『サル』のウロコ本
「サル学の現在」 
 (著:立花隆 発行:平凡社 1991年)

          石川彦士


 先日、高崎山のサル山で『ボスザル』という呼称をとりやめたというニュースが報道された。かわりに用いられることになったのが『アルファオス』という、なんだかよく分からないものだった。
 どうしてわざわざ、そんな分かりにくい名称に変更しなければならないのか。あのニュースを見ただけの人々には、よく分からなかっただろう。その答えが、10年以上もまえに刊行された本書のなかにある。

 『ボスザルは存在しない』
 つまりは、それが答えだ。そんな馬鹿なと思われるかもしれない。
 ニホンザルの社会は順位制による階層社会で、その頂点に立つボスザルは、敵に遭遇すれば先頭に立って戦い、群れを導き統率する。そのかわり、食べものやメスを優先的に確保することができるというのが、それまでの定説だった。
 しかし、ニホンザルの野生群の徹底的な観察によると、以上のような生態は見られなかったというのだ。
 確かに、体格が大きくてケンカが強く、他のサルから一目置かれているオスザルは存在する。だが、それが、群れを統率するようなことはないのだ。
 では、群れはどうやってまとめられているのか。その根底にあるのは、<仲間意識>なのだという。群れが移動するときには、特定の誰かが先導するのではなく、誰かが移動を始めたのをきっかけに、移動するかどうかをそれぞれが判断し、より多くのサルが移動し始めると、結果として群れが移動するというのだ。
 まるで、どこかの社会のようではないか。

 他にも、本書には、
・ゴリラには同性愛がある。
・政治的に立ちまわるチンパンジーがいる。
・ある種のサルは、子殺しをすることが確認されている。
 などと、にわかには信じられないような事例が、いろいろと紹介されている。

 ここまでくると、ヒトとサルとの間にどれほどの違いがあるのかと考えてしまう。
 もしかしたら、ヒトというのは、サルに毛が生えたぐらいの存在なのかもしれない。



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