ステンレスではなく何故かモリブデン(Mo)を含んだ耐食性のよい材料が使われました。モリブデンは耐食性を高めるので、化学用には良く使われるのですが、単価の高い元素でエキストラが付く品種です。この用途にはMoまではいらないだろうに何故と訊くと、ビールの味が違うのだとのことでした。味と言われるとドライすら利き分けられない私ははぁーっと言うだけでした。

ステンレスの磁性にまつわる話

ニッケル系のステンレスは磁性がないと言いましたが、実は常温で塑性加工(変形させる事)をすると硬くなると共に、磁性が出るようになります。この磁性を出難くする(加工しやすくする)には、ニッケルの量を増やせばいいのですが、前にも言ったように、ニッケルは非常に高い元素なのでコストがかかります。 例えば、ねじとかボルトなどは頭を叩いて広げ、さらにその部分にプラスの孔を打ちこんで加工します。このような用途にはニッケルを5%ぐらい追加して加えるのが普通です。以前にも書きましたが、磁石につくのはクロム系ステンレス=安いステンレスというイメージがあり、磁性を持つ製品は歓迎されません。 磁性があっては困る用途(例えば磁気浮上鉄道の周辺構築物など)は限られており、本質的に問題の無い部分にコストの高い材料を使うのはWORLD WIDEに考えた時無駄なことと思うのですが。

皆さんおなじみのフロッピーの裏中央にはセンターコアが付いていますが、これは駆動の為に磁性が必要なのでクロム系のステンレスが使われています。 シャッターには磁性があってはいけないのでニッケル系です。 最近はシャッターはステンレスが使われなくなりつつありますが、これはコスト競争に負けた結果で、私は今でもステンレスシャッターのついたものを買っています。

ボルトの話が出たついでに、ボルトの話をもう一つ。 ステンレスボルトやネジが急速に普及しています。この頭の部分の加工は非常に過酷な加工で、柔らかい加工しやすい成分を使い、疵の無い物でなければならず、高度な製造管理が必要な材料です。 ある時需要家から、機械にコイルをセットし、一晩中無人で運転できる材料が欲しいとの要求が出ました。それまでは、6時間くらい運転すると、工具が磨耗して成品の形状が出なくなるので、どうしても人間が付いて成品の形状を見ながら、工具の交換が必要である。 要員合理化して夜間は無人にしたいと言うものです。 材質を極限まで軟質化してもダメだったのですが、研究者の発想で鋼の中の非金属介在物が工具の磨耗に効いているのではないかと、硬質介在物の減少対策を講じた所、一晩中打てる材料が出来ました。顕微鏡で探してもそんなに沢山見つからない介在物がマスでは大きな影響を与えている事に驚くと同時に、広い視点から取り組む事の重要性を再認識したものです。

以上長々と書いてきましたが、身の回りにある鉄鋼成品(ステンレスに限らず)は、ここに述べたような用途開発をくぐり抜けた、関係技術者の知恵の結晶です。 改善改良を重ねた結果品質は格段に向上しているのですが、価格は私が鉄鋼業に関与したこの40年間ほとんど変わっていません。 こんなものは他には無いのではないでしょうか。

981001掲載

「第十五話」

鉄筋(1)

鉄筋とはコンクリーと共存して使われる鉄鋼材料で、圧縮力には強いが、引張力には弱いコンクリートと、引張力には強いが、錆びやすい欠点を持った鉄を組み合わせることで、コンクリーのアルカリ性が鉄の錆を防ぎ、圧縮力にも引張力にも強く寿命も長い、そして安価な構造体を作る材料です。今回はこの鉄筋について色々の観点から取り上げて見ます。

鉄のリサイクルの担い手

鉄鋼材料は、リサイクルの出来る材料で、紙の回収と同様に早くからリサイクルの流通経路が出来あがっていました。 しかしながら、最近の鉄鋼製品は、用途に応じた使いやすい製品を作り分ける技術が開発され、結果として厳格な成分管理が行なはれるようになりました。その為には不純物の入りやすいリサイクル材を原料とすることが難しくなりました。 一方では鉄の用途が拡大し、鉄屑としてリサイクルされる時に付随して付いてくるもの(不純物)が多様化し、再利用の妨げになるようになり、鉄屑は次第に主として鉄の強度を生かす用途に限られるようになりました。

