Ichishuのさだ作品批評シリーズ(第6弾)

 

晩鐘(ばんしょう) 〜アルバム「風見鶏」より〜

 

 

 

晩鐘   作詩・作曲 : さだまさし

歌詞参照 http://www.cai-insect.jp/sada/lyrics.html#bansyou

 

この当時のさだまさしの歌詩には、とにかく比喩表現が多すぎる。単なる情景描写であると思いきや、何かの喩えとしてとてつ

もなく深い意味を含んでいることが多い。それに気づいて初めて真意がわかる。気づかなければ、気づかなかったというこ

とさえ気づかずに何の違和感もなく過ごしてしまう。謎解きパズルのようだと言う人もいるが、そもそも謎があることすら気づ

かないのだから、これほど高度なパズルはない。

だから面白い。

 

僕は曲を聞くときに、この作品のテーマは何か?などと考えてしまう。悪い癖である。。

 

さて、「晩鐘」は私の最も好きな曲のひとつであるが、この作品のテーマはいったい何であろうか?

 

それは「終焉」ではないだろうか。

 

晩鐘とは文字通り夕方鳴る鐘である。それは一日の終わりを意味する。

ミレーの代表的作品である「晩鐘」は、労働を終えた一日の終わりに祈りをささげる農夫婦の姿を描いている。

それは、重労働を終え、夜の休息を迎える前の安堵感に包まれており、終焉というよりも、キャンプファイアーの定番である、

「今日の日はさようなら」にある「あすの日を夢見て希望の道を」というイメージに近いかもしれない。

晩鐘は、一日の終焉を意味するが、それは同時に、一日の頑張りをねぎらい明日への希望の始まりでもある。

 

そう、「終焉」というのは、何か新しい「始まり」をも意味するのである。

 

さだまさしの「晩鐘」は、切ない男女の別れを歌っている。

ところが最後は 「たった今 想い出と出会った」 と締めている。

 

「想い出と出会った」とは何なのか、これはおそらく、二人の恋が「現在形」ではなく、想い出=「過去形」になったと

いうことであろう。つまり、彼は彼女への思いを断ち切り、新たな一歩を踏み出す「始まり」に変った瞬間なのである。

これがこの曲のポイントの一つでもある。

 

さて、この曲は全体的に白黒のモノトーンに包まれている。

女性の洋服にも、男の姿にも、街を飾るショーウインドウにも色がついていない。

銀杏紅葉や桐一葉にも色がついて見えない。

色がついているのは、唇の赤と信号の赤だけである。

だからこそこの口紅や信号の赤が生々しく際立って見える。

 

風花()が舞い降りる晩秋という季節を選んだのは、哀しみを際立たせるのに十分な効果をあげている。

心変わりをしてしまった女性と、それをにわかに受け入れられずに戸惑う僕。

しかし、「僕」はあくまで彼女を恨んではいない。彼女は「信号が待ちきれなかっただけ」であり「一番驚いているのはきっと君の

ほうだと思う」と彼女を弁護してすらいる。

 

木犀という言葉が出てくるが、実はこれにもちょっとした意味がある。

木犀には、金木犀(キンモクセイ)と銀木犀(ギンモクセイ)とがあるが、ただの木犀といった場合は銀木犀を指す。

秋が深まり、ひんやりとした空気にほのかな甘い香を放つ木犀。

この香りをかぐと、なにか郷愁をかきたてられると同時に、なにかもの悲しくなる。

銀木犀の白い花びらが散る様子が、まるで雪のようであるということから、雪のことを風花と呼ぶらしい。

風花という歌いだしと、2番の木犀はここでつながっている。

 

また、銀木犀の花言葉は初恋。

 

だから木犀が散るということは、初恋が終わることにもつながる。

ここでは、自分を「散りそびれた木犀」と比喩している。

初恋が終わったにもかかわらず、認めたくないという自分に対して「散りそびれた木犀」と自虐をこめて喩えている。

 

一方、哀れ蚊は夏を過ぎても生き残っている蚊。

生命力が強く、毒性も強い。太く短く生きる普通の蚊に対して、しぶとい、決して潔くない哀れ蚊のイメージを、彼女

をあきらめきれない自分に重ねているのである。

 

さて、「君は信号が待ちきれなかっただけ」というのはいったい何のことか。

 

立ち止まっている男に対して、彼女はどんどん前に進みたかった。たとえ向こう岸に別れが待っていようとも、そこに向かうこと

が今の彼女の生き方そのものなのである。

 

今にしがみつく自分と前に突き進む彼女の違い。

 

では向こう岸とは何を指すのか。彼女は信号を待たずにどこに進もうとしていたのか。文字通り場所を指すのか、時間

的なこと(未来)なのか、あるいは違う環境のことなのか。この作品の男女の関係は「風の篝火」にも通じるのではないだ

ろうか。都会に憧れ変わってしまった彼女と、田舎で変らずに生きる男に訪れる別れ。冷静に今置かれた自分の現状

を分析し、ダサいけれど誇りをもって生きる男。都会の幻想に憧れ変身願望を持つ一方で変らないものに対して興味を失って

しまう(男の本質が見えなくなってしまう)女。つまり、信号を待ちきれずに・・・というのは、男の本質を理解できずに、憧

れを求めて別の環境に行ってしまう彼女のことを指したのではないだろうか。

 

別れの哀しい曲であるが、たったひとつ救われるのは最後の一行。

これから新しい未来が始まる曲でもあるからだ。

以上

 

 第1弾 春告鳥へ   第2弾 空蝉へ   第3弾 歳時記へ   第4弾 まほろばへ  第5弾 夕凪へ

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