2003年3月21日更新 2008年1月22日更新 2010年4月23日更新
(4) 裁判の費用(正式な裁判の場合)
●もしも起訴されたら
いちおう、起訴されて正式な裁判になるとどれくらいのカネがかかるのか、についてもチェックしておきましょう。
裁判(刑事裁判)を受けること自体には1円もかかりません。
しかし、「訴訟費用」なるものが生じることがあります。
交通違反の裁判で生じる訴訟費用といえば、もっぱら弁護士費用(報酬・旅費・日当)と証人の費用(旅費・日当)です。弁護士を自分で探して頼むと(そういうのを「私選」という)何10万円もかかります。
かつて、日弁連が「報酬規定」を設けていましたが、国と自民党が突然言いだした「司法改革」の流れの中で、2004年4月1日から廃止になりました。
現在、日弁連は「弁護士報酬(費用)」というページを置いています。ご参考にどうぞ。私選弁護人を付す場合、かなりマケてもらえたとして、最低10万円程度は覚悟しておくほうがいいんじゃないかと思います。弁護士の個性や事件の中身、どの部分を依頼するのか等によっていろいろでしょうけど。
起訴(公判請求)されると、裁判所から特別送達という郵便が届き、その中に、起訴状の写しと、弁護人をどうするかという書類が入っています。
被告人(起訴されたあとはそう呼ばれます)は、裁判所に対し「国選」で弁護人をつけてくれと求めることができます。
そうすると、「国選を引き受けてもいいよ」と登録してあった弁護士の中から誰か1人やってくることになります。国選弁護人の報酬は、かつて最高裁が、基準となる金額について通達を出していました。3回開廷を標準として、簡裁で6万1900円、地裁で8万6400円でした。開廷回数が増えると、金額も増えます。非常に長引いて20万円を超えたケースもありました。
国選弁護人の費用は、判決で「訴訟費用は被告人の負担とする」とされ、かつ、免除の申し立て(判決確定後20日以内にできる)が認められなかったとき、被告人に支払いの義務が生じる。
その費用は、いくらなのか。「日本司法支援センター(法テラス)」の「国選弁護人の事務に関する契約約款」に定められている。
事件が簡裁の場合、「実質審理」(弁論または証拠調べが行われた審理)が1回だと6万円。2回だと6万6000円。3回だと7万2000円。地裁の単独事件の場合、1回で7万円。2回は7万7000円。3回は8万4000円。簡裁も地裁も、判決は3000円。
そのほか細々と長々と定められている。まぁ、1回で結審、2回目が判決(有罪)の事件は、簡裁なら6万3000円。地裁なら7万3000円ということか。私選に比べれば格段に安い。
社会的義務として国選をやる弁護士もいれば、自宅を事務所にして事務員を雇わず、月に何件か簡単な国選をやり、年金とあわせて暮らす、そんな高齢弁護士もいるようだ。
●証人の旅費・日当
検察官は、被告人を有罪とするために、警察官作成の報告書や、現場見取り図(写真や図面つき)や、スピード違反の場合は測定機のメーカー作成の書類や、いろんな証拠書類(書証)を出してきます。
そうした書証について、被告人は裁判官から、「同意」するかそれとも「不同意」とするか、意見を求められます。裁判の判断材料として裁判官が見ていいか、という意味です。
被告人は、「見てもいいけど信用性を争う」とすることもできますが、「書類の作成自体が怪しいので見られちゃ困る」などの理由で「不同意」だと答えると、検察官はその書証 の取調請求を留保または撤回し、かわりに作成者(警察官や測定機のメーカー社員)が証人として出てくる、そうなるのが普通ですたとえば、ネズミ捕り(待ち伏せタイプのスピード違反取締り)で被告人が容疑を否認している場合、測定現認係、記録係、停止係、取り調べ係などのうち主要な警察官が証人となるのが普通です。ほかに、測定機のメーカー社員が証人として出てくることもよくあります。
警察官に「取り締まりはこのようにちゃんとやった。間違いない」と語らせ、メーカー社員に「ウチのキカイは大丈夫。間違いない」と語らせて、測定機にも測定値にも間違いはないことの立証とするわけです。同じスピード違反でも、容疑となった測定値は認め、「これこれの事情があってスピードを出したのだ。どうか情状を酌んでくれ」「現場の状況からして罰金はせいぜい千円程度が妥当なんじゃないか」といった主張をするのであれば、不同意とする書証はほとんどないはず。
であれば、証人の人数はかなり少ないか、あるいはゼロということになるでしょう。
また、なんら不服はなく、「反省と今後の誓いを裁判官の前で述べ、今回のことを肝に銘じたい。できれば寛大な刑にしてほしい」と述べるだけであれば、証人尋問の必要はありません。そのように述べて裁判官からほめられた事例を拙著『交通違反ウォーズ!』(小学館文庫)に収載しました。証人の費用は、証人自身がまず裁判所に請求することで、発生します。
警察官は職務として出てくるのであり、旅費・日当を請求して受け取れば、給料と二重取りではないか。その問題について、東京地裁で民事の訴訟がありました。高裁の判決も出ています。
