オービス敗訴─客観的な裏付けとなるデータが存在しない!

 

 3月14日、驚愕のニュースが飛び込んできた。オービス事件で仙台高裁秋田支部が、秋田簡裁の有罪判決を破棄して「公訴棄却」を言い渡したというのである。公訴棄却とは起訴自体を違法とすること。無罪と同じようなものだ。

 オービス(無人式の自動速度取締り機の総称)が日本の道路に登場したのは70年代後半。現在は全国に600基以上あり、日々たくさんの取り締まりを行っている。警察庁によると、05年は13万9185件だ。
 全国でそして、運転者がオービスの誤作動・誤測定を主張する裁判が続々とある。
  92年に1件だけ、大阪高裁で無罪が出ている。被告人車が大型トラックだったためタコグラフ(自車の運行記録計)があり、その記録が無実の証拠となったのだ。
 だが、メーカー(このときは東京航空計器)は「あれは誤判だ」と言い張り、無実の証拠がないもの(=92年の1件を除くすべてのオービス事件)は有罪とされ続けてきた。
 オービスの測定値が絶対に間違いないという証拠は、信じがたい話だが、オービスの製造販売会社や点検会社が作成した書類と、社員の証言だけ。書類や証言が正しいという客観的な裏付けは一切ない。オービス無謬神話。病的な神話である。

 そんななか、史上2番目のオービス敗訴判決(オービスの信頼性を疑った判決)が秋田で出たのだ。いったいどんな理由で? 判決を読み、被告人・Aさんの話を聞き、私はぶったまげた。感動した!

  現場は県道56号線の上り方向。片側2車線で見通しが良い。装置は三菱電機の「RS-2000B型」。いわゆる新Hシステムだ。「B型」は、いわゆるステルス式のことと思われる。
 撮影は04年8月16日午後3時2分。制限は60q/hで測定値は92q/hだった。

 まず、この事件は「無実だ!」と突っ張りとおしたものではない。
 Aさんは言う。
「ストロボには気づきませんでした。それなのに3週間もたって、32q/hオーバーしただろと突然言われたってねえ。いつもあそこは80q/hくらいで走ってるんですが…」
 そこでAさんは、オービスが絶対というならその裏付けとなるデータを出してほしいと思った。電話でそう求め、警察へは出頭しなかった。配達証明の呼び出しが3度あったが無視した。
 すると05年1月、逮捕されてしまった。
 これはかなわない。Aさんは翌日、容疑を認めて略式に応じ、罰金6万円の支払い命令を受けて釈放された。そうして、自由の身になってから14日以内に「正式裁判でやり直してくれ」と請求したのである。裁判所はこの請求を断れない。

 一審・秋田簡裁は、数回の審理を経て有罪、罰金6万円とした。Aさんが求めるデータなど一切ないのに、メーカー作成の「御説明資料」などを鵜呑みにして、オービスの無謬性を認定する判決だった。残念ながらそれがごく普通の判決なのだ。
 Aさんは控訴した。
 120件以上のオービス裁判を傍聴してきた私は、弁護人(国選)の控訴趣意書を見て「ええっ!?」となった。
 弁護人は普通、「こういう原因で誤作動が生じたのではないか」「メーカー社員の証言のここがおかしい」などと、誤測定があり得る事情を探そうとするものだ。ところが本件の控訴趣意書はなんと「正確性、信頼性を裏付けるデータ等がない」「実験結果のデータ等についての証拠がない」と、とにかく「データがない」に終始しているのだ。シンプルな根幹だけを攻めているのだ。それはAさんの意思に沿うものだった。

 06年1月に行われた控訴審は、数分で結審したそうだ。やっぱりダメなのか…。しかし3月、
「主文。原判決を破棄する。本件公訴を棄却する…」
 という逆転判決が出たのだ。マスコミでも大きく報道された。
 公訴棄却というのは、要するにこういうことだ。

「メーカーの『御説明資料』に0〜6%のマイナス誤差があると記載されているが、その根拠となるデータがない。一般に誤差はマイナスにもプラスにもある。マイナス誤差しかないことを裏付けるに足りる客観的なデータ等の証拠は何ら存在せず、実際の速度は90q/hを下回っていたとの合理的疑いが残る。そうすると、反則手続きを踏まずに起訴したことになり、起訴は手続き上、違法である」

 じつは、レーダー電波は車両に対して斜めに当たるため、若干の(本件では最大6%とされる)マイナス誤差が生じる。斜めではなく正面から当たれば、角度による誤差はゼロ。だから、角度によってプラス誤差が出ることはない…。
 その意味では判決は誤っているのだが、裁判は証拠によってすすめられる。「データ等の証拠が何ら存在しない」どころか、検察は角度による誤差のことさえ主張しなかったようだ。「御説明資料」だけで、いつものように有罪にしてくれるはずと、たかをくくっていたのだろう。

