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(2)いわゆる交通裁判所

 

●略式と交通裁判所

 さて、反則金を払わなかった人最初から赤キップだった人、両者の合計は、かつて年間100万人くらいでしたが、近年はだいぶ減って100万人をだいぶ割り込むところまできています。それでもまだまだたいへんな数です。
 両者とも反則金ではすまない人たちですから、処罰する(刑罰を科す)ためには裁判の手続きを経なければなりません。
 しかし、ぜんぶ正式な法廷を開いて審理しようとすれば、やっぱり検察庁も裁判所もパンクしてしまいます。
 どうすればいいのでしょう。交通ルールや取り締まりのあり方を考え直す? 「無謬の原則」のもとでは、そんな発想は出てきません。
 かわりに、簡単・迅速に刑罰を科してしまおうと、略式の裁判手続き(刑事訴訟法第461条〜の「
略式手続き
」)なるものが用意されています。

 略式手続きは、各都道府県に1カ所か2カ所くらいある、いわゆる「交通裁判所」で 「三者即日処理方式」により行なわれるのが一般的です。

 交通裁判所というのは俗称です。
 各都道府県にそれぞれいくつもある簡易裁判所のうち、1カ所か2カ所(の建物または敷地内の小さな別棟など)が、交通違反の三者即日処理を専門に行う「交通裁判所」として機能している、ということです。
 地方によっては、交通裁判所と呼べるような特別な施設はなく、普通の簡易裁判所で日を決めて、交通違反の略式手続きをささっと片づけるところもあります。とくに日を決めず、したがって多数の違反者を呼び出すのではなく、1人について粛々と行なうこともあります。
 どの場合も、手続きの中身自体は変わりません。
 「即決裁判」は、もうだいぶ前から1件も行われていません。

 

●交通裁判所への出頭

 通常、青キップの人は、反則金の本納付のための納付書といっしょに交付される交通反則通告書」の裏面で、出頭について指示されます。赤キップの人は、赤キップの裏面で指示されます。
 後日
ハガキで出頭を指示される
こともあります。

 交通裁判所の(したがって略式手続きの)受付の役割は、警察が行ないます。警察のその部署は、「交通捜査課××分室」「交通指導課××分室」「常駐警察官室」などです。地方によって違いますが、どれも「室」がつきます。裁判所の建物または敷地のなかに「室」を持って運転者を待っている、ということです。

 

●略式に無罪なし

 裁判というと、「法廷が開かれ、壇上の裁判官が自分の話を聞いてくれるのか」と思いがちですが、略式手続きではそんなことは一切ありません。詳しくは『交通違反ウォーズ!』の78ページからの事例をご覧ください。

 略式における裁判官は、運転者とは一切会うことなく、あがってきた書類だけを見て、罰金の金額(相場がある)のハンコを次々と押していくだけなのです。このハンコはどんどんすり切れてしまうそうです。

 無罪のハンコはありません。インチキ裁判? いいえ。だって、「あがってきた書類」とは、運転者自身が容疑を認めている書類とか、「取り締まりはこういうふうに間違いなかった」と警察がつくった書類とか、そういうものばかりなのです。無罪にする理由がないじゃありませんか。


 裁判官の手元へまわってくる書類のなかに「交通事件原票」があります。5枚くらいで1つづりになっている違反キップの、2枚目の紙です。
 この紙の下のほうに、警察官が運転者に求めるサインの欄があります。サイン欄には、「私が上記違反をしたことは相違ありません。事情は次のとおりであります」と小さく印刷されています。そこにそのままサインすると、容疑をすべて認め、言うべき事情(つまり不服)は現場の段階ではなかった、ということになります。
 この「交通事件原票」が裁判官の手元へあがってきて、罰金の支払命令を出す理由の1つとなるわけです。

 もちろん、なかには、無罪や、起訴自体が違法だからと公訴棄却にすべき事件もあるでしょう。あるいは、運転者の言い分もよく検討して量刑を決めなければならないケースもあるでしょう。
 そういう場合は「この事件は略式にはなじまない」ということで、刑事訴訟法第463条により、通常の規定にしたがった審判の手続き、一般的な言い方をすれば正式な裁判(へ向かってすすむ)手続きのほうへまわすことになっています。

 『ドライバー』(八重洲出版)の2002年4-20号で簡単にレポートしたように、いわゆる交通裁判所で直ちに不起訴とされた人もいますが、それはきわめてマレなケースかと思われます。

 

