■ 梅花文学賞 現代詩 那珂 太郎・高橋 順子 共選 ■
【一般の部 秀逸】
白井裕子 72 (神奈川県 海老名市)
コスモスの墓

いつかの日 誰かが手向けた花の
こぼれ種だろうか
墓地の一角に コスモスが
群れそよいでいた
二十年ぶりに訪れた従兄弟の眠る墓地
どんなにか侘びしく荒れ傾いて との
私の想像は すずやかにくつがえされ
墓石はつつましいみかげ石で
こじんまりと建て替えられていて
なぜか 小さなやかんに
水が供えられていた

あの頃 従兄弟のタモツ兄ちゃんは
たおやかな新妻のセツさんと
蜜月の日々だった
臨月間近のセツさんを実家に預けて
彼は単身 運命の地ヒロシマに
奉職したのだった そして
昭和二十年八月六日の朝
タモツ兄ちゃんは倒壊した建物に
押しひしがれたまま
「水、水……」とうめいて
こときれたという

涙も涸れる悲しみの果てに
セツさんは ひと月ほどして
男児を出産した
叔母は うら若い嫁をいとおしんで
新しい幸せをつかんでおくれ と
セツさんを離別した
だがセツさんは亡き夫に操を通して
わすれがたみを育て上げたと
かすかな風のたよりに
聞いたような気がする

もしや無縁墓になっているのでは と
おそるおそる訪れた墓石の傍らに
水を満たしたやかんが……
「ああ」と私の胸の奥に
嗚咽が走った

子供ごころの記憶に残る
セツさんは
コスモスの花のようなひとだった