ジェイン・ジェイコブズの都市論について

中 村   仁      (2010.5.17更新)

 

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ジェイン・ジェイコブズ Jane Jacobs)について

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都市的多様性を生成する4つの条件

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古い建物の必要性

 

 

 

 

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ジェイン・ジェイコブズ (Jane Jacobs)について

Jane Jacobs (ジェイン・ジェイコブズ)

1916年 米国・ペンシルベニア州生まれ

20064月 カナダ・トロントにて逝去

 

文筆家にして活動家。現実の都市に対する鋭い観察と綿密な文献調査をもとに,経済,社会,環境,生命科学,歴史,文化など,あらゆる領域を包含した独自の都市論を展開し,その著作は世界的な名声を得ています。

 

ジェイン・ジェイコブズの業績とその現代的意義については,月刊『地域開発』(日本地域開発センター,20068月号,通巻503号)の特集「J.ジェイコブズの都市思想と仕事」が参考になります。

 

また、20104月に発行された邦訳:[新版]『アメリカ大都市の死と生』(山形浩生訳,鹿島出版会)の本文とともに、「訳者解説」を読まれることをお奨めします。

 

 

Jane Jacobs (ジェイン・ジェイコブズ)の主要著書

ジェイン・ジェイコブズの主要著書を以下に列挙します。

 

The Death and Life of Great American Cities  1961) 

(邦訳:[新版] 『アメリカ大都市の死と生』,山形浩生訳,鹿島出版会,2010

(邦訳:『アメリカ大都市の死と生』,黒川紀章訳,鹿島出版会,1977 

*ただし,後半の第3部,第4部は未訳)

The Economy of Cities  (1968) 

(邦訳:『都市の原理』,中江利忠・加賀谷洋一訳,鹿島研究所出版会,1971

The Question of Separatism  (1980) 

Cities and the Wealth of Nations  (1984) 

(邦訳:『都市の経済学 発展と衰退のダイナミクス』,中村達也訳,TBSプリタニカ,1986

Systems of Survival  (1993) 

(邦訳:『市場の倫理 統治の倫理』,香西泰訳,日本経済新聞社,1998

The Nature of Economies  (2000) 

(邦訳:『経済の本質 自然から学ぶ』,香西泰・植木直子訳,日本経済新聞社,2001

Dark Age Ahead  (2004) 

(邦訳:『壊れゆくアメリカ』,中谷和男訳,日経BP社,2008

 

 

 

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都市的多様性を生成する4つの条件

ジェイン・ジェイコブズは,かつて,“The Death and Life of Great American Cities”(Random House, 1961, and Vintage, 1992,邦訳:『アメリカ大都市の死と生』,黒川紀章訳,鹿島出版会,1977)のなかで,「都市的多様性の生成条件」(The conditions for city diversityについて,以下のように述べています(原書,pp.150-151:邦訳は中村仁によるもの)。

 

都市の街路や地区で,溢れんばかりの多様性を生成するためには,4つの条件が必要不可欠である。

 

1.地区,そして,地区内部の可能な限り多くの場所において,主要な用途が2つ以上,望ましくは3つ以上存在しなければならない。そして,人々が異なる時間帯に外に出たり,異なる目的である場所にとどまったりすると同時に,人々が多くの施設を共通に利用できることを保証していなければならない。

 

2.街区のほとんどが,短くなければならない。つまり,街路が頻繁に利用され,角を曲がる機会が頻繁に生じていなければならない。

 

3.地区は,年代や状態の異なる様々な建物が混ざり合っていなければならない。古い建物が適切な割合で存在することで,建物がもたらす経済的な収益が多様でなければならない。この混ざり合いは,非常にきめ細かくなされていなければならない。

 

4.目的がなんであるにせよ,人々が十分に高密度に集積していなければならない。これには,居住のために人々が高密度に集積していることも含まれる。

 

(中略)

この4つの条件は,どれかひとつが欠けても有効に機能しない。都市的多様性が生成するためには,4つの条件すべてが必要である。

 

ジェイコブズが提示した都市的多様性を生成する「4つの条件」は大変有名であり,今日に至るまで,都市計画,建築,経済学などの専門家によって,頻繁に引用されています。

 

しかし,「4つの条件」の内容が表層的に理解されたまま,現実の計画やデザイン,まちづくりに利用されている傾向があることも否めません。

 

重要なことは,ひとつひとつの「条件」が意味する実質的な内容と,都市的多様性を生成するためには「4つの条件」がひとつでも欠けてはならない理由を,ジェイコブズの著作を(〜飛ばし読みをしないで〜)丹念に読んで理解することだと思います。

 

 

* 古い建物の必要性

 

上述のように,ジェイン・ジェイコブズは,かつて『アメリカ大都市の死と生』において,都市的多様性を生成する「4つの条件」を提示しました。

 

しかし,本当に重要なことは,各「条件」が意味する“実質的な”内容を理解することです。そのことを端的に示すため,一例として,3番目の条件(「古い建物の必要性」)に関するジェイコブズの説明(の一部)を,以下に引用します(The Death and Life of Great American Cities”,pp.187-188: 邦訳は中村仁によるもの)。

 

都市には古い建物が必要である。古い建物がなければ,活気のある街路や地区を育むことは不可能であろう。古い建物といっても,美術品になるような古い建物や,秀逸かつ高価な修復が施された古い建物を意味しない。それらもすばらしい要素となるが,もっとたくさんの,ありきたりの,平凡な,価値の低い古い建物,そのなかには,老朽化した建物も含まれる,そういった古い建物である。

もし,都市のある地域が,新しい建物だけであるならば,その場所に存在できる事業者(enterprise)は自ずと,新築の高いコストを負担できるものだけに限定される。新築の建物を占有するための高いコストは,賃貸料として徴収されるか,所有者が建設資本コストの金利と分割ローンを負担することによってまかなわれる。しかし,どのようにコストを負担するにせよ,それは負担されなければならない。この理由から,新築コストを負担できる事業者は,古い建物に必要な間接費と比べて,相対的に高い間接費を負担できなければならない。このような高い間接費を負担するためには,事業者は,(a) 高収益であること,(b) 多額の補助を受けていること,のどちらかでなければならない。

(中略)

街路や近隣における安全性の確保やパブリックな生活にとって必要不可欠であり,利便性と個性に富んだ数多くのどこにでもみられる事業者は,古い建物において成功を収めており,新築建物の高い間接費のもとでは,容赦なくつぶされてしまう。

新しいアイディアというものは,それらのうちのいくつかが,究極的にいかに利益を上げようと,あるいは成功しようと,新築建物の高い間接費のものでは,冒険的な試行錯誤や実験をする余地が全くない。古いアイディアは,新しい建物を使うこともできる。しかし,新しいアイディアには,古い建物が必要である。

 

以上はほんの一例ですが,ここからわかることは,ジェイコブズは,たんに社会性や文化性の観点から,古い建物の必要性を主張しているだけではないということです。

 

ジェイコブズは,古い建物が地域内に適切な割合できめ細かく存在することが,都市の経済の発展において必要不可欠であることを主張しているのです。

 

さらに,こうしたジェイコブズの言説を丹念に読み解いていけば,たとえば,仮に地域全体としてみれば新旧の建物が混在するとしても,街路や近隣といった範囲ですべての建物が新しくなるような再開発にジェイコブズがなぜ反対するのか、その理由も正確に理解できると思います。

 

 

 

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