駐禁レッカー「不服申立」

2年5カ月後 アッと驚く棄却の理由!

 

 ちょいと用事があって某週刊誌の編集部へ寄った。編集者のHさんが苦笑いしながら言った。
「ところでさ、ほらアレ、やっと来ましたよ」
 アレとは、駐禁レッカー移動の料金についての「不服申立」の裁決だ。
 ここでいう「不服申立」とは、腹が立ってただ文句をぶつけることではない。「行政不服審査法」に基づく法律手続きだ。レッカー料金について東京都公安委員会に対し「不服申立」をしていたところ、2年5カ月たってようやくその裁決が出たというのである。

 1998年7月14日(火)の午前中、Hさんは会社近くのパーキングメーター(60分300円)に乗用車を駐車した。
 この道路は私もよく通る。幅員が7mほどあって広いのになぜか一方通行。大通りから入ると200mほどで別の大通りに突き当たるので、飛ばすクルマなどいない。左側はずっと某大学の塀。右側には路地が2本と、大きなビルがいくつかあるだけ。うち1つのビルは女子校。歩道は両側にしっかりあるが、昼間はほとんど人通りがない。クルマの交通量も非常に少ない。都心にもこんなのんびりした道路があるんだなあって感じ。じつは私もそこに違法駐車≠オてHさんのところへ寄ったのだ。

 Hさんに届いた公安委員会の「裁決書」によると、午後0時26分ころ2人の婦警がミニパトで来て、Hさんのクルマが1時間16分超過して駐車していることを認めた。で、「ミニパト備付けの拡声器を用いて」ドライバー本人に移動させようとしたが、誰も現れなかった。そこで0時31分(つまり5分後)レッカー移動させた。
 その後、Hさんはクルマを取り返しに警察署へ行き、レッカー料金1万4000円と、保管料(民間の駐車場の料金)2160円とで合計1万6160円を請求された。このほかにもちろん、駐車違反ということでキップも切られた。反則金の額は1万5000円。
 Hさんは納得できず、レッカー料金を払わなかった。

「払わないとクルマは返さない」と言われることも多いようだが、それはウソ。クルマの返還と料金の徴収は別であり、払わなくても返還されるのだ。
 料金を請求する「納入通知書」には、不服があるときは60日以内に申し立てをすることができると印刷されている。
 駐禁レッカー移動は、警察が料金を請求・徴収する警察ルート≠ニ、警察の天下り法人・交通安全協会(以下「安協」)が警察から委託されてやる安協ルート≠ニ2種類ある。警察ルート≠セと処分庁は警察で、審査庁(つまり不服申立先)は都道府県になる。Hさんのは安協ルート≠ネので、処分庁は安協、審査庁は公安委員会ということになる。

 Hさんは60日ぎりぎりの同年9月11日、その「不服申立」をした。
 具体的には、書面をつくって警視庁へ送った。「納入通知書」の記載は「公安委員会(警視庁交通執行課駐車取締第1係経由)に対し……」というふうになっているのである。免停など行政処分についての「不服申立」は、審査庁は公安委員会でも、警察の行政処分課へ送る。
 なぜ警察へ? と疑問に感じる方がおいでだろう。
 本来は警察を民主的に管理するはずの公安委員だが、じつは各都道府県に3人または5人しかいない。事務局は警察。会議は週1回程度だという。昨今の報道でもご存知のとおり、公安委員会は完全に形骸化している。実際には民主的に管理されているように見せかけるためのお飾り≠ノすぎない。
 「不服申立」の審査も実際には、処分を行った警察自身が行うようだ。というか、公安委員が個別のケースを調べて審査するなど不可能だ。現職の警察官も、公安委員会はハンコを押す(貸す?)だけだと言う。
 書面の送り先は公安委員会だがすぐに警察にまわしてしまう、というならまだしも、送り先自体が警察では、形骸化など周知の事実、恥も外聞もなく居直っているとしか言いようがないのではないか。

 ともあれ、Hさんの不服の理由は要するにこうだった。
「駐禁レッカーの根拠である道路交通法第51条6項は、交通の安全と円滑を図るため必要な限度において移動できる、としている。パーキングは、安全と円滑を阻害しないから駐車が許されるはず。時間を超過したからといって、安全と円滑を阻害する事情が生じることはない。よって本件レッカー移動は違法である」
 もっともな言い分だと私は思う。
 駐禁レッカーは、「交通の安全と円滑の観点からどうしても移動しなければならないクルマがある。個人の財産を警察が勝手にどうこうすることはできないが、ドライバー本人が移動しないので、やむを得ず公権力を発動して移動させる」というものなのだから。

 2年以上経過した2000年の暮れ、安協からの「弁明書」がHさんのもとへ届いた。これこれの理由で申し立ては棄却されるべきだ、というのである。
 Hさんはそれに対し「反論書」を提出することができる。双方を見比べて裁決が出る、そういう形になっている。
 反論書も2年かけてつくる? 裁決までにまた2年かかったら、計6年……。
 いや、反論書の提出期限は30日以内と指定された。安協は2年かけてゆっくり書きなさい、いつまでも待ちますよ、でも運転者は30日で書きなさい……フザケた話ではないか。

