ちゃんと不服を伝える運転者は0.1%未満
国には情報公開法、都道府県には情報公開条例がある。お役人が作成・取得した行政文書を開示請求し、閲覧または写しの交付を受けることができる。手数料は、量が多いと何万円もかかるが、10円ですむこともある。これはおもしろいよ。
新聞には、情報公開でわかったことをもとにした記事がときどきある。世田谷区のパン屋のご主人・後藤雄一さんは、情報公開により不正支出を暴いて何億円もの税金を返還させ、ついには東京都議会議員になった。
私の場合は、もっとお気楽というか、もっぱら交通違反関連の開示請求をして「へえ、この制度はこう利用されてるのか」「警察はこんな文書をわざわざ作成してるのか」と楽しんでいる。すごく参考になる。
読者諸氏もぜひ試してみるといい。わざわざ出向かなくても、郵便でもできる。開示請求書の書式は、たいていホームページからプリントアウトできるし、FAXで送ってくれたりもする。
しかも、いまどきは警察のホームページに、保存文書のファイル名がけっこうアップされている。先日、兵庫県警のホームページの交通指導課のところに「訟務事案認知報告書」「証人出廷結果報告書綴」などとあるのを見つけた。スピード違反の裁判にときどき警察官が証人として出てくるが、その関係だろうか。さっそく郵便で開示請求。ついでに北川式と印字式の「飲酒検知器点検成績書綴」も。何がでるかな。
その開示決定を待ちながら、これまでたくさん開示を受けてきたなかから一部をご紹介しよう。【行政不服申立事件調】
全国の公安委員会および警察が行った処分に対し、行政不服審査法にもとづく不服申立てがどれだけあったか、どう処理したかという表だ。そのなかから、運転免許の停止・取消し処分のぶんを拾ってみる。「発生」とは、その年に申立てがあった件数。「棄却」(却下も含む)と「容認」は、申立てに対する裁決・決定の内容。「審理中」とは、翌年へ持ち越しとなったものだ。
発生 棄却 容認 審理中
97年 226 189 2 73
98年 243 216 9 83
99年 252 193 4 134
00年 341 282 7 177
01年 563 488 2 243
02年 626 548 12 312
03年 945 723 16 230申立ては年々増えている。03年がすごく多いのは、02年6月から酒気帯びの点数が引き上げられ、重い処分を執行された人が多くなったせいだろうか。
「容認」は、人身事故と思ったら保険金詐欺だったとか、適法な「意見の聴取」がなかったとか、そういう特殊なものではないかと思われる。続いて駐禁レッカーのぶん。これも年々増える傾向にある。
発生 棄却 容認 審理中
97年 94 66 0 138
98年 169 69 0 225
99年 165 92 0 289
00年 204 122 0 352
01年 229 193 0 370
02年 200 205 0 357
03年 268 215 0 390「へえ、運転者の権利意識も、どんどん強くなってるようだね」
と思う人もいるだろう。
「免許のほうは特殊なケース以外は棄却。レッカーのほうは完全に全件棄却かよ。こんなのやってむムダじゃん」
と思う人もいるだろう。
だが、注目すべきはそんなところじゃない!!
たとえば03年の、停止・取消し処分は96万2728件。不服申立てはなんと0.1%に満たない!! 駐禁レッカーは同じく39万824件で、不服申立ては約0.07%!!
行政処分や駐禁レッカーへの文句はよく聞かれ、取り締まりをつうじての反警察感情・警察憎悪は多いが、ちゃんと不服申立てをするドライバーは0.1%未満なのである。
「不服があれば申し立てられるよう、法律で保障している。無料だし、手続きもかんたんだ。ところが、申立ては0.1%未満。99.9%の運転者は不服がない。現在の処分は適正・妥当なのだ。同じ処分をどんどんやろう」
そうなって当たり前ではないか。
【苦情処理一覧簿】
現在、公安委員会への苦情申出制度というのがある。警察法78条の2(05年4月1日、79条へ移動)が、1項でこう規定している。
「都道府県警察の職員の職務執行について苦情がある者は、都道府県公安委員会に対し、国家公安委員会規則で定める手続に従い、文書により苦情の申出をすることができる」
東京都公安委員会の「苦情処理一覧簿(A)」をゲットしてみた。03年は50件。そのうち「交通違反取締りに関する苦情」「交通取締り時の警察官の態様に対する苦情」など交通違反関係が16件。04年は45件のうち「スピード違反の取締りを受けた際の警察官の言動と嘘を付かれたことに納得できない」「取締りの際、運転免許証を強制的に取り上げられた」など交通違反関係が12件。
警視庁の交通取り締まりは03年は129万8125件。苦情は0.001%でしかないのだ!!
