青キップを交付されなかった
道路交通法 第126条第1項
警察官は、反則者があると認めるときは、次の各号に掲げる場合を除き、その者に対し、すみやかに反則行為となるべき事実の要旨及び当該反則行為が属する反則行為の種別並びにその者が次条第一項前段の規定による通告を受けるための出頭の期日及び場所を書面で告知するものとする。ただし、出頭の期日及び場所の告知は、その必要がないと認めるときは、この限りでない。
一 その者の居所又は氏名が明らかでないとき。
二 その者が逃亡するおそれがあるとき。「反則者」とは「反則行為」をした(とされた)運転者のこと。 ただし、無免許の者などは、違反が「反則行為」であっても「反則者」とはされない。そこのところは同第125条第2項を。
「告知」のための「書面」とは「交通反則告知書」、つまり、いわゆる青キップのこと。
「書面で告知」とは、「交通反則告知書」を交付すること、つまり青キップを切ることをいう。
といことで、第126条第1項は要するにこういう規定といえる。
「警察官は、青キップの違反を取り締まったときは、その者の住所または氏名が明らかでない場合、その者が逃亡するおそれがある場合、このふたつの場合を除いて、すみやかに青キップを(当然、反則金の納付書も)交付しなければならない」青キップというのは、ただの紙切れではない。
「あなたの違反(容疑)は反則行為です。本来は刑事手続きで処理するんだけど、反則金を払えば刑事手続きはパスさせますよ」
ということ(じつは法律的にはウルトラC)をお知らせするための書類だ。
そういう大事なことを、青キップを交付することで「告知」すべしと法律で定められているのである。運転者は、捕まったときは感情的になっていろいろ文句を言うこともあるだろう。けれど、あとからよく考えて、「やっぱ文句はスジちがいだった。反省しなければ」となるかもしれない。どう考えるかは本人の自由だ。
反則金を納付してオシマイにしてもいいし、納付せずに刑事手続きで争ってもいい、そういう立場にあなたはあるよと告知し、どっちにするかは運転者の判断にまかせる、それが反則金の制度 (「交通反則通告制度」)なのである。
もちろん、運転者が受け取りを断れば(受領を拒否すれば)、無理にポケットにねじ込むことはできない。
その場合は、運転者自身が最初から反則手続きの扱いを拒否した(刑事手続きを望んだ)ということになる。道路交通法 第130条
反則者は、当該反則行為についてその者が第百二十七条第一項又は第二項後段の規定により当該反則行為が属する種別に係る反則金の納付の通告を受け、かつ、第百二十八条第一項に規定する期間が経過した後でなければ、当該反則行為に係る事件について、公訴を提起されず、又は家庭裁判所の審判に付されない。ただし、次の各号に掲げる場合においては、この限りでない。
一 第百二十六条第一項各号のいずれかに掲げる場合に該当するため、同項又は同条第四項の規定による告知をしなかつたとき。
二 その者が書面の受領を拒んだため、又はその者の居所が明らかでないため、第百二十六条第一項若しくは第四項の規定による告知又は第百二十七条第一項若しくは第二項後段の規定による通告をすることができなかつたとき。これは、さっきの第126条第1項にあった、住所氏名が明らかでないとき、逃亡するおそれがあるときのほかに、運転者が青キップまたは通告書(「交通反則通告書」)の受領を拒んだとき 、そういうときでなければ警察のほうで勝手に刑事手続きの扱いにはできないよ、という規定だ。
あとで気が変わるようなことのない、しっかりした不服があって、早く手続きを進めてもらいたい人は、「そういうわけなんでキップも反則金納付書も要りません」と、現場の警察官に伝えると良いだろう。
ただ、すでにキップが作成されたのあれば、私としては、現認時刻や警察官の所属・氏名や、どの条文の違反とされたのかなど記載されている書類(キップ)は受け取っておくほうが、あとあと何かと便利ではないかと思う。
ところで……。
運転者が取り締まりに不服を言い、キップにサインしなかったりすると、べつに受領を拒んだわけでもないのに、
「よし、じゃあ、コレはわたさない。文句があるならあとで出頭して言え」
などと言い、本当に青キップをわたさない警察官がいる。
運転者が取り締まりに不服を言うかどうか、キップにサインするかどうか、そんなことは第126条第1項の規定と関係ない。
規定に反して、というか超えて、警察官が勝手にキップを交付しないことは、「反則金ですます道も選べる権利」を運転者から奪ってしまう、明白な違法行為に当たる。警察官は、なぜそんな違法行為をするのか。たまたまその警察官が道交法の規定を知らないのか。
いや、そうではないらしい。青キップを交付せず「文句があるなら出頭して言え」と言うとき最近は、後日出頭する場所を教えるためにわざわざ「交通違反通告書」なる紙を わたすことが多い。
本当の受領拒否者のために用意されているだけでなく、どうも上司のほうから「サインを拒否されたら刑事手続きの扱いにしてしまえ」といった指示があるのではないかと思われる (なぜそういう指示をするのかについては、拙著『交通違反・裁判まるわかり』 で触れた)。「交通違反通告書」には、約20日後、いわゆる交通裁判所へ出頭するよう書かれている。出頭すると、こう言われる はずだ。
「キミ、ここへきたらもう、裁判をするしかないよ」
ええっ? 裁判? びっくり驚く運転者は、さらにこう言われるはずだ。
「裁判には略式と正式がある。正式は時間もカネもかかる。どうする?」
あなたならどうするだろう。「正式の裁判でよろしく」なんて答える運転者はまずいないだろう。
動転して略式に応じれば、略式は不服がない人のための形式的な裁判だから、「運転者に不服はなかった。取り締まりは適切だった」として一件落着する……。
あるいは、こんなことを言われることもあるはずだ。
「だけど、いまならまだ反則金ですませてあげることもできる。ここに納付書があるから、そこの郵便局で反則金を払ってきたらどう?」
もうよろこんで払いにいくでしょ。反則金は、不服がない人のための便宜的なペナルティだから、やはり「運転者に不服はなかった。取り締まりは適切だった」として一件落着する……。このような決着をおそらくは予測・期待して警察は、取り締まりに文句を言うウルサイやつ、サインを拒むナマイキなやつがいると、青キップを交付せずに交通裁判所のほうへ送 って屈服させる、ということをやるのではないかと思われる。
警察の内心がどうであろうと、青キップを交付しないのは道路交通法126条に違背する。法に定められた手続きを踏まなかったことになり、取り締まりは無効 (起訴すれば公訴棄却)とされる。
しかし、そのことを運転者があとで指摘すれば、取り締まりの警察官はかならずこう言うのだ。
「本職は青キップも反則金納付書も交付しようとしたが、運転者が勝手に受領を拒否したのだ。それで、反則手続きによる処理を拒んだものとして、刑事手続きでの処理をすることとした次第だ」
汚いやり方だけど、それがウソだという証拠がない。とはいえ、キップを交付されなかった経過を客観的に詳細に説明し、かつ、違反とされた運転が悪質・危険・迷惑性の高いものでなければ、多くは不起訴となってしまうようだ。
つまり、ビビって屈服すればオシマイ、おそれずにがんばれば多くは不起訴ということか。