酒気帯びで同乗者も30万円?

 

 

 2002年6月1日から酒気帯び運転などの罰則が大幅に強化され、こんなウワサが飛び交うようになった。

「酒気帯びで運転者と同乗者4人あわせて罰金120万円取られた」

 同乗者だけで120万円とか、何人か不明だが200万円とか、ウワサはいろいろあるようだ。
 あなたも聞いたことあるでしょ。私も6月ころだったか早々とゴルフ雑誌から問い合わせを受けたし、先日は読売テレビの「あさリラ!」という番組に呼ばれた。ワイドショーのネタにまでなったわけだ。
 その後の関連報道も含め、少し突っ込んで検討してみよう。


 ウワサはどこからきたのか。
 インターネットで調べてみたら、2002年11月26日の毎日新聞のコラムに「千葉県のゴルフ場に所属するプロゴルファーが、次のような話を聞かせてくれた」として、こうあった。

 北陸地方のゴルフ場で一緒に回ったメンバーさんは、生ビールを1杯飲んで帰途についたところ1〜2キロ先で検問にあい「免許のある同乗者2人分を含め、合計90万円の罰金をとられた」と嘆いていました。

 これ、伝聞である。ウワサはどれもこうした伝聞のようだ。
 私は首をかしげざるを得ない。だって、生ビール1杯では「酒酔い運転」までいかないはず。「酒気帯び運転」だとしても検知値はそう高くないはず。とすれば罰金の相場はだいたい20万円(原付だと10万円)だ。同乗者が「あとで焼肉おごるからさ」などと犯行を「教唆」(刑法第61条)したとされ、かつ、教唆犯には「正犯の刑を科する」というのを適用されたとしても合計は60万円。
 もちろん、運転者に前科があれば罰金額は上限の30万円までいく可能性もあるが、同乗者は前科まで知っていたのか。知らないのに正犯の刑を貸すのは重すぎる。

 いずれにしても、もし複数の同乗者まで処罰したとすれば、警察は当然、記者発表するはず。ニュースになっていなければおかしい。なのにそんなニュースは(私の知る限り)聞こえてこない。「あさリラ!」のスタッフもわからなかったそうだ。

 私は交通違反のことに関わり始めて20年近い。自分自身いろんな体験をしてきたし、全国の交通取り締まりの現場で何が起こっているか、多くの方々から日々お話を聞いている。録音テープも何本も聞かせてもらった。そういうところから推測すると、ウワサのもとはこうじゃないかと思えるのだ――。

 3人で酒を飲んでクルマで帰る途中、飲酒検問にひっかかる。警察官が運転席の窓に顔を入れると酒臭い。じゃあ飲酒検知をしようかとなる。運転者は「しまった!!」と青ざめる。
「6月から罰則が強化されてたんだ。やべえっ!!」
 で、必死に抵抗する。
「俺はそんなに飲んでねえよ。あそこの郊外店なんか、みんなクルマで飲みに行き、みんな酔っ払ってクルマで帰る。ああいうのを取り締まれ!!」
 などと。運転者1人だけなら警察官はそんなもの適当にあしらうが、仲間(同乗者)がいるとメンドウだ。酔った仲間は無責任に運転者の抵抗をあおる。警察官をののしる。このとき、警察官は同乗者に言う。

「みなさん、運転者さんがお酒を飲んでると知ってて同乗してるんでしょ。よくないですねえ。刑法に教唆犯、幇助犯(刑法第62条)の規定がありましてね、教唆犯は正犯の刑を科されるんですよ。ご存知でしたか? 酒気帯びの罰金は30万円以下。30万円なら3人で合計90万円ですか。じゃ、みなさんからも調書を取りましょうかねえ」

 警察官は、そういうことも法律上あり得るという話をしているにすぎない。
 だが、何も知らずゴネてるだけの者は「3人で90万円!!」という部分に心を奪われる。そして「4人なら120万」となり、いつの間にか実際に徴収されたことになり、120万が200万に化け――。

 とまあ、ウワサの裏側はそんなことじゃないかと私は見る。少なくとも、同じクルマに乗ってるだけで運転者と同額の罰金を必ず取られるかのようなのは、完全にデマだろう。 そのような規定は道路交通法にはない。