【係(小隊)用切符交付簿】
係に交付した日、切符番号、被交付者の氏名と受領印、使用日、引継日、免許保管の有無、審査責任者印、備考などの記載欄がある表だ。氏名や月日はほとんど墨塗りだが、こうやってしっかり管理されてるのかとよくわかる。
【誤記・汚損等切符報告書】
切符番号、警察官氏名の記載欄がある。誤記等の区分として「誤記」「汚損」「返納」「その他」があり、どれかに丸をつけるようになっている。課長、課長代理、係長の検印欄もある。これでは、ドライバーがゴネたからといってかんたんにキップを破り捨てるわけにはいかないだろう。
【交通指導取締優良者報告】
たとえば警視庁・高速道路交通警察隊の03年6月の、飲酒運転の順位はこうだ。「3-3」というのは第3中隊、第3小隊のこと。その下の数字は総検挙数と総評価点。1 3-3 巡査長 7.5 97.5
2 2-2 警部補 1.4 18.2
3 3-2 巡査長 0.7 9.1総検挙数に小数点があるのは、2人で検挙したら0.5件と計上する、とかいうふうになっているからだ。
同月の一般違反は、1位の巡査部長は 44.5件で 238.25点
2位の巡査長は 36.0件で 197.80点
3位の巡査部長は 31.0件で 154.00点この順位表に4位以下はないが、どの小隊が何の違反を何件取り締まったかの一覧表はある。こうやって取り締まり件数、点数を競わされているのである。
【委託契約書 違法駐車車両移動業務年間単価契約(普通車)】
警視庁と駐禁レッカー業者との契約書だ。たとえば葛飾署管内ぶんの04年4月1日から05年3月31日までの契約書を見ると、昼間の「予定台数」は1200台で、税込み単価は9975円。着手した段階でドライバーが戻るとレッカーは中止されることになっており、その昼間の「予定台数」は300台で「税込み単価」は6300円。などと計算され、「総台数」1780台で「推定総金額」1548万7500円の契約が結ばれている。
違反の未然防止に力を入れたので、レッカー移動は10分の1の178台しかできませんでした、というわけにはいかないだろう。
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取り締まりへの不服、不満は非常に多い。しかし、不利益な処分を押しつけようとするときは必ず、相手(つまり運転者)の言い分も聞いて然るべく判断することになっている。そのように法律で定められている。
反則金の納付はもともと任意。押しつけるもなにもない。
罰金については、刑事手続きで争えるようになっている。
行政処分やレッカー移動については、不服申立て(「審査請求」または「異議申立て」)ができるようになっている。
不当・違法に権利が侵害されないよう、ちゃんと法律が用意されているのである。ところが、反則金の納付率は95%を下回ったことが1度もない。略式で罰金を払う人は、近年減ってきたけれども、まだまだ多数派だ。そうして、行政処分やレッカー移動に対する不服申立ては、なんと0.1%未満。せっかくできた公安委員会への苦情申出制度を利用する人は、0.001%。一方、現場の警察官は「上命下達」の組織のなかでしっかり管理され、件数・点数を競わされている……。
不動産のほうには「取得時効」なるものがある。もともと所有権がなくても、平穏・公然と10年なり20年なり占有し続ければ、所有権が認められるのだという。
納得いかない取り締まりも、平穏・公然と何十年も続けられてきたので、いまや当たり前になってしまったといえるのではないか。
オービス裁判は、オービスの製造販売会社の社員に「我が社の商品は絶対に大丈夫」と言わせ、それを証拠に有罪とする。だれがどう考えたって狂ってるとしか言いようがないだろう。これも、ドライバーたちが長年、平穏・公然と沈黙し続けてきたことから、オービスの“絶対権”“神権”が認められ定着したってことではないのか。かんたんに善悪で分けることはできないにしても、「いちばん悪いのはだれ?」と思わざるを得ない。
『ドライバー』2005年5-20号の記事に加筆。