翡翠の墓
石井辰彦
明日といふ日は(あらかじめ)(あらけなく)葬られ…… 嵐のあとに、凪。
夕映えの天の際へ奔りゆく・渦巻く・黒き・雲! を、見放けつ
鱗族も海豚も(死者も)繰りかへし振りかへる。金色の波間に
われらみな迷子(汀に立ちつくす生者も・海の底ひの死者も)
音もなく降り来る若き水夫(や過去)を、搦め捕れ! 海底の藻草よ
深海の死者に冷たき(魂は不滅だ、と、して……)腐敗は、ありや?
海底に風あり! 死者の、黄金の、巻毛も、薄き、鬚も、揺蕩ふ
若くして海そのものをみづからの翡翠の墓と定む。とは、如何に?
海からの光、かそけし…… Consider Phlebas... と、口遊めば、さらに……
哀しみにかへつて心霽れわたる……(世界はいつも海から暮れる!)
[註]原作品には若干の振り仮名が振られているが、ホームページ制作上の制約からすべて割愛した。
以下に、振り仮名の振られている漢字とその読みとを、一括して掲載する。
第2首 天=そら 際=はたて 見放=みさ
第3首 鱗族=いろくづ 海豚=イルカ 金色=こんじき
第4首 生者=せいしゃ
第5首 降=ふ 水夫=かこ
第7首 鬚=ひげ 揺蕩=たゆた
第8首 翡翠=みどり
第9首 口遊=くちずさ
第10首 霽=は
(2001.3.3「方法」第7号)