日本とカナダの生活時間
1. 社会の時間を比較する───全サンプル平均時間の比較
ここでは、1971-72年と1991-92年の2時点における日本とカナダの行動別平均時間を比較する。平均時間並に仕事をし、家事を行い、余暇活動を行う人が存在しないことからも分かるように、行動別平均時間は、個人の時間配分を反映しない。これは、行動別平均時間が、その行動をしている人としていない人を含めた値になるからである。しかし、平均時間は「社会の時間」の使い方を表現する「総合指標」であり、この指標は、有償労働、無償労働、余暇活動などをふくんだ社会体系の指標であると考えられる(矢野,1995)。ここでは、平均時間を「社会の時間」ととらえる視点から、日本とカナダの行動別平均時間の比較を行う。
表3.1 全サンプル平均行動時間

*単位は(時間.分)。以降の表もすべて同じ。
(1) 仕事時間
日本とカナダの時間の使い方でもっとも大きく異なるのは仕事時間である。週平均時間でみると、1991-92年時点において日本の仕事時間は1日あたり5時間ちょうどであるのに対し、カナダは3時間51分となっており、一人あたり1時間以上差があることになる。これを曜日別にみると、特に土曜日でその差が顕著である。土曜日の仕事時間は日本が4時間32分であるのに対し、カナダが1時間39分であり、3時間近くの差が存在する。
1971-72年からの20年の変化をみると、日本では週平均時間で17分減少している。矢野(1995)が指摘しているように、減少が顕著であったのは日曜で、3時間12分から1時間47分に、87分減少した。その一方で、平日については、むしろ6分増加している。カナダでは、日本とは逆にこの20年で週平均仕事時間が20分増加している。特に平日で増加が顕著で、43分増加しているが、土曜、日曜については減少している。土曜、日曜の「休日化」は日本、カナダ共通の傾向であるといえる。その一方で、日本、カナダともに平日の仕事時間は増加している。日本だけでなく、カナダにおいても一部の人は平日のゆとりについて、考えなければならない状況に来ているかもしれない。
(2) 家事時間
週平均時間でみると、育児時間を含めた家事時間は1991-92年時点において日本で1日あたり2時間48分であるのに対し、カナダでは2時間56分と、その差は8分であった。
1971-72年からの20年の変化をみると、日本では週平均時間で7分減少している。一方、カナダでは、週平均家事時間が29分減少している。社会全体の家事時間は、家電製品などによる合理化と市場サービスへの代替によって減少すると考えられる。カナダの減少はその通りの結果になっているが、日本の減少は非常に小さい。しかし、家電製品などが普及しても、その分家事の要求水準が高くなれば、家事時間は変化しない。日本で家事時間が大きく減少しなかった原因の一つにも、家事の要求水準が高くなったことが考えられるのではないか。
ここまで「家事」として一括して扱ってきたものは、大きく4つに分類することができる。「狭義の」家事(=domestic work),介護,育児,外部サービスの調達である(注1)。このうち、「狭義の」家事時間は、家電製品などの技術革新による「合理化」と、ホームヘルパーやHMRなどの「市場化」によって、短くなると考えられる。ここでは、これを「食事の用意」「食事の後片づけ」「屋内の掃除」「屋外での清掃」「洗濯」「繕いもの」の6つの小分類ごとの変化からみてみよう。
合計時間を週平均時間でみると、日本ではわずか2分しか減少していないのに対し、カナダでは41分も減少している。「家事全体」よりも日本とカナダの変化の差が顕著であるといえる。カナダの中で減少が最も顕著なのが、「食事の後片づけ」であった。週平均時間でみると、26分から13分に半減している。日本では週平均時間で21分から19分へと、わずか2分の減少であった。カナダでの減少はこの20年で自動皿洗い機が普及したことによるものであると考えられる。日本でも現在自動皿洗い機が普及しつつあるので、今後減少する者と考えられる。対照的に、「食事の用意」の時間の変化は小さかった。カナダでは週平均5分、日本では週平均2分の減少であった。日本のみならず、カナダにおいても「家庭の味」は重要であるのかもしれない。
「食事の後片づけ」に次いでカナダでの変化が大きかったのが、「洗濯」時間であった。週平均時間でみると、17分から11分に減少している。その一方で、日本では72年、91年とも21分であった。この20年で、日本、カナダともに全自動洗濯機が普及し、洗濯にかかる手間そのものは大きく軽減された。しかし、日本では「清潔志向」とともに洗濯の水準も高くなり、その結果洗濯時間は変化しなかった。また、「屋内の掃除」でも似たような傾向がみられた。カナダでは週平均で36分から29分に減少したが、日本では週平均で23分から22分と、わずか1分の減少にとどまった。
(3) 生理的必要時間
睡眠時間は、1971-72年の時点では、日本で7時間40分、カナダで7時間42分とほぼ同程度であった。しかし、1991-92年になると、日本で睡眠時間が減少し、カナダで睡眠時間が増加したため、日本で7時間22分、カナダで7時間55分と、日本の方が33分睡眠時間が短いようになった。
食事時間は、20年で日本では増加し、カナダでは減少している。食事時間は1971-72年の時点では日本で1時間29分、カナダで1時間39分と日本の方が10分少なかった。それが、1991-92年では日本で1時間35分、カナダで1時間21分と逆にカナダの方が14分少ないという結果になった。しかし、単純に食事時間が減少したとは言い切れない。なぜなら、ホームパーティーなど、食事を含んだ「交際」活動時間が長くなった場合、その行動は、食事時間には分類されないからである。
身のまわりの用事時間は1971-72年の時点では、週平均で日本1時間10分、カナダ1時間9分とほぼ同程度であった。それが、1991-92年には日本1時間13分、カナダ47分と、日本の方が26分多いという結果になった。アメリカ・ソ連の比較研究においては、「身のまわりの用事」時間は、日本と同じように増加している。生活水準の上昇に伴って、「身だしなみ」に対する水準も上昇すると考えられるため、「身のまわりの用事」は増加していると考えられる。このように考えると、カナダの大幅な減少は、不自然であり、妥当な解釈を与えにくい。調査方式によるものなのか、検討が必要であろう。
(4) 自由時間
会話・交際時間は、1991-92年時点において、日本で週平均59分、カナダで週平均1時間45分とカナダの方が46分多い。この差のうち、「社会参加」時間は19分、「会話・交際」時間は27分であった。1971-72年時点ではカナダの方が22分長かったのが、1991-92年時点では差が46分にも広がった。カナダではこの20年間で15分増加したのに対して、日本ではむしろ9分減少した。カナダではほとんど行われていなかったボランティア活動が盛んに行われるようになり、日本では人付き合いが疎遠になっていった状況を反映しているといえる。
教養・余暇活動時間(注2)は、1991-92年時点において、日本で週平均59分、カナダで週平均1時間19分とカナダの方が20分長い。1971-72年の時点では日本で週平均1時間3分、カナダで週平均1時間6分とカナダの方が3分だけ多かったのが、1991-92年の時点では差が広がった。この20年で日本では教養・余暇活動時間が殆ど変わらなかったのに対して、カナダでは14分増加したためである。個別の行動についてみると、1991-92年時点においては、特に大きな差のある行動があるわけではない。合計時間の差は、自由時間の絶対量そのものの差を反映していると考えられる。
マスメディア接触時間は、1991-92年時点において、日本で週平均2時間25分、カナダで週平均2時間26分と差がほとんどない。1971-72年の時点では日本で週平均1時間57分、カナダで週平均2時間12分とカナダの方が15分多かったのが、1991-92年時点では差がほとんどなくなった。この20年の変化をみると、カナダでは14分増加したのに対して、日本では28分増加している。増加時間のうち、テレビ視聴時間はカナダで20分、日本で26分を占めている。したがって、日本ではテレビもテレビ以外のマスメディア接触も増加したが、カナダではテレビは増加したがテレビ以外のマスメディア接触はむしろ減少しているということになる。マスメディア接触に関しては、この20年でテレビ以外の行動の合計時間の変化に大きな差があったということがいえる。
(5) 行動の「同席者」
日加比較に用いた生活時間調査では、行動の「場所」と「同席者」についても、集計を行っている。ここでは、行動の「同席者」についての比較を行う。ただし、「同席者」については、カナダにおいて調査方式が1971-72年と1992年で異なっており、比較が困難であるため、本稿では1991-92年時点の日加比較だけを行った。なお、集計の際には、「すいみん」「身のまわりの用事」の時間については、集計から除外した。
表3.2 1991-92年時点の行動の同席者別集計

