オービス精度試験 あり得ないデータが!

 

 大失敗。第1回公判をころっと見逃してしまった。しかぁしっ! 第2回公判の証人尋問はビックリ仰天、衝撃の展開だった。これをマニア諸氏にご報告せずに何とする!

 事件の主人公は、首都高速・都心環状線の外回り、八丁堀付近(制限50q/h)に設置された、東京航空計器のオービスVLk。道端にひっそり佇立(ちょりつ)している点はフィルム式と同じだが、じつはこれ、電子式。警察の中央装置へ画像を伝送する最新鋭タイプなのだ。

 第2回公判は、東京航空計器のスギオサム社員の尋問から始まった。はは〜、こういう尋問をやるってことは否認事件なわけだ。否認はよくある。超過速度は76q/hだった。
 スギ社員は1988年入社。オービスの点検業務(年2回の定期点検)などを6年間やっているという。

検察官 「定期点検は誰でもできるんですか?」

スギ社員 「資格等は不要なので誰でもできますが、点検に要する知識と訓練は必要です。熟練者と2人で現場へ行き、必要な知識を身につけます。性能や構造に関する詳しい知識はありません」

検 「点検結果はどこにどう提出されるのですか?」

ス 「成績書を作成し、直接の上司であるモリナリ(ショウジ)に出し、モリナリが確認して担当の警察へ出します」


 検察官は、各点検項目について1つ1つ尋ねていった。が、それらは結局、電圧や周波数を測ったり、つまり機械自体のチェックでしかない。そんなのは、はっきり言ってどうでもいい。肝心要は、実際に走ってくる車を正しく測定できるかだ。
 そこをチェックするのを「精度試験」という。定期点検のなかで最も重要なチェックだ。

検 「精度試験はどう行うのですか?」

ス 「テープスイッチを、ループコイルと同じ6.9m間隔で路面に設置し、双方の測定データを点検器につないで比較確認します」

 テープスイッチは車のタイヤに踏まれて反応するもので、耐久性は低いが精度はかなり高いという。


ス 「テープの速度とオービスの速度とを点検器で比較して、オービスのほうが0〜-5%、-1q/hの範囲にあるかどうか確認するのです」

 ここ、ちょっと解説しとこう。
 ループコイルは路面下に埋設されて磁界を発生させ、車によって磁界が変化すると車両検出信号を出し、速度を測定する。車の上下動や斜行により検出のタイミングが変化し、誤差が生じる。その誤差は必ず±2.5%の範囲に収まる。そこで、ナマの測定値を0.975倍し、かつ端数を切り捨てる。したがって、表示される測定値は0〜-5%、-1q/hの範囲に必ず収まる、というのがメーカー側の言い分だ。

検 「何台を確認しますか?」

ス 「ここでは100台のデータを取ってます」

 げえっ!? 首都高によると、その場所の通行台数は1日平均5万400台(05年度、平日)。半年なら平日だけで約920万台。オービスが撮影するのは設定速度以上の車だが、測定はすべての車に対して行う(すべての通過車を測定しようとする)。肝心の精度検査が、半年にたったの100台…。それって(平日における)誤測定が0.001%以上あるかチェックしているにすぎない。
 ほんの0.00001%の頻度で誤測定(プラスの誤測定)が生じるとしても、平日だけで半年間に92人を冤罪に陥れることになるんだけど…。

 しかーも、である!! オービスの取締りで唯一最大といえる証拠は、写真に焼き付けられた測定値(「焼付け値」と呼ぼう)。オービスの各部がどう作動したか、記録は一切ない。焼付け値だけが残され、それにより運転者は処分・処罰され、前科者とされるのだ。オービスの各部が正常に作動しても、最後に焼付け値がちょろっと間違ったら、たーいへん。ところが精度試験は、「焼付け値」ではなく、点検器が表示する測定値を確認するのだという!!
 そんなのが点検といえるのか!?

 そして、さらなるビックリ仰天がこの後に起こった!!
 この事件では100台の比較データが証拠請求されている。テープとオービスの測定値がずらっと並び、オービスの測定値は間違いなくメーカーが言う範囲内に収まってますよと言うための一覧表だ。

ス 「29番の行が間違ってますね。オービス表示が68(q/h)になってますが、精度試験の下限値は78で、オービス表示は78より高くなければいけないので、68はあり得ない数値です」

 ぎゃおうっ!! さっき「最後に焼付け値がちょろっと間違ったら」と述べたが、点検器の表示値がぴょろっと間違う、そんな事実があったのだ!!
 検察官は法廷に出す証拠を取捨選択できる。不利な証拠を隠すのは全く合法なのに、こんなデータがなぜ出てきたのか。いったいどう言い繕うのか。

ス 「これは作表するときの間違いです。データは点検器に表示されると同時に、3.5インチのフロッピーディスク(FD)に入ります。現場で点検器を確認したときには、異常を示すものは間違いなくありませんでした。FDからエクセル形式で作表するとき、なぜか知らないけど間違ったものが印刷されてしまったということです」

検 「どう作表するんですか?」

ス 「手でテンキーを打つのではありません。エクセルが自動的にデータを読みとります」

 次の証人はスギ社員の上司、モリナリショウジ社員。73年入社だ。

モ 「当初は私もつい見過ごしまして(約5カ月後)データを見直す機会があり、何気なく見たところ『あれ?』というものがあり、調査しました。29番のところに34番のデータを表示しなさいと、そういう命令文が入ってたんです。エクセルに変な計算式が書き込まれてたんです」

検 「なぜそんなことが?」

モ 「それがですね、いずれ誰かが誤った操作をしたんだと思いますが、誰もそういう意識がない。今ではわかりません」

検 「誰かが書き換えたと?」

モ 「それしかちょっと考えられないんですけれども(笑)」

 わちゃ〜!! オービスは何が何でも絶対だから、誰かが操作を誤ったとしか考えられない、という無茶苦茶な論法だ。

検 「29番の正しいデータは何でしたか?」

モ 「たしか80だったと思います…」

検 「そのことは警察にも言いましたか?」

モ 「当然、正しい表を作成して、差し替えをお願いしたんですけども(笑)」

弁護士 「3.5インチの元のデータは存在するんですか?」

モ 「いや、もうそっちじゃなくてハードディスクに…(笑)」

弁 「元のデータの書式は?」

モ 「たぶんエクセルだと思うんですよ(笑)」

 たぶん、思う? 元のFDはなく(証拠隠滅?)、現場では間違いなかったと口で言うだけ、あり得ないデータは直して差し替えるって、ンなアホな!?

 これまで百数十件のオービス裁判を私は傍聴してきたが、こんな展開は初めて!! 前代未聞の空前絶後の驚天動地!! すっごいのを傍聴できて幸せ〜、ってそんな話じゃねーよ。いっしょに傍聴していた若者は、
「人が無罪か有罪か、判断の元になるデータでしょ。M社員は何でヘラヘラ笑ってるのか、信じられないです!!」
 とマジで怒っていた。
 それでも有罪にしてくれると、メーカー側は裁判官をナメきってるんだろう。
 だが、こんな重大なミスが法廷にポロリ出てくるとは、マニア諸氏よ、オービス無謬神話の崩壊はいよいよ近いかも!


『ラジオライフ』(三才ブックス)の連載記事に加筆

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