(注:この文を書いていた時はまだウェールズ出身のバンドがあまり知られていなかった頃で、SFAやゴーキーズ、カタトニア、ステレオフォニックスなどの活躍によりウェールズ出身のバンドが広く認知されるようになった現在の状況とは随分かけ離れていますのでご了承ください。また文中に注を入れておきましたのでご参照下さい。)
<その1>
はじめに断っておくが私はこれまでウェールズには1度も行ったことがない。そんなことでこんなテーマを論じるのはナンセンスじゃないかという人がいるかもしれない。しかし君たちの大好きなリッチー・ジェイムズだってこう言っているのだよ…「実際に外国に行ったからってその国のことがわかるわけじゃないだろ。僕なら例えばフランスのことを知りたいと思ったらまず本を読むよ。」
「Generation Terrorists」 レビューの時の挿し絵。リッチーの胸に書かれている言葉はイギリスのプレスがウェールズを語る時に必ず用いられる「LLANFAIRPWLL...(以下略)」。詳細は注13参照。 |
マニックスの熱心なファンならニッキー・ワイアの本名がニコラス・ジョーンズ(NICHOLAS JONES)であることを知っていると思う。そしてちょっとでもウェールズに関心のある人ならウェールズではジョーンズ姓が日本でいう鈴木みたく多い(注2)ということを知っているのではないだろうか。実はジョーンズだけでなく、エドワーズとかウィリアムズとかロバーツみたいな「名前+s」で構成されるような苗字のほとんどがウェルシュ・オリジンなのである(注3)。したがってロンドンっ子を気取るマイク・エドワーズとかあのテイク・ザットのロビー・ウィリアムズなんてのもそのルーツはきっとウェールズ人なのである(違っていたらゴメンナサイ)。
イギリスのプレスはバンドを語る時によくその出身地を引き合いに出して語るのが好きだ(マンチェスター・ブームはそういったプレスの性格を逆手に取ったマンチェ・バンドの戦略によって引き起こされたものといえよう)。マニックスについても何かとその出身地であるウェールズとの関連で語りたがる。リッチーとニッキーの2人が本名をふせていることは故なきことではないのである。マニックスがウェールズという地方性を全面に押し出すバンドであったら事情はかわっていたかもしれない。ではマニックスのウェールズ観を次章で考察してみたい。
<その2>
ニッキーの右に見えるのがウェールズ国旗です。今度の来日公演でも持って来てくれるかな? |
ウェールズという地方はその歴史が他国による侵略の繰り返しであるため、自国のアイデンティティにかけては特に熱心な土地柄といえよう。周知のとおりユニオン・ジャックという旗はイングランド、スコットランド、アイルランドの守護聖人の旗を組み合わせてできているが、ここにウェールズの旗がないのはその当時ウェールズはイングランドの支配下にあったからであるという説明が一般になされている。だがウェールズにも独自の旗は存在する。上が白、下が緑の2色からなる背景に赤いドラゴンが描かれているもので、これはWOWOWでも放映された92年レディング・フェスティバルのマニックスの演奏の時に見ることができる(観客層の前方)のでビデオにとってある人は興味あればチェックしていただきたい(注9)。
いまひとつウェールズ人が誇りにしているもののひとつに歌がある。「数人集まれば歌を歌う」というほどの歌好きであり、合唱隊も無数にあるということである。昔一世を風靡したボーイ・ソプラノのアレッド・ジョーンズ(例によってジョーンズなのだが)は北ウェールズのバンゴールの聖歌隊出身である。この歌手は日本でも大変人気がありCDも数多く出ている(注10)が、なかでもウェールズ民謡が収録されているいくつかのアルバムが貴重である。ウェールズ民謡は日本ではあまり聞くことができないだけに特に興味深いといえよう。話はそれるがウェールズ出身のスター歌手といえば最近ではブリン・ターフェル(注11)である。ターフェルは最近ニューヨークのメトロポリタン・オペラにデビューして大好評だったらしいが、その時にウェールズから来たファン(大半が農民だったらしい)が大挙してニューヨークに押しかけたというから、いかに彼らが同郷の歌手を誇りに思っているかがわかろうというものだ。