1991-92年時点において日本とカナダで最も異なるのは、「友人」との接触時間である。週平均で日本で48分、カナダで2時間3分と、1時間以上も異なっている。ただし、分類の項目が、日本では「近所、職場以外の友人」、カナダでは「friends」となっており、厳密に一致しているわけではないため、ある程度の留保は必要である。しかし、これだけの大きな差があることは、日本とカナダで交友関係に費やす時間に大きな差があることを十分に示している。矢野(1998)は、豊かな生活を送るためには、「お金」と「時間」という、フローにおいてはトレードオフ関係を持っている2つの資源だけではなく、「友人」という第3の資源を考えることが重要であるとしている。日本とカナダにおいては、「友人」という資源に大きな差があるといえる。
それ以外の人との接触時間についてみると、平日においては日本とカナダでの差は小さい。しかし、土曜、日曜では大きく異なる。日本の方が土曜、日曜の仕事時間が長いために、「同僚・その他」との接触時間に大きな差があるからである。にもかかわらず、「ひとり」の時間は日本の方が土曜で53分、日曜で51分長い。配偶者との接触時間は土曜、日曜ともカナダの方が長い。全サンプルにしめる有配偶の割合は日本の方が高いことを考えると、カナダの家族の方が配偶者との接触時間が長いということがいえる。子どもとの接触時間は、日曜日ではほとんど差がないが、土曜日は45分カナダの方が長い。核家族との時間、とくに、子どもとの接触時間については、ライフステージによって大きく異なると考えられる。これについては、3節で改めて検討する。
(6) 行動の「場所」
最後に、行動の「場所」についての比較を行う。ただし、「場所」については、それぞれの調査で分類が異なっているため、日本の2調査とカナダの2調査のすべてを比較出来るような集計は不可能であった。そこで、1991-92年時点の日加比較、日本の2時点比較、カナダの2時点比較の3つについて、別々に集計を行った。なお、集計の際には、「すいみん」の時間は除いてある。
表3.3 場所別時間の日加比較(1991-92年)

