2005年7月24日

 

警察刷新会議 大阪と新潟の公聴会で

 

警察は優しい保母さんか?

 2000年5月13日、警察刷新会議大阪公聴会の日がきた。「広く国民の方々から御意見をうかがう」のだという。新幹線に乗って取材に行ってきた。
 大阪駅から歩いて数分のザ・フェニックスホール。会場の3階を囲んで見下ろす3階が記者席。チョー立派なつくりだ。警察官らしき男が記者席へ来て、傍聴者は約120名と告げてまわった。見下ろした感じでは、傍聴者の平均年齢は50歳くらいだろうか。女性はごく少数だった。
 公述人は8人。全員男性。以下、私のノートからごく簡単に。

@神奈川県の大学生(22歳)
 国家公務員モニター制度(地域、年齢、職業、性別等を考慮して300人募集)を見習って、国家公務員が委嘱する形の「警察モニター制度」をつくってはどうか。
A大阪弁護士会の弁護士(52歳) 
 人は善意でも組織に問題があるならダメ。情報公開と外部チェックが必要だ。また、組織がしっかりしていても、教育=血液がちゃんとしてないとダメ。警察は人権教育が欠如している。とくに弱者への差別が顕著だ。国連の「人権教育のための10年」が……。
B京都の保護司(60歳)
 おばさんが歩いてたら歩道に突き出した物干し台にぶつかってケガをした。警察署へ行ったら、警察官は机の上に足を投げ出して暴言を吐いた。以来おばさんは警察不信になった。警察に助けを求めても放置されるのでは困る。交番の活性化を望む。すべてわかる人でなくてもいい。警察OBでもいい。人を常駐させてほしい。そうすれば、国民の声も聞ける。
C京都の無職(71歳)
 まったくの一庶民としてマスコミ報道をもとに申し上げる。警察は民事不介入を改め、市民のよきアドバイザーになれ。OB、経験豊富な婦警が、ソフトな対応で些細なことにも懇切に、よろず相談を受ければいい。
D兵庫の会社員(56歳)
 警察組織にマーケティング思考を。地域の特性を考えずに警察庁が一律に通達等を出すのはダメ。エリア・マーケティングが必要。警察ブランドは地に堕ちた。妙なところで威張ってブランド人気を落としてる。ニーズあるところにチャンスあり。市民のニーズを吸い上げろ。

 10分の休憩を挟み、委員推薦だという3名が登壇した。

E産経新聞大阪本社社会部・大阪府警担当キャップ
 警察官の99%は真面目に職務を執行している。しかし忙しすぎる。スクラップ&ビルドをしたうえで、1割以上増やさなければ。安全はタダでは守れない。
F元大阪府警本部長
 生き甲斐を国家社会に尽くすこと≠ノ求める人が激減した。自己の利益が中心で志がない人が増えた。この風潮を、せめて警察には入れないように。キャリアに重要なのは志とリーダーシップだ。
G大阪商工会議所会頭(近鉄会長)
 公安委員会の事務局を充実させるべし。住民の意見や苦情を汲み上げるべし。適切な監察により組織の風通しを良くすべし。各界有識者の後援会を行うなどして、選ばれた職業人としての心構えを養うべし……。

 続いて、「傍聴者から意見があれば手短に」となったところ、会場からじゃんじゃ手が上がり、9人が壇上に出てきて意見を述べた。
 「昇進に問題がある」「天下りOBからの注文が不祥事へつながることもある」「公安のことが出なくて失望した」等それなりの意見もあったものの、「落とし物が持ち主の手へ戻るようにしてほしい」という単なる苦情があったり、「ここへ来るのに身を清めようと京都の寺を3つまわってきた」と寺のことを延々説明し、時間がないんだから本論を早くと言われると「3億円事件の犯人を警察に通報したら隠蔽された」と言い出す、な〜んかややこしそうな人もいた。

