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駐車違反(放置車両)の取り締まり
放置違反金と民間委託

 

 駐車時間が5か30分かといった悪質性は考慮しない。
 チョークは使用せず、1分でもアウト。
 現場の取締りは(最初は全国約270警察署の管内で)民間業者に委託する。
 取締り件数は2倍 くらいに増やす。

 ただし、違反者が正直に出頭してキップを切られる必要はない。
 車検証上の「使用者」の立場で反則金と同額の「放置違反金」を払えばOK。
 度々「放置違反金」を払うことになった車は「使用制限命令」を受けるが、免許停止処分に比べれば格段に軽く、違反常習者もゴールド免許のまま他の車を運転できる。

 という制度が06年6月1日からスタートした。
 以下、いくつかの項目に分けて解説しよう。

 

◆放置違反金←行政制裁金←課徴金←反則金◆

 ここへくるまで、いくつかの案があった
 90年4月に讀賣新聞で発表されたのは、駐車違反を反則金の対象から外し、車の使用者から強制的に徴収できる「課徴金(行政制裁金)」一本でいこうというものだった。
 93年の朝日新聞94年の讀賣新聞に出たときは、駐車違反ばかりでなく軽微な(つまりほとんどすべての!!)違反と事故を「非犯罪化」し(つまり刑事手続きから外し)、そのうえで「行政制裁金」を徴収するというものだった。

 「行政制裁金」は、免停などの行政処分によく似ている。行政処分は、

 警察の認定は絶対であり、警察は悪質なものしか捕まえない。よって、違反は事実であり悪質であるのだ。したがって直ちに処分を執行する。文句があれば、処分を執行されてから裁判でもなんでも勝手にやれ 。

 という警察の独善と独断のシステムになっている。
 同じシステムでカネも強制的に徴収してしまおう 、というのが「行政制裁金」にほかならない。
 金額は「反則金の2倍以上」「現在の罰金より高額に」と報じられた。

 反則金の納付額は年間だいたい800〜900億円。1000億円を超えた年もある。罰金の執行額は04年度で1000億円くらい。件数の8割は交通違反だという。
 金額を反則金の2倍とし、しかも「保険で損害は賠償されているから」などの理由で大半が不起訴となっている(つまり反則金も罰金もない)軽微な事故からもカネを取ろうというのだ。莫大な利権が発生することになる。

 だが、ある法律家は言うのだった。
「交通事故は刑法犯です。片カナを平カナに直すだけで何十年もかかった刑法から、ある犯罪を抜くなんて、そんなことができるはずがない。道交法だって特別刑法です。無理じゃないんですか」
 なるほど。ずっと犯罪とされてきたものを犯罪でなくし、警察の一存でペナルティ(行政罰)を課せるようにするなど、とんでもない話だ。警察国家の到来を強く予感させる。法律家からすれば信じられないことなのだろう。

 報道では、警察はヤル気満々だったが、「課徴金」も「行政制裁金」も国会へ提出されることはなかった。やはり無理スジなのか。
 けれど、93年度の「犯罪白書」やいろんな法律雑誌に「交通違反・事故の処罰システムは大きく改定する必要がある」という趣旨の記事が載った。必ず出てくるはず…と私は見ていた。

 そうして今回、「放置違反金」なるものが出てきたわけだ。とりあえず駐車違反(放置駐車)に限定し、非犯罪化はあきらめて反則金と二本立てにするという形で。

 「放置違反金」なるものを新設し、その取締りの「民間委託」も行う、という道路交通法の改定案は、2004年4月9日、参議院本会議を賛成多数で通過。同年6月2日、衆議院内閣委員会を賛成多数で通過して6月3日衆議院本会議で可決成立。同年6月9日公布。2年以内に施行されることとなった。

 

◆「放置違反金」とは◆

 03年12月26日、警察庁が公表した道路交通法の改正試案の説明に、「違法駐車対策の推進」なる項目がある。

 現在、車両の運転者の責任とされている放置駐車違反について、車両の運転者が反則金を納付せず、又は公訴を提起されない場合等その責任を追及することができない場合に、公安委員会は、車両の使用者に対して、行政的な措置として、金銭(違反金)の支払いを命じることができることとします。

 06年5月末まで、放置駐車違反に対するペナルティとしては「反則金」(または「罰金」)しかなかった。いわゆるワッカやステッカーをつけられた場合、違反者が出頭すると青キップを切られて「反則金」の納付書を交付された。
 「反則金」の納付は任意。納付しなければ刑事手続き(犯罪を処理する手続き)の扱いとなり、処罰をどうすべきか、警察以外の者、すなわち検察官や裁判官が判断する。その結果、「罰金刑」になることもあるが、不起訴や無罪の可能性もある。
 というか、ちゃんと争えばほとんど不起訴になる。しかし、ちゃんと争う人はきわめて少なく、反則金の納付率は毎年100%に近かった。

