■ 梅花文学賞 現代詩 那珂 太郎・高橋 順子 共選 ■
【一般の部 秀逸 静岡新聞社・SBS静岡放送賞】
斉藤 春子 54 (静岡県 豊田町)
母の日の風景

母の日
八十三才になる母と靴を買いに行く
おぼつかない足どりの母には
すっぽりと足を包んでくれて
軽い靴がいい
去年もこうして
母の日に靴を買った
今年
母はどんな靴を選ぶのだろう

売り場の椅子に腰かける母の前
足に合いそうな靴を並べる
母はまず値札を気にし
店員の視線を気にし
目立たぬ茶色の靴を選んだ
母が遠慮し
人の前に小さくなっているのを見るのは
悲しい
私は薄情な娘で
たまにしか母の所に帰らず
こうして母の日だけ
せめてもの罪ほろぼしをしている

今の母は痴呆ぎみで
一人になることをとても恐れる
―――生きて来たことはみんな帳消し―――と
母は言う
こうして一緒にいる時間も母の後には
まっ白に消されて過ぎるらしい
私はそんな母を
自分のせいだと思う事がある
嫁ぎ先の農家の嫁として
挫折に合うたび母の力を必要とした
母はバスを乗り継いでやって来た
影で仏に手を合わせたのだろう
般若心経を空で唱える母の姿に
親不孝の深さを見る思いがする

母が買ったばかりの靴をはいて
腰を伸ばし恥ずかしそうに
ウインドーの前に立っている
私は
申し訳なくてありがたくて
いとおしくて
みんなごちゃまぜになった涙を隠しながら
並んで
手をつないで
歩いた