統計が語る警察行政の裏側

 

「統計はおもしろいです。もちろん警察の自己採点にすぎないという面はありますが、行間というか数字の裏に、警察の意図や本音や、隠しきれないものがちらほら見えることがある。数字は語る、ですね」
 と、警視庁に31年間勤務した元警部補・犀川博正さんは言う。
 なるほど。たとえば「ひき逃げ・無申告事件」の発生件数。93〜99年の7年間、1万7000件前後で推移していたのが突然急増する。

00年 2万4468件
01年 2万6219件
02年 2万7798件

 この変化は何を語っているのか。
 99年秋ころから神奈川県警を皮切りに、新潟県警の温泉雪見酒接待≠ネど警察犯罪・不祥事の報道がこれでもかというほどあふれ出た。
 01年12月には、「悪質運転者をやっつけろ!!」との世論の高まりを受けて「危険運転致死傷罪」が施行。02年6月からは飲酒運転などの罰則が大幅強化された。
 警察に反感をもち、あるいはナメ、重罰を怖れる……そうしたことが、「ひき逃げ・無申告事件」急増の背景になっているのではないか。
 逃げても捕まるならともかく、検挙件数は、70〜80%だったのが99年に60%台となり、

 00年 49.99%
 01年  41.71%
 02年 38.39%

 とぐんぐん減っている。
 この警察力の著しい低下にも、警察犯罪・不祥事の続出による影響があるのだろうと考えられる。

 ところで、「発生件数」という語。これは、日本のどこかで日々事件が発生した数、ではない。警察が認知した数なのだ。別の統計ではズバリ「認知件数」という語が用いられる。
 近年、犯罪が多発、激増していると言われる。「刑法犯」(交通事故と、交通違反や覚せい剤など特別法犯は除く)についての統計から、各年の「罪種別 認知の端緒別 認知件数」という表を見ると、02年の認知総数は285万3739件。5年前の97年より約100万件も増えている。たしかに激増だ。

 もっとも多く認知された罪種は「窃盗犯」で237万7488件。総数の83.3%を占める。
 しかし、「窃盗」と聞いて思い浮かべる空き巣などの「侵入盗」は、33万8294件。14.2%にすぎない。大部分はクルマ、バイク、自転車などの「乗り物盗」と、車上狙い、ひったくり、すり、万引きなどの「非侵入盗」なのだ。

 では、認知の端緒はどういう内訳になっているか。
「ストーカー被害の告訴状を埼玉県警は単なる被害届に改ざんして放置した。そのために女子大生は白昼、無惨に殺された!」
 と99年暮れから00年にかけて大きく報じられた。「桶川ストーカー事件」である。その後、「告訴・告発」の認知件数は5年前と比べると約2倍に急増した。
 だが、2倍になっても1万6987件。絶対数はきわめて少ない。
 多いのは何か。それは「被害者・被害関係者の届出」だ。
 これも5年前の97年と比べると、

 97年 167万4037件(総数の88.1%)
 02年 263万6348件(総数の92.4%)

  と急増している。
 その内訳を見ると、「110番通報」の伸び率が目立つ。約19万件から約50万件へと2.7倍にも伸びている。
 総務省によれば、携帯電話とPHSの加入数(稼働数)は97年が約3825万、02年は約8112万。ただちに手軽に110番できるようになったという側面もあるのだろう。
 「おや?」と感じさせるのは「警察活動」による認知だ。

 97年 18万4875件
 02年 15万3004件

 認知の総数が急増するなかで、なんと約3万件も減っているのである。
 「警察活動」による認知のダントツ1位は「職務質問」。02年は9万436件。この数字は80年代の始めからほとんど変わらない。
 ただし、その9万436件のうち6万7527件(74.7%)が「占有離脱物横領」。つまり放置自転車を拾って乗ったというものなのだ。犯人に職務質問するわけだから、検挙率は100%。だれかが盗んで捨てた自転車がそうやって持ち主へ返るのは、もちろんありがたいことだが、うむむう…というものを感じないではない。
 ダントツ2位は「取調べ」。こちらの内訳は「窃盗」と「知能犯」(詐欺)が大半を占める。別件で逮捕して取り調べ中に余罪が判明することがよくあるらしい。ただ、「取調べ」による認知は、

 97年 8万9088件
 02年 4万4269件

 と半減している。何十件盗んだか覚えていない被疑者に、やってない盗みを押しつける、ということがあると聞かれるが、それをやめたのか。
 冒頭の犀川博正さんはこんなことを言う。
「犯人が口を割らなくなったんですよ。警察をナメてる犯人が増えたんですね」
 やはり99年秋からの警察犯罪・不祥事の続出が影響しているようだ。
「あれはあまりに衝撃的でした。警察のダメさに社会が騒然となり、それで新潟県警へ特別監査に出かけた警察幹部らを、県警の幹部が温泉で接待し、図書券を賭けて麻雀してたというんでしょ。9年間も拉致・監禁されていた少女が発見されたというそのときに! そういう不祥事が続出したんですからね、警察はナメられて当然ですね」
 そしていま、北海道警をはじめ全国で不正経理が大問題になっている。
 どうしてここまでひどくなったのか。犀川さんは続ける。
「80年代が非常に重要な時期だったと私は思います。国民性が変化して、ストレートに享楽を求めようとする、飢えを知らない連中による犯罪が増えた。治安がめちゃめちゃ悪化した。過去の犯罪観や捜査手法では対処できなくなりつつあったんです。
 そのころ警察はなにをしてたか?事務量が急に増えましたね。民家の枝が伸びて標識が見えにくいので枝を切らせた≠ニか、そんな注意報告書(注報)を現場警察官に作成させ、中身ではなく枚数を集計する。1当番に何枚の注報を書いたかで評価する。警察官の仕事を紙の枚数で計るようになった。
 交通事故が起これば事故防止対策会議をやるわけですが、それは本部に報告するためです。黒板に大きく××対策会議と書いて証拠の写真を撮り、席順などを適当に変えて別の対策会議の写真を撮る。
 そんなことを現場にやらせておいて幹部らは日本の警察は世界一優秀です≠ニ言い続けてきたんです。不正経理を温存させて。
 そうやっていまの泥沼の治安を招いた。太平洋戦争のときの陸軍と同じでしょ。後先考えず、無責任な虚栄心を満足させる、帝国陸軍のDNAを警察は受け継いでいるんですよ。なにが日本の警察は優秀≠ナすか。身が震えるほど頭にきます!」

 02年の刑法犯の検挙件数は59万2359件。検挙率は20.8%。世間は「低い! なんとかしろ!」と騒ぐ。
 けれど、ほんとうの犯罪発生(検挙率の母数)はもっと多いかもしれない。自転車を盗まれたという届出があっても時価6000円以下だと、贓品(ぞうひん)照会のデータベースには入力するものの「認知票」は作成しない、なんてことが行われているという。認知が増えれば検挙率が減り、署長の成績に響くのだ。

 いま、警察官の増員が言われている。人が増えれば予算も増える。通常の予算のほかに、年間10万円前後を人数に掛けて支給する「人当庁費」なるものもある。「帝国陸軍のDNA」を受け継ぐ警察を増員しても、裏ガネの原資になるばかりではないのか。犀川さんは言う。
「治安をいうなら、警察自身が悪いウミを出し切ること、外見をとりつくろうのではなく中身が信頼できる警察になること、それしかないでしょう!」

 

ドライバー』(八重洲出版)2004年7-05号に若干加筆。

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