 出頭せずにトボケてしまう人は、こっちはまあまあいた。そうすると警察はキップを切れない。警察庁のデータおよび報道によれば、2〜3割くらいが、標章を付けられながら取締りを逃れていたという。

 そこで、そういう場合は違反車の車検証上の「使用者」から「放置違反金」を取ることにする。違反者に対する 「反則金」(または刑事責任の追及)と、使用者に対する「放置違反金」(使用者責任の追及)との2本立てとし、取りっぱぐれをなくそうというわけだ。

 

◆民間委託の概要◆

 違法駐車は、交通の安全と円滑を阻害し、国民生活に著しい弊害をもたらしている。しかし、放置駐車の取締りは、違反者が出頭しない場合は特定が困難という根元的な問題がある。出頭率は低下している。厳しい治安情勢のもと、駐車違反の取締りに投入できる警察力には限界がある。このような現状に照らせば……

 民間委託による取締りは、民間会社の「駐車監視員」が違反状況等をデジカメで撮影し、「確認標章」という名の新しいステッカーをとりつけて行う。05年3月22日発出の通達によれば、「重点的に取締りを行う場所、時間帯などを定めたガイドラインを策定、公表することとし、当該ガイドラインに沿った取締りを推進する」とされている。
 各警察署のガイドラインは、06年4月27日までに公表された

 「確認標章」には、こんなことが印刷される。

駐車違反
速やかに移動してください。

 この車は、“放置車両”であることを確認しました。
 この車の使用者は、   公安委員会から放置違反金の納付を命ぜられることがあります。
 なお、この標章が取り付けられた日の翌日から起算して30日以内に、この車を運転し駐車した者がこの違反について反則金の納付をした場合又は公訴を提起され、若しくは家庭裁判所の審判に付された場合は、この限りではありません。

 自分の車に確認標章をとりつけられ、「こんなの知るか」と破り捨てて出頭しなければ、違反キップを切られず、違反者として反則金を払うことはならない。しかし、その車の使用者であることがナンバーから照会され、使用者として「放置違反金 」(反則金と同額)を徴収される、そういうことになるのだ。
 「放置違反金」の納付を拒めば、車検の更新ができなくなる。警察は年利14.5%の利息をとって財産を差し押さえることもできる。

 駐車(駐停車を含む)違反の取締り件数は、05年は159万3377件。そのうち放置駐車違反は150万6388件。
 6月1日からの新制度は「放置車両」(違法駐車と認められる場合における車両であって、運転者がその車両を離れて直ちに運転できない状態にあるもの)に対して適用される。 ここでいう「車両」とは、大型車普通車自二原付、そしてトレーラーの荷台部分だ。

 警察庁の交通局長は国会で、新制度のもとでの取締りは現在の「2倍程度」を「行いたいと」と答弁している。議事録には「2倍」という数字が何度も出てくる。
 そして、使用者が「放置違反金」を払うことになるのは7割と見込まれている。

 取締りとは、何をいうのか。
  国会答弁からは、検挙件数とも、標章の取付件数ともとれる。
 05年の放置駐車違反の取締り(検挙)件数は、駐停車禁止場所が9万6134件、駐車禁止場所が141万254件。これに、普通車の反則金(納付率はほぼ100%)である1万8000円と1万5000円を掛けてみると、17億3041万円+211億5381円=228億8422円。
 取締りを2倍に増やし、その7割が「放置違反金」を納付するとすれば、「放置違反金」は約320億円。
財務省は約300億円と見込んでいるようだ。

 大きな市場、新しいビジネスチャンスが生まれることになる。04年2月28日に警察庁が開いた業者説明会には約900社が詰めかけたという。

 

◆駐車監視員の講習◆

 05年3月24日付けの「駐車監視員資格者講習等の運用について」という通達によると、講習は3日間で計15時間。最終日には1時間の「修了考査」がある。正誤式50問で1問2点。90点以上で合格。「講習事項を理解したか否かを確認するものであり、ことさらに難解な問題により受講者間に優劣を付ける選抜試験の類ではない」とされている。

 警視庁は06年2月までに5回の講習を行っている。申込者の合計は5612人、 「修了考査」の受験者は5064人で合格者は3500人。合格率は約7割だ。

 講習の修了者と「同等以上の技能及び知識を有する者」は、講習をパスして「認定考査」を受けるだけで資格者証をゲットできる。

 ただし、資格を得ても、すぐに取締り(正確には「確認事務」)ができるわけではない。取締りを委託される警備業者などに雇ってもらう必要がある。
 私(今井亮一)はその講習を受けて終了考査に合格。「駐車監視員資格者証」を持っている。更新はなく、全国で使える。 ま、私を雇う業者はいないだろうけれども。