 それはさておき、この判決は、シンプルな根幹を突く控訴趣意書に応え、データの問題に何度も言及している。たとえばこんなふうに。

「点検会社の証人は、測定値にプラス誤差は生じないと供述し、原判決はその証言のみを根拠にプラス誤差は生じないと認定したが、証人の供述の根拠は『三菱の説明資料で確認した』というにとどまり、その裏付けとなる資料は証拠として提出されていない」

「原判決が測定値の正確性の根拠として挙げた取扱説明書などは、最先端技術を活用した優れた装置であると記載されているにとどまる。メーカーが作成した取扱説明書などにそういう記載があるからといって、裏付けもなくそれを信用することはできない。そもそも最先端技術を活用しているというだけでは、測定値が正確かどうかわからないし、確かな実験データ等にもとづく根拠があるのか、証拠上不明である」

「測定値が正確であることを合理的な疑いなく認定するに足りる証拠はない」

 私は「うおーん」と泣き出したくなったよ。いや、マジで涙が出てきた。判決理由にあるのは、どれも当たり前のことばかり。
 だけど、これまでどの事件も、「証人がプラス誤差はないと証言したから」「メーカーの説明書に最先端技術で優れた装置と書いてあったから」で有罪にされ続けてきたのだ。みんな、「ちっ、裁判なんてこんなもんか」とシラけて、あるいはハラワタを煮えさせて追い返され続けてきたのだ! ところが仙台高裁・秋田支部の裁判官たちは…!

 今回の判決がすごいのは、それだけじゃない。
 オービス裁判では、検察側はよく、前後に捕まった人たちが略式に応じたことを、オービスの信頼性の理由として出し、裁判官はそのとおり受け取るのだが、秋田の判決はちがった。それぞれの書類の中身をしっかり確認し、

「速度についての具体的な供述がない」

「何q/hで走行していたか記憶にないと供述している」

 などと、ばっさり斬って捨てたのだ。
 しかーも、その6人の写真番号を見ると、10枚もの写真が抜けていることがわかる。これは三菱のオービスではよくあり、だれもが不審に思うのだが、検察は抜けた部分を絶対に出さない。その点を、秋田の判決はずばりこう斬った。

「そのようなセレクトの仕方は一見して不審を抱かせるものであり、測定に、明確に違反の事実を認定し得ない問題点が存する可能性すら考慮に入れざるを得ない」

 しかも、Aさんがいったん略式に応じたことについては、こうだよ。

「逮捕などで身柄の拘束が続くよりも罪を認めて身柄が解放されるほうがよいと考えるのは、一般人の合理的な考え方の1つであるといえる」

 これまでムリヤリ有罪の理由とされてきたものを、ぜーんぶひっくり返しちゃったのだ。これまでだれも書けなかった当たり前の判決を、なんで書けちゃったの? うおーん。また泣けてきたよぅ。
 いや、泣いてる場合じゃない。検察側は最高裁に上告した。国家秩序の擁護者たる最高裁なら、メンツを救ってくれると思ったのか。さらに墓穴を掘ることになるのか。ドキドキするよぅ。


ドライバー』2006年5-20号の記事に加筆。
 
以下はブログの記事
 
仙台高裁秋田支部「客観的裏付けがない」と公訴棄却!!(06/3/15)
秋田オービス公訴棄却判決「あれは誤判だ」と三菱電機も言い続けるのか(06/3/15)
オービス公訴棄却判決を書いた3人の裁判官(06/3/16)
公訴棄却を食らった三菱のオービス(高抑)をさっそく礼田計さんが140枚撮影!(06/3/17)
秋田のオービス公訴棄却 現場はこんな道路(礼田計さん撮影)(06/3/18)
仙台高裁秋田支部のオービス公訴棄却判決を読み、猛烈に感動!(06/3/20)
誤測定が起こらなくても誤測定は起こる このカラクリに気づいてくれぇ!(06/3/23)
秋田のオービス公訴棄却事件 検察側が上告 「先の墓穴より今のメンツ」?(06/3/28)
プラス誤差もマイナス誤差も、そんなことは目じゃないのだよぅ!(06/4/6)
「データを出せ」だけで押すほうが良いのでは?(06/5/8)
誤作動を誤作動として認識するシステムになってない…のだけれど(07/2/9)
日本の交通取締りは根底から崩壊している(07/3/6)
オービス事件 最高裁で弁論!(07/3/29)
オービス最高裁判決 どっちの上告か最高裁は勘違いした!?(07/4/23)
「審理不尽」じゃなくて「立証不尽」では?(07/4/24)
最高裁の「更正決定」(07/5/27)
北陵クリニック事件、逆転無罪か!(07/12/6)
秋田オービス逆転有罪(08/1/11)
 

 

 
 
 

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