(1991-92年時点の日加比較) 日本の方が仕事時間が長い分、職場にいる時間が長いのは当然といえる。それ以外で特に違いが大きかったのは、「他人の家」にいる時間に大きな違いがあった。特に、土曜、日曜ではそれぞれ59分、56分と1時間近くカナダの方が長かった。前述のように、カナダでは「交際」の時間が長いからであると考えられる。週平均時間でみると、「職場」「他人の家」以外での時間には大きな差はなかった。しかし、土曜、日曜における場所ごとの時間配分には大きな違いがあった。「その他の場所」での時間は、土曜においては、日本で2時間10分、カナダで3時間5分とカナダの方が長かったのに対して、日曜においては日本で2時間37分、カナダで1時間51分と日本の方が長くなっている。カナダでは土曜日に買い物や各種サービス施設に行き、日曜日には自宅または友達の家でゆっくりするというリズムが定着しているようだ。一方、日本では土曜日は職場で過ごす人も多く、その分、日曜日に街に行くか自宅にいるかという生活をしている人が多いようだ。
(日本およびカナダの時系列比較) 日本の20年の変化については、既に「生活時間の社会学」で報告されている。変化の大きな特徴は、日曜日の休日化に伴い、「自宅」と「各種サービス施設」で過ごす時間が増加したことであった。カナダでの変化も、日本と共通したものであった。具体的には、日曜日において、「その他の場所」が31分増加している。日本と異なるのは、「他人の家」の時間がカナダでは増加していることである。週末に仕事をする人が減った分、友人の家で過ごす人が増加したといえる。
表3.4 場所別生活時間の時系列比較(日本,カナダ)

(7) まとめ
「日本人は忙しい生活を送っているのに対して、カナダ人はゆとりのある生活を送っている。」
多くの人がもっているイメージであるが、このような漠然としたイメージでなく、日本の「多忙性」、カナダの「ゆとり」を具体的に描き出すことで、日本人がゆとりある生活を送るための手がかりを得ることが日本とカナダの比較調査を企画した目的であった。全サンプルの平均時間という「社会の時間」からみた日本人の「多忙性」は、一人あたり1日1時間以上長い仕事時間にあらわれている。その一方で、家事時間そのものには大きな違いになかった。「ゆとり」の面では、「会話・交際」時間が、大きく異なっている一方で、「マスメディア接触」の時間は同程度であったのが特徴的であった。自由時間の長さが、カナダの方がかなり長いことをあわせて考えれば、日本人の余暇活動は、マスメディア接触の割合が高く、カナダのそれはパーソナルな接触の割合が高いと結論づけられる。これを裏付けているのが、場所と同席者の時間である。カナダ人は、「友達」と一緒の時間と、「他人の家」にいる時間が長く、友達同士、お互いの家を行き来する交際の仕方が一般的であるといえる。一方、日本人は、「自宅」の時間と、「ひとり」の時間が長い。日本人の自由時間の過ごし方はマスメディア接触の比率が高いことを考えると、家で独りテレビを見ているイメージが浮かんでくる。豊かな生活を送るためには、自由時間の「量」だけでなく「質」の問題も考えていかなければならない。そのような思いを新たにする結果であった。
2. 男性有業者の仕事と余暇
ここでは男性有業者を分析対象として取り上げ、週単位、日単位でどのような形で仕事時間が余暇活動の阻害要因となっているかを分析する。ここでは比較の対象として1992年に横浜・川崎で行われた生活時間調査を加える。松山を国際比較の対象としたのは、都市規模がSzalai方式の基準を満たしていたこと、NHKによる生活時間調査の県別集計から日本の標準的な県の一つであることからである。これに対して、首都圏は、日本の中でも「仕事中心地域」である。横浜・川崎をケーススタディとして松山と比較することで、「首都圏」と「日本の標準的な地域」との多忙性の比較ができる。
男性有職者の週平均仕事時間は、松山で7時間30分で、これはカナダの6時間3分と比較すると73分も長い。横浜・川崎では週平均7時間57分で、松山よりもさらに27分長い。これを曜日別でみてみよう。カナダは週休2日の習慣がほぼ完全に浸透しているため、土曜日、日曜日ともに平均仕事時間は松山、横浜・川崎に比べてきわめて低く、殆どの人が週休2日で働いている。しかし、横浜・川崎と松山では仕事時間の曜日配分が異なる。横浜・川崎では週休2日制が比較的浸透しているため、土曜、日曜の仕事時間は松山より小さい。そのかわり、横浜・川崎の平日における仕事時間はカナダと比較して約2時間、松山と比較しても約1時間多くなっている。
表3.5 曜日別行動時間(男性有職者)