●略式でも前科

 いわゆる「交通裁判所」とは、

1、運転者を呼び出して、不服がないことを確認するための警察官
2、起訴(略式起訴・略式命令請求)を行うための検察官
3、罰金の支払い命令(略式命令)を出すための裁判官

 この3者が一体となって、どんどん罰金を徴収する、ベルトコンベアー式の施設なのです。
 要するに、たくさんの違反者(=取り締まりに不服のない人、不服はあっても主張するのがメンドウな人、不服を主張する道があることをまったく知らない人)などに、略式でとっとと罰金を払わせる、ただそれだけのための特別な施設、といえます。
 出頭して窓口に罰金を
即日納付するまで、だいたい1時間かからずに終わるでしょうか。待合室が混雑していて2時間くらいかかることもあるようです。
 罰金は後日納付することもできます。

 たとえ略式による罰金でも、罰金は裁判による刑罰ですから、これを受ければ「前科」になります。
 まあ、交通違反の略式で「前科者」になる人は毎年たくさん(近年減少しており04年は約61万人)いるわけで、特別の不利益をこうむることはまずないようですが、特殊な職業や立場の場合、影響することもあるかもしれません。ご心配でしたら、お勤め先や就職先などにそれとなく確かめてみるといいでしょう。
 執行猶予中の人は、「では、いよいよ刑務所へ入るか?」ということになります。罰金刑の場合は「裁量的取消し」の対象となります(刑法26条の2)。

 一般に、刑罰を受けた事実は、検察庁から戸籍地の役所へ知らされ、カード式の台帳(犯歴台帳と呼ばれたりする)に記録されます。これは、叙勲関係、選挙銃刀法など前科が問題になる照会があったときに回答するためだそうです。罰金刑の場合は5年たつと、役所は検察庁に消滅照会をし、新たに刑罰を受けた事実などがなければ、そのカードを消滅させるそうです。
 ある役所の戸籍係によると、交通違反の罰金前科は、数が膨大なこともあり、少なくともスピード違反の罰金前科については記録していないそうです。酒気帯びや無免許 の罰金前科がどういう運用になっているかは、未調査です。
 ちなみに「前科」という語は正式な法律用語ではありません。

 

●出頭を断る場合

 不服のあるなしには関係なく、運転者が略式に応じない場合、あるいは、運転者に不服があるなどで検察官が「これは略式にはなじまない」と判断した場合、事件はいわば正式な刑事手続きのほうへ移行することになります。

 交通裁判所は略式を専門に行う場所ですから、取り締まりに不服があるなどで「俺は略式で終わらせるつもりはない」という運転者は、交通裁判所へ出頭しても意味がない、といえます。

 それでも「とりあえず社会見学のつもりで」「俺は逃げも隠れもしない。どこへでも行く」と、出頭する人もいます。また、「忙しい。意味のないところへ行くヒマはない」と、出頭を断る人もいます。
 交通裁判所への出頭は、任意なのです。

 ただし、悪質な違反をしておきながら無責任で出頭をズルける人を、交通裁判所(の受付の役割をする警察)はたくさん相手にしているでしょう。警察は、長期未出頭者をまとめて逮捕することもあります。
 出頭しない場合は、ただ無責任なだけの人たちと同じに見なされないよう、配慮が必要かと思います。すなわち、すっぽかすのではなく、きちんと断りの連絡を入れるとか。

 

 こうした法律手続きでは、ただ配慮するだけでなく、配慮した事実があったことをあとで立証できる形つくっておくことが大事になってきます。

 具体的には、「出頭しない」という連絡は、電話なら会話を録音するとか、郵便なら文面と封筒をコピーしておくとかすべきでしょう。警察のほうでは、「×月×日電話で出頭を求めたが得られなかった」などと、ちゃんと記録しているのですから。

 そうやって出頭を断った場合、それでもなお出頭を求められることがあります。「なんかごちゃごちゃ言っておるようだが、断ってきたから『はいそうですか』と応じる警察だと思ってもらっちゃ困る」「呼び出して説教すればあきらめるだろう」などと思うのかもしれません。
 もとが反則行為の場合はとくに「今ならまだ反則金で終わらせてあげることができる。応じなければいよいよ裁判(刑事手続き)だよ。どうする?」と言 われることもあり、出頭させてそのように言えば、かなりの割合の人は反則金を払うだろう、と思うのかもしれません。

