耳ろう孔とアテローム

 耳たぶの周りに出来る膿をもった腫れに困っている人は意外と多いようです。その多くはニキビの親玉みたいなものなのですが、時には大きく腫れて熱を持ち顔の半分に強い痛みを起こすものの場合もありますので御用心。
第六回 先天性耳ろう孔 と 耳介(みみたぶ)のアテローム
  のっけから金銭の話で恐縮ですが、皮膚に出来た病気や怪我を手術で治療する場合にそれに要する医療費は、首から上の顔面頚部などいわゆる「露出部」と、それ以外の「非露出部」とで若干異なり、わずかですが「露出部」が割高になっています。なぜかというと顔面や頚部などの露出部は人目につくことが多いため、ここに出来た傷や疾患の治療の場合、傷を出来るだけ目立たせぬようにより丁寧な処置が必要とされるからなのです。特に女性や子供の場合はその傷の目立ち方にコンプレックスを抱くこともあり、治療をする側としては慎重の上にも慎重を期さねばなりません。すなわち顔面頚部の傷にはそれほどの重要性があるということを知っておいていただきたいと思い、医療費の話からはじめてみたというわけです。
  事故などで傷を負った場合はその原因と結果の因果関係が明白なため、その場で可能な限りの治療を行い、傷跡が残る場合は後日形成外科的な治療を導入するのですが、炎症などの病気の場合はその治療に初めてメスを用いることになるわけで、その場限りの治療で跡の目立たない「きれいな」処置が必要とされます。そしてこのような露出部の炎症性の病気として最も多く見られるのが『先天性耳ろう孔』と『耳介(みみたぶ)のアテローム』なのです。
  
  『先天性耳ろう孔』とは、ヒトが母親の胎内でその形が造られるときに耳をかたちづくる部品(本来は耳の完成とともに吸収され無くなるべきもの)が偶然残ってしまい、主に耳の手前の小さな穴とそれに続く皮膚の下の袋として存在するというものです。この穴自体は比較的よく目にすることが多く40〜50人に一人ぐらいの割合といわれています。通常はその存在に気付くことは少なく一生何事も無く過ごすことがほとんどなのですが、たまに紛れ込んできた細菌のために袋の中に溜まっていた皮膚の垢が感染を起こすと大変です。こうなるとその袋の周囲−つまり耳の前の部分に皮膚の赤みを伴う強い腫れが出来、顔の半分にまで至る痛みが生じてきて最後には穴のところやあるいは皮膚を破って悪臭のする膿が流れ出してきます。こうして一通りの炎症は治まりますが、厄介なのは一度こうした症状が出ますとその後に同じような症状を頻繁に繰り返すことが多くなるといった点です。何故かというとこの袋はしっかりとした細胞の集まりで形成されているため、炎症によって溶かされ消えてなくなることが無いからなのです。そのため根本的な治療は袋(を構成する細胞の集まり)を残すことなくキレイに取り除く手術ということになります。炎症の急性期には抗生物質の内服を行い、腫れが出来るだけ小さくなったところで手術をするのが望ましいでしょう。手術は袋とともに原因となる孔の入り口(の皮膚)も取る必要がありそれなりの方法論を要しはしますが、小さな子供でなければ局所麻酔で日帰りも可能です。もちろん冒頭に述べたように傷跡が最小限になるよう丁寧な縫合操作が必要であり、その点で信用の置ける病院を探すべきでしょう。皮膚科・形成外科・耳鼻科等で行うのが一般的です。

  さて、一方の『耳介(みみたぶ)のアテローム』ですがこれは先天性耳ろう孔に比べると症状はおとなしめのことがほとんどです。原因は毛穴の汚れに起こった感染や皮膚表面の細胞が皮膚の下に誤って潜り込みここで垢の溜まりを作って細菌感染を起こすといったものなどがあります。耳たぶの周囲、特に耳垂といわれる「小耳」の周囲に出来ることが多く、発症頻度は特に言われていませんが、耳ろう孔より多く特に皮膚の代謝の活発な若い世代に出来やすいといった特徴があります。思春期や20歳台に多いようで美容上気になる年代でもあり、こじらせないように早めの治療が必要となります。急性期の炎症には抗生物質を用いるわけですが、先天性耳ろう孔とは異なり初期の治療のみで消失し後に繰り返さないこともあります。その理由はアテロームが耳ろう孔ほどしっかりとした細胞の構成を保っていない事が多く、炎症によりもともとの細胞が溶解し、抗生物質で除菌が完了すれば細菌の住処自体が失われてしまうからです。目安としては消炎したあとに水ぶくれのような触り心地が残らなければ、あまり心配する必要はないでしょう。逆に水ぶくれの触感が残るようであれば再発の可能性ありとして手術的摘出を考えるべきだと思います。手術は袋を取るだけですので耳ろう孔より簡単で外科処置の基礎ともいえますが、もちろん露出部としての細心の注意が必要なことはいうまでもありません。

  どちらの病気も炎症を繰り返すたびにこじれ治療後の傷の見た目にも影響してきますので、早めに専門医の診察を受け治療方針を相談すべきでしょう。とかく人目につく可能性の高い場所の病気でありますから、炎症を治療するだけではなく治療後の傷跡の管理まで相談できる医療機関が望ましいと思います。
 次回は、破れた鼓膜をなおす「鼓膜形成術」についてのおはなしを。

対馬いづはら病院 耳鼻咽喉科   山口 勉

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