男性有職者の生活時間を平日、土曜、日曜の3種類で比較すると、当然のことながら土曜、日曜には仕事時間が少ない分、他の行動の時間は長くなる。興味深いのは、余暇活動時間を曜日別にみると、平日には行動時間が短いが、日曜日には行動時間が特に長い行動が存在する。「教養・余暇活動」時間は、平日では松山で32分、カナダでは53分とカナダの方が長いが、日曜日には松山で2時間18分、カナダで1時間45分と松山のほうが長くなっている。松山では「教養・余暇活動」を日曜日に「まとめて」行っているといえる。カナダでは土曜、日曜日の交際時間が特に長く、横浜・川崎では日曜日のテレビ視聴時間が平日と比較して特に長い。この3調査で日曜日に「まとめて」行う余暇活動が異なるのは、横浜・川崎、松山、カナダの3地点での、平日の多忙性の違いを反映していると考えられる。横浜・川崎では平日はきわめて忙しく、テレビ視聴時間でさえも削っているために日曜日には休息とテレビ視聴時間が目立って多くなる。松山では、平日は忙しいもののテレビ視聴時間は確保されているために日曜日は様々な教養・余暇活動の時間にあてている。カナダは、平日はテレビ視聴も、教養・余暇活動もある程度行っているために休日はボランティア活動や交際活動を行ったり、教会に行ったりしている。この生活時間調査では、平日と土曜、日曜とでは回答者が異なるので、以上は、あくまで仮説的解釈にすぎないが、平日の余暇活動の豊かさが土日の余暇活動の、ひいては日常の余暇活動そのものに大きな影響を与えているといえる。
図3.1 平日の仕事時間(男性有職者)

そこで、次は仕事時間の長さが実際に平日の余暇活動に与える影響をみてみよう。平日の仕事時間の分布は、図3.1のようになっている。このとき、91年松山ではM字型の分布になっているのに対して、横浜・川崎ではM字の右の方の山にピークが存在する分布で、92年カナダはM字の左側の山にピークが存在する分布である。職場を大きく分けて九時五時できっちりと終わる職場と、長時間の残業を余儀なくされる職場の二つに分かれるとすると、カナダは前者が主流、横浜は後者が主流、松山は両者が混在している状況であるといえる。
図3.2 一週間の仕事時間(男性有職者)

1991年松山調査と1992年カナダ調査では、一週間あたりの仕事時間も調べている。図3.2は、男性有業者全員の一週間あたりの仕事時間をグラフにしたものである。カナダでは、約半数の職場が週40時間程度であるのに対して、松山では週40時間程度の職場は全体の七分の一しか存在しない。
表3.6 仕事時間別行動時間