 私は以前、首都高速道路の料金が600円から700円に値上げされるときの公聴会を取材したことがある。
 あのときは500円通行=i600円への一方的な値上げに反対しての旧料金通行運動)の和合秀典さんとか、新聞に建設的提言を投稿したなどでクビになった元公団職員とか、問題の根幹(と私が見るところ)にズバリ斬り込む公述人がいた。私が見る根幹とは、天下りの退職金やファミリー企業の儲けや借金の高い利子を何とかすれば値上げなど必要ないんじゃないか、税金も投入されているんだから公団の会計は1円まで公開せよ、ということだ。
 警察腐敗について、私が問題の根幹と思う点は、まずは裏ガネだ。
 元警視監の松橋忠光さんは著書で「警察社会における不義の実態は簡単なことである。いわゆる『二重帳簿』方式の予算経理による裏ガネづくりが、中央からすべての都道府県にわたる全警察組織において行われていることである」と明言している。ジャーナリストの小林道雄さんは、警察の裏ガネは「それなくしては一日として組織が動かぬ骨がらみ≠フ構造」だという。
 末端の警察官がニセ領収書などでつくった裏ガネを幹部がつかう。この腐敗を背景として、交通行政にもっとも顕著に見られるように、警察行政が警察OBに莫大なカネを流し込むシステムが(合法的に)構築されている。これでどうやって、警察組織はもちろん、一線の警察官にモラルを求められるのか。
 本当に警察を刷新しようとするなら、まずは裏ガネにきっちり目を向ける覚悟を持ち、そして、現場の警察官の声にこそ耳を傾けるべきではないか! 私はそう思う。

 ところが……。
 公述人たちの意見は、国連規約の方向から警察を見る(つまり外圧利用)という弁護士さんの意見は、まあいいとしても、あとはオヤジの精神論≠ゥ、ちょっと耳に新しい思いつきにすぎなかったように感じた。
 とくに、BCの意見に私は、失礼ながら呆然とした。警察に保母さんになってくれって言うの? 個人、家庭、地域の自律ってのがもう完全に壊れてしまい、警察が優しい保母さんになってくれないとイヤだよ〜、と言ってるように聞こえた。
 前半の5人の公述人は、千字程度の作文を書いて応募し、選ばれた人たちだ。そのうち2人が警察に保母役を求めるとは、いったいどんな選考をしたのだろう。

 帰りの新幹線で、私は「うむむっ」と腕組みし続けた。こんなので「国民の意見を聞きました」とされてはたまらん。第2弾の公聴会が6月17日、特別監察の温泉麻雀接待と違反モミ消しでわいた新潟であるそうだ。大阪公聴会は作文の締め切りに間に合わず、応募できなかったが、新潟のほうはバッチリ応募してやろう。裏ガネのことを作文に書けば、事務局(=警察)によって外されるに決まってる。じゃあ、ナニを書いてやろう……と案を練っているうち、ぐっすり眠ってしまった。日帰りは疲れるわ〜。

 5月26日、念入りに作文を仕上げると、警察刷新会議のホームページの応募フォームに記入して送信ボタンをクリック。すると、
「送信を受け付けました。地方公聴会に応募いただきありがとうございます。後日、ご連絡いたしますのでしばらくお待ち下さい」
 との画面が出た。ほう。
 数日後、マジで私は夢を見た。公聴会の壇上で、警察刷新会議の委員を私が問いつめているのだ。
「裏ガネ問題に手をつけるおつもりはあるんですか。少なくとも、何とかしなきゃイカンなあ、程度の認識はあるんですか、え?」
 うわあっ!と目が覚めた。ドキドキとワクワクでまた数日がすぎ、そして6月6日、1通のハガキが届いた。
「――選考結果のお知らせ――このたびは新潟公聴会の意見発表にご応募いただき、誠にありがとうございました。選考の結果、誠に残念ながらご要望に添えないこととなりましので……」
 ガックリ、である。誰のどんな選考によりなぜ外されたのか、一切不明だ。オリンピックの千葉すずさんの気持ちがよ〜くわかった。
 だが、ここであきらめてなるものか……。

 

あなたは我々にケンカを売っているのか?
 

