髑髏の結社・SSの歴史(上・下) 投稿者:桜樹ルイ16世  
ハインツ・ヘーネ 著 森 亮一 訳 講談社学術文庫 
SS=ナチス親衛隊について書かれた本は数多ありますが、たぶん、本質に食い込むと 
いう意味でこれを凌ぐブツの登場は困難でしょう。なぜというに、他の類書が「複雑怪奇で 
矛盾に満ちた各SS組織の実態を可能な限り客観的に解説する」路線で書いている(というか、 
普通そうならざるを得ない)のに対し、本書は「複雑怪奇で矛盾に満ちた各SS組織の主観 
そのものを客観的に解説する」様相を呈していて、ゆえに、著者が随所に反ナチ的な気づかい 
表現を散りばめているにもかかわらず 
  
論説自体が第三帝国当時の狂気ぶりを 
ムンムンと内包している 
  
のがどうしようもなくまろび出ているんですね。これは単なる方法論だけでは実現できない 
ものであり、つまり作者の才能の成果であり、実に素晴らしい限りです。雰囲気的にいえば 
「SS作戦本部の部局Aはもともと部局Bから派生したものだが、Bと違い武装SSの  
 管轄ではなく、また、後にそれぞれ国家公安本部と経済・管理局から生じた部局C、Dとは  
 機能が競合するに至った。部局AはSS作戦本部の意向に反し国防軍に接近することで  
 組織の維持を図り、その結果、バルカン半島某所での大量殺戮の名目的責任者となった。  
 部局Aの指揮官のブロッホマンSS大尉はナチスの綱領に対し常に懐疑的、かつ反抗的で、  
 国家公安本部のブラックリストにも載っていたが、彼の部隊は半年の間に12,000人の  
 ジプシー及びユダヤ人を処理した。なお、同時期に国防軍の分遣隊は56,000人を処理した」  
みたいな展開が目白押しで、全くわけがわかりません。でも実際そういうもんなんでしょうから、 
これ以上かみ砕いて書くとウソもしくは誤りになってしまうんですね。ということで、ドイツ人 
自身による「本気モード」での分析表現サンプルとしても至上極上の内容といえるんですが、 
まあなんにせよ 
  
ドキュメンタリーなのにカフカと真向勝負 
できてしまう 
  
まで格調高く不条理を極めた仕上がりになっているのが秀逸です。悪の曼荼羅ともいうべき 
無限連鎖感が次から次へと濃厚に溢れ出てくる感じで、これこそまさに暗黒ドイツ精神深奥の 
醍醐味と申せましょう。さすがは存在自体がSFであることに無自覚な民族の面目躍如といった 
ところでしょうか。そもそも著者自身がどこまで自覚しているのかが謎ですし。 
 
 
火刑法廷 投稿者:桜樹ルイ16世  
ジョン・ディクスン・カー 著 小倉多加志 訳 早川ミステリ文庫 
毒殺事件とそれに続く死体消失、背景にゆらめく17、19世紀の毒殺魔の影.... 
読書界では 「ミステリとホラーの見事な融合」 として知られる伝説的作品。 
終り近く、論理によって怪奇的要素が平凡な日常的事物に解体されていく場面では 
「あー、要するにミステリなのね」 とか思わせるのだが、実はそれも作者の罠にすぎない。 
読者としてダマされて本望、なのはまさにこういう展開といえよう。何といってもその後に 
続くラストシーンの後味の悪さが呆れるほど爽快(笑) 
つくづく、歴史的傑作とはこういうものかと納得せずにはいられない。 
  
この作品は要するにジャンルクロスオーバーものであるが、やはりミステリとホラー、 
双方の良さというかツボを的確に押さえたあたりが傑作たる所以であろう。 
密室トリックに挑む主人公たちの苦難の論理構築、また切れ者警部を相手に展開する 
アリバイ証明の化かし合いといった場面では全く 「ミステリ」 本領じみた様相で読者を 
惹きつけ、逆に、百年前の毒殺魔の顔が妻に瓜二つ! を知った瞬間の主人公の衝撃や、 
毒殺された老人が遺した謎の言葉 「不死の人間」 から次第に浮かび上がるヨーロッパ 
暗黒神秘主義の深さ、生臭さにはまさに 「ホラー」 の醍醐味が息づいているように思う。 
その相乗効果が実にすばらしい。 
  