では、仕事時間ごとの時間の使い方をみよう。睡眠時間は、全体的にみると仕事時間がよほど長くならない限りは、大幅に減るという傾向は見られなかった。平日はある程度忙しくても、睡眠時間だけは確保しているといえる。また、仕事時間が同じ集団同士を比較すると、松山<横浜・川崎<カナダの順になっている。横浜は、仕事時間が同じでも、長い通勤時間のしわ寄せが短い睡眠時間になっていて、カナダでは、仕事時間がある程度長くても、家事時間を確保するために睡眠時間を切り詰めている。その分家事時間は、どの仕事時間でもカナダがもっとも長い。カナダの男性は、仕事時間がどんなに長くてもある程度家事を行っているのが特徴的である。
次に、余暇活動時間に着目してみよう。どの余暇活動も、仕事時間が長くなると、活動時間が切り詰められている。
松山の特徴は、平日の仕事時間が9時間半を超えると、テレビ視聴時間が急激に減少し、仕事時間が11時間半以上になるとほとんどテレビが見られない状態になる。テレビを目にするためには仕事時間を11時間半程度にとどめ、テレビを十分に楽しむためには、仕事時間を9時間半程度にとどめておかなければならないようである。
カナダの特徴としてあげられるのが、平日の仕事時間が長くても教養・余暇活動の時間を確保していることである。しかし、カナダの場合、前出の週労働時間の分布から、毎日仕事時間が長いという人は少ないと考えられる。したがって、少し仕事時間が長くなっても毎日している家事や余暇活動を、時間を短縮しても行っているようである。
横浜の特徴としてあげられるのが、平日の仕事時間が9時間半を越えると会話・交際の時間がきわめて少なくなることである。これは、仕事が終わる時間が遅くなればなるほど仕事のあと飲みに行くことや、帰宅後の家族団らんができないという状況を反映しているといえる。
次に、「選択的余暇」に着目して仕事時間と余暇活動の関係をみてみよう。比較に用いた行動分類では、「余暇活動」は17種類に分かれている。そのうち、行為者率が20%を超える「テレビ」「新聞」「交際」「休息」の4つは、日常生活で誰もが行っている余暇活動であると考えられる。それに対して、この4つを除いた13種類の行動は、個人が「選択的に」行っている行動である。この「選択的余暇」を1日に何種類行ったかを、「選択的余暇」の「多様性指標」とする。これを先ほどと同様、仕事時間別に計測した。
表3.7 選択的余暇の多様性指標

当然のことながら、どの調査地点においても仕事時間が増えるごとに選択的余暇の多様性指標は減少している。松山とカナダを比較すると、選択的余暇を行っていない人の割合は松山で大きく、カナダで小さい。一方、選択的余暇を2つ以上行っている人の割合は、カナダで大きく、松山で小さい。結果として、カナダのほうが選択的余暇が盛んに行われていることがわかる。この結果に対する一つの解釈として、選択的余暇活動には週あたりの仕事時間が関係していると考えられる。前述したように、一週間あたりの仕事時間の分布から考えて、カナダの長時間労働者のデータは「たまたま」仕事時間の長かった可能性が高いため、普段行っている選択的余暇を行っていると考えられるからである。それに対して、松山では仕事時間の長い日が「普通の日」であるため、普段から選択的余暇活動を行う習慣がないと考えられる。
選択的余暇のうち、具体的には行われているのはどの行動であろうか。それぞれの平日の行為者率を図3.3に示した。見物・鑑賞は松山、横浜・川崎ではほとんど行われておらず、カナダでのみ行われているといえる。カナダでは、1カ月半に1回くらい、映画やコンサートを見に行っているという計算になる。行楽、散策は横浜・川崎で特に少なかった。神奈川では身近に散歩できるような自然環境が貧弱であるからではないかと考えられる。その他の行動ではカナダでスポーツ、けいこ事・芸術文化活動が、松山で勝負ごと、雑誌が、横浜・川崎で本が、それぞれ盛んな余暇活動であった。
図3.3 選択的余暇の行為者率

カナダでは社会参加はもちろんのこと、見物・鑑賞、スポーツ、芸術文化活動といった個人の趣味として行う活動の行為者率が高い傾向にあった。一方、日本の2調査では、雑誌、本といったマスメディア接触の行為者率が高い傾向にあった。カナダでは自分の趣味を平日に行うことのできる人が多いのに対して、日本ではその余裕はなく、短時間で行える雑誌や本を行っているというのが現状のようである。また、松山で見物・鑑賞が、横浜・川崎で行楽・散策が平日に全くと言っていいほど行われていないのは、アクセスビリティが貧困である結果だといえそうである。
これを、さらに細かくみるために、小分類ごとの平日の余暇活動をみてみよう。1992年横浜調査では行動分類を小分類ごとに分けていないので、1991年松山調査と1992年カナダ調査で仕事時間別の小分類ごとの行為者率を求めた。対象とする小分類は、余暇活動の小分類のうち、平日の男性有職者の行為者率が日本とカナダのどちらかで20%を超えている、「知人との交際」「会話」「テレビ」「新聞」「休息」の5つを除いた32種類である。
当然のことながら、仕事時間が多くなればなるほど同じ行動の行為者率は減少し、行為者率0の行動が増加する。ここで、行為者率5%以上の行動数の比較を行う。週休2日制で1カ月働いた場合、1カ月の仕事日数は約20日であることから、行為者率5%の行動というのは、1カ月に1度は行うことのできる行動と考えられるからである。表3.8に、仕事時間の各グループごとに行為者率5%以上の余暇を示した。
表3.8 仕事時間別行為者率5%以上の活動