 2000年6月17日(土)午後2時から、新潟県民会館の小ホール(まあまあの大きさの劇場ふう)で、警察刷新会議の新潟公聴会があった。
 私も公述人に応募したが「選考の結果まことに残念ながら……」と断られていた。けど、5月13日の大阪公聴会では、公述人の発言が終わったあと「まだ少し時間がある。会場(傍聴者)からの意見を2〜3分ずつ」となり、数人が飛び入りでステージに上がった。そのチャンスを狙ってなんとか発言してやろう。そう思って私は1番に受付をすませ、最前列の席をとった。
 午後4時10分、8人の公述人の発言が終了。司会(警察庁の若い警視長)が言った。
「では、まだ時間も少しありますので会場のほうから……」
 この瞬間を待ちかまえていた私は、バッと勢いよく挙手。首尾よくステージ中央へ上がることができた。ちなみに私の数人隣で遠慮がちに挙手した人は、その後も挙手し続けたが、残念ながらついに発言のチャンスはなかった。私も、遠慮してたら新潟まで無駄足になるところだった。
 発言の内容は、新潟駅前から会場へと信濃川の土手を歩きながら、そして会館内の喫茶室で、きっちりまとめてあった。刷新会議の委員3人(座長代理でアサヒビール相談役名誉会長の樋口廣太郎氏。前内閣法制局長官の大森政輔氏。ジャーナリストの大宅映子氏)のすぐ横で、私はこう述べた。

 私は16年ほど交通違反・取り締まりを専門に取材、執筆してきました。そのなかでどうしても述べたいことが3点あります。
 @組織が歪めば、その歪みをまず受けるのは、現場の警察官たちでしょう。識者の声、国民の声の前にまず、一線の警察官の声をこそ聞かねば!と思います。ただし、組織の恥部を語ったがゆえに人事等で不当な扱いを受けることの絶対にないよう、万全の配慮をしたうえで、です。
 A全警察の、骨がらみの構造といわれる裏ガネ。不正の根幹というべき裏ガネ。私は、警視庁赤坂署の参考人費用カラ支給についての、監査請求人で原告で告発人でした。裏ガネのことはずっと言われていながら、なかなか証拠が出てこないのですが、このときは証拠の裏帳簿があり、裁判には勝ちました。また、明後日の月曜、東京高裁で「警察のニセ領収書に名前を勝手に使われた」という裁判の控訴審第1回があります。元警察官の方が「自分も現職時代、裏ガネの領収書を書いたよ」と証言すると申し出ているそうです。
 この裏ガネに触れずして、警察刷新などあり得ないでしょう。このことについて委員のみなさんはどういう認識をお持ちなのか、あとでホームページなどでもけっこうですから、うかがいたいと思います。
 Bそれから、私の専門の交通違反のこと。モミ消しのことです。
 取り締まりを受けると、刑事処分と行政処分があります。刑事処分は、検察官、裁判官という第三者が関与して決めます。ところが行政処分、つまり違反点数の累積や免許停止処分については、第三者がまったくいない。警察が捕まえ、警察が点数を累積し、警察が処分するという、警察の独善・独断のシステムになっています。そして、有力者や身内の求めがあればこそこそっとモミ消す一方で、「違反は無実だ」など正当な理由により処分撤回を求める運転者には、警察は耳を貸しません。
 そのため、遺書と包丁を持って処分課へ乗り込んだという人もいます。この人は、自殺するつもりはなく、処分課の床を血で染めて、この不正を世に知らしめようと思ったんだそうです。私は全国の運転者からの声を聞いていますが、ほかに、自分はどうなってもいい、担当警察官の人生をメチャクチャにしてやると、ストーカーのようなことを言う人もいます。このままでは血なまぐさいことになるんじゃないか、その前に……と思います。
 最後に一言。外部チェックを!との声を封じ、テキトーなところで幕引きするための装置として、警察刷新会議はあったのだと、のちに語り継がれることのないよう、祈ってます。

 すると、樋口委員は私に顔を向け、「あなたは我々にケンカを売ってるのか励ましてるのか」というふうなことを言った。私は、「もちろん激励ですよ」と笑ったが、内心では「これっぽっちの批判的発言にそんな反応をするとは、事務局の警察庁から先生、先生≠ニ奉られてるのかな?」と感じた。
 私のあとに飛び入りでステージに上がったのは「警察オンブズパーソンにいがた」の人。この人も警察の不正経理に触れたところ、樋口委員は、意外そうな顔で言うのだった。
「不正経理のことなど、私ども1回もやってない(議題にしたことがない)」
 おいおい! 神奈川県警の一連の犯罪を受けて誕生した特別監察も、警察を管理するはずの公安委員会制度も、ぜんぜん機能してないことがわかったから、刷新会議ができたんでしょ。裏金や不正経理のことは何度も大きく報道されてるのに、1回も議題にしたことないの? 事務局である警察庁が「先生これを」と差し出したネタだけ扱ってたの? 呆然としていると、樋口委員は言った。
「どんな世界でも、二重帳簿、裏帳簿はイカンですよ」
 元警視監の故・松橋忠光さんが、「中央からすべての都道府県警にわたる全警察組織において行われている」と言っていた「裏ガネづくり」、警察腐敗の根幹を、民間営利企業の不正と同列に置いて片づけるつもりのか?
 次にステージに上がった人の発言は、じつに痛快なものだった。警視庁から新潟県警に移動したという、だいぶ年配の元警察官で、さらっと当然のことのように、しかし大きな声でこう言ってのけたのだ。
「裏帳簿は、昔からありました!」

