フローランとの出合い  1996.4.26  於:コロンビア大学病院

私は原発性肺高血圧症(PPH)の治療のため、1996年4月にアメリカのニューヨークのコロンビア大学病院でプロスタサイクリン (商品名はフローラン:英国に本社がありアメリカをはじめ、世界中に支社をもつ大手製薬会社製造)の在宅点滴治療を日本人としては、はじめて開始しました。

携帯用の小型ポンプ(CADD-1:米国デルテック社製)を使い、胸に埋め込まれたカテーテル(チューブ)によって中心静脈に約3分毎にプロスタサイクリンを 送り込む方法です。どうしてこのような点滴による治療方法がとられるかというと、肺の血圧が高くなってしまうPPH治療方法としては、現在のところ肺の毛細血管を拡張し、 肺の血圧を調整しているエンドセリン細胞がただれてしまうのを守ってくれるプロスタサイクリンが最も有効と考えられているからです。しかしこの「夢の薬」プロスタサイクリンは 、残念ながらその薬効がわずかに2−3分しか継続しないため、このような複雑な治療方法がとられてのです。


1996年当時の日本ではPPHに関しては何ら有効な治療方法がなく私の場合も両親はいくつかの病院で余命数カ月と宣告されていました。あきらめきれない両親が必死で 探し当てたのが、今回1月に日本でも厚生省より承認され、4月9日に販売されたプロスタサイクリンの点滴療法です。米国では1995年にこの治療方法は国の認可を受け、 1996年に私がコロンビア大学病院に行った頃もうすでに重症のPPHの患者にはこの治療が広くおこなわれており、呼吸困難で歩けなくなってしまった16歳の患者が数ヶ月後 には学校にいけるようになったという記事が一般誌に掲載され大変話題になっていました。


私は米国でこの治療を開始するに先立ち、ちょうど1週間入院をしてさまざまな検査をおこない、胸部にカテーテルを埋め込み、プロスタサイクリンの調剤方法や携帯用ポンプの 取り扱い方法や患部の消毒などについて教わりました。退院するときは、この病院で作成されたプロスタサイクリン療法について大変わかり易く説明された冊子をわたされたので 、それを頼りに今日まで生きてきています。この冊子に書いてあることで特に役にたったと思うのは、薬の副作用とその対処の仕方でした。代表的な副作用や対処法が細かく説明 してあるので、突然の体調の変化にも余り不安な思いをしないですみました。


また体内に埋め込まれたカテーテルの管理や感染その他のトラブルが起こった場合の対処法や病院でおこなってもらう検査や抗生物質等の指示があり、私の場合もカテーテルトラブルで 日本の病院で治療を受けた時は、この冊子を持参して,主治医と相談をして、適切な治療を受けることができました。


私はこの療法を始めてから2−3週間で体を動かすのが大変楽になり、息切れや胸部の痛みなどが消えていきました。階段や坂道も他の人たちと同じように上り下りできるようになり、 アメリカから帰国するとすぐ復学しました。(私は当時中学3年生でアメリカで治療していた2カ月は休学していました。)以後約3年間体育以外の授業はすべて参加し、クラブ活動(生物部、 現在部長を務め、カエルの解剖やゾウリムシの送電性の実験等をしています)や掃除、学園祭などにも他の生徒同様に参加してきました。


私の学校は大変大きな学校で授業毎のレッスン移動は1階から5階まで毎日ほかの生徒同様に行っています。フローランの溶解液は常に冷やしておかなければならないので、学校の冷蔵庫に 替えのジェルパック(保冷剤)を保管してもらい、お昼休みに交換します。時々友達と都心にでかけ映画などみに行くこともあります。またこれまでこの治療を続けてきて嫌な思いをしたことは 、一度もありません。


PPHは大変難しい病気なので、とても不安になることもありますが、アメリカ肺高血圧症患者の会(Pulmonary Hypertension Association)で発行している刊行物には開発中の新しい治療方法や 、さまざまな研究が進んでいることなどが掲載されており、とても勇気づけられます。新しい情報や治療方法などあれば、ぜひ教えてください。

   

(参考):   コロムビア大学病院のバースト先生の患者の4年目のフローラン投与量の平均は
         140ng/kg/minです。