仕事時間が9.5時間を超えるグループでは、「庭仕事・ペットの世話」「本」を行っているという点で、日本とカナダは共通している。両方とも、いつでもできるということ、少ない時間でできるという点で共通している。具体的には、遅い時間に家に帰って、ペットに餌をやるか花に水をやるかして、寝る前に本を読んで寝るといったイメージであろうか。日本とカナダで違う点は、カナダでは選択的余暇として「スポーツ」を行っているのに対し、日本では「喫茶店・バーなど」を行っているという点である。カナダの長時間労働者はどんなに忙しくてもエクササイズだけは欠かさないというイメージであり、日本の長時間労働者は仕事が遅くなっても「ノミニュケーション」だけは行っているというイメージであるといえる。
仕事時間が「8.5〜9.5時間」のグループではカナダでは「ボランティア」、日本では「ビデオ」も選択的余暇として行われてるようになる。仕事時間が9.5時間を超えているときよりは少しゆとりがあり、カナダでは簡単なボランティア活動を行い、日本では録画しておいたビデオを見る程度の選択的余暇は行えるようである。
仕事時間が「7〜8.5時間」になると行うことのできる選択的余暇活動の数は急増する。カナダでは「散歩」「喫茶店・バーなど」が、日本では「雑誌」「散歩」「勝負ごと」も選択的余暇として行われるようになる。日本でもカナダでも、仕事時間がこの程度なら直接家に帰らずに、「ちょっと寄り道」できそうである。
ここまでは行為者率が5%以上の活動を取り上げたが、行為者率が5%未満の活動の数は、カナダのほうが圧倒的に多い。その分だけ、選択的余暇の多様性指標がカナダの方が全般的に大きかったのだと考えられる。
以上のことから、カナダの男性有職者の平日の余暇は、
「誰もが行う余暇」+「多くの人が行う選択的余暇」+「個人的な選択的余暇」
であり、日本の男性有職者の平日の余暇は、
「誰もが行う余暇」+「多くの人が行う選択的余暇」
であるといえる。
3. ライフステージと女性の生活時間
(1) 男の時間/女の時間の差異とその変化
生活時間の国際比較に関する先行研究から、日本では生活時間の性による違いが他の国と比較して極端に大きいことが指摘されてきた。しかし、この傾向はクロスセクショナルな国際比較から指摘されたものであり、時系列的な追跡は、国際比較としては行われていない。そこで、日本、カナダ、アメリカ、ソ連を対象として、1965-72年と1986-92年の2時点における、生活時間の性による差異と、その変化をみることにしよう。ここでは、矢野(1995)にならって、各行動の差の絶対値を合計した値を「性による不平等指数」とする。図3.4に、2時点における不平等指数を示した。
図3.4 不平等指数の変化

1965-72年の時点では、日本、アメリカ、カナダの3国で不平等指数に大きな差はなかったが、この20年でアメリカ、カナダでは不平等指数が減少した。したがって、アメリカ、カナダにおいては、この20年で男女の時間の使い方がかなり近くなっている。それとは対照的に、日本では不平等指数の変化は小さく、男女の時間の使い方には依然として大きな差がある。都市化と工業化は産業構造をサービス産業化させる。産業がサービス産業化すれば、必要な労働は肉体労働から非肉体労働へとシフトするため、男性が外で働く必然性が相対的に低下する。このため、「性別役割分業」が弱くなり、男女の生活様式が似たものになっていくと考えられる。アメリカ、カナダの変化は、これを裏付けているといえる。しかし、日本においては、男女の時間の使い方の差異は大きいままであった。また、ソ連では2時点とも男女の不平等指数がもっとも小さく、その変化もほとんどみられない。
(2) 結婚と有職女性の生活時間
女性の生活時間の特徴は、男性と比較して、ライフステージによる影響が大きいことである。同じ有職者でも、結婚しているかどうかで、生活が大きく異なる。そこで、有職者だけを対象として、既婚・未婚別に行動別平均時間を日本とカナダで比較してみよう。未婚女性の仕事時間は日本で6時間39分、カナダで5時間20分と日本のほうが1時間強長いが、家事時間は日本で1時間32分、カナダで2時間12分とカナダのほうが40分長いために、忙しさに大きな差があるというわけではない。そのため、睡眠時間も日本で7時間27分、カナダで7時間53分とカナダの方が26分多い程度である。日本の未婚女性の家事時間が短いのは、日本では未婚女性の大部分が親と同居しているためである。それに対し、カナダでは親と同居しているの未婚女性は全体の20パーセント弱にとどまるため、日本よりも仕事と家事時間の合計は長くなる。カナダで親との同居が少ない点については、大人になったら一人立ちしなければならないという規範に加えて、住居費などの生活費が安価であるという経済的理由もあると考えられる。そして、それを可能にしているのが、日本よりもかなり少ない仕事時間であるといえる。以上のことから、日本では母親の家事労働が、カナダでは日本に比べて少ない仕事時間が、未婚女性の生活を支えているといえる。
表3.9 週平均行動時間(有業女性)

