鍼灸マッサージの市場問題について1

平成9年5月1日
鍼灸保険情報センター

※この文章は平成9年5月に書いたものです。数字等少し古いのでご了承下さい。


 第一章 鍼灸マッサージ市場の現状

 今回は、鍼灸マッサージにおける市場問題を考察してみます。
 鍼灸マッサージの市場問題については、統計資料は豊富に出されているようですが、この統計を基に業界人の中で経済学の得意な人が、鍼灸マッサージの将来を展望するような経済分析を出してくれることを希望しています。
 今回の目的は、明確に結論づけられるものではありませんが、鍼灸マッサージ市場の基本的な見方を提案するものであります。
 そこで、先ず鍼灸マッサージ師の平均収益の分析、また鍼灸マッサージを単なる「商品」としてみた場合の分析を基礎に、鍼灸マッサージの市場においてどのような方針で臨むべきかを提案したいと思います。



 第一節 医療市場における医療の役割は変わってきている

 医療はかつて疾病で悩める人の単純な介抱から始まって、疾病のために就労することが出来ない労働力を再び労働又は生産過程の中に投入するための、いわば単純なメンテナンス業でありました。
 このメンテナンス業としての性格は感染症が主流の時代には非常に重要な役割を果たしましたが、やがて、医療技術や生活レベルが向上するにつれて、感染症が減少し、かわって精神的ストレスや、食生活による慢性疾患の増加や、高齢化社会おける老人の健康生活に対する対応が社会的な課題になることによって、医療の果たす性格が徐々に変わってきたのであります。
 即ち、メンテナンス業の上に、快適な社会生活を保障する健康生活デザイン業が加わったのであります。
 医療におけるQOL=クオリティー・オブ・ライフ(生活の質)という用語の出現は、まさに現代医療の役割を端的に表現したものです。
 この考え方の出現は、医療をして単に病気を治せば良いという考え方から、どのように治し、どのように社会生活に復帰させ、どのような快適な生活を保障してゆくのか、という考えに転換させてゆくもので、この考え方が医療の中に定着してゆけば、今後の医療は大きく塗り替えられてゆくに違いありません。
 鍼灸マッサージ師の社会に果たす役割は未だ未知数ではありますが、もし、このQOLの中に鍼灸マッサージの必要性が認識されてゆけば、鍼灸マッサージの業は確実に発展してゆくでしょう。