鉄鋼材料の特性を表す代表的な値は強度と靭性ですが、その他切削性、低温靭性、耐食性、加工性、耐磨耗性等々の特性があり、それらを必要とする用途には、夫々の特性を作り分けることが出来ます。 その中にあって鉄筋用途は強度が主たる要求特性で、普通程度の靭性があれば事足ります。 そうしたことから、鉄筋は鉄屑を主原料としたリサイクル成品として現在の地歩を固めてきました。

鉄筋の中には、海砂対策としての耐塩性鉄筋とか、LNGタンク用の極低温用鉄筋と言ったような特殊な特性を要求される場合もありますが、この時には鉄屑を原料とせず、純度の高い高炉材が使われるのが普通です。

鉄鋼製造の基本技術による製造

鉄筋は最も代表的な普通鋼で、ごく一部の特殊用途を除き、鉄鋼製品の製造技術としては基本的な技術で作ります。(言いかえれば最もグレードの低い鋼で充分なのです) 要は鉄鋼製造の基本プロセスに沿って、鉄屑を溶解して成分調整を行い、固めた後ご存知の形状に圧延して出荷すれば事足ります。 したがって基本技術と基本設備さえあれば、生産が出来ることと、材料がリサイクルの鉄屑なので、地域立脚型の小規模の会社が乱立出来る潜在可能性を持っています。

製鋼技術(溶解と成分調整)の動向

溶解には主として電力を使います。 電力は非常に使いやすいエネルギー源ですが、最大の欠点は単価が高いことで、電気炉メーカーは使用電力の低減に知恵を絞っています。

大体1トンの鉄屑を溶かして成分調整をするのに400KWH程度の電力を使いますが、工夫すれば250KWH位まで減らすことが可能です。この工夫に各社知恵を絞っています。要は溶解に必要な温度までに使う熱エネルギーを電力以外の安価なエネルギー源に置き換える工夫です。 一番安いエネルギー源は電気炉から出てくる排ガスで、これを如何に徹底して活用するかについて、最近の新設備には工夫がこらされています。次いでオイル等の液体燃料(日本では気体燃料はコスト的に合わない)の吹き込みも行われています。 熱ロスを抑える為に電気炉の開口部も最近は少なくなってきました。

また家庭用電力にもあるように深夜電力の契約をすれば電力単価が安くなるので、夜間と休日だけ操業する会社も増えてきています。

頭で考えれば、電気炉に装入する材料を排ガスを通す煙道から連続的に投入すれば、排ガスの顕熱は徹底的に利用できそうに思えますし、実際にその考え方で作られた炉があります。 しかしながら鉄屑は形状材質の点で種々雑多なものが含まれており、加熱されて溶着したり、突っかかって動かなくなり、思ったようには稼動していないようです。鉄屑の選別と形状調整をすれば良いのでしょうがそれではコスト的に合わなくなります。また高温部に使う材料に良いものが無いことも問題なのでしょう。

更に、溶解と成分調整を分離して、電気炉で溶解した溶鋼を別の炉に移し変えて、成分調整をすることで、無駄な合金の投入防止と、能力増強による電力削減をする傾向にあります。

連続鋳造技術の動向

溶けた鉄を固めるには、連続鋳造が使われます。 鉄筋の圧延に使われる材料は小断面の材料が求められるので、連続鋳造設備もコンパクトなもので済み、要求される品質レベルも低いので、シンプルな装置です。連続鋳造は1960年ごろ日本に導入されました。 この基本技術を発展し実用化したのは日本の技術陣で、ついには日本が世界の連続鋳造技術をリードするようになりました。

当初の問題点は、製鋼能力に比べ生産能力が低く能力アンバランスになる、中心部に巣が出来たり不純物が集まる(偏析)、表面に欠陥が出来やすい、非金属介在物といわれるものが多い、安定して操業できないと言うようなことでした。

したがって。とてもこの技術の適用できる用途は限定されると思ったものでした。 しかし日本の高炉各社は、この技術の可能性に賭けて開発に取り組みました。 その過程において、設備メーカーとタイアップし、設備改善と操業改善を進め成功したのです。 長年におけるこの関係は、操業ノウハウが設備メーカーにも渡ってしまうことになりました。