 そして、反論書の提出から間もない今年3月2日(申し立てからは2年5カ月後)、裁決書が届いた。公安委員会の大きな角印と、印刷された5人の委員の名前のあとにそれぞれ丸印が、あざやかに押されていた。
 裁決の内容? それは言うまでもない。「棄却」である。警察が自らの天下り法人にやらせたレッカー移動を、警察自らが「違法だった」などと言うはずがない。
 もちろん、パーキングの白線内のクルマを移動することが前代未聞の話なら、申し立てが「認容」されることもあり得る。まあ実際には、万が一そういうことがあれば、警察は申し立て人に対し「取り下げ」を持ちかけ、法律手続きの結果警察が負けたという形は残さないようだが。
 しかし、パーキングでのレッカー移動は、警察が日常的にやっていることなのだ。Hさんの申し立てを認容したら、他の多くのレッカー移動を警察自身で違法だと認めることになる。そんなことはあり得ない。

 さて、棄却の理由は何か。それは、安協提出の「弁明書」の内容をほぼなぞったものだった。要するにこうだ。
「(パーキングは)無秩序な路上駐車を抑制し、交通の安全と円滑を図ろうとするものであり、車両の駐車によって交通の安全と円滑が阻害されることのない道路に設置されるものではない。その場所を1台が占領すれば、他の車両の必要不可欠な短時間の駐車需要を満たすことができず、違法駐車を誘発することになる。実際、付近に違法駐車があったし、パーキングの空きを探して低速で通行する車両もあった。申し立て人の駐車は、交通の安全と円滑を阻害していたので、レッカー移動する必要があった」
 はあ? この論法だと、パーキングは、駐車すれば安全と円滑が阻害される道路に、カネと引き替えに60分も駐車させるもの、となる。そんなことが許されるのか。
 また、違法駐車するかどうかは当人の勝手だ。パーキングが空いていても「60分も駐車しないから300円払うのはもったいない」「小銭がない」と、パーキングの外に違法駐車する者だっている。それに、「必要不可欠な」駐車かどうか、いったい何を根拠に判断するのか。
 だいたいパーキングは、60分おきにクルマを少し動かして白線内に入れ直せば、何時間でも継続して占領できるのである。Hさんがせっせとそれをやっていれば「交通の安全と円滑を阻害」することはなく、カネを入れなかったから「阻害」したのか? パーキングメーターの料金投入口に100円玉を3枚入れるかどうかで、「交通の安全と円滑を阻害」するという具体的状況が、急に生じたり生じなかったりするのか? まったく話にならない。

 私はこれまで、いろんなケースの裁決書を読んできた。もちろんどれも棄却だ。そして棄却の理由はどれも、屁理屈というか珍論法というか、「よっくもこんなアホらしいことを書くなあ」と笑ってしまうものばかりだった。レッカーされたのは交通量のほとんどない昼間だったのに、朝の通勤通学時は危険で迷惑だからレッカーは適法・妥当だ、という小学生もずっこけてしまう棄却理由もあった。
 そしてそもそも、駐車しても迷惑のない道路を一律駐車禁止にしていること自体に問題がある。でなければ、駐車したら迷惑な道路にパーキング(時間貸し駐車場)を設けること自体に問題がある。
 警察はなぜそんなことをするのか。謎があるとき、推理小説では、誰がトクをするのか調べる。経済学では、人間の営みはカネの流れを追えばわかるそうだ。
 パーキングの維持・管理は、東京都から警察の天下り法人・安協に委託されている。レッカー料金1万4000円のうち約4000円は、警察ルート≠ナは警察に、安協ルート≠ナは安協に入る。残り1万円は、元警察署長が社長だったりする特殊な業者が手にする。なんと、すべてのカネは警察の縄張りに落ちる仕掛けなのである。
 裁決はこう書くべきだったはず。
「俺たちは、公道上で駐車場を経営している。まず駐車禁止の規制をかけ、一部を白線で囲ってカネを払えば違反にしない、というやり方だ。一般の駐車場は、料金を払わなければ債権・債務の民事の問題になるが、俺たちはそんなややこしいのはイヤだ。不払いは駐車違反にして、レッカー料金の形でさらに稼がせてもらう。インチキ? 失礼なこと言うな。合法とする法律をちゃんとつくってあるんだよ。文句があるなら言って来い。俺たち自身で審査してやる」

 反則金のほう、つまり駐車違反として取り締まることが妥当かどうかのほうは、警察にも安協にも判断する権限がない。そっちはまず検察官が判断することになっている。
 Hさんは、取り締まりにも不服なので反則金を払わなかったが、取り締まりから約2年10カ月を経た2001年5月2日になっても、どこからも呼び出しがないそうだ。不起訴となっているのだろう。
 反則金の納付額は、年間約900億円。これは交通安全対策特別交付金として、警察の縄張りに落ちる。
 駐禁レッカーは、もはや完全に警察商法≠ニ呼ぶべきと思う。商法だから、「交通の安全と円滑」は宣伝文句や言い訳として利用されるだけ。迷惑な違法駐車は野放しとなる。
 これを支えているのは、やはり、駐禁レッカーを不当と思っても唯々諾々とカネを払い続けるドライバーだろう。
 悪徳商法ってやつは、稼ぐ側も悪いけれど、ムジャキにカネを払う子羊たちがいるから成り立つのだ。どう規制しても、悪徳商法は出てくる。それが世の習いというものだろう。商法といえるまでに大きくさせないためには、やはり子羊の側の意識改革というか防御が求められる、そういうものではないだろうか。
 迷惑駐車はしない、という当然の責務を守り、それでも移動されて不服だったらちゃんと「不服申立」をして、不服があったことを記録にとどめさせる、かつ警察に手間をかけさせる(商売の効率を悪くさせる)、それが大事なのだと私は思う。

 

『ドライバー』(八重洲出版)2001年6-20号の記事に加筆

 

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