 監察、公安委員会、監査委員……。こうしたチェック機関が機能していないことが、いや、逆に不正を隠す防波堤≠ニして機能しているのが、日本の行政の特徴といえるように思う。環境アセスメントは、「環境に影響はない」と公共事業にお墨付きを与える装置。公聴会は「住民の声も聞きました。民主的に決めました」とするための装置といえる。
 警察刷新会議はどうなのだろう。
 刷新会議の公聴会は、公募による公述人が5人。千字程度の作文を書いて応募するのだが、どういう選考が行われたのか闇の中だ。ほかに3人、委員推薦の公述人が登壇するが、この選考理由も不明だ。
 大阪と新潟で計16人の公述人の意見を私は聞いた。情報公開を求める弁護士(各1名)を除くと、意見は大ざっぱに2種類に分けられるように思えた。
 1つは、「警察にマーケティング思考を」といったアイデア型。そしてもう1つ、いちばん多いように感じたのが、「とにかく国民1人1人の面倒をきめ細かく優しく見てくれ」というタイプだ。
 そして、大阪ではとくに気にならなかったが、新潟公聴会では、委員たちの口からこの言葉がたびたび出た。警察官の増員――である。
 「ただし合理化を図ったうえで」とか「この状態で増やされても困るが」という断りを入れるものの、「最終的には人(警察官)を増やさなきゃいかんだろう」「増員するしかない」と、たびたび言うのである。
 刷新会議は、国家公安委員長(当時は自治大臣と兼任)の要請を受けて誕生した。事務局は警察庁。委員がどうやって選任されたかは不明……。結局雨降って地固まる≠ナ、
「刷新された警察が、国民のためにキメの細かい仕事を(国民を隅々まで管理)するため、警察官を大増員します。よろしいですね」
 つまり焼け太り=Bそれが刷新会議の、落としどころというか狙いなのだろうか。

 あと、新潟公聴会を聞いていて非常にムカつくシーンがあった。国鉄とJRに勤務してキャリア制度、階級制度のダメさを痛感したという公述人が、提言の1つとして「外からのチェック機関を設けること」と述べたのに対し、大宅委員が「外部からチェックできるのか。能力があるのか」と、否定的なことをしきりに言ったことだ。じゃあ、自分たちはナンなのか。裏ガネ、不正経理を1回も議題にしないで「能力」があるのか。警察を事務局として侍らせ、内部の人≠フつもりなのか。
 また、新潟日報の公述人が「公安委員に少なくとも1人は、警察から煙たがられる人を」と述べたのに対し、大森委員は「そんな人を確保できるのか。新潟にいるのか」と、これもしきりに否定的なことを言うのだった。新潟県民は権威にヘコヘコする羊ばかりだとでも言うように。

 いま、警察組織の腐敗が大きな問題になっている。これは100年に1度の、いや100万年に1度のチャンスだ。しかし、警察組織もバカではない。ただのバカではここまで腐らない。正すのは困難で、これを逃がしたら二度とチャンスは巡ってこないだろう。おそらくは組織の腐敗ゆえに苦労しているだろう一線の警察官たちのためにも、できることをいまやっておかねばと思う。
 


2000年に2回にわたり『ドライバー』に書いた記事 (連載コラム)より
※その後、元職、現職の警察官が続々と、裏ガネなどの不正を暴露するというチャンスがやってきています。
http://www5.hokkaido-np.co.jp/syakai/housyouhi/document/
http://www.ehime-np.co.jp/tokushuex/0501kenkei/index.html
http://www.kochinews.co.jp/kenkei/kenkeimainf.htm
http://www.ombudsman.jp/fswiki/wiki.cgi/akarui?page=FrontPage
 
 

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