余暇活動に関しては、合計時間では日本で4時間16分、カナダで4時間56分と40分カナダが多いだけで、これは他と比較して差の最も小さい属性であった。余暇活動の中で、日本の方が特に平均時間が長い活動は、「行楽・散策」「テレビ」「レコード・CD」であった。日本の未婚女性の生活を想像すれば、この結果も納得のいくものであるといえる。逆に、カナダの未婚女性において特に盛んな活動は、スポーツ活動であった。
既婚女性は、睡眠時間の日加差が日本で6時間59分、カナダで7時間58分とカナダのほうが59分も長く、これは他の属性と比べて最も差が大きい。睡眠時間がその人の「多忙性」を反映しているとするならば、日本の既婚女性は日本人の中で最も忙しい属性であり、日加比較した際にもっとも忙しさの差が大きい属性であるといえる。その原因は、仕事時間と家事時間の合計時間が週平均で実に10時間7分にも及ぶためである。日本の有職男性の平均の8時間3分と比較すると2時間以上の差がある。仕事時間と家事時間とをそれぞれ日加比較すると、仕事時間は日本で6時間27分、カナダで5時間10分と日本の方が1時間17分も長いが、家事時間は日本で3時間40分、カナダで3時間17分とその差は23分にとどまっている。このことから、日本女性の「仕事と家事の二重負担」は長すぎる仕事時間が主な原因であるといえる。家事行動の中では、「炊事」「洗濯」に大きな差があった。このような時間制約から、有業既婚女性の職場は自宅の近くに限られるために、通勤時間は男性有業者や未婚女性に比べて少なくなっている。カナダでは、このような傾向は見られない。
この影響は余暇活動にも現れている。殆どの行動でカナダの方が行為時間が多くなっている。そのなかで、有業既婚女性特有の特徴は、日本、カナダともにテレビ視聴時間がきわめて短いことである。
次に、日本とカナダ、それぞれ有職既婚女性と有職未婚女性とで生活時間を比較してみよう。いうまでもなく、日本、カナダともに大きな違いがあることは共通している。しかし、その程度は日本とカナダでは大きく異なる。これを定量的にみるために、有職既婚女性と有職未婚女性との類似性尺度を「結婚効果」とする。このとき、日本の「結婚効果」が6.31であるのに対して、カナダの「結婚効果」は3.43であった。カナダと比較して、日本の女性は結婚による生活の変化が大きいといえる。個別の行動を未婚女性と既婚女性とで比較してみよう。日本の有職女性の睡眠時間は、未婚では7時間27分であったのが、既婚では6時間59分と、既婚のほうが28分も短い。一方、カナダの有職女性は、未婚で7時間53分、既婚で7時間58分と逆に既婚のほうが5分だけ長い。日本の有職女性の家事時間は、未婚では1時間32分であったのが、既婚では3時間40分と、既婚のほうが2時間以上も長い。カナダの有職女性でも、未婚で2時間12分、既婚で3時間17分と、既婚女性のほうが家事時間は長いが、その差は1時間程度である。余暇活動の中でテレビ視聴時間で、日本の有職女性についてみると、未婚では1時間53分であったのが、既婚では1時間21分と、既婚のほうが32分短い。カナダの有職女性でも、未婚で1時間24分、既婚で1時間11分と、既婚女性のほうがテレビ視聴時間が短いが、その差は13分である。以上のことから、日本の有職女性は結婚すると生活が大きく変化すること、その変化は、家事時間が大きく増加し、睡眠時間、テレビ視聴時間が減少するといったような、忙しくなる方向の変化であることが、カナダと比較しても顕著であるといえる。
(3) 仕事・家事・育児時間からみた女性のライフサイクル
ここでは、女性のライフステージ別の仕事時間、家事時間、育児時間と、その20年の変化をみることで、女性のライフサイクルとその変容の一端を明らかにする。
女性のライフサイクル就業パターンを概観する一つの手段として、一般に年齢を横軸に労働力率をプロットして描かれた曲線が一般的に用いられている。しかし、この曲線には、年齢をライフサイクルの代替変数としている点が問題として指摘されている(田中,1994)。そこで、仕事時間を、年齢別に集計した者と、ライフステージごとに集計したものを比較してみよう。
まず、年齢を横軸に、週平均仕事時間の推計値を縦軸にプロットした(図3.5)。日本では年齢を横軸に労働力率をプロットして描かれた曲線がM字型を描くことが指摘されてきたが、図3.4の曲線もM字型を描いており、まず妥当であるといえる。この20年の変化をみると、M字カーブの形は、25-29歳の年齢層で大きく変化しており、これは、女性のライフイベントの発生年齢の変化を示唆している。一方、カナダでは、1972年の時点においては第二のピークが存在しない曲線になっているが、1992年においては、いわゆる逆U字型の曲線になっている。
図3.5 年齢別仕事時間(女性)

