■ 梅花文学賞 現代詩 高橋順子選 ■
【一般の部 入賞】
坂野 敏江 59 (静岡県 長泉町)

ついこの間まで汗をぬぐっていたのに
いつの間にか空は高くなり
入道雲は鰯雲に形をかえている

燃えているような夕焼け空を背に
スーパーの前の人混みを抜けると
色づいた葉っぱとビニール袋が
追いつ追われつ乾いた風にたわむれている

その先に父を見た

戦闘帽をかぶり
カーキ色の軍服を着て
足にゲートルを巻いていた

すべての風景が止まり
体中がうねるように震え
「ああ!」
顔をおおった指のさきから
涙がこぼれ落ちおもわずしゃがみこむ

子供のころ
今までたのしく遊んでいた友が
ひとりふたりと夕焼け空を背に
帰ってしまったあと
やっぱりその先に父が立っていた
「お父ちゃん」
わたしはべそをかきながらつぶやいた

恋を知り
子を産み
子供を育てていた間中
どんなにつらい夕焼けに出会ったときも
父は一度も現れなかった

二歳で別れたきりなのに
確かに戦死したはずの父なのに
夕暮れ時になると
前触れもなく
還暦を迎えようとしているわたしを
見つめている