 ただし、運転者に前科があるとか物損事故をやったとかで、また同乗者のほうも「運転しないとクビだ」と部下を脅したとかクルマを貸し与えたとか、そういう悪質な場合はどうなるか、わからないよ。

 インターネットのサイト「オートアスキー」のニュースのページによると、飲酒運転による轢き逃げ死亡事件について、その運転者(実家を訪れた娘の夫)に酒を勧めた両親が12月3日、兵庫県警により「幇助」などの罪で送検されたという。飲酒轢き逃げは刑法第208条の2「危険運転致死傷罪」を適用され、罰金ではなく懲役刑の対象とされる可能性が高い。その両親も刑務所へ行くか?という話になるわけだ。

 あと、これはあまり知られてないが、道路交通法第90条に「重大違反唆し行為」というのがある。この条文がいう「重大違反」とは酒気帯びなど点数が6点以上の違反のこと。その違反を「させ」または「助ける行為」をした者は、免許のほうの行政処分の対象とされる。


 ところで、
「確かに飲んだことは飲んだけど、そのあとクルマの中で×時間たっぷり寝た。朝になって走り始めたらパトカーに停められ、フーセンをやったら基準ギリギリの数値が出て違反キップを切られた。どうして!?」
 という人がけっこういる。

 帰宅して着替えたり風呂に入ったりすることなく、飲酒後すぐに狭い車内でゴロ寝したのでは、どうもアルコールの代謝が良くないのかな、という気はする。
 しかし、詳しい状況を聞いていくと「検知値はおかしいのでは?」と思えるケースもときどきある。とくに不思議なのは、そういう場合の検知値がよく基準の0.15r(02年6月より前は0.25r)ピタリであることだ。

 2000年4月には沖縄で、酒気帯びで検挙しようとしたが基準に足りず、交番でアルコール入りの口臭防止スプレーを用いて不正に数値を上げたとして警察官3人が懲戒免職になっている。
 警察は成績主義の組織。成績を上げようと似たようなデッチ上げが他にもあるのではないか。パトカーで巡回中に「ははあ、あいつは酒飲んで寝てるな。動き出したら検知してやろう」と目をつけ、しかし基準に達しなかったので小細工を……なんてこともあるのではないか。

 そうでなくても、0.15r以上0.25r未満はこれまで違反ではなかったのだ。新たに違反として上限30万円もの罰金を科し、6点(イッパツで30日免停)とし、0.25mg以上については13点(同90日免停)もの点数をつけようとするなら、飲酒検知はよほど厳正でなければならないだろう。
 ところが、
「いまの検知値は絶対おかしい。最初からちゃんとやり直してくれ」
 と運転者が言っても、警察官は応じない。証拠品として現場で袋に入れられ封をされた検知管を、運転者は二度と見ることができない。これでいいのか?


 罰金は一般財源として財務省のものになるが、免停の講習(30日免停なら1万3800円。90日は2万7600円)は警察の天下り法人である交通安全協会に委託されている。免取りになった人も3万3800円の講習を受けないと免許を取り直せない。
 警察庁の発表では、2002年6月からの3カ月間で90日以上の免停は1.21倍に、免取りは1.28倍に増加。前出の「オートアスキー」によると香川県警では7月からの4ヶ月間で90日以上の免停が8.3倍に、免取りが5.3倍にも増えたという。

 それに、罰則強化後、代行運転がどっと増えたそうだが、強化と同時に「自動車代行運転業の業務の適正化に関する法律」なるものが新たに施行され、公安委員会(つまり警察)の「認定」が必要となった。

 結局、自律できず(酒を飲んで運転するかどうかを自分のその場の都合および捕まるかどうかで決め)120万だ200万だと金額で騒ぐ民がいて、そこに新たな規制(=利権の種)を持ち込む官がいる、という交通社会の構図がここにも見られるってことだろうか。


『ドライバー』(八重洲出版)2003年1-20号の連載コラムより

参考記事「飲酒運転の同乗者を幇助犯とする運用」(2006年9月3日)。

 

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