しかしこれは、単に両方の要素を機械的に並べただけでは達成し得ないものである。 
そういう意味でダメなのが、例えば映画にもなったF・ポール・ウィルソンの 
「城塞」 (ううっ 「ザ・キープ」 とルビがふれない★笑) などであろう。 
吸血鬼vsナチスという 「古の怪異と歪んだ科学主義の対決」 につながる極上な 
ステージを用意しておきながら、あの作品はあまりに単純で安易な善悪二元論に終始して 
しまっていた。一応ナチスについて勉強したらしいことは窺えるが、これについても単に 
ホラー的文脈の枠内で加害者や犠牲者となって悪の威力を際立たせる程度の役割しか 
与えていないため、甚だ安っぽくて興に欠ける。 
あれも、例えば親衛隊の描写で 「ドイツ科学的人道 → 非人道」 の問題とか、それをめぐる 
人格内面の分裂の問題などを上手く加味してストーリー展開させたら傑作になったろうに。 
ナチス業界からみて「雰囲気がそれっぽくない」というのは、考証云々の問題に留まらず 
作品全体に係る構造的なデメリットをも暗示しているのである。 
  
話が脇道にそれたが、要するに 「火刑法廷」 の場合はミステリ好き、ホラー好きの双方が 
読んで満足しそうで、しかも互いの業界に目を向けるきっかけにもなるんじゃないかと 
いうあたりがポイントである。何気に異ジャンルの良さが伝わってしまう、というのは、 
文明間交流にも通じる偉大な力学といえよう。 
翻って 「城塞」 みたいなのじゃホラー好きの視野は広がらんだろうし、ナチス業界としても 
「あー、髑髏師団なら、マイアードレスSS中佐とか出て来たらああはならんだろうのー」 
みたいなつまんない否定で終ってしまう。実にわかりやすい文化衰退の構図である。 
  
とゆーわけで、ウチのHPもクロスオーバー文明として展開してゆく以上はそういった点に 
留意しておこうと思った次第である。うほほほほ。 
...ああ、今回もナチがらみネタ無しで終わらすことができなかった...(笑) 
 
 
バトル・ロワイアル 投稿者:600万ペソの男  
高見広春 著  太田出版 
 角川ホラー大賞の最終候補までいき、某選考委員の「中学生が殺し合う話なんてヤダ」 
という一言で落とされた作品です。新人発掘の場において、快・不快を持ち出して判断して 
いいのかという疑問はありますが、まあそれについては年末の『このミス』かなんかで 
ネタになってるでしょうからいいません。 
  
 どんな話かかいつまんで説明すると、日本が(たぶん昭和初頭ぐらいに)ファシズム体制 
を確立し、大東亜共和国として欧米と対立している(なおかつ経済大国になっている) 
世界が舞台。そこでは毎年軍事上のデータをとる名目で、全国でランダムに選出された 
中学3年生の50学級をそれぞれ隔離して、クラスメート同士で一人が残るまで強制的に 
殺し合いをさせる通称「プログラム」が行われている設定。 
 んで、香川県のとある公立中学の3年B組が修学旅行に出発したところ、実はそれが 
「プログラム」への道行きで、瀬戸内海の島に隔離された中学生たちは武器を持たされ 
戦う羽目になる……というわけです。 
  
