■ 梅花文学賞 現代詩 那珂 太郎・高橋 順子 共選 ■
【一般の部 秀逸】
森山 恵 36 (東京都 豊島区)
胡 桃

あの胡桃 あの時と同じあの胡桃
山道で見つけて 拾い集め
もどかしく 石で ハンマーで
叩いて 叩いて 叩くと
頑固な殻が音をたて
思い出が ――割れた
十六才 ケンブリッジの小さな町で
あの時拾った あの胡桃

胡桃の実も知らなかった 都会の私
こうやって食べるのよ
ジョリーンは 固い種子を
ガリリッ ガリリッ と
胡桃割りで 割ってみせた
彼女の栗色の髪は 長く柔らか
胡桃の果肉も 甘く柔らかだった

私は十六才 ジョリーンは十五才
私も恋をしていて 彼女も恋をしていた
恋人の話をしては
二人でいつも 笑い合っていた
庭の芝生を その向うの牧草地を
小さな子供たちは 裸足で駆けていた
羊の群と一緒に 風と一緒に

十八才の海辺 ジョリーンは
子を身ごもった 知らない男の
そして彼女は 精神を病んで
両の手に 顔をうずめて いる

胡桃は まだ 青
果実はみずみずしく
ミルクのように 甘い

ジョリーンは
金色の産毛につつまれた
真っ青な目の女の子を 産み落とす
バタバタとよく動き よく笑う
「天使」という名の 女の子
優しく ゆりかごを揺らし
子守唄を歌っている
ジョリーンは 今日も

山道で見つけた 秋の実
それは あの時と同じ
まだ青い 胡桃
柔らかく みずみずしく
ミルクのように甘い