第10回国際ポピュラー音楽学会、シドニー大会発表報告
発表者、報告者:
小笠原摂、大阪芸術大学大学院芸術文化研究科博士課程
発表題目:
Dialectics of Timbre: From electric guitar to guitar synthesizer
今回の発表内容は、99年3月に刊行された『藝術文化研究』第3号(1999、大阪芸術大学大学院芸術文化研究科発行)に収録された拙稿「電気ギターを特徴づけるティンバーの弁証法」をもとに国際学会用に多少の手直しを加えたものである。ポピュラー音楽製作の現場で中心的市位置を占める、電気ギターの発展の歴史とそのなかに70年代後半から登場するギター・シンセサイザーという新技術の位置を自分なりに検証しようという試みだ。ギター本体、ピックアップ、アンプ、エフェクターというつながりによって作り出される電気ギターの音色と、ギターシンセサイザーがMIDIケーブル、シンセ音源を使って鳴らす音色はどのように違うのか、またそれを聴く聴衆はその違いをどのように受けとめているのか。そして演奏者自身はその2種類の楽器に対してどのように接しているのか。などの議論の焦点はいくつかあるが、最大のポイントは、電気ギターが覇権を握るポピュラー音楽の世界で、ギターシンセサイザーがいかにして周辺に追いやられているか、そしてその原因は何かを探ることであった。
筆者はその原因を聴衆の期待と、実際の音色とのズレという関係の中に読み解こうとした。聴き手の中には、ポピュラー音楽をめぐる言説の中で作り上げられて来た電気ギターのauthenticityというものが根強く存在すると考えられる。それはクリーンな音色であれ、ディストーションをかけられた音色であれ、弦の振動を電気化したサウンドであり、聴衆はそれこそが電気ギターの音である、と認識する。しかしギター・シンセサイザーの場合、理論上は音源の中に登録されている音色であればどれでも鳴らすことができる。演奏者達はそんな音色選択の自由を追い求めたが、実際聴き手がギターという楽器に要求するものは上に書いたような、authenticな電気ギターの音色である。大きな影響力を持つ楽器なだけに、聴き手の期待もそれだけ大きく、電気ギターから派生したギターシンセサイザーはその期待から逃れられず、その存在を小さなものにしていかざるを得なかった。そんな中、何人かの演奏者達は現在でも実際にギターシンセサイザーを演奏に使用し、その楽器の特性を生かした演奏活動を続けている。
以上のような内容で発表を行ったが(より詳しい内容については前述の『藝術文化研究』を参照)、質疑応答においては、筆者が具体例として紹介したパット・メセニーに関して興味深い指摘を受けた。カナダから参加のナーヴァーイエス氏(Memorial University of Newfoundland)による、「メセニーの音色は常におなじ音色であり、ギターシンセサイザーの機能をフルに活用したものではないのではないか」というものである。筆者は、「確かにそうだが、メセニーはその音色を彼のトレードマークのように使用し、またそのような形でしかギターシンセサイザーは現在生き残っていないのではないか」と回答した。他にも実際に楽器演奏に関わる参加者が多かったせいか、いろいろな種類の楽器、現場でのギターシンセサイザーの使われ方、またギターシンセサイザーが使用された様々な音源、等々の情報を得ることができた。
この発表及びその後の質疑応答を参考にしつつ、楽器(主に電気ギター)、音色、そしてそれをとりまく演奏者、聴き手、楽器制作者のそれぞれの特徴を調査し、2001年に提出予定の博士論文への材料として活用していきたいと思っている。その意味で今回の発表は、今後の筆者の研究への何らかのヒントを与えてくれたと考えている。
最後に。
グラスゴウ、金沢、シドニーと参加して毎回思うことだが、大会では当然のように英語が「公用語」として使用されている為、筆者を含めた英語圏以外からの参加者はかなりのストレスを感じてしまう。実際に、あるワークショップでケベックからの発表者が質疑応答時に英語での返答ができなくなってしまい、「フランス語でもいいですよ」という場内からの声を受けてフランス語で話す場面があった。学会運営に関して言語は様々な問題をはらんでいる。、研究者がより活発な議論を進める為にも、あの場でのマナー、ルールのようなものが、よりよい形でできあがることを期待したい。