片や、鉄筋用の連続鋳造設備は上記諸問題の内、安定操業と表面欠陥防止が図られれば実用になります。 この問題は連続鋳造の基本問題で高炉メーカーの最初に取り組んだ問題でもありました。 高炉メーカーの開発の成果は当然のことながら設備メーカーも持つようになり、設備メーカーに設備を発注さえすれば、歩留まり向上、要員合理化、工程簡素化などのメリットを享受できます。 このメリットは素晴らしく大きいので、電炉各社は競って連続鋳造を採用するようになりました。

鉄筋製造用の連続鋳造設備は、鋼種も限定され、サイズも単一で余計な機能は付けず(したがって価格も安く出来る)シンプルなものですが、その反面、操業上の改善な大幅には期待できません。 むしろ、使いっぱなして、老朽化すれば新設備と入れかえるという考えが主体でした。 そうすることにより、その間に開発された新技術を適用でき、競争力が増します。 バブル崩壊後各社はこの考え方で設備更新をし、高速鋳造の新鋭機が稼動しています。(当然能力も増大しました)

圧延技術の動向

鉄筋棒鋼の圧延は、丸棒を圧延する方法と同じで、最後に凹凸のついたロールを使えば異形棒鋼(鉄筋)が作れます。 鉄筋棒鋼としてJISに定められているサイズは6mmから51mmまでですが、同一の圧延機でこのフルサイズを圧延することは不経済で、圧延機を使い分けます。一般に棒鋼とか線材とか鋼管の製造設備の経済的製造範囲は最小サイズの約3倍が最大サイズになります。 したがってベースサイズミルといわれる圧延設備は13mmから51mmを製造し、細物ミルは6mmから11mmを製造し、住み分けが出来ていました。

所が後で述べますが、阪神大震災後細物が使われる補助筋の重要性が再認識され細物需要が増加し(本来需要が増加するのはバン万歳なのですが)細物を使う補助筋の作り方が合理化され始め、直棒の鉄筋からコイル状の鉄筋にシフトが始まりました。 需要減退も重なり、細物メーカーはベースサイズの中の下の方のサイズに進出し始め、マーケットの混乱を助長しています。

圧延設備は国内ほぼ全てのミルが、高能率の全連続式ミルになっています。全連続式とは言いかえれば、相当早い速度で圧延しなければ圧延途中で鋼材の温度が低下してしまうので速度が速く、言いかえれば設備能力が増加することになります。 旧式のミルとではコストが圧倒的に違うので、この全連続式化は時代の趨勢なのですが、バブルの利益を設備の近代化に投資した結果、大変な余剰能力が出来てしまいました。 こうして圧延設備が同一ラインに並んだ現在では、競争力は加熱原単位、歩留原単位、切断の仕方位しか差の出る所は無く、これらの点に各社知恵の出し合いをしています。

加熱での省エネルギーの最たるものは、連続鋳造で出てきた高温の鋳片をそのまま圧延に使う或は補助的に加熱して使う方法です。この方法は製鋼から圧延までの全ての工程で故障があると全ラインが停止し、連続鋳造のように鋳造の中断は極めて難しいので、設備の信頼性が高くないと採用できません。 でも果敢にこの方法にチャレンジしているミルも数社あり、他社も出来るだけ鋳造の熱を活用する工夫をしています。

圧延歩留は材料重量と成品重量に比率ですが、本来加熱炉での酸化減量、圧延中の鋼材先端の切り捨て、切り揃え時の切り捨てなどで100%を超えることはないのですが、国内全ミルとも100%を越えています。 これは鉄筋の製品単量(Kg/m)がサイズ毎にJISで決められており、その許容範囲内で軽く作る(同じ材料から長く作る)ためです。(業界では薄引きという) 成品の断面積は加熱温度(と言うより圧延時の鋼材温度)やロールスタンドの剛性などによりわずかに変化します。この変化の中で最小の断面積でも許容範囲内に収まるように狙い値を小さくしているわけです。 細引きを非難する人もいますが、圧延技術屋の私は規格がある以上、その範囲で最善をつくすのは当然のことと思っています。 絶対に細引きをしては困る用途の場合には許容範囲としてマイナスを認めなければ良いわけで、現にそのようにしている規格もあります。