次にライフステージを横軸に、週平均仕事時間の推計値を縦軸にプロットしてみよう(図3.6)。ライフステージは、
A:「夫婦のみ」
B:「夫婦+末子0〜2歳」
C:「夫婦+末子3〜5歳」
D:「夫婦+末子6〜14歳」
E:「夫婦+末子15歳以上」
の5つに分類した。なお、データの制約上、1971-72年のカナダ調査については、「夫婦+末子15歳以上」の集計を行っていない。日本では、図3.4とは対照的に、曲線の形はまったくといっていいほど変化していない。日本においては、ライフサイクルによる女性の労働には、大きな変化がなかったといえる。したがって、M字型曲線の変化は、ライフイベントの発生年齢に依存するものであると結論づけることが出来る。一方、カナダでは、年齢別曲線と同様、どのライフステージでも仕事時間が増加している。しかし、「末子0〜2歳」においては、他のライフステージと比較すると相対的に仕事時間は短い。カナダでは、小さい子供を持つ女性の就業が進んできたといわれているが、それでもライフイベントの影響がわずかながら存在するといえる。
図3.6 ライフステージ別仕事時間(女性)

日本においていわゆる「中断−再就労」型のライフサイクル就業パターンが多いのは、家事・育児責任が女性にのみゆだねられていることからであるといわれている。この傾向は20年でどのように変化したのだろうか。これを具体的に明らかにするために、家事時間、育児時間について、ライフステージごとの20年の変化をみてみよう(図3.7)。
図3.7 ライフステージ別「炊事・掃除・洗濯」時間(女性)

「炊事・洗濯・掃除」時間は、子供の年齢が小さい世帯においては長いと考えられる。日本では、1972年、1991年ともその通りになっている。しかし、カナダにおいては、1972年ではそのような傾向がみられたが、1992年においては、「末子0〜2歳」「末子3〜5歳」「末子6〜14歳」において、家事時間が大きく減少したためにほぼフラットな曲線になっている。これは、このライフステージにおいて、仕事時間が増加したことを反映して、「炊事・洗濯・掃除」を合理化したものなのか、配偶者が代わりに行うようになったものなのかについては、さらなる検討が必要であるといえる。
最後に、女性のライフステージごとの「子供の世話」の時間をみてみよう(図3.8)。「末子0〜2歳」の世帯において、「子供の世話」の時間は20年で大幅に増加した。近年の日本において「三歳神話」が強い規範として作用しているのは多くの論者によって指摘されているが、この結果はこれを裏付けているといえる。これを曜日別にみると、平日については「子供の世話」の時間が大幅に増加したが、日曜日については「子供の世話」の時間はほとんど変化していない。これは、日曜日において、男性の「子供の世話」の時間が大幅に増加したからである。91年松山調査では「末子0〜2歳」「末子3〜5歳」世帯のサンプル数が小さく、定量的な信頼性は高いとはいえないが、示唆している事実は重要である。
図3.8 ライフステージ別「子供の世話」時間(女性)

なお、「子供の世話」の時間の増加にともなって、「洗濯・縫物」の時間は減少しているが、これは、北米でも同様の結果が報告されている(Gershuny and Robinson,1988)。そこでは、全自動洗濯機の普及のために、今まで「子供の世話をしながら洗濯をしていた」のが、「洗濯をしながら子供の世話をする」ようになったために、このような現象が生じたと説明されている。
<注>
1)Szalai方式の分類では、Domestic work,Care to children,Purchasing of goods and servicesに分けられている。介護に関しては、当時は高齢化が社会問題化する前であったので、家事として分類されていない。
2)小分類の「女性の手仕事」(中分類では「芸術文化活動」に包含)、「庭仕事・ペットの世話」(中分類では「その他の趣味」に包含)は、考え方次第では「家事」とも考えられる。現在、国際的に用いられている無償労働の定義(第3者基準)では、サービスを提供する主体を第3者に代替でき、なおかつそのサービスの市場化が可能であるものを無償労働としている。この分類によれば、「女性の手仕事」「庭仕事・ペットの世話」も無償労働といえるが、本分析の分類では行動の主観的要素を重視して余暇活動に分類した。そこで、これらの行動の平均時間をみてみよう。日本では小分類の「女性の手仕事」の時間が72年には週平均20分であったのが、91年には、週平均5分になった。一方、カナダでは72年には週平均10分であったのが、92年には、週平均5分になった。「庭仕事・ペットの世話」の時間は、日本で72年には週平均4分であったのが、91年には、週平均8分になった。一方、カナダでは72年には週平均4分であったのが、92年には、週平均13分になった。