■ 短歌 選評 ■
笠原 淳

 誰の心にも歌はある。それを言葉で表現し得るかどうかということだろう。ただ、時に表現のカタチだけに気をとられて、何を歌うかという心のそこに息づいているものを放念している例もないではない。どう歌うかよりも、まず何を歌うかに思いを凝らすことだろう。

 さて、一般の部。
 入賞の槇原京子氏。我が身へ満ちていく秋には哀しみがあり、品よいエロティシズムと相まって一首に深味を与えている。同じく入賞の有永克司氏。一人ひとりの闇のつながりに人間存在の深淵を垣間見させて妙味あり。
 秀逸の十首について。船橋剛二氏。距離をおいて自分を視る鋭さ。白井淑子氏。達観した心境のもたらす諧謔味。井上みつゑ氏。遠い日の追憶は現在より鮮烈である。佐藤とし江氏。グラジオラスの黄、揚羽の黄、静謐の時間をとらえ得た。板橋絹代氏。蓮の花の美しさが時代の傷痕をより深く刻印する。寒川靖子氏。ふとした一瞬の虚空に触れる想い。岡本毅氏。風の如き触れ合いもまた一期一会か。小池孝氏。何事もなけれど風景のしたたかな実在感。滝本正則氏。抱くのは無明の夜か、闇もまた時になぐさめとなる。山下重信氏。教え子とのラリーはそのままよどみない心の交流なのである。

 児童生徒の部
 入賞の宮澤知里くん。無人のテニスコートのシンとした空間に青春の匂いがたちこめる。鈴木茂信くん。夏の陽光輝く海辺に弾ける若さが快よい。言葉も鈴木くんと一緒に躍動している。
 秀逸十首――。金栗瑠美くん。青春の陰翳が透明感をもってとらえられている。落合夏紀くん。初恋が、ほのぼのとして愛らしい。今野高志くん。木蔭に見る夢はまだ見ぬ未来の夢か。中島晴くん。無為という一時は、しかし豊かなものを含んでいる。関谷真樹くん。一瞬々々の緊張が君を成長させていく。野口由貴くん。季節のうつろいは目に見えない刹那に実現する。栗原はるかくん。これから先に願いをこめてバラ色の夢。杉本真理くん。だれのせいでもないと分っていても悔しいとは、可笑しくて愛らしい。興津文哉くん。見たままだが鮮やかに朝顔のいのちが描けている。樋口智美くん。虫たちもスポットライトを浴びて、よかったね。