 なんだか残虐オンリーの世も末小説みたいな感じですが、読んで思うのは、これは 
まっとうな青春冒険小説であるということ。確かに凄まじいペースで少年少女が死体の山と 
化していくし、描写も時としてえぐいです。しかし、大半の生徒はまともなメンタリティの 
持ち主で、サイコでもなければアンファン・テリブルでもありません。ここでは狂ってるのは 
大人の世界の方なわけです。主人公格の少年を始めメインの登場人物は好感の持てる 
存在として描かれており、他の過半数の生徒についても、巧く書き分けがなされている点は 
作者の筆力が高いことを示しています。少々お約束的なクサいドラマが多いのですが、 
大人のキャラなら陳腐になるところを中学生に演じさせることで逆に初々しさを感じさせて 
いて、雰囲気としてはデズモンド・バグリイの『高い砦』なんかが近いような気がします。 
今時ああいう冒険小説って書きづらいんですが、ここらへんに突破口があるのかも 
しれません。 
  
 細かく見ると、大東亜共和国の設定は詰めが甘いとか、現実の中学生はもっと汚れて 
いるだろ、とか突っ込みどころがないでもないですが、読んでる間は感じさせません。 
「プログラム」の監督をする政府の奴が、あるキャラの(ヒント:かとぉ、まつうらぁ) 
えげつないパロディになっているあたりブラックユーモアのセンスもあります。 
 ともあれ読んで損はない作品。99年は高畑京一郎の『ダブル・キャスト』などもあり、 
ジュヴナイル復活の年かもしれません。。 
 
 
オラドゥール大虐殺の謎 投稿者:桜樹ルイ16世  
ロビン・マックネス著 宮下嶺夫訳 小学館文庫 
ど、どうでもいいがこの表紙はもっとどうにかならんかったのか? 
ダサイし下品だ。「ナチス=エログロ」イメージまんまやないか。 
せっかく内容が面白いのにもったいない。 

第2次大戦中、ナチスが引き起こした悲劇の一つ、南仏、オラドゥール村の皆殺し大虐殺。 
ノルマンディー上陸直後に起きたこの事件は、具体的な理由づけに乏しいため 
「全体主義がもたらす狂気」の事例として片づけられてきた。 
が、そこには思いもよらぬ真相が.....というルポルタージュである。 

コトの始まりは1980年代初頭。フランスからスイスへの不正蓄財の摘発でフランスの 
税務署が抑えた金塊に、なんとナチスの刻印が。そしてそれは実は... 
とゆー驚天動地のお話。なんかスゴイっす。 
で、その事件に巻き込まれてブタ箱行きになっちまった投資顧問会社の社長が著者で、 
イギリス人らしく執念で調査した成果を公表した、という次第。 

でもって、話の要点は何かというと、SS第2装甲師団ダス・ライヒ師団長(当時)の 
ラマーディングSS中将と、その配下のデア・フューラー装甲擲弾兵連隊第1大隊長の 
ディックマンSS少佐がフランス駐屯時に密かに私腹を肥やし溜めていた金塊を 
レジスタンスが半ば偶然に横取り。で、これにあせったダス・ライヒ師団幹部が何がなんでも 
取り返そうとした行動が大虐殺に結びついた、というもの。 
基本的に非常にまじめに書かれており、読み物としてもなかなか引き込まれるものがある。 
へたなナチの残党ものスリラーなんぞよりぜんぜん上質ざんす。 

また巻末にどういう訳か柘植久慶大先生が解説がてら「見事な推理だ」とか 
太鼓判を押しているのがちょっとウケる。 

それで私の目から見てどうかということだが、確かに状況証拠としては充分すぎる材料を 
取り揃えているとは思う。が、上記2人のSS将校の中間に位置し、組織上無関係で 
ないはずのデア・フューラー装甲擲弾兵連隊長、オットー・ヴァイディンガーSS中佐に 
ついて一切何も記述がないのが気になる。 
ヴァイディンガーは「オラドゥール事件」を非常に問題視し、戦後出版した自著でも 
フランス市民の証言を交えてこの問題にこだわった人物である。 
「金塊着服共犯」であるにせよないにせよ、彼が登場しないのは変だと思う。 

いずれ、本流の歴史書の内容にこの本の内容が反映されるか、が観物。 
それにしてもナチス・金塊とくればやはりここは一発ルパンに登場して欲しいところだ。 
  

 
 以下続刊であります。