■ 梅花文学賞 現代詩 那珂太郎選 ■
【一般の部 入賞】
伊藤 伸太朗 54 (千葉県 松戸市)
光の輪の中で

夕陽が沈むと 梟 がボーボーボーと啼き始め、
立ちこめる霧の向こうに
本堂の大屋根の薄墨色の影が浮かんでいた
鐘楼の脇を通って本堂の前に来ると、
《あの世の子供》となった友人が
柱の陰からそっと手招きするのに気がついた

ひらーり・ふらりと蝙蝠が飛んでいる
僕は脱いだズック靴を尻ポケットに押し込み
友の影を追ってすり減った階段を上がる
奥深い薄闇の底に敷き詰められた畳の、
果てもなさに足がすくんだ

本堂を包む闇がひときわ濃く生々しい
それは仏像や蓮華座、
さまざまな形の仏具が幽かにまとう、
金泥の輝きのために違いない
香の匂いに咳きこまぬよう息を止め、
障子に沿って歩いた

本堂の隅に立て掛けられた段梯子を手探る
真っ暗な天井裏で
《あの世の子供》が右手を振ると、
懐中電灯に似た輝きが闇を稲妻形に切り裂く
光の黄色い条をさっと掠める翼の残像が
僕の目の底に食いこみ乾いた羽音が響く

捕虫網をくくり付けた長い竹竿を、
闇の中に差し延べて
めちゃくちゃに掻き回す
闇はどろりとした漆黒の液体のように重い
鋭い小さな叫び声と生臭い風が、
そこここに流れる

光の輪の中で輝く丸い目……
ネズミそっくりにむき出された歯……
ビロードのように黒光る胴体……
《あの世の子供》が光を浴びせた蝙蝠は
捕えてはみたものの余りにも気味が悪く、
僕は捕虫網を放り出す

必死で段梯子を降りて本堂へ逃げ戻り
ズック靴をはいて霧の中へ去ろうとした
《あの世の子供》となった友人が、
すぐ後ろで寂しそうに笑っている
『蝙蝠を捕まえて一緒に遊ぼうよ……』と
逃げる僕を引き留めもせず
濃い霧に向かってそっと誰かを呼び続ける