映画感想 名作編
「トロイ」
前評判が良かったのと管理人がブラッド・ピットのファンなのとで、珍しく公開中に劇場で見てきました(普段はビデオ化まで待つ)。
ギリシャ神話の元ネタを知っているため、正直、ブラッド・ピットの顔くらいしか期待はしていなかったのですが、見事な仕上がりにノックアウトされました。
セリフが全て英語なのは不可抗力として、演技力のある良い役者を揃え、セットも小道具もバッチリ金をかけて全く隙のない画面。
しかし何より感動したのは、脚本と演出でした。
ギリシャ神話で“トロイ戦争”の原因とされているオリンポスの神々についてのエピソードを全て削り、あくまで人間世界の物語として描いたことで、使い古されたネタを、思い切り新鮮な切り口で活かしていました。
特に、世界一の美女であるところの高名なる“トロイのヘレン”の斬新な新解釈には舌を巻きました。
ギリシャ神話では、美しすぎるが故に神々のいさかいに巻き込まれ、偽りの恋に迷い国を捨ててしまう、悲劇の王妃ヘレン。
神様ネタ抜きでは、仮にも王妃が夫を捨て国を捨てて他国の王子と逃げることの必然性がなく、不自然になるのでは……と思っていたのです。
思っていたのですが。
ダイアン・クルーガー演じるケッバい厚化粧のヘレンは、見事にそんな懸念を吹き飛ばしてくれました。
衝撃でした。いや、まさかこんな演出がありうるなんて。
イケイケでパッパラ娘なトロイのヘレン!!
自国へ来た和平の使者と駆け落ち(その上に相手の国へ逃げ込み)という常軌を逸した愚行が、少しの違和感もなく納得できるキャラクター。
ええ、確かに。あの頭の悪そうな(失礼)ヘレンでは、王妃の立場を考えて自重とか、せめて戦争にならないように行方をくらまそうとか考えるのは無理でしょうとも。好きな男ができたら、それは夫も捨てちゃいますよ。
おまけに、相方であるトロイ王子パリスのヘタレっぷりも見事の一言。まさにお似合いカップルです。
自力で彼女を守る意思などつゆほどもなく、ハナからパパンとお兄ちゃんにぶら下がる気満々で
『彼女を愛してるんだ!(だから何とかしてお兄ちゃん!)』
とのたまうパリスの姿は、映画序盤から脳を揺さぶられるインパクトです。
国民を守るのが役目の王家の一員が、不倫の色恋沙汰で戦争起こしてどうするよ。
そして哀れなのは、頼れるお兄ちゃんなヘクトール。
作中一番の気の毒な人です。ぶっちぎりの不幸で不運なキャラです。映画のキャラに貧乏クジ大賞があったら、グランプリを取れます。いっそ副題を『ヘクトール貧乏クジ物語』とつけてもいいくらいです。
パパンのお使いで、手のかかる弟を連れて和平の使者。彼が交渉に励んでる間に、弟はそこの王妃と不倫。やっと仕事が済んだら、帰国の船に不倫王妃が乗ってる!!ぎゃああああ、どうするんだ!?
『返して来い!』
と叫ぶも、弟は駄々をこねるだけ。仕方なく連れて行って国でパパンを説得するも、
『じゃあパリスのために戦争しよう』
と言われる始末。彼はイヤだダメだと必死で止めたのに、パパンの一声で戦争開始。しかも、ヘタレの弟は能力的に完全に戦力外って言うかむしろマイナス、さらに王様でかつ高齢のパパンは戦場に出もしませんので、実際に身体を張って戦うのは彼だけです。
……パパン、少しはお兄ちゃんのことも考えてあげようよ……て言うか、お兄ちゃんの意見は1つも聞かないくせに都合よく頼って、大変なところは全部お任せはあんまりなのでは。
諸悪の根源のパリスに戦わせようとしないのはなぜ?ヘタレで負けるに決まってるから?
それでも国のために頑張るヘクトール。これが王子の心意気、とばかりに、気の進まない戦争の先頭に立つ健気な姿が涙を誘います。
その後の展開を以下に記します。
戦場に出るヘクトールの前に、とっても強い敵アキレウスが登場。ずたぼろになって戦って痛み分け。
↓
日を改めて戦場に出て、アキレウスの鎧を目撃するヘクトール。
↓
『また来たな!』と全力で切りかかる。
↓
それが実は、アキレウスのフリしてたヘタレなアキレウス従弟。
↓
「え゛」と思う間もなく一撃で殺してしまい、ヘタレ従弟くん昇天。
↓
それを聞いて大激怒するアキレウス。
「許さん!!」
……管理人、突っ込みました。全身の力を込めて。ええ。
待て。ちょっと待てアキレウス。
悪いのはお兄ちゃん(ヘクトール)ですか?
アナタの従弟が勝手に「アキレウスでーす。強いぞー♪」って戦場に出たんでしょ?
本当にアナタだったら、いくらお兄ちゃん(ヘクトール)でも手加減するわけにいきませんよね?思いっきりやっても勝てるかどうか、と思ったから全力でいったんじゃないんですか?手なんか抜いてたら、お兄ちゃんの方が死んでますよね?
お兄ちゃん(ヘクトール)が、どうすればよかったと思ってるんでしょうか?
管理人が心の絶叫をほとばしらせる前で、キレたアキレウスはヘクトールをブチ殺してしまいました。
……倒れて事切れたヘクトールの顔がちょっぴり“ああ、やっと楽になれるよ”風に見えたのは、管理人の妄想でしょうか。
その後はさくさくと進み、トロイは陥落しちゃいます。
……この国、本当にお兄ちゃん(ヘクトール)1人に寄っかかってたんだなあ……
兄を死なせ国を焼かせ国民を死なせて、なおも生き延びた失格王子パリスとパッパラ娘ヘレンのバカップルがどこへ行ったのかは、(管理人にとっては)どうでも良いことです。
甲斐性なし男と顔だけ女のことですから、どこかでまた他人に寄生して暮らしているのでしょう。
以上、のめりこんで観た管理人の感想です。
いやもう、本当に、何から何まで斬新極まりない、新観点のトロイ戦争でした。
最初から最後まで内心で突っ込み続けて、心の声もかれるほどでした。
自宅でビデオ見てたんだったら、絶対に喉がやられるまで突っ込んでいたことでしょう。
古典に新境地を開いた名監督、ウォルフガング・ペーターゼンの未来に幸あれ。
監督、グッジョブ!!
2006.07.18