現在、警察官は旅費・日当を請求するのか、はっきりしたことはわかりませんが、どうも警察官によってバラバラなように思えます。スピード違反の測定機の製造・販売会社の社員は、私が傍聴した限りでは、かならず、旅費・日当を請求して受領します。法廷証言もアフターサービスに含まれると言いながら、旅費・日当は国(裁判所)に請求して受領する、どういう会社なんだ、と私は毎回呆れています。
それはともかく、証人の旅費・日当は法律(刑事訴訟費用等に関する法律)で上限が決まっています。1人1回の出廷につき通常は4000円〜5000円くらいでしょうか。
測定機のメーカー社員が遠くの裁判所へ証言に来ると、交通費がかさみます。宿泊費を請求することもあります。1回の証言で何万円も取ったケースもあります。
●弁護人なしでもできる
交通違反の裁判は弁護人なしでもできます。
「数千円の反則金の事件のために、弁護人に何万円も何十万円も払えない。それに、専門家に勝手にすすめられてしまうより、たとえヘタでも自分で納得できる裁判をしたい」
と、1人で裁判をやる被告人はよくいます。しかし、証人を何人も呼んだりして長くなりそうな場合など、「弁護人がいないと被告人の権利が十分に守られないから」との理由で、裁判官の職権により国選の弁護士がつけられてしまうことがあります。被告人が不要だと言っても、です。
こうした場合の弁護士の費用も、被告人の負担とする裁判官もいます。
●訴訟費用の負担
これらの訴訟費用は、まず裁判所が弁護士や証人に払います。そして、有罪のとき(ほぼ100%有罪なわけですが)、判決に「訴訟費用は被告人の負担とする」と書かれることがあります。 「訴訟費用は被告人に負担させない」と書かれることもあります。「証人に支給した分のみ負担」とされることもあります。
刑の言渡をしたときは、被告人に訴訟費用の全部又は一部を負担させなければならない。但し、被告人が貧困のため訴訟費用を納付することのできないことが明らかであるときは、この限りでない。(刑事訴訟法第181条第1項)
法律上は、原則負担させることになっています。
しかし、とくに「貧困」だという事情もないのに負担させないケースがよく見られます。
これは、数万円程度の罰金を科す裁判の費用が10万円もしたのでは…ということもあるのでしょうが、なにより、裁判官の考え方と、弁護人がちゃんと役割を果たしたかということ、裁判官が被告人の人間をどう見るか、というところにかかってくるのではないか、と私は見ています。
たとえば、官僚的な裁判官に比べれば官僚的でない裁判官のほうが、また、被告人は弁護人にすっかりお任せだったというのに比べれば弁護人が刑事裁判に不慣れで結局は被告人が頑張ったというほうが、あるいは被告人 はただゴネてるだけらしいのに比べれば 何かを真剣に裁判官にわかってもらおうとしているほうが、被告人の態度が悪いのに比べれば誠実なほうが、不負担となる可能性が高い、とはいえるかと思います。訴訟費用の負担を命じられた被告人は、「訴訟費用免除の申請」をすることができます。期限は、判決が確定してから20日以内です(刑事訴訟法第500条)。
申請書の書き方は、書記官が教えてくれるでしょう。見本もくれるかもしれません。この申請は、学生の場合はたいていとおるといわれます。会社員の場合でも、給料が安いうえ赤ん坊と病気の親をかかえていて…といったことがちゃんとわかれば(証する書類等があれば)、免除されるかもしれません。
訴訟費用の負担は、無罪となればもちろんありません。
国選弁護人なしで証人出廷もない場合は、そもそも訴訟費用が発生しません。
1円もかからず、始まってから判決 (有罪)まで30分かからないケースもあります。
●若干のまとめ
こういう手続きでは、「こうすれば必ずこうなる」ということはなかなか言えないように思います。当人の覚悟と、当人のキャラクターにあった工夫が必要でしょう。
そしてその覚悟は、普段の安全運転から生まれてくるものと思います。まったく何の違反もせずに運転することは困難ですが、
「これで捕まったら粛々と争ってやろう。理はこっちにある」
と自信を持てる運転(それがつまり安全運転?)をすることが大事かと私は思います。年間1200万件を超える大量の交通取締りは、取締りを受けた者がほぼ全員、争わずに一律処理されることを前提としています。そうでなければ大量の取締りは成り立たないのです。
大量一律処理に身を任せない運転者に対して、警察・検察は、なんとかあきらめさせるよう、屈服させるよう、導いたり脅したりしがちといえます。
「不服がおあり? はいはい、快く耳を傾け、あなたが望むようにしてさしあげましょう」
というものではないのです。
好き勝手にムチャな運転をしていて捕まり、単なる反警察感情から、また免停などを逃れられたら儲けもの、との気持ちから「無実だ」と言い出したり、不起訴を狙ったりする人もいるようですが、そんな甘い考えは通用しないと考えておくほうが良いかと思います。以上、(1)から(4)にわたってご説明したのは、刑事手続きのだいたいの流れです。もっと詳しいことは、他のコンテンツ、また拙著『交通違反・裁判まるわかり』(小学館文庫)などをご覧ください。