 自宅で1人でいれば「徹底的に闘ってやる!」などと強がっていても、警察のいわば“砦”で、裁判なるものがいよいよ現実に身に迫っているのだと感じながら説得されれば、略式に応じてしまおう、または反則金を払ってしまおうとなる、そういう心理を警察官はよく知ってることでしょう。

 違反処理システムにとっては、略式または反則金で終わってくれるに越したことはなく、そもそもほぼすべての事件がそうやって終わることを前提に年間800〜900万件の取り締まり(罰則を伴う違反に対する取り締まり)は行なわれるわけです。

 断っても出頭を求められた場合どう応ずべきかは、一概には言えません。ご自身で工夫、判断してください。
「出頭したら略式に応じてしまいそう。だから出頭は避けたい」
 という人がときどきいます。
 それは間違っています。警察官、検察官がどんなに略式で処理したくても、運転者が「略式手続によることについて異議がない」旨を明らかにする書面(赤キップの場合は裏面の申述書欄)にサインするという行為をしなければ、略式で処理することはできません(刑事訴訟法461条の2)。 そして警察官、検察官は、運転者にムリヤリボールペンを握らせ手をつかんで名前を書かせることはできません。そんなぐちゃぐちゃの署名には信用性がありません(笑)。

 もうひとつ、老婆心ながら申し上げておきます。
 当HPを読むなどして「略式には応じない。正式な刑事手続きへ送れ」と郵便を送りつけたりする方もおいでのようです。どうするかはご本人の自由です。知らん顔せずちゃんと断るのは良いことと私は思います。
 ただ、上記のような文面ですと、「ここが略式を専門にやる場所だと、初犯のこいつがなぜ知ってるんだ? 正式な刑事手続き? それは 今井亮一の言い回しそのまんまじゃないか。ははあ、ネットでお手軽に“知識”を得て、鵜呑み、猿マネでやってやがるな?」などと見なされるおそれがありますよ。FAQ「はじめに」をよくお読みください。

 なお、きわめて悪質なケースは、「略式による罰金では刑罰効果がないだろう」ということで、略式の段階は飛ばされ、最初から正式なほうの刑事手続きで扱われ 、懲役刑を求刑されることになります。 「懲役前科は絶対に困る。なんとか罰金刑でお願いしたい」という場合、起訴(公判請求)されてからでは遅すぎます。略式起訴(つまり罰金)ですませてくれるよう、起訴前に検察官にお願いするのが適当でしょう。『なんでこれが交通違反なの!?』のQ125が参考になるでしょう。

 

●警察からの呼び出し

 出頭するにせよしないにせよ、とにかく略式に応じなかった場合、取り締まりを行なった警察のほうから後日、「調書を取る」「現場検証をするから立ち会え」と呼び出しを受けることもあります。

 刑事手続きの扱いとなった違反の多くは略式で決着するので、警察官は略式用の簡単な書類しかつくっておらず、しかし正式なほうの手続きへすすむとなればそれなりの書類が必要になってくるため、その書類をつくろうと呼び出すわけです。

 これらは任意の捜査です。そして、捜査というのは結局、「警察の取り締まりは適切だった」という証拠を警察がつくる作業といえます。
 ですから、わざわざ行かないほうが賢明、ということもできます。現場検証は、警察だけで勝手に行うことが多いようです。ただし、調書の呼出については、しつこいことがあり、ときに警察は、出頭に応じない者を逮捕してしまうこともあります。

 出頭するときは、供述内容と異なる調書にはサインしないよう、くれぐれもご注意ください。巧妙に運転者に不利なようになっている場合もありますよ。

 出頭を断るときも、調書へのサインを断るときも、遠慮がちにおずおず言っていると、高圧的に従わされてしまいがちです。意志がぐらぐらしていると、ナメられてしまいます。とはいえ、ただ反発して強がれば良いというものではありません。そのへん、 運転者も警察官もいろんなタイプがいるので、一概には言えません。

 捜査にどう応じるかについてはFAQ「黙秘権」をご覧になっておいてください。

 

●略式or正式?

 さて、略式に応じないと、直ちに正式な裁判(テレビなんかでよく見るアレ)になってしまうのか。
 いいえ。略式に応じないと、「最終的には正式な裁判もある道」へすすむことになるのです。

 そっちの道へすすんだ場合、通常は後日、検察庁から呼び出しがあります。「×年×月×日の交通違反についてお尋ねしたいことがあるので出頭してください」というふうなハガキがきます。

 略式に応じるか応じないか、その前に反則金を払うか払わないか、よくよく考えておくべきかと思います。

 

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