交通規制は誰がどうやってつくるのか

 

 標識による交通規制は、それぞれの地方の公安委員会が行なう。
 法的根拠は、道路交通法第4条第1項の前段。
「都道府県の公安委員会は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、又は交通公害その他の道路の交通に起因する障害を防止するため必要があると認めるときは、政令で定めるところにより、信号機又は道路標識等を設置し、及び管理して、交通整理、歩行者又は車両等の通行の禁止その他の道路における交通の規制をすることができる」
 ここに出てくる「政令」とは、道路交通法施行令第1条の2。標識は「前方から見やすいように、かつ、道路又は交通の状況に応じ必要と認める枚数のものを……
」とか、路側帯の幅はどうするかとかいったことが定められている。

 つまり、あなたがお住まいの地方の公安委員会は、その場所にその規制を設けることが、「道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図」るなどのため「必要があると認め」たってことだね。

 なぜ公安委員会なんてものが出てくるのか。
 公安委員会は、警察の民主的管理者だ。たとえば東京都公安委員会のホームページには、
都道府県の住民を代表するものとして都道府県警察の民主的な管理を保障し、また、独立の合議体としての中正な運営により政治的中立性を保障確保するための機関です
 とある。
 取り締まりを行なう警察が、取り締まりのアイテムとなる規制までつくるのでは、交通の安全&円滑を離れて取り締まりに都合の良い規制をつくりかねない。だから、警察の管理者である公安委員会が規則をつくるようになっているのだろう。

 それはともあれ、上記の条文だけでは漠然としている。「必要があると認めた」といえばどんな規制でもできそうな感じだ。もうちょっと突っ込んだ基準というか規制の理由はないのか。
 じつは最近、警察官が昇任試験のために勉強する分厚い法令集を見る機会を得た。その中に、「
交通規制諮問委員会制度の実施について」「交通規制および交通施設に関する事務取扱要領の制定について」という、神奈川県警本部長から各所属長あての、まあ通達のようなものがあった。
 規制するに当たっては地域住民などの声も聞き、こういう理由でこれこれの規制をしたいと、署から本部長へ「
上申
」しなさいというのだ。上申書の書式も定められている。規制を求める理由を書く欄もある。が、両方とも1965年5月「発」でかなり古い。

 そこで、現在の東京都にも同じ「諮問委員会」みたいなものがあるのかどうか、都に尋ねてみた(私は都民なので)。
 すると、交通規制は警察の仕事だから警視庁、つまり東京都の警察本部へ聞いてくれとのこと。
 警視庁の交通規制課によると、「諮問委員会」はないけれども、各署が地元の交通規制をするに当たっては、各署が地域住民の声を聞くなどして(たとえば町会長にまとめてもらうとかして)、こういう理由でこれこれの規制をしたいと警視庁に上申するのだという。ここまでは、神奈川県警の法令集にあったのと同じだ。

 では、その上申書を運転者が見ることはできるか。交通規制課は、ためらいもなく言うのだった。
「できません」
 むむ……。ならば、公安委員会の手元へまわる文書は、見られるか。これも「できません」とのこと。
 そして、交通規制課は驚くべきことを言うのだった。
「公安委員会へ上がるまでには、警察のほうでもう十分に検討し、決定していますから、公安委員会へは理由は出しません。委員からとくに質問があればお答えしますが」

 前出のホームページには、5月11日午前10時から開かれた公安委員会の定例会議の概要が載っている。
 出席者は5人の公安委員のほか、警視総監や何とか部長、課長、管理官、室長など21人。議題は、台東区の女子大生殺人事件など6件の「特別捜査本部事件」についての報告や、都議選の選挙違反取り締まり本部の設置予定のことなど21件。その中の1つとして「
交通規制について/警視庁から、交通規制、駐車規制及び信号機の設置について報告がなされ、決裁された」という項目がある。
 しかし、5人の公安委員はいちばん若い人で72歳。マスコミでも大きく報道されたものなど21もの議題が並ぶなか、個々の場所の規制理由を「質問」して何か意見を言うなど、果たしてあり得るだろうか……。
 こうして、交通の安全&円滑の観点からは疑問を感じるけれども、取り締まりのための取り締まりには確実に利用できる、そういう規制がつくられていくようだ。

2001年8月号あたりの『XaCAR(ザッカー)』(三栄書房・CFM出版)の連載記事に加筆。
その後、たとえば東京都の場合は2001年10月1日から、
情報公開条例の実施機関に警察・公安委員会が含まれることになり、
どこの場所にいつどんな規制を設けたかという文書は開示されるようになった。
文中の「上申書」に当たるものは保存期間がきわめて短いが、
文書が存在すれば開示される。

 

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