 第二節 鍼灸マッサージ保険制度の社会的地位は競争原理の中から生み出される

 鍼灸マッサージを健康保険でかかりたいというニーズは年々増加しつつあり、現在、鍼灸マッサージの医療費における厚生省の統計では年間約100億(平成9年段階)という数字が出ております。
 この数字についての評価はいろいろあるとは思いますが、業界に再々起きる論議として、「今後、更に鍼灸マッサージ療養費の申請額が上がると、鍼灸マッサージの療養費に対して行政・保険者の規制が強まるのではないか」ということであります。
 特に、鍼灸マッサージの保険取り扱いが円滑に行われている都道府県では、現在の自らの地域の好条件を大切にする気持ちから、他の都道府県の鍼灸マッサージ師が健康保険取り扱いの円滑化について行政と真正面から闘争した場合、それがマイナス面で全国に波及するのではないかと、懸念するようであります。
 この懸念は、現在の鍼灸マッサージの療養費制度が極めて曖昧な位置にあり、鍼灸マッサージの健康保険取り扱いをどこまで推し進めるべきか、まだまだ不安定な要素がつきまとっている、という意味で当然のことであります。
 「鍼灸マッサージの保険取り扱いを推進しなければ、鍼灸マッサージの保険制度がいつまで経っても社会的に確固たるものにならない。しかし保険取り扱いを推進した結果、取り扱いの規制が強まるのではないか。」このジレンマは鍼灸マッサージの保取り扱いによる経営を不安定にしている最も大きな原因の一つです。
(懸念の一つとして、国民医療費の上昇と赤字財政の問題が度々論議されますが、鍼灸マッサージの療養費が上昇することについては、その額からいっても問題ではありません)
 この不安定な保険取り扱いが解決しない根拠は、第一に、鍼灸マッサージ治療が、本当に社会的に共通(国民全体)の要求になっているのか、第二に、鍼灸マッサージについて、健康保険を適用させる治療として本当に社会的意義があることなのかどうか、という2つ設問に対して国や国民の答が社会的にまだまだ明らかにされていないからです。
 もし、この2つの設問に対しての国や国民の肯定的回答が明確にされれば、社会保障制度の中に鍼灸マッサージの保険治療を位置させることができ、国民が払った税金の使途について、堂々と鍼灸マッサージ治療に使う妥当性が保証されるのです。
 この問題に国や国民が答えるには、第一に、鍼灸マッサージ師の医療従事者としての役割と信頼性について、第二に、鍼灸マッサージの医療効果とその信頼性について、国や国民が良く理解していなければなりません。
 つまり、鍼灸マッサージ師の資質が医療担当者足りうるのか、鍼灸マッサージの医療効果は本当に信頼性があるのか、という点について国民に広く認識され、理解されていなければならないのです。
 ところが、残念なことに鍼灸マッサージの受療人口が全医療人口の1%にも満たない(本当の統計は分かりませんが)のです。
 これでは、ほとんど理解されていないであろうと考えるのが業界でも一般的な評価ではないでしょうか。
 即ち、鍼灸マッサージの療養費の制度的な地位がハッキリしないのは、鍼灸マッサージという商品(鍼灸マッサージという医療行為を一つの商品としてみる)が国民に良く理解されていないところに原因しているのではないかと考えられます。
 先ほど挙げた2つの設問に対して、国や国民理解を求めるには、医療という市場の中で、鍼灸マッサージがある程度「成熟した商品」に成長していなければなりません。
 「成熟した商品」とは、その商品について、「多数者の供給による多数者の需要」が実現し、「一物一価=商品の価格が一定の価格」に落ち着いているということです。
 即ち、鍼灸マッサージという商品が、多数の施術者によって供給され、多数の患者さんが鍼灸マッサージにかかり、治療料金が市場のなかで、一定の価格として成立しているということです。 
 これら鍼灸マッサージという商品を成熟させる為には、鍼灸マッサージという商品は、療術や類似商品(鍼灸マッサージに似た治療)との混然とした市場競争の中でのみ発展するのであるという事実を承認し、より良い鍼灸マッサージを国民に提供するためどうすべきか、という課題に答えるために全精力を傾けてゆかなければならないのです。
 簡単に言えば、市場競争を承認し、安くて効果の高い鍼灸マッサージ治療の研究に努力しなければならないということです。
 3年前(平成6年)まで、高価格帯を維持していたパソコン・ソフト市場で、ソフト販売では後発のアシスト社(ビル・トッテン社長)の廉価販売よるセンセーショナルな参入があり、この影響によって瞬(またた)く間に、パソコン・ソフト価格が従来の5分の1〜10分の1になり、一挙にパソコン・ソフト市場の活性化されたように、鍼灸マッサージ業界も市場競争を承認し、その中で業界を活性化しなくては、その社会的地位は語れなくなっています。
 かつて、鍼灸業界のある指導者が、「何故、国民の需要が鍼灸マッサージでなくて、療術業者の方に流れるのか不思議でならない」との話をしておられたことがありますが、答は簡単です。
 はやっている療術業者の方々には企業努力があります。
 鍼灸マッサージ師自身に「如何に国民に奉仕するのか」という姿勢がなければ、国民が鍼灸マッサージ治療に足を運ぶわけがありません。
 鍼灸マッサージが健康保険制度上の社会的地位をかちとれるかどうかは、鍼灸マッサージ師が類似業を含めた市場競争を積極的に展開できるかどうかにかかっております。



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