反則金を払わず逮捕!?

 

「反則金を払わず逮捕」
 と、ときどき報道される。
「払わないと逮捕されるの?」
 と不安がる人はけっこういる。
 アホか!! 反則金の納付は任意。任意のカネを払わないことは逮捕の理由になりえないっ!!
 なーんて怒るのは簡単だ。しかし、3年前に逮捕されたというNさん(現在30歳。東京都)のケースを見ると、ごく普通のドライバーの率直な印象としては「反則金を払わないでいたら逮捕されちゃった」という感じなのかもなあ、と思えてくる。

 Nさんの逮捕容疑は2件。1件は駐車違反だ。Nさんは言う。
「あるマンションへ荷物の整理に軽トラックで行ったんです。路上駐車するしかないんで、迷惑にならないようめちゃめちゃ気をつかいました。何かあればすぐ移動する、何号室にいるって書いて。荷物運びですからたびたびクルマに戻りますし。ところが、何回めかに戻ったら、ないんですよクルマが。レッカー移動されちゃったんです。なんでだよ!って腹が立ちましたねえ」
 もう1件は、それから間もなくの通行帯違反。
「原付バイクで、歩道から2番目の車線で信号待ちしてたら白バイがきて、原付はいちばん左の車線じゃないと違反だと言うんです。左の車線は違法駐車がずらっと並んでて、その横にスペースはありますが、そんなとこ走るのは、なんか怖いじゃないですか。でも、違反は違反だってことでキップを切られました。これも頭にきましたよお」

 2件とも反則行為。それぞれ青キップを切られ、反則金の納付書を交付された。
 レッカー料金のほうは警察署内で直ちに徴収される。だが反則金はちがう。交付された納付書で、翌日から7日以内に郵便局か銀行で払うことになる。
 つまり、レッカー料金とちがって反則金は、いつもの日常へ戻ってからの支払いになるのである。警察署内ならなんとなく威圧されて払っても、いつもの日常へ戻って警察官の姿がなくなれば、「あんなくだらない取り締まりでカネなんか払えるか。ばかやろめ」という気分になる。
 まさにそんな感じで、Nさんは反則金を払わなかった。

 するとどうなるか。
 7日以内のは仮納付。仮納付がない場合、通常は取り締まりから約40日後、本納付のための納付書が郵送されてくる。その後たいてい2度ほど、催促の通知がある。納付は任意。払わなくてもべつにかまわない。
 だが、問題はそのあとだ。反則金とは、
「交通違反も犯罪だから、刑事訴訟法に定められた刑事手続きで処理するのが本来なんだけども、違反が軽微で違反者に不服がない場合は、これを払って刑事手続きをパスすることもできるよ。どうする?」
 という性質のカネなのだ。納付しなければ刑事手続きに移行する。

 刑事手続きの第1歩は、通常はいわゆる交通裁判所。出頭日は、本納付の納付書といっしょに交付される「交通反則通告書」の裏面で指定される。
 交通裁判所とは、青キップだったが反則金を払わなかった人と、赤キップ(重い違反に対して切られる)だった人とを出頭させ、略式の裁判で罰金を払わせる場所だ。
 違反者が出頭しないと、さらに呼び出す。それでも出頭しないと、何度も呼び出す。取り締まりを行った所属(署または隊)からも呼び出しがあるだろう。
 こうした出頭も任意だ。刑事訴訟法198条1項が「……被疑者は……出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる」と定めている。出頭を拒むことは権利であり、権利を行使したがゆえに逮捕というわけにはいかない。
 だが、何度呼び出してもまったく知らん顔だと、「逃亡や証拠隠滅のおそれがある」という理由を警察はゲットすることになる。裁判所に逮捕状を請求しやすくなる。
「反則金を払わず逮捕」という報道は、よく読めば本文部分で「再三の呼び出しに応じなかったので逮捕」となっている。逮捕の理由は、反則金を払わないことではなく、刑事手続きに移行したあと再三の呼び出しに応じないことなのである。

 Nさんのもとへも、何度も呼び出しがあったはずだ。
「2回くらい郵便がきて、電話も1回あったかなあ。いや、よくは覚えてません」
 なぜそんなにノンキだったのか。
「やっぱ、警察を見下してたからですかねえ。そう、あんなくだらない取り締まりをする警察を、見下してたんですよ。悪いことをしたという意識もまったくないですし。通告書とかは読まないし、呼び出しがきても気にも留めないというか、忘れてました」
 そのまま時効の3年が経過してしまうケースも、ないわけではない。警察としては逮捕は手間がかかる。しかも交通違反は数が多い。いちいち逮捕していられないのだ。
 けれど、「知らん顔してればチャラだ」とドライバーたちに思われてもマズイ。長期未出頭者をまとめて逮捕することもある。

 ある朝、Nさんがアパートで寝ていると、ピンポーンとチャイムが鳴った。出ると、私服の警察官が4人ほどいた。
「Nだね。逮捕状が出てるから」
 警察官は逮捕状を見せ、朗読。2件の違反容疑を聞いてNさんは、
「あ、そういえばそんなのもあったなあ。しっかしなんで逮捕なの?」
 という感じだったそうだ。
 トイレへ行って歯を磨き、財布を持ち、ジャージとTシャツのまま出かけることになった。玄関で手錠と腰縄を打たれた。長いヒモの中央部を手錠に結び、手錠から2本のびたヒモを被疑者の腰の左右にまわして後ろで縛り、余った部分を警察官が握る、それが腰縄だ。
 罪人の格好でNさんは、外に駐車していた覆面パトカーの、後席の中央に座らされた。
「どこへ連行されるんだろう。帰りは送ってくれるのかなあ。きょうは仕事あるんだけどなあ……」
 そうは思ったが、どうにもならない。Nさんは墨田区の交通裁判所へ連行された。

 Nさんの記憶によると、白い鉄格子があってパイプ椅子がたくさん並んだ部屋に入れられたという。
「同じく逮捕された人が、20人ほどいましたか。年配の人もいました。
 3回くらい出たり入ったりさせられたように記憶します。写真と指紋もとられました。写真はもうちょっと上を向いて≠ニか言われて、1人につき5秒か10秒くらいって感じですか。指紋は指10本でした。掌紋? そこまでは忘れました」
 そしてどうなったのか。
「最後は、なんか簡易裁判所の窓口みたいなところで、たしか3万円か2万何千円かの罰金を払い払ったら帰ってください≠ナ終わりでした。もちろん納得はいきませんでしたがここで罰金を払わないと帰れないぞ≠ニ言われました」
 警察はドライバーをしたがわせるために帰れないぞ∞帰さないぞ≠ニいろんな場面で言うが、逮捕してのそれは効果抜群だろう。

 外は雨。ジャージとTシャツ姿で覆面パトに乗せられてきたNさんは、
「ここはどこなんだろ。駅はどっちかなあ」
 と困ってしまったそうだ。電車に乗ってアパートへ帰り着いたのは午後3時か4時ころだったという。
 前出の「交通反則通告書」にしたがって出頭していれば、手錠も腰縄も写真も指紋もなしで、略式の裁判によりたぶん同額の罰金を払って終わったはず。
 いや、逮捕されていなければ「取り締まりには納得いかない!」と言いやすい。略式を拒否すれば、そうとう高い確率で不起訴になっていただろう。教訓。たしかに警察はくだらない取り締まりをするけれど、あんまり見下してもいけないかもね。


『ドライバー』(八重洲出版)2004年8-5号より
 

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