 

 

放置違反金の使途◆

 全国で年間おおよそ800〜900億円の反則金は、いったん国庫に入ったのち「交通安全対策特別交付金」として総務省から都道府県・市町村に交付される。使途は、標識や信号機など交通安全施設の設置・管理に限られている(04年の法改定により若干ゆるやかな限定になったが)。
 その業界は、巨大な市場ということができる。警察OBが天下り、談合で摘発されたりしている。

 新しくスタートする「放置違反金」は、国庫を経由せず、取締りを行った都道府県の収入になる (道路交通法51条の4、15項)。使途の限定もない。都道府県は新たな財源を手にすることになる。

 だが、そうなれば、交付金の原資が放置駐車のぶんだけ減り、交付額が減る。
 現在の放置駐車による反則金の納付総額はわからないが、取締り件数 に普通車の反則金額を掛ければ、前述のように約229億円。国会答弁にあったように「放置違反金」の納付が7割になる(反則金はほぼ3割に減る)とすれば、約229億円が約68億円へと激減することになる。
 そんなにも交付額が減れば、業界はかなり困るはず。当然、減ったぶんは「放置違反金」の収入から充てることになるだろう。

 そして、「民間委託」ということは、警察官が給料のなかでしている取締りを、委託費を払ってやらせることになる。 しかも、委託するのは取締りだけではない。「放置違反金」の徴収に関する事務なども委託できるようになっている。「駐車監視員」が使う携帯端末などは都道府県が用意することになってもいて、その費用も新たに生じる。

 簡単にいえば、これまでは交付金分だけ稼げばよかったが、今後は 「交付金の穴埋め分 + 委託費分」を稼がねばならないわけだ。都道府県が赤字にならないためには、あるいは「放置違反金」を実質的に新たな収入とするためには、当然、取締りをかなり増やさねばならないのである。
 件数が「2倍」というのは、そういうところからもきているのだろう。

※ 念のため断っておくが、A県警の取締りによって納付された反則金額と、A県への交付額は、同額というわけではない。個々の都道府県・市町村への交付額は、「交通安全対策特別交付金等に関する政令」に定められた“計算式”によって決まる。

 

◆規制の見直しが行われる?◆

 法律に違反したからとペナルティを課す(科す)ためには、

(1)何が違反かを決め、
(2)ペナルティの上限を決めておく。
(3)取り締まったあと、違反者の言い分もよく聞いて、違反の動機や悪質性、再犯の可能性などを勘案し、然るべき重さのペナルティを課す。または課さずに終わらせる。

 この手順を必ず踏まねばならない。
 もちろん、違反者にとくに言い分がなく、定型的な処罰でかまわないという場合は、(3)の手続きは省略してもいいだろう。

 ところが、新しい駐禁取締りは、まったく違う。

(4)形が違反ならとにかく取り締まり、取り締まったらとにかくペナルティを課す(カネを徴収する)。

 そのようなシステムにするためには、絶対に不可欠なことがある。
 それは、そもそもの規制を、合理的で必要最小限のものとすることだ。上記(3)の手続きを廃止するためには、上記(1)の段階でよくよく吟味されねばならないのである。

 だからこそ、04年1月15日、「きめ細かな駐車規制の実施について」という通達が発出されている。

 計画的に、個々の交通実態を踏まえたメリハリの効いた駐車規制を実施し、より良好な駐車秩序の確立に努められたい 。

 必要最小限の規制となるよう時間的・場所的に対象範囲をきめ細かく設定して実施しなければならない。

 などと、すばらしいことが指示されている。
 06年1月24日には、「更なる駐車規制の見直しの実施について」という通達が発出されている。

 「交通の安全と円滑」と「駐車の必要性」の調和に配慮しつつ、駐車需要を優先させるべき対象又は時間帯若しくは道路の区間の有無について再度検討し、見直しをすべき駐車規制がある場合には地域住民等の理解を得て、駐車規制を解除し又は緩和するなど、更なる駐車規制の見直しを実施し、より良好な駐車秩序の確立を図るとともに、個々の駐車規制の内容について交通管理者としての説明責任が果たせるよう万全を期されたい。

 配送や買い物や子ども・老人の送迎等で短時間の路上駐車の需要があり、かつ、それら駐車がとくに迷惑とならない場所、時間帯においては、15分なり30分なりの路上駐車は合法とする…。短時間であっても迷惑な場所、時間帯における駐車は、しっかり違法とする…。そして、それでも違反する車を、びしびし取り締まる…。

 そうなるなら、じつにけっこうなことだ。「より良好な駐車秩序の確立」が図れるだろう。

 だが! ほんとうにそんなことをしたら、「放置違反金」の収入は(反則金収入も)激減してしまう。この巨大ビジネス (ニュー駐禁ビジネス)は成り立たなくなってしまう!