切断の仕方に付いては後にも触れますが、日本では鉄筋の長さは500mm刻みの長さで流通します。この為に各ミルでは切断後の長さ別の集荷装置を設け切り分けています。一見ロスの少ない合理性のある方法のように見えますが、設備が大きくなり複雑になり出荷まで複雑になっています。 この切断の仕方に工夫を凝らせば競争力が増すことになります。

東南アジアでは単長が決められており(12mとか)切断ラインがすっきりしています。見えない所で国全体では大きなロスが出ているのですが、不合理とアナウンスする人がいないのが現状です。

990204掲載

「第十六話」

鉄筋(その2)鉄筋の技術課題

一番シンプルな鋼材である鉄筋にも技術課題があります。高級鋼と違って技術的にはシンプルな課題なのですが、事勿れ主義のメーカーとユーザーの特異な関係から問題を直視せず先送りされている(或は問題意識を持たない)事から、解決の方向は見えていない問題です。

降伏点

鉄鋼材料に要求される機能は主として強度と靭性です。 強度と靭性の特性を得るために、鉄に合金を添加します。 鉄鋼材料には普通鋼と特殊鋼がありますが、普通鋼は炭素(C)とマンガン(Mn)を添加したもので、特殊鋼はそれに特殊な元素(Ni、 Cr、Mo、 などを目的に応じて添加しています。

鉄筋は代表的な普通鋼ですから、CとMnで材質を調整します。 Cは強度を増すのに最も効果を示す元素です。Mnは僅かながら強度を増しますが主目的は靭性を増すために使います。

一方鉄筋コンクリート構造物の最近の動向として、構造物が破壊するとき一挙に破壊せずじんわりと変形することで外力吸収する設計(耐震設計)が使われています。このために重要な特性は降伏点で、強ければ良いと言うのではなくある範囲に無ければならないという観点から、補助的に使われる鉄筋を除いて降伏点には上下限が設けられています。

ここで降伏点とは、その値までの外力には弾性変形するが(外力が無くなると元に戻る)その値以上の外力がかかると、塑性変形してしまう値を言います。鉄鋼材料の機械的性質の基本である引張試験で、引張力を掛けていくと材料が比例的に伸びますが、ある値で伸びだけが出るようになります。その後力を加えると伸びが急速に出るようになり破談に至ります。この伸びだけが出る値を降伏点と言います。

この降伏点は主として普通鋼の強度の低いものに顕著に表れる現象で、高強度材には現れなくなります。 そこでJISでは降伏点が出ない材料でも降伏の概念を適用するために、塑性変形が3%になる値を降伏点とするように決めてあります。

前置きが長くなりましたが、あるときあるプロジェクトに出荷した鉄筋に降伏点が無いから不合格であると言う知らせが、工事事務所からありました。

降伏点が無いと言うことは無いので調べさせたところ、ちょうど電炉製品の品質問題が世情を賑わしていた時で、建設省から公共事業に使う材料は、公的機関で抜き取り検査に合格するものを使うよう指示があり、1本3000円の試験費用で京都のさる試験所で試験したら降伏点が見つからないので、欄に棒を引いて報告されていました。 サンプルをチェックしたら、かすかに降伏点は見えるし、3%塑性変形の値も含めてちゃんと規格範囲に入っていました。3%塑性変形法の試験は手間がかかるので普通は使いません。

部下の技さ部長に降伏点は、出れば良し、出なければ3%塑性変形法で計るようにJISで決まっているのでそれを良く説明し、追加費用はこちらで持つから再試験をしてもらえと指示しましたが、そんなことよう言いません。 そんな事言ったら他社のものに変えられてしまいますとビビルばかりです。販売部門まで入ってきて代品納入を声高らかにわめくので、代品納入にしました。

ことなかれ主義の工事事務所や被害者意識の強い電炉屋を嘆いても仕方ないので実情を調査しました。 原因はMn含有量が多く降伏点が見え難くなっていたことと推定しました。 出荷検査では、熟練した測定員が引張試験機の針を注視していて、針が少しでも止まるとハイそこだと測定しているので、微妙なものではあります。

