●医学ジャーナリスト協会2月例会講演「現場から見た医療制度改革」

第一部:現場が感じる病院医療の問題点
済生会栗橋病院  本田  宏
   現場医療が抱える問題は、医学の進歩と高齢化に伴う人手不足と、国民の医療への信頼の低下である。現場の問題意識と乖離する制度改革がこれに加わっている。問題の大部分は医療政策の結果であるが、国民もまた現場の医者までもがこの事実を知らない。
  日本の医師数は多くない。100床あたりの医師数は、日本10人、アメリカ65人である。看護婦も病床100人あたり、日本は40人、アメリカ200人である。このような病院勤務では入院者の転倒も防げない。他の医療従事者も日本は圧倒的に少ない。医療費の増加を抑えるためには医療費を大胆に切り込むべきであるという論説も目立つが、日本の医療費は極端に安い(表1)。盲腸の手術は、アメリカは一泊で243万円、日本は7日間で34.6万、香港4日152万、台北5日64万である。技術料で見ると初診料で日本はアメリカの5分の1、再診療も10分の1と安い(表2)。
表1:虫垂炎手術の都市別費用
    海外おたすけハンドブック    AIU保険会社2000年調べを改編
都市 費用(万円) 日数 都市 費用(万円) 日数
ニューヨーク 243.9 1 北京 47.8 4
ロサンゼルス 193.9 1 パリ 47.7 2
香港 152.6 4 ローマ 46.4 2
ロンドン 114.2 5 済生会栗橋 34.6+個室代 7
台北 64.2 5 ホーチミン 32.8 4
マドリッド 57.3 3 バリ 27.8 4
グアム 54.6 4 ホノルル 27.3 1
ジュネーブ 52.1 4 上海 23.4 4
ソウル 51.3 7 サイゴン 21.2 2
シンガポール 50.9 3 バンコク 20.7 3
総費用は外国人が私立病院の個室を利用し手術も複雑でない場合を想定、総費用は手術、看護費用、技術料と平均入院日数の病室代を含む。1ドル=105円で換算。
表2:技術料の日米比較(1994年)  AIU調べ
日本 米国 イギリス 韓国
初診料 2,110 9,560 6,800 4,050
再診料 620 4,410
検尿 250 830
総コレステロール 320 1,630
心電図 1,500 3,750
胸部レントゲン 1,440 5,300
冠動脈造影 12,000 76,500
PTCA 155,000 255,000
心エコー 8,000 33,350
虫垂切除 68,000 97,200 125,800
1ドル=102円として換算、米国はドクターフィーのみ    鈴木厚氏による
   薬剤費の比率が高いといわれるが、日本は薬品の値段一つ一つが高い。トリルダンは日本171円がアメリカでは107円、イギリスはわずか15円である。物が高いから支出を減らすには人件費を下げるしかない。医療機器の販売価格も同様で、手術で使用する内臓の癒着防止のフィルムが日本3.3万、アメリカ1.8万。PTCAの値段はアメリカの3倍、輸入規制のために直輸入も出来ない。行政は、医療材料の公定価格が高値続けば下げるといい、他にも製薬会社の利益を確保することには配慮する。人手不足にあえぐ医療側にはもっと下げるといい、医療人件費は低値が続いても下げる構えである。
   診療報酬を決めている中医協は、驚くべきことに、現場を知らない支払い側委員8人、診療側委員8人(医師会、歯科医師会、薬剤師会)で構成され、急性期病院の代表はもとより看護師も入っていない。これに反して薬品会社2社、物品販売会社、卸卸問屋の代表はしっかり参加している。病院を中心とする医療現場の意見は反映されないばかりか、医療を食い物にする系統の意見ばかりが反映する構造である(表3)。
表3:驚くべき中央社会保険医療協議会(中医協)委員の構成
平成5年8月 平成13年9月
支払い側委員8名 経営者団体連盟、船主協会、合成化学農業労働組合、化学一般労働組合、海員組合、社会保険庁運営部、健康保険組合、国民健康保険中央会 社会保険庁、健康保険組合、化学農業労働組合、日本化学、サービス一般労働組合、経営者団体連盟社会保障特別委員会、海員組合、郵船株式会社、山形県国民健康保険団体
診療側委員8名 日本医師会5名、日本歯科医師会2名、日本薬剤師会1名 日本医師会5名、日本歯科医師会2名、日本薬剤師会1名
公益委員4名 大蔵省財政金融研究所、慶應義塾大学商学部、学習院大学法学部、日本経済研究センター 慶應義塾大学商学部、総合研究開発機構、日本放送協会、地球環境戦略研究機構
専門委員8名 岩手県市町町長、東京都多摩医療センター名誉院長、武田薬品工業、塩野義製薬、株式会社クラヤ、旭メディカル、株式会社田中三誠堂、ジョンソンエンドジョンソン
   医療費30兆円はパチンコ産業と同じ、公共事業は50兆円で、丸々公費で賄われる。日本の公共投資は日本を除くG7、6カ国の総計よりも高い。医療労働者は米国11%、日本5.6%。土木建築労働者は米国5.6%、日本10.5%。国の面積あたりの土木建築費の比率は、日本は他のG6の80倍、生活圏で比較すると200倍も投入している。どの国でもGDPが上がれば医療費も平衡して上がるが、日本の医療費比率は上がらない。

   安全対策で日本航空のパイロットのリスク管理を聞いたが、当直明けの手術勤務などは考えられないといわれた。しかしこれが日本医療の常態である。Cost, Access, Quality のうち2つは取れるが3つは難しいという。今の日本では最後のひとつは望めない。つぶれないまでも儲からないシステム下におかれた病院。医者やスタッフを増やせる政策が待たれる。民主主義とは言うが官僚統制下で収奪政治とも言える内容ではないかと思う。こんな中で我々は  Don’t ever give up for the patients  と考え続けている。
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