 思い出されるのは、67年(昭和42年)に反則金制度が国会で可決されたときのことだ。当時、「反則金稼ぎの取締りが横行するのではないか」と批判された。それに対し警察庁は 、

 危険性の少ない軽微な違反に対しては、警告による指導を積極的に行うこととし、ことさら身を隠して取締りを行ったり、予防または制止すべきにもかかわらず、これを黙認してのち検挙したりすることのないよう留意すること 。

 などと指示した通達、いわゆる「42・8・1通達」を発出した。
 だが、通達はどこへやら、「反則金稼ぎの取締り」は横行し、当初は年間140億円と推定された反則金は87年には1000億円を超えた。その後は800〜900億円で推移。

 今回の2本の通達も「42・8・1通達」と同じようになるだろう。ごく一部の規制を見直し、「きめ細かな規制にしたのだから、その規制に1分でも違反する車を取り締まるのは正当なのだ」となるのだろう。

 

◆車両の使用制限命令◆

 違反者が正直に出頭して取締りを受ける(違反キップを切られる)と、2点または3点の違反点数が登録される。間に1年間をおかずに違反を重ねれば、どんどん累積され、免許停止などの行政処分や、「違反者講習」「初心運転者講習」の対象とされる。免許更新のときの講習時間が長くなり、手数料も高くなる。
 また、「違反歴」となり、刑事裁判の被告人とされたとき「被告人に前科はないが、放置駐車違反などの違反歴が×回あり…」と言われたり、ネガティブ情報として扱われる。

 ところが、正直に出頭せず、使用者としての立場で「放置違反金」(反則金と同額)を払えば、違反キップを切られない 。だから当然、点数が登録されることはなく、違反歴にもならない。ゴールド免許の者は、ゴールド免許のままでいられる。
 運転者たちには(とくに違反常習者には)こんなうれしいことはないだろう。

 もちろん、制約(のようなもの)はある。
 何度も「放置違反金」を払うことになった車は「使用制限命令」を食らう。免許停止(免停)処分ならぬ“運停処分”だ。

 あるとき、「確認標章」を取り付けられ、それに基づいて「放置違反金」の納付命令が行われた場合、「確認標章」を取り付けられた日を「基準日」という。
 そして、基準日前の6カ月間に「放置違反金」の納付命令を受けたことがあればその回数を、また、基準日前の1年間に「使用制限命令」を受けた(制限期間の開始の日があった)ことがあればその回数を、数える。
 数えた結果、基準(
05年3月25日発出の通達に処分の基準表あり)に達していれば、「使用制限命令」を行う。

 たとえば普通車の場合は、基準日前1年間に「使用制限命令」を受けたことがなく、かつ、基準日前6カ月に「放置違反金」 の納付命令を受けた回数が3回だと、20日間の「使用制限命令」の対象とされる。その回数が4回なら30日、5回以上だと40日の使用制限、というふうになる。
 ただし、上記通達は、「使用制限命令」の対象となるのが初めてで、過去の「放置違反金」を速やかに納付している場合などは、処分を免除することができる、としている。実際、処分を 免除された人もいる。

 “運停処分”は、約半年間に4回やって20日間。停止(禁止)されるのはその車両だけで、違反者は他の車両を自由に運転できるうえ、初回は免除されることもある…。
 一方、免停処分は、間に無違反期間を1年おかずに3回(または2回)やれば30日。しかも、取締りを受けたときの車だけでなく、すべての車を運転できなくなる 。免除について定めた通達などない…。
 “運停処分”は免停処分に比べて格段に軽いのである。
 これでは、7割どころか、もっと多くの運転者が、
「正直に出頭したら点数がつくだけ馬鹿らしい。知らん顔して、使用者の立場で違反金を払おう」
 となるに決まっているではないか。
 「逃げ得を許さない」を理由に持ち出された制度だが、じつは逃げ得を合法化して優遇する制度というほかない。違法駐車の常習者にとっては「良い制度ができた。ラッキー」というところだろう。

 こういうあからさまなアメ玉を与えるところをみると、もはや警察は、面倒な反則金に見切りをつけたのだろうかと思える。
「正直に出頭した者はキップを切られて点数をとられ、知らん顔した者はゴールド免許のままなんて、不公平だ!」
 という批判を待って、「放置違反金」一本に(それこそすなわち「行政制裁金」に)絞ろうとしているのではないか。そう思えるのだが…。