もうひとつウェールズときいて思い浮かぶものといえばラグビーであるが、ブリテン島の他の国が圧倒的にフットボール(サッカー)のファンが多いのに対し、ラグビーにこだわるウェールズ人が多いことから英国内でもしばしばジョークの対象とされる。(注12)
このようにウェールズはブリテン島の他の2つの国(イングランドとスコットランド)に比べ、自国のアイデンティティに対する意識がことさら強烈といえよう。こうした一種民族主義的ともいえる発想は、そもそも帰属意識を持たないマニックスの4人にとっては滑稽で無意味なものに思えても無理はないであろう。特にデビューの時は何かと出身地にこだわるイギリス(ロンドン)のプレスによる勝手なイメージづけを警戒したであろうことは想像に難くない。「彼らはウェールズの田舎者パンク」なんてことで一切を語られたらたまったものではないものであろう(注13)。ジョーンズだのエドワーズだのといった名字をふせたがるのはこういった背景があるのではないかと思われる。
とはいえ、彼らが自分たちの国を誇りとは思っていないかもしれないが、少なくとも「他の土地へ行くよりはマシ」ぐらいには思っているようである(注14)。リッチーは最近親元を離れ一人暮らしをしているということであるが、そのアパートというのがロンドンもしくはその近郊ではなく何とカーディフにあるという(注15)。ジェームズはいまだに親と同居しているというから当然ウェールズに住んでいる。「いっておくけど、僕たち4人のだれひとりとしてロンドンなんかに家を買ってないよ。」(リッチー・ジェイムズ)(注16)
(1995年2月)
注1:これは今にして思えばエイフェックス・ツインのリチャード・ジェイムズと紛らわしいから、という気もしないでもないが考え過ぎだろうか?ちなみにその後エイフェックスのほうはリチャード・D・ジェイムズと名乗るようになったが・・・
注2:実際にはかの地における「ジョーンズ」の多さは日本の「鈴木」というより韓国の「金」の感じに近いように思う。ステレオフォニックスもメンバー3人中2人がジョーンズです・・・
注3:これは中世の時代、イングランドのお代官がそれまで特定の名字を持っていなかった地元民に対して「地主の名前を名字とするように」と要求したことによるといわれている。つまりJohnという貴族の土地に住んでいる人はJones、Edwardという貴族の土地に住んでいる人はEdwardsを姓としたのらしい。そんな安易なことでいいんだろうか・・・
注4:文中「スコットランド通貨」というのは「スコットランド紙幣」の間違い。「英国内なら、少々いやな顔をされても、一応は通用する三つのスコットランドの銀行が発行する紙幣も、一歩国外へ出れば子供のおもちゃ並み。国際的にはイングランド銀行券しか認められていないのに、彼らは頑固に自分たちのお金を作り使いつづけている。」(保柳健「大英帝国とロンドン」音楽之友社)
注5:もちろんこんなものは実際にはない。将来どうなるかは知らないが・・・
注6:ウェールズ語はゲーリック語やアイリッシュ語と同様ケルト語族に分類される。1536年のヘンリー8世の勅令によりウェールズ語をはじめウェールズ固有の文化がすべて禁止されるという暗黒の時代があったが1967年にウェールズ語が公式に認められて以降は街の標識もテレビ・ラジオもウェールズ語が占める割合がどんどん増えているらしい。
注7:ここの個所は今にしてみればあまりにも浅はかな表現だと思うが、現在の日本においてアイヌ文化、アイヌ語はどれほどの勢力を持っているのだろうか?また沖縄語は?これらの文化はもっと認知され、尊重されるべきだと思う。