前述したように、Mnは靭性を増す元素です。したがって同じ強度ならC含有量が低くてMnが高い材料のほうが良質の鋼と言うことが出来ます。20年ほど前に新日鉄にいたとき高炉材と電炉材の比較をしたことがありましたが、そのとき強度をCで付けてMnを驚くほどケチっているのを見ました。だから電炉材はヤバイのですよとお上に報告したことでした。 高炉材は不純物が少ないので、Mnを多めに入れても降伏点が出るのですが、電炉材は不純物が多くMnが多くなると降伏点が見え難くなります。したがって、降伏点を見せるためにMnを少なくし、コントロールし難いCで強度を出しているのです。 材料屋から見れば邪道です。

このMnを少なくすると現れ難かった降伏点が見えるようになります。 しかしMnを少なくするためには強度確保の為に、敏感なCを増やさねばなりませんが、Cを上げすぎると熱感受性や靭性が不安定になるので、Cの他に強度を保つためにヴァナジュウム(V)を入れています。強度の高いSD345やSD390にはこうした事からヴァナジュウムが添加されています。

年間鉄筋総生産1000万トンの内、SD345が800万トン、SD390が100万トンと仮定すると、SD345に800トン、SD390に200トンの高価なヴァナジュウムが降伏点の為に使われている計算になります。(計1000トン約20億円)
電炉業の技術屋の会合で、3%塑性変形法を使うことはJISにも明記してある方法なので、業界として通産と建設省に申し入れようではないかと提案しましたが、皆さんそれぞれ自分のところは何とかしているので、お上に申し入れるなんてとんでもないと賛同されませんでした。 
 
時効硬化

鉄筋の強度は圧延したすぐ後と、しばらく置いてからでは変わる事があります。これを時効硬化と言います。一般論としては鋼中に溶解している水素が析出し、強度を増し靭性を低下させる現象です。この現象は温度を上げると促進します。 自動車用の鋼鈑はこの性質を積極的に利用し、柔らかい状態で加工し、塗装後の焼き付け工程の熱で鋼鈑を硬化させ強いボデーにしています。 鉄筋にもこの現象が特に強度の高い材質の場合出易くなります。 問題なのは一般的に強度の高い材料ほど靭性(この場合伸び)が低く、規格に余裕が無い事と、需要家でサンプルをとって引っ張り試験をした時の値が生産直後に行う工場での値と違う事です。

工場では通常圧延直後にサンプルを取り試験を行います。この試験で伸びの値が規格値に対して余裕がないと、出荷後に規格外れになる可能性が出るので出荷できません。 時効硬化を人工的に促進するには、温度と時間を与えれば促進するはずですが、これはルール化するほどの確実性がありません。 そこで気休めとはわかっていても促進試験を行うか、数ヵ月置いておくか、或は試験をした時には規格を満足しているのでそのまま出荷するか、各社まちまちの対応です。

需要家での試験値と工場での測定値の違いに付いては、自社の蓄積データで変わるであろう値に修正した値を証明書に書いたり、不確かではあっても促進試験をしてその値にしたり、そのままの値を書いたりしているようです。

しているようですと、他人事のように書きましたが、各社の状況がわからない部分で、恐らく標準書には書いてあるのでしょうが、社外秘になっています。 ちなみに私の指示は需要家のデータ-と齟齬が出ても良いから自社試験データをそのまま書けというものでした。

そのためには、時効が起きても材質は規格を外れないように、規格の範囲よりも狭い範囲で成品を作る必要があります。 材質は主として鋼の化学成分で決まるので、電気炉での成分調整が重要になります。 電気炉で成分調整をするにはその時間が生産能力を落とすことと、牛刀で鶏を裂くほどの過剰設備なので、成分調整のための専用炉を付けるようになりました。この炉(LF炉と言う)は特殊鋼メーカーが狙った成分にするために考案された設備ですが、いまや鉄筋にも広く使われています。

鉄鋼成品の中では一番ベースの品種である鉄筋でもこのような問題があり、信頼される品質を目指して努力しているのです。

990304掲載