 

◆大量退職問題は喫緊の仮題◆

 『警察公論』の05年10月号に「大量退職期における退職警察官の活用」という記事がある。

 平成16年度の退職者数は約9,200人で、10年前の平成 6年度に比して約6200人(約207%)増…。

 平成18年度に退職者数が1万人を超え、その後数年間は毎年1万人程度の退職者が続くものと見込まれており、まさに大量退職問題(2007年問題)への対処は喫緊の課題となっている 。

 しかし…。
 警察は、裏ガネが「それなくしては一日として組織が動かぬ骨がらみ≠フ構造と化し」(小林道雄著『
日本警察の現在』)ている。退職後に警察の暗部をぽろぽろしゃべる者が出てきては困る。カネに困って犯罪に手を出せば「元警察官がまたも強盗!!」などとマスコミから叩かれる。退職後も警察の縄張りのなかに囲っておくことは大事なはずだ。
 この「民間委託」は、これから続々と定年を迎える“団塊の世代”の警察官たちの大きな受け皿となるだろう。

 新制度は天下りの受け皿をつくるため…と断ずるのは適当ではないように私は思う。上述のように、もともと警察は、運転免許の行政処分と同じやり方でカネも徴収できるようにすることを、いわば悲願としていた。それはなかなか難しかったが、今、「大量退職期」を迎え、“小泉行革”なるものの勢いがあるうちに、新制度を持ち出した…ということではないのか、と私は考える。

 問題はその具体的な方法だ。
 私は当初、駐車監視員の多くを警察OBが占めるのだろうと推測していた。
 ところがその後、「認定考査」(警察OBが駐車監視員資格者証を得るための考査)を受ける者が極めて少ないことがわかってきた。「退職してまで、駐禁取締りなんぞ、やりたくない」という声も聞こえてきた。
 そうして05年12月15日には、警視庁が同月3日の午前と午後に行った「認定考査」の受験者と合格者がわかった。午前160名中153名、午後29名中28名にすぎないと…。一般向けの「資格者講習」(と「修了考査」)を警視庁は06年2月までに、1000名+1000名+1500名+1000名+1000名の規模で行い、応募者が殺到したのに…。
 これはいったいどういうことなのか…。
 以下は、05年11月初めに『ザッカー』に書いた(編集部へ送信した)原稿の一部に若干加筆したものだ。

 

 駐禁取締りの民間委託が華々しくスタートする。警備会社などに雇われた駐車監視員が現場での取締りを行うことになる。取締りは2倍くらいと見込まれており、集まるカネは年間300億円とも400億円とも言われている。
 それを、交通警察最大の天下り法人・交通安全協会(安協)が黙って見ているはずがない。そのカネを警察が安協に流さないはずがない。
 だが、現在までのところ、警察発表にも報道にも安協のアの字も出てこない。委託を受ける民間業者として聞こえてくるのは、警備会社や不動産会社ばかり。ふしぎだ。

 まあね、ぎりぎりになってストンとうまく入ってくるのかもしれないし、「業者も監視員も安協の指導・講習(1日▲万円)を受けなさい」とか義務づけられるようになるかもしれない。いろいろ考えられる。でも私としては、もっとごついやり方をするんじゃないかと思うのだ。それは、駐禁レッカー移動と同じやり方だ。

 違法駐車をレッカー移動できるようになったのは1960年。そして1971年、「移動専従民間委託体制」なるものが導入された。署長と契約したレッカー業者が、ミニパトとチームを組んで駐禁レッカーをじゃんじゃんやるようになったのだ。
 公的な契約だから、情報公開条例により契約書は開示される。たとえば、亀有警察署の管内における04年度の契約書は、「予定台数」1890台、「税込単価」は昼間9975円で夜間1万1550円、違反者が戻ってきて中止した場合は昼間6300円で夜間7875円、「未着手料金」は1575円、「推定総金額」1647万9750円というふうになっている。この「予定台数」はノルマといえる。
 ところが1986年、警察は道路交通法に第51条の3を新設した。すなわち、
「移動及び保管に係る事務の全部又は一部を……適正かつ確実に実施することができると認められるものとして公安委員会があらかじめ指定する者に行わせることができる」
 という規定だ。そして安協を「指定」した。
 現場での作業は、相変わらず警察とレッカー業者で行うが、二者の間に、料金の徴収や督促を行う安協が「指定車両移動保管機関」として入り込み、「警察⇔業者」の契約(署長移動)ではなく「安協⇔業者」の契約(安協移動)もできるようにしたのだ。
 東京都のレッカー料金は現在1万4000円。安協移動の「原価計算書」を見ると、レッカー業者の取り分が約1万円、安協が約4000円となっている。
 つまり、運転者はレッカー料金1万4000円を安協に払い、安協は4000円を抜いてレッカー業者に約1万円払う、警察官は税金で働く、そういう形だ。
 やがて、新宿や渋谷署管内などレッカー移動が多いところは“安協移動”が占めるようになって いった。
 安協移動の契約書は開示されない。なぜって、安協も業者も“民間”であり、公の契約ではないからだ。ノルマは何台か、レッカーの稼ぎはどれだけになるのか、闇に潜ってしまった。

 そう、このやり方を、駐禁取締りの民間委託にも持ち込むのではないかと、私は推測するのだ。委託契約は、最初は「都道府県(警察)⇔業者」としておき、やがて安協が「指定駐禁取締機関」みたいなものに指定され、「安協⇔業者」の契約になる、違反者は「放置違反金」を安協に払う、という形にね。
 じつは、監視員が行うのは現場の取締りだけ。カネの徴収などは警察が行うことになっている。これで合理化できる警察官の数は500人程度だという国会答弁がある。
「たった500人かよ。カネの徴収も民間委託すればいいじゃん」
 という世論を待って(リードし)、
「では、レッカー料金の徴収を適正かつ確実に実施してきた安協にさせましょう」
 とやるんじゃないかなぁ。優れたシナリオと思うんだが、どうだろう。

 06年1月12日決定の警視庁の「放置車両確認事務委託入札結果」に、東京安協の名が出てくる。だが、それは深川署管内のみ(1位は5290万800円)という小規模な入札で、しかも安協は「予定価格超過」で順位なし。
 安協が契約をゲットしているところもある。06年3月末までの時点でわかっているのは、大阪府の曾根崎署、天満署、大淀署の管内と、和歌山県の和歌山東署の管内だ。
 06年4月27日の警察庁の発表によれば、取締り(確認事務)の委託を受けたのは、74法人(予定)。

 また、06年6月1日からの「民間委託」は、じつは取締り(確認事務)だけではない。新しいペナルティ「放置違反金」の徴収等に関する事務、データ化の事務も民間委託されることになっている(道路交通法51条の15)。
 こちらの契約をぜんぶ安協がとるのかと私は思っていたが、それも違った。東京の2つの契約は、みずほ銀行とトッパンフォームズがとっている。大阪はナカバヤシと榮光社がとっている。

 そして、驚くべき事態が出来した! 免許更新時の安協会費の徴収方法はおかしい、パーキングメータ・チケットの管理を安協に独占させておくのはおかしい、という趣旨の通達や閣議決定が今年に入って 発出されたのだ!

 そもそも新制度は、安協へ流れるカネを 確実に減らす。安協は、「停止処分者講習」や「違反者講習」、運転免許の更新事務および更新時講習などの 独占委託されており、それらの委託費が多いか少ないかには、違反点数がダイレクトに関係する。違反点数がない「放置違反金」へ運転者がどっと流れれば、そっちの収入が減るの である。

 これまで、「交通行政=安協利権」ということができたのに、いったい どういうことなのか!? 交通利権の構造改革…なのか。

 現在は「反則金」と「放置違反金」の2本立てになっている。反則金は刑事罰的な意味合いがある。そのような意味合いを残したままでは、完全な民間委託は難しいだろう。レッカー移動と同じような形で安協が入り込むとしても、それは、反則金を外し、「放置違反金」1本(つまり「行政制裁金」)にしてから、ではないかと私は想像する。

 

◆違法駐車は一掃されるか◆

「民間がビシビシ取り締まれば違法駐車が一掃される」
 そう期待する人がどうも多いようだが、そんなことには絶対ならないだろう。

 元警察官僚で現在は衆院議員の平沢勝栄氏が『警察官僚が見た「日本の警察」』でこう書いている。神奈川県警の交通部が行った調査をもとに、道路を走る車の「潜在違反」を推計したところ年間103億件に達し、当時の神奈川の年間取締り件数は48万件だから検挙率は0.005%にすぎなかった、と。

 この異様なほどの低さは他のデータでも裏付けられる。
 民間委託と放置違反金の法案が国会へ出る少し前から、違法駐車がいかに多いかというデータを警察は発表するようになった。
 05年の東京都内の「
瞬間違法駐車台数」は9万7591台。都内は多数の車が入れ替わり立ち替わり路上駐車する。 「5〜10分の駐車が6割」「30分未満の駐車が75%」といった調査結果もある。
 「瞬間」を仮に2時間としても、年間約4億2745万台の違法駐車 (潜在駐車違反)があることになる。そして東京は違法駐車の取締りにもっとも力を注いでおり、同年の東京の取締り件数は約47万件。全国の 違法駐車の取締りの約30%を占める。
 それでも、 約4億2745万台に対し約47万件…。検挙率はたった0.1%にすぎないのである。

 1%をはるかに割る取締りに、抑止効果などあるはずがない。
 しかし、約47万件に 、たとえば普通車の反則金額1万5000円を掛ければ、約70億円。レッカー料金も含めれば、軽く100億円に届くはず。
 30分や1時間駐車してもとくに迷惑のない場所も一律に駐車禁止としまくり、そのごくごくわずかを取り締まる。抑止力になどなるはずがなく、毎年確実に莫大なカネが集まり続ける。それが“駐禁商法”なのだ。

 だいたい、90年台の初め頃には駐禁取締りは300万件を超えていた(91年は約312万件、92年は約310万件)。それで「違法駐車の一掃」などされたか?
 違法駐車が一掃されたら、委託費と、標識や信号機などの費用は、どうするのか。
 一掃からは程遠いところで、毎年地道に確実に稼ぎ続けることになるのだろう。

※ 主要道路で違法駐車が何十%減った、渋滞が何割減った、と警察庁は発表している。だが、「新制度の効果を測るため“使用前・使用後”のデータを取りなさい」と警察庁から指示されれば、各都道府県警は、効果が上がりやすい路線を選んで、効果が上がるように取り締まる。当たり前のことだ。
 都道府県が赤字にならないためには、従来より多くの(たぶん2倍程度の)取締りを行い続けねばならない。すべての道路から違法駐車が目に見えて減っては、取締りが容易でなくなる。少なくなった違法駐車をびしびし取り締まっては、違法駐車は絶滅しかねない。それでは新制度は成り立たないのだ。
 取締りの民間委託は、当初全国270警察署の管内でスタートしたが、次年度から委託の幅をどんどん広げていくそうだ。
 

 

◆「弁明」の手続き◆

 「確認標章」(新しいステッカー)を取り付けられたあと、違反者が知らん顔していると、使用者に対し、まずは「弁明通知書」と、「放置違反金」の仮納付の納付書が郵送されてくる。
 違反者が正直に出頭する場合、その出頭は取締りから3日以内がほとんどだそうで、原則として3日をすぎても違反者の出頭がない場合に、それらを郵送するという。

 この「弁明」は、「使用者責任の追及」におけるものゆえ、「車は売却しており、当時は使用者でなかった」といったものでなければ、なじまないようだ。
 「道路交通法に基づく放置違反金納付命令の基準について」という通達(06年5月30日発出)に、こうある。

 放置違反金納付命令は……当該車両に係る違法駐車行為が天災等の不可抗力に起因するなど、当該車両に係る違反を当該車両の使用者の責に帰することが著しく相当性を欠くと明かに認められる場合を除き、当該使用者に対して行うものとする。

 もう少し詳しいことはFAQのほうに。

 

◆不起訴になったら?◆

 使用者へ「放置違反金」の納付命令がいくのは、「確認標章」(新しいステッカー)を取りつけられた日の翌日から30日以内に、
@違反者が反則金を納付する
A違反者が公訴を提起(略式起訴か公判請求を)される
B違反者が家庭裁判所の審判に付される
 のどれかに当たらない場合だ(道路交通法51条の4、4項)。

 条文を読む限りは、駐車の迷惑性のことなどで争って不起訴になっても、使用者として「放置違反金」を徴収されるように読める。というか、30日以内に不起訴までいくことは通常あり得ない。
 つまり、自分の車で違反し、正直に出頭して違反キップを切られ、しかし反則金を払わず、たとえば「違反は事実だが、迷惑性は一切ない。処罰の要はない」と主張して争い、不起訴になっても、上記3つに当たらないので、その車の使用者としての立場で「放置違反金」を徴収されてしまうのだ。
 そんなバカなことがあるのか、と思って警察庁に確認したが、やはり、上記3つに当たらないので、と言われた。

 ところが、前出の3月22日の通達をよく見ると、「家裁の審判に付される」とは「調査・審判の対象にされたという広義の意味」であり、審判不開始も含むと書かれているではないか !
 少年の場合の審判不開始とは、成人の不起訴と同じようなものだ。そうすると、 「公訴を提起とは、刑事処分の対象にされたという広義の意味」であり、違反者が不起訴になれば「放置違反金」 の納付命令はできない?

※ じつはすでに、「それは少年の場合の話であって、成人の不起訴は関係ない」との趣旨で一蹴する判決が出ている。しかし、突っ込みようによっては、「一蹴はできない…」と考える裁判官もいるのではないか。

 新制度は、違反者の責任を問うのが第一で、使用者責任は補充的なものだと警察は言っている。
 違反者が、検察官により「処罰するまでもない」として不起訴になり、しかし使用者から「放置違反金」を徴収するのでは、 如何にもおかしくないか。不起訴になった運転者が、「放置違反金の納付命令を取り消せ」と裁判所に訴えたら、どうなるのか。

 おそらく、警察としては、
「刑事処分が不起訴になっても、違反点数は消さない。なぜならば、刑事処分と(運転免許の)行政処分は別だからだ。放置違反金も行政処分ということができ、よって刑事処分がどうなろうと関係ないのだ」
 という考え方なのだろう。
 おそらく、検察庁、裁判所とは、その線で話がついているのだろう。

 しかし、その考え方自体、苦しいというべきだし、運転免許の行政処分と放置違反金とは目的が異なる。「おかしいぞ」と内心思う検察官、裁判官もいたのではないか。
 「おかしいぞ」という裁判が各地で起こされたとき、運転者勝訴の判決がぽつぽつ出ることもあり得るのではないか 。
「不服があっても黙ってカネを払うのが運転者の常だ。黙って払いたくなるよう、放置違反金なら違反点数ナシにもした。各地で続々と裁判が、なんてことには、なりっこない」
 と踏んでいるのか、はたまた、そういう問題が顕在化する前に、「放置違反金」1本に絞ってしまうつもりなのか…。

 

◆「駐車監視員」が可哀想◆

 さて、最後に言っておきたい。

 新制度は、必要不可欠な規制の見直しをほとんど行わず、形さえ違反なら容赦なく取り締まる、というものだ。
 当然、運転者は腹を立てやすい。従来の取締りに倍して、怒りを呼ぶ。
 その怒りは、緑系の目立つ制服を着た、そして警察官よりは弱そうな「駐車監視員」へ、向けられやすいだろう。

 そのうえ、歩合制ではないものの、委託業者としては、次年度の契約のために実績を上げようと、予定件数( 新制度導入前の2倍くらい)を取り締まろうとするはず。「駐車監視員」の尻を叩くはず…。

 当然、「拳で腕を押した」といった公務執行妨害ではなく、もっと血生臭いトラブルが起こってきかねない。
 警察は、従来は考えられなかったような些細なことでも公務執行妨害で逮捕して、「駐車監視員に逆らっちゃいけない」という認識を広げようとしているように見えるが、それで追いつくのか。

 しかし、私は言っておきたい。
 「駐車監視員」が悪いわけではないのだ。
 「駐車監視員」は、形さえ違反なら容赦なく取り締まる(ステッカーを貼りつけてまわる)のが仕事なのだ。
 その仕事が妥当であるためには、そもそもの規制を、合理的で必要最小限のものにしなければならなかったのだ。
 ところが、それをしては新制度(=ニュー駐禁ビジネス)は成り立たなくなる…。「駐車監視員」へ憎悪が向けられてしまうことになる…。

 2006年6月28日の毎日新聞の記事<<駐車違反:悩める民間監視員「憎まれたくない」が本音>>によると、ある委託業者(契約書によれば「履行期間中に確保しておくべき駐車監視員の数は「15名以上」)では、すでに4人が辞めてしまったという。
 辞めたい人、辞めたいけれども生活の事情から辞められない人は、もっといるのだろう。
 ハローワークの求人情報を見ると、 年度の途中での「駐車監視員」の募集が、けっこうある。

 「駐車監視員」が悪いわけではない。
 ならば警察が悪いのか。
 たしかに警察が──それも現場(末端)の警察官ではなく、霞が関で制度をつくる(そしてつくった制度により儲かるところへ天下る)警察官僚が──悪いと思う。
 だが、警察が独りで悪くなったわけではない。
 民主主義の国で、言論の自由、報道の自由がいちおう保障された国で、警察が独りで勝手に悪くなることはできないはず。
 本当に悪いのは誰か。
 なんだか果てしのない、漠然とした話になってしまいそうだが、とにかく、「駐車監視員」を憎悪して殺傷するようなことは、少なくとも当サイトの読者にはヤメてもらいたいと思う。

参考記事 ニュー駐禁取締り スタートから半年間のデータ

FAQ 新しい駐車違反取締り

ブログ「交通違反バカ一代」 警察費の予算がどどんと増えた!

ブログ「交通違反バカ一代」 07年度の放置違反金の予算が減ってる!

ブログ「交通違反バカ一代」 カテゴリー